あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

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映画「オラファー・エリアソン 知覚と視覚」試写会感想&みどころ&レビュー(ネタバレなし)

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かるび(@karub_imalive)です。

現代アートファンの間で話題になっているオラファー・エリアソンのドキュメンタリー映画「オラファー・エリアソン 知覚と視覚」が8月5日から全国公開されます。先日、それに先立って原美術館にて試写会が開催されましたので、一足お先に見てきました。

代表作「ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ」の製作風景の密着シーンを中心に、ベルリン・アイスランド・金沢・コペンハーゲン・ロンドンと、世界中を飛び回る多忙な活動の合間を縫って、オラファー自身が77分間語り尽くした骨太のドキュメンタリー映画です。現代アート好きなら必ずチェックしておきたい知的エンタテイメント作品に仕上がりました。

早速、試写会の感想を簡単に書き残しておきたいと思います。

※本エントリで使用されている映画関連画像は、予め主催者側の許可を得た画像か、紹介目的で公式予告動画をキャプチャした画像となります。何卒ご了承下さい。

1.映画「オラファー・エリアソン知覚と視覚」の概要

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本作「オラファー・エリアソン 知覚と視覚」(原題「Olafur Eliasson: Space Is Process」)は、2009年に彼の母国デンマークで公開されたドキュメンタリー映画です。実に、8年越しでの日本公開であります。

日本以外で本作が公開された国は、オラファーと比較的つながりの深いアイスランド・ドイツ・アメリカ・イギリスです。実は、日本でも、毎年東京で開催されている北欧映画の祭典「ノーザンライツフェスティバル」で2012年に一度だけ単発上映された実績があるようです。

映画は、いわゆる伝記映画という形をとっておらず、オラファー本人が画面に向かって語りかけてくる独白形式のドキュメンタリーです。オラファー自身の「壮大な自己紹介」であり、よくできた「プロモーション映画」でもあり、そして、「最強の作品解説映画」でもあるわけです。

▼「ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ」f:id:hisatsugu79:20170801144604j:plain

作品では、主に、2004年~2009年までの6年間、ニューヨークでの巨大インスタレーション作品「ニューヨークシティ・ウォーターフォールズ」の製作シーンを中心として、オラファー・エリアソンの私生活や生き方のかなり深いところまで丹念に取材して迫っていっています。

こちらにトレイラー動画もありますので、まずは軽くチェックしてみてくださいね!

2.オラファー・エリアソンって誰なの

本記事をGoogle等の検索で拾って読んで頂いている方には、もはや説明は不要かと思われますが、一応まとめておきますね。ちょうど、映画配給会社のアップリンクHPでの紹介が非常によくまとまっているので、こちらから全文引用させていただきますと・・・

1967年デンマーク生まれの芸術家。王立デンマーク芸術アカデミーで学び、現在はベルリンとコペンハーゲンを拠点に活動する。2003年にロンドンのテート・モダンで人口の太陽と霧を出現させた個展「The Weather Project」を成功させ、世界中に衝撃を与えた。

ヴェネツィア・ビエンナーレにも複数回参加し、欧州の主要な美術館で個展を開催。空間、光、水、霧などの自然界の要素を巧みに用い、観客を含む展示空間そのものに作用するインスタレーションを数多く生み出している。

近年では、ヴェルサイユ宮殿に滝をモチーフにしたインスタレーションを制作した。一方、日本でも東京・原美術館や、金沢21世紀美術館で個展を開催。個展のほかにも、瀬戸内国際芸術祭2016ではベネッセアートサイト直島の一環として「Self-loop」を発表し、2017年8月4日から開催されるヨコハマトリエンナーレ2017では「Green light」が出展される。
引用:『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』 - 上映 | UPLINK

オラファー・エリアソンといえば、現代アート入門者用のテキストや解説本にも頻繁に出てくる、世界的に有名な現代アートのビッグネームですね。現代アートといえば、極端にコンセプチュアルだったり、全然美しくなくて、意味不明なものも非常に多いです。しかし、オラファーエリアソンの作品は、ロジカルに突き詰めて考え抜かれたコンセプトと、作品の見た目の美しさ・華やかさが同居する作品が多く、初心者にも優しい作品が多いのです

彼の主な作品の特徴を3点挙げるとすると、以下のような感じでしょうか?

