あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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ブレイク前夜?!伝説の天才絵師、渡辺省亭の回顧展「SEITEIリターンズ!」が面白い!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

伊藤若冲、河鍋暁斎、柴田是真、五姓田義松・・・生前は実力・人気共に画壇トップクラスの天才絵師であったにもかかわらず、没後まもなく人々から忘れ去られ、そして近年になって再発見されてブレイクを果たした画家は、日本美術史の中でたくさんいます。

本エントリで紹介する渡辺省亭(わたなべせいてい)も、そのうちの一人。生前はパリに留学し、当時一流の西洋美術の巨匠たちと交流を持つなど華々しい活躍もありましたが、亡くなってからは完全に歴史の中で忘れ去られてしまいました。しかし、2017年頃から急速に注目され、再び「見つかりつつある」あるのです。

今日は、まさに再ブレイクをこれから果たすかもしれない、加島美術で開催中の渡辺省亭のミニ回顧展「SEITEIリターンズ!!」について、簡単に感想・レビューを書いてみたいと思います!

1.渡辺省亭ってそもそも誰なの?

さて、「そもそも渡辺省亭って誰よ?」っていう人も多いかも知れません。そこで、まずは天才絵師・渡辺省亭と、今回の展覧会が開催されるきっかけを整理してみたいと思います。

渡辺省亭について簡単に紹介

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引用:【孤高の神絵師】渡邊省亭 現代に蘇るその偉大な画業とは・・。

渡辺省亭(わたなべせいてい)は明治~昭和初期にかけて活躍した日本画家です。幕末に活躍した日本画家、菊池容斎に学んだ後、日本画家としてパリへと留学。まだ画家が海外修行を行うのが珍しかった時代、パリで画家修業に打ち込む傍ら、マネやドガなど、当時現地で活躍していた錚々たる画家たちと交流しました。

帰国してからは、留学時代に西洋絵画から学んだ新しい色彩感覚や技法を日本画へと取り入れ、当時日本画壇で主流だった橋本雅邦、狩野芳崖ら狩野派直系の画家たちとは一線を画し、独自の作風で一流画家として人々に認められるようになりました。また、帝室技芸員・涛川惣助とのコンビで赤坂離宮へ無線七宝作品約30点を納めたり、新聞や雑誌の挿絵なども精力的にこなしました。

省亭は、写実的な花鳥画を中心に68歳で亡くなるまでずっと日本画を描き続けました。しかし、キャリア中途で中央画壇からは距離を置いたことも災いし、卓越した腕前を持っていたにもかかわらず、死後時間が経過するにつれ、日本美術史の中では「知る人ぞ知る実力派絵師」として、徐々に忘れ去られていきました。

渡辺省亭展でマニアを唸らせた加島美術の展覧会

そんな中、渡辺省亭に再び光を当て、ファンにその画業の真価を問うたのが、東京・京橋の日本美術専門の画廊・加島美術です。ちょうど1年半前、東京・京橋にある画廊の1F ,2Fスペースを全部使ってミニ回顧展「SEITEI渡辺省亭」が3週間限定で開催されると、これがスマッシュヒット。TwitterやFacebookといったSNSで目の肥えたアートマニアを唸らせ、熱心なファンで画廊内は大盛況となりました。

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あれから1年。前回展の流れを意識して企画された今回の展覧会は、「SEITEIリターンズ!!」と銘打たれ、約40点弱の省亭作品が集結しました。

加島美術では、今回展のために特設ホームページやYoutubeの動画ページを開設するなど、渡辺省亭のプロモーションに非常に力を入れています。特にYoutubeの動画は、短くコンパクトに省亭の魅力をまとめてくれていますので必見!5分程度でコンパクトにまとまっていますので、お時間のある方は是非!

ちなみに加島美術は、数ある画廊の中でも、SNSで積極的に広報活動を行い、ブロガーやアートファンに優しい画廊です。また、通常業務としての美術作品の売買以外にも、夏には「七夕入札会」というユニークな入札イベントや、自社保有の作品を一挙展示してお祭りのようなイベント「美祭ーBISAIー」を開催したり、BSフジでミニ番組「アートな夜」のスポンサーにもなるなど、積極的なPR活動が素晴らしいです。

去年、実際に七夕入札会に行ってきた感想レポートなども拙ブログで書いておりますので、もしよければ参考にチェックしてみてくださいね。 

2.展覧会の5つのみどころ

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さて、今回も大盛況になりそうな展覧会「SEITEIリターンズ!!」ですが、今回も見どころがいっぱい。実際に見てきて、僕が感じた本展の魅力・みどころを5つに絞ってピックアップしてみます。

見どころ1:超絶技巧!驚異的な写実性に酔いしれる!

