あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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超絶技巧!でもかわいい!「驚きの明治工芸」展は、楽しい展覧会でした!

かるび(@karub_imalive)です。

2016年の秋は9月以降、現代アートの各地の芸術祭、日本美術、西洋画の巨匠など様々な展覧会が目白押しですね。その中で、9月7日から明治期の「工芸」をテーマとした「驚きの明治工芸」展がひっそりと(?)スタートしました。

好きな人は好きだと思いますが、実際のところ「工芸」って言われたら、なんとなく美術より一段下のようなイメージもありますよね。(こけしとか寄木細工とか、おみやげの木工品みたいな感じ?)だから、わざわざ企画展を開催しても、なかなか人が集まりづらいのだそうです。

個人的には、この秋はうつわややきものなどの工芸品を重点的に見て回りたいなと思っていたので、ちょうど良いタイミングでした。そして、これが非常に印象深く、展覧会名の通り「驚き」に満ちた印象深い企画展でした。以下、少し感想を書いておきたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

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展示点数は全部で133点。一つ一つが小さいので、展示スペースもコンパクトにまとまっていました。マイナーな工芸分野で、かつ東京藝術大学という場所柄もあるのか、全く混雑していません。ゆっくりと見て回れると思います。

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館内の様子はこんな感じです。ショーケースに入ったものは360度ぐるっと裏まで回り込んで見れるように展示されています。所要時間は約60分~90分程度でしょう。

2.驚きの明治工芸展の特徴について

近年、明治時代前~中期に花開いた、写実的な日本の細密工芸品を見なおそうという機運が高まっています。「超絶技巧」というキーワードで中規模クラスの展覧会もしばしば開かれるようになってきました。つい先日まで、全国を巡回した「宮川香山展」などががこれにあたりますね。

今回の展示も、その流れを受けての企画開催となりました。今回展示は、2点の特別展示品を除いて、すべての展示が台湾の実業家、宋培安氏のコレクションからの出展となります。約3500点の中から厳選した130点が日本に持ち込まれました。2011年にも、台湾にて彼のコレクション展が開催され、現地で評判だったようですね。

展示のメインテーマは、工芸品の「写実性」「精密性」です。明治工芸の技術の高さを堪能できます。そして、もう一つの隠れたテーマとして「かわいさ」もチェックポイントになります。

チラシを見てもわかりますが、ヘビやカエル、小鳥やたぬきなど、写実的でありつつも、思い切って「かわいく」デフォルメされた作品も多数あります。また、一点一点が絵画や大皿などに比べると「細密」な分、手のひらサイズで小さいことも「かわいさ」を連想させられるポイントかもしれません。

なにがなんでも超絶技巧推し!!という感じでもなく、幅広い工芸品の中から素朴な美しさや深みを感じ取ることができるのも今回の展示会の特徴だと思います。

展示品目録は、こちらから事前にダウンロードできますよ。

★目録ダウンロード
http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/data/catalog_jp.pdf

3.展示会は基本的に写真撮影OK

展示会会場は、著作権の関係で3点の作品のみ撮影が制限されていますが、その他残りの130点あまりは、全展示撮影OKとなっています。

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むしろ、主催者サイドとしては、バンバン写真を撮って口コミで広めて欲しいような感じでした。会場ではWifiも完備されており、その場でみんなが撮影した写真を、TwitterやInstagramでハッシュタグ#驚きの明治工芸にてシェアする企画が開催されています。

展覧会に行く前に、公式Twitterと合わせて会場でどんな作品があるのかじっくり予習できますので、是非見ておくといいと思います!

4.明治工芸の特徴や盛衰の歴史について

抽象的で、見た目の「美しさ」より、アーティストと鑑賞者の間でコンセプトを読み合う知的ゲームみたいになっている現代アートとは違い、明治工芸は圧倒的にわかりやすいです。見たまんま、「すごい!びっくり!かわいい!きれい!」という素直な鑑賞ができるので、アート初心者に易しいかもしれません。

それにしても、明治期の工芸品だけが、なぜこんなに驚くほど「細密」で「写実的」なのでしょうか?