・光や風、音などを活用した、幻想的なイメージが変化し続ける作品
「何が空間を充実感あるものにするのか」「何がその空間を斬新で面白く人を深く包み込んでくれるような懐の深い空間にするのか」それを考えて突き詰めた結果、表現に一番適した素材や媒体が、たまたま光や風、水や音などに過ぎなかっただけだ、とは言っています。ですが、それが結果的に作品に美しさ・親しみやすさをもたらしており、初心者に対してわかりやすさを担保しているのですね。

・鑑賞者も作品に干渉・参加することで完成する参加型作品
オラファーは「“現実は主観次第”これはアートに限らず全てに言える。現実は見る者の見方で決まるんだ」と映画でも語っています。リアリティはたったひとつの絶対的なものではなく、見方によってコロコロ変わり得る。個人の主観で決まる、という立場を取ります。だから、彼は作品が本物かどうか判断するのは鑑賞者に委ねたい、と常日頃から主張しています。だからこそ、「見る者」も作品の共同制作者であってほしい、ということなのでしょう。

また、小難しいコンセプトは置いといたとしても、単純に鑑賞者参加型作品は、五感で作品を味わえるので「面白い」し、「記憶に残りやすい」ですからね!

・作品の仕掛けや仕組みがひと目でわかる「人工的」な作品
オラファーは、敢えてインスタレーションの仕掛けを敢えてネタバレして可視化させることが多いです。そうすることで、作品の中に置かれた鑑賞者はまるで彼とその場で作品を一緒に作っているような感覚になるんですよね。また、オラファー自身、作品を通じて鑑賞者に「違う視点」を持って欲しい、という願いを持っています。だから、敢えてネタは全開にして、わかりやすく視点を提供してくれているのでしょう。

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3.映画のみどころ・感想

全部で77分間と、一本の映画としては非常にアッサリしていて、一見短めのように思われます。しかし、内容はかなーり濃ゆいです!映画から物語性や余計な演出が削ぎ落とされ、シンプルなドキュメンタリーになっている分、オラファーによる自身の作品解説、作品製作へのこだわり、芸術観、生き方などが語り尽くされます。非常に情報量も多く、チェックポイントも多岐にわたりますので、ここで僕自身が感じた5つの見どころを、感想を交えながらまとめておきたいと思います。

見どころ1:鑑賞者も参加できる「参加型」映画

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引用:映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』公式予告編 - YouTube

前述した通り、本作は最初から最後までずーっとしゃべっています(笑)現代アートの芸術家って、基本的には「とっつきにくいけど、しゃべりだしたら止まらない」のですよね(笑)オラファーもまさにそんな感じ!

ところで、オラファー・エリアソンの作品の特徴の一つとして、「鑑賞者参加型」の作品が多いことが挙げられます。風や光、音などが常に変化する仕掛けがまずあって、鑑賞者が作品に入り込み、作品と相互作用することによって、初めて作品として完成する、そんなコンセプトの作品が多いように思われます。

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だから、本映画もまさに「鑑賞者」が参加できるような仕掛けが映画内で数か所設けられています。スクリーン上で突然オラファーが鑑賞者に語りかけてくる「思考実験」的なアプローチが面白い!オラファーの呼びかける簡単な視覚実験を体験することで、オラファーのアート観を理解できるようになっているんですね。

そして、鑑賞者が積極的に映画に参加することによって、この映画自体もまたオラファーと鑑賞者が一緒になって作り上げる一つのアート作品として完結しているんだろうなぁと。上手い仕掛けでした。

見どころ2:オラファーの代表作・有名作品をオラファー自身が語り尽くす!

ここなんですよね。僕が本作で一番魅力的だなと感じたのは。

現代アートの場合、作品と向き合った時に、全然美しくなくて、何がいいたいのか「意味不明」な作品って非常に多いですよね。僕は、大抵の場合、その場で自分の感性と乏しい知識を総動員して、「これは多分こういうことを言いたいのかな?」とある程度納得したら、あとは好きか嫌いかでその場は強引に切り抜けることが多いです。

だから、本当は作品を目の前にして、作者の話をじっくり聞きたい気がするんですよね。なぜこういう造形のインスタレーションが出来上がったのか、作者自身が考えたコンセプトをフルに「ネタバレ」してもらって、初めて咀嚼・理解できるというか。

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本作では、彼の出世作となったテート・モダンでの「ウェザー・プロジェクト」や代表作「ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ」、金沢21世紀美術館で公開された「あなたが出会うとき」など、彼が手がけてきた過去の有名作品について、作品コンセプトや考え方、制作当時の思いなどをじっくり語ってくれています。本作は、同時代に生きている作家だからこそできる、作者自身の声による壮大な「映像付き音声ガイド」とも言えるかもしれません。 