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渡辺省亭《春野鳩之図》部分図

省亭の凄さは、動植物を極限まで写実的に描いた、その卓越した技術です。雨や雪、水がうねる質感など、伝統的な日本絵画から受け継がれた技法をしっかり使いつつ、主役である動植物は徹底的にリアルに描きこまれているのが特徴。

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本当に岩絵の具で描いたのでしょうか!?凄い!
渡辺省亭《十二ヶ月 春野》部分図

しかも、図録にて日本画家の荒井経氏が指摘している通り、一発勝負で描き直しが出来ない日本画において、ササッと最小限のタッチでこのリアルさを再現しているというのが驚異的です。荒井氏はこんなふうにコラムで書いています。

絵かきというものは、下手なほど筆数が増えるものだから、筆数を減らしていくと技量が露わにされてしまう。ところが、卓越した技量に恵まれた省亭は、これ見よがしと余裕をもって筆数を減らしてくる。

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リアルなのに、意外な筆数の少なさに驚く
渡辺省亭《春野鳩之図》部分図

同時代、日本画壇の主流派だった画家たちとは全く違うアプローチで、新たな日本画の可能性を極限まで追求した省亭の超絶技巧ぶり、是非展覧会の「ナマ」の絵で確認してみて下さい!呆れるほど巧いです!

見どころ2:まるで生きているかのような動物たち!

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カラスの飄々とした表情が味わい深い!
渡辺省亭《雪中松鴉》部分図

特に注目したいのが、今回いくつも展示されている「鳥」や「うさぎ」といった小動物たちの「目」です。瞳の中に白く反射する光を入れたり、ちょっとした表情にニュアンスをつけることで、作品中の動物に生命感が宿っているのです。

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鑑賞者の心を見透かすような鷹の表情がたまりません
渡辺省亭《松に雉子、杉に鷹 左幅》部分図

もっというと、極めて人間臭い表情をしているともいえそう。単に写実的であるだけでなく、描かれた動物たちの、なんともいえない人懐っこさが省亭の花鳥画の魅力だと思うのです。

見どころ3:メイン展示は1Fの《十二ヶ月》

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渡辺省亭《十二ヶ月》

今回の一番の注目作品は、入り口を入って左側の壁一面に架けられた十二幅対の作品《十二ヶ月》です。季節の草花を背景に、主役として描かれたのは鳥や蝶、魚などの昆虫や小動物たち。

色調は抑えめで、全体的にモノトーンな色合いでまとめられている分、画面上にてワンポイントで使われている草花の「青」や効用の「赤」が非常に引き立って見えるのも渋くて良いです。もちろん、動植物は極限まで写実的に描かれています。

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ワンポイントで使われた「青」の色使いが凄い!
渡辺省亭《十二ヶ月 春野》部分図

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渡辺省亭《十二ヶ月 枯野》部分図

ちなみに、加島美術では、もし作品を「買いたい」というお客さんがいたら、展示終了後、個別に商談に応じるとのこと。この《十二ヶ月》の参考価格を聞いてみましたが、(当然僕では買える金額ではありませんが)他の西洋絵画に比べたら、一桁少ない非常にリーズナブルな価格でした。(高級車一台分くらい?!)これを毎月自宅で架け変えながら1年中床の間で楽しめれば生活が楽しくなりそうだな~。

見どころ4:豪華共同制作!涛川惣助との合作作品も! 