日本の歴史の中で、江戸時代の徳川治世260年間は、戦争もなく非常に平和な時代でした。長い歴史の中では、むしろ特殊な時代だったといえます。こうした平和な時代には、文化がどんどん発展します。長らく続いた鎖国により、日本独自の江戸文化が形成され爛熟していく中、七宝、金工、木工、陶磁器、刺繍、漆工などの手工芸を中心とするものづくりも非常に発達していきました。

やがて、明治維新が起こり、新政府による殖産興業・富国強兵策が始まった時、最初に外貨獲得のための輸出品の目玉として目をつけられたのが、日本の伝統工芸品でした。廃刀令や士農工商等、旧身分制度が廃止されたことにより、大名や士族向け伝統工芸品の需要が一気に減退した事情も後押しします。

有力工芸家は商社と組んで組織的に輸出振興に取り組みました。さらに、定期的な万国博覧会への出展入賞を旗印に運営された官営の指導組織も有効に機能し、国のバックアップも上手くハマりました。

こうした努力が重なったことにより、明治期前半には、江戸時代よりさらにレベルアップした奇跡のような超絶技巧工芸品が沢山生み出されることになったのです。

しかし、明治33年(1900年)のパリ万博で、ヨーロッパの美術工芸品を席巻した美術様式「アール・ヌーボー」が流行すると、日本でもその影響を大きく受けることになります。それをきっかけとして、明治期の技巧性、写実性を極める細密工芸路線は下火となり、工芸品の様式は拡散・多様化していきました。

現代でも、その明治期の細密工芸を再評価して復興する動きはあるものの、まだまだ各工芸家の注目度や地位も高くなく、特に国内で、明治期のような盛り上がりを取り戻すには厳しい状況が続いているようです。(※海外では浮世絵より人気がある)

5.特に気になった展示品ベスト10

小さい作品が多いので、とにかく現場で直接見るのが一番です。気に入るポイントも人それそれだと思うのですが、特に僕の気に入った作品ベスト10を挙げておきますね。いろんなのがあったよ、という雰囲気だけでも伝われば幸いです!

5-1.佐藤一秀「芙蓉菊図花瓶」 

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銀製の花瓶に装飾が象嵌された品の良い一品。年季が経っていぶし銀的な味わいが出ているのも良かったです。

5-2.虎爪「蒔絵螺旋芝山花瓶」

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豪華な花瓶。このやり過ぎ感の装飾、たまりません。

5-3.涛川惣助「月に梅図盆」

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いわゆる明治七宝界の二人のナミカワの一人、涛川惣助のお盆です。七宝以外にも作品を残しているんですね。梅に満月の構図は江戸絵画からの安定の定番、非常によい味わいでした。

5-4.宗義「自在龍」

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入り口でお出迎えしてくれる3メートル超の特大サイズの自在置物です。(※自在置物とは、銅や鉄など金属製の部品で組み立てられ、手足や関節まで本物ソックリに動かせる置物の総称)天上から吊るす変わった展示でしたが、コレクターの自宅でも同じように置いているらしいです。東京国立博物館の常設展示でもよく見かけますが、この特大サイズは珍しいです。すごい迫力。

ちなみに、自在置物を実際に動かして撮影された今回展示会のプロモーション動画がありますので、参考に貼り付けておきますね。こちらは「自在蛇」です。

5-5.宮川香山「色絵金彩鴛鴦置物」

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たびたび江戸絵画でもセットで描かれることが多いおしどりの白磁の置物。超絶技巧といえばすっかりその第一人者として宮川香山の名前が連想されるようになりましたが、壺や鉢、花瓶以外の純粋な置物は初めて見ました。

5-6.宮川香山「留蝉蓮葉水盤」

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宮川香山をもう一つ。蓮の葉で休むアブラゼミを描いた器(青磁)。本物ソックリの超絶技巧炸裂です・・・

5-7.大島如雲「狸置物」

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銅製のたぬきの置物。東京国立博物館の常設でもよくこの人の作品は見かけますが、写実的でいて、よくよく見ると思い切ってディテールはデフォルメされている「かわいい」作品

5-8.好山「鳳凰」

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銀製の鳳凰の置物。時間が経過して黒く変色しています。右隣に「下絵図」も併せて展示してあり、製作の過程も知ることができました。

5-9.「天鵞絨(ビロード)友禅」

これは当日上手く撮影できなかったので、#驚き明治でアップされている記事から引用させていただきます。ツイートにある通り、これは絵画じゃなくて「京友禅」なんですよね。立ち位置によって見え方が変わるのも優雅でよかった。これ作るのにどれ位かかるんだろうなぁと考えてしまいました。

5-10.林小伝治「楓林キジバト文花瓶」 

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尾張七宝の名手、林小伝治の制作した繊細なデザイン。写真がいけてないですが、実物はピカピカに黒光りして、150年経過した古美術品とは思えない輝きと繊細さでした。

6.グッズ類について

グッズは、2Fの売店コーナーにありました。絵葉書、図録、メモ用紙等の定番や、珍しいところだとペーパーウェイトが良さそうでした。図録は2200円です。

★クリアファイルf:id:hisatsugu79:20160908132340j:plain

★ペーパーウェイトf:id:hisatsugu79:20160908132458j:plain

★公式図録f:id:hisatsugu79:20160908132508j:plain

Amazon等でも公式図録を販売しています。いつでも買えるから便利ですね。

7.まとめ

日本の工芸は、長らく「美術」(=ファイン・アート)の範囲からハズれており、絵画や彫刻に比べると一段下の扱いを受けてきました。逆に、海外で人気のある日本の伝統芸術品は価格が高値安定した浮世絵と、各種工芸品である、といいます。

明治期の栄光はいまだに失われたままです。レジェンド達が制作した工芸品は、今回展示のように海外のコレクターに拾われて、伊藤若冲のように日本で再評価される日を待っています。

今回「驚きの明治工芸」展では、そんな明治の超一流工芸家達の作品が少しずつあらゆる分野で網羅されています。一度じっくり見ると、展覧会のタイトルの通り、純粋に「驚かされる」名作ばかりでした。

僕も日本の伝統芸術の奥深さに改めて気付かされました。写真撮影OKのカジュアルで落ち着いた展覧会です。この機会に是非。

それではまた。
かるび

「驚きの明治工芸展」展覧会開催情報

今回は、東京藝術大学からスタートし、その後京都、川越と巡回していく予定です。

会期:
【東京】2016年9月7日(水)~10月30日(日)
【京都】2016年11月12日(土)~12月25日(日)
【埼玉】2017年4月22日(土)~6月11日(日)
会場:
・東京:東京藝術大学大学美術館(上野)
・京都:細見美術館
・埼玉:川越位市立美術館
公式HP:http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/
Twitter:https://twitter.com/odorokimeiji

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

超絶技巧な明治工芸を再評価し、その凄さを広めようと尽力する山下先生の監修した本です。世界を魅了した日本の工芸10分野(七宝、自在置物、漆芸、印籠、染織、金工、陶磁器、細密彫刻、根付、竹江・木工)と、明治工芸の匠たちとして、「二人のナミカワ」を筆頭に約20名の巨匠たちを紹介したフルカラーのムック本。見ていて単純に楽しくなる良書でした。

図書館などではジュニアコーナーに置かれることも多い、小中学生でも読める伝統工芸についての超入門書。各工芸品の名称や形から、バッチリ入門できます。今回の展覧会でもグッズコーナーに置かれていますした。事前に読み込んでおくと軽い予習にピッタリ。

各分野での伝統工芸の鑑賞の方法について、詳しく説明した決定版的なマニュアルです。鑑賞の仕方は人それぞれだと思いますが、良品を見分ける「眼」は持っておきたいものです。この本を展覧会の前後に読むと一気に学びが加速することは保証できます。こちらも、グッズコーナーに置いてありました。