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渡辺省亭は、陶磁器の下絵なども担当することがありました。よく知られているのが、無線七宝の伝説的職人、涛川惣助(なみかわそうすけ)とのコラボレーション。省亭が下絵を担当し、それを涛川惣助が七宝に仕上げる・・・。今思うと、なんて贅沢なコラボなのでしょうか(笑)

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今回、涛川との共同作品もいくつか展示されています。省亭の下絵が、うつわへと正確に引き写された無線七宝作品で、絵画以外での省亭の作品もしっかり楽しんでみてくださいね。

見どころ5:露出展示かつ写真が撮り放題

加島美術では基本的にいつもそうなのですが、展示される作品はガラスケースなしのすべて露出展示。思う存分絵の近くまで寄って、その超絶技巧ぶりを楽しむことができます。

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渡辺省亭《牡丹之図》

近くに寄って接写してみると、驚くほど正確に、絶妙のタッチと色使いが楽しめます。

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渡辺省亭《牡丹之図》拡大図

嬉しいのは、フラッシュ、三脚等を使わなければ写真も撮り放題!SNS映えしますし、これはうれしいですよね。 

3.他にも渡辺省亭の作品が楽しめる展覧会が同時開催中!

前回展でも、松岡美術館・山種美術館など、東京都内の5館が同時期に渡辺省亭の作品を一斉に展示する連携イベントが開催されました。今回も、前回ほどではないですが、加島美術「SEITEIリターンズ!!」と同時か少し後に、省亭の他作品を都内の他の美術館でも楽しむことができます。簡単ですが、少し紹介しておきますね。

迎賓館赤坂離宮(~10月9日)

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引用:Wikipediaより

迎賓館赤坂離宮では、8月31日から10月9日までの間、『没後100年 渡辺省亭特別展』が開催されています。壁面に展示された30枚の七宝焼を、通常時に比べ、より近くに寄って鑑賞できるまたとない機会です。

展示内で楽しめるのは、「SEITEIリターンズ!!」の作品と同じく、渡辺省亭が描いた下絵に基づき、涛川惣助が焼成を手掛けた作品群。絵画×七宝の超絶技巧コンビが生み出した無線七宝をガッツリ楽しんでくださいね!

また、土日は庭園内でビールも飲める!これ重要です!!(笑)

山種美術館(11月17日~1月20日)

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山種美術館で11月17日からスタートする展覧会「皇室ゆかりの美術」で、省亭の作品《赤坂離宮下絵 花鳥図画帖》が1点出展されます。先に赤坂離宮で七宝作品を見ておくと、なお楽しめそうですね!

4.混雑状況と所要時間目安

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所要時間は、およそ30分~60分程度あれば、一通りチェックできると思います。恐らく大混雑することはないでしょうが、お客さんに邪魔されず、ゆっくり作品と向かいたい、あるいは良い写真を撮りたい、という方は、土日祝日の13時~15時頃を避けて行くと良いでしょう。

5.関連書籍・資料などの紹介

唯一の渡辺省亭入門書!「渡辺省亭:花鳥画の孤高なる輝き」

渡辺省亭没後100年を記念して2017年に発売された、ムック本型式での入門書。多数の作品を収録しているので、コンパクトな画集としても楽しめます。オールカラーでの作品解説を中心に、渡辺省亭の生涯や、作品の魅力についての対談や解説が読めます。僕も度々省亭について調べる時に見返しており、簡単な資料集としても重宝しています。

今年出版された渡辺省亭の評伝。

多数の資料を元に、渡辺省亭の画業を中心に、彼の生涯についてまとめたはじめての評伝。ハードカバーの分厚い専門書で、省亭を極めたい!という人にオススメ。 

6.まとめ

数年後には大規模な回顧展も計画中と噂される渡辺省亭。2018年、省亭の作品をまとめて一気に楽しめる展覧会は「SEITEIリターンズ!!」だけです!

画廊主催の展覧会だけあって、どうしても気になる作品については、展覧会終了後に購入のための交渉も可能です!無料で撮影OKですので、是非気軽に省亭の超絶技巧の世界を楽しんでみてくださいね!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

展覧会名:「SEITEIリターンズ!!」
◯美術館・所在地
加島美術

〒104-0031 東京都中央区京橋3-3-2
◯最寄り駅
・東京メトロ銀座線京橋駅出口3より徒歩1分
・東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅出口7から徒歩約2分
・都営地下鉄浅草線宝町駅出口A4から徒歩約5分
・JR東京駅八重洲南口から徒歩6分
◯会期・開館時間
2018年9月15日(土)~9月29日(土)
10時00分~18時00分
◯休館日
なし(会期中無休)
◯入館料
無料!
展覧会特設HP
http://www.watanabeseitei.org/

◯加島美術公式HP
https://www.kashima-arts.co.jp/

◯Twitter
https://twitter.com/Kashima_Arts