見どころ3:発想力・オリジナリティの源泉に迫る密着

オラファー・エリアソンがなぜ世界的に著名な現代アート作家として成功したのか、なぜハイペースでオリジナリティや意外性のあふれる作品群を生み出すことができるのか、本作を何度か見ると、そのあたりの秘密が浮き彫りになってきます。

まず、圧倒的な観察力です。彼は、行動する時はいつも周りの風景や誰かの持ち物を見つけて、よく観察しているのです。そのハイライトが、道端に落ちていたコインを目ざとく見つけて、カメラにアピールするシーンです。何気ない日常風景の中にも、作品製作のためのヒントや着想を貪欲に見つけ出していこうとする姿勢というか嗅覚みたいなものが、凄い!画面からひしひしと伝わってきます。

アイスランドの危険な氷河地帯での撮影シーンf:id:hisatsugu79:20170801145850j:plain

また、彼はインスピレーションを自然の原野の風景から得ていることが多いようです。映画内でも、彼の生まれ故郷、アイスランドの氷河地帯まで出かけていき、危険を犯してまで貴重な氷河写真の撮影にこだわっています。これがまさに彼の息抜きでもあり、ライフワークでもあり、インスピレーションの源泉にもなっているのだな、と納得しました。

見どころ4:プライベートもガッツリ見せます!

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本作では、オラファーの制作風景だけではなく、彼の私生活の一面を垣間見えるような子供とのシーンがたっぷり出てきます。(むしろ、意図的に家庭的な一面を見せようとしている感もアリ)画像で見て頂くとわかりますが、オラファーと奥さんとの間には実子はなく、かわりにアフリカから二人の子供を養子として迎えています。

映画内では、特に長男のザカリアスくんとの交流が心温まります。子供を自身のベルリンのスタジオで遊ばせたり、ニューヨークに呼んで作品を見せたり・・・。一生懸命子供に説明しているのに、ザカリアス君が、全くお父さんの偉大な作品を見てないで、自分の遊びに夢中なのも微笑ましい(笑)

ただ、ピカソやゴーギャンみたいに子供や家庭そっちのけで好き勝手やってるわけじゃなくて、ちゃんと一市民としての「責任」を果たそうとしているのですね。

見どころ5:名物「オラファー・エリアソンのスタジオ食堂!」

そして、グルメファンの間でもカルトな注目を浴びている、オラファー・エリアソンのベルリン製作スタジオの社員食堂もバッチリ映っています。

オラファーのスタジオの食堂は、アート関係者を超えて一般層まで評判が広がっているほど有名になりました。(タニタ食堂みたいな?)ここの食堂で扱っているレシピや食材などを特集した料理本まで出版されているくらいです。(洋書)

映画内では、まるで学校の給食のように楽しそうに皆で同じランチを頂いているシーンが映ります。もちろん、オラファーも全く特別扱いされてません(笑)オラファーの工房、働きやすそうだったな~。

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4.ヨコハマトリエンナーレ2017にも出展予定!

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オラファー・エリアソンは、映画公開とほぼ同時期の、8月4日から公開されるヨコハマトリエンナーレにも「Green Light」という作品で参加しています。映画中でも「責任を持った批評を心がけて欲しい」と鑑賞者に呼びかけるように、今回はアーティストとしてだけでなく、一市民としての市民運動に近いような立ち位置での取り組みなんでしょうか?「鑑賞者参加」の進化型作品なのかもしれません。SNSやクラウドなど、ネット全盛時代に上手くマッチしたコンセプトだと思います。

ヨコハマトリエンナーレと合わせて作品を味わえば、より理解が増すかもしれませんね?

こちらが、オラファー自身がヨコハマトリエンナーレでの作品コンセプトについて語っている動画です。当たり前ですが、映画に比べてだいぶ老けましたね(笑)

5.まとめ

オリジナル公開年度は2009年と、かなりの年数が経過しての日本公開となりましたが、内容はハッキリ言って全く色あせていません。情報密度が高く、内容も非常に深いため、何度も何度も繰り返しの鑑賞に耐えます。(というか、繰り返し見ないと彼の主張・考え方を一度に理解するのはむしろ難しいかも)

個人的には、映画を見るというより、むしろ映画館でオラファーのビデオ・インスタレーション作品を味わっているような感覚のほうが強かったです。映画というより、アート作品を見ているような感じでした。

この夏の「ヨコハマトリエンナーレ2017」をはじめ、これからもますます世界中でオラファー・エリアソンの作品を目にする機会は増えていくと思います。その際、より深く作品を理解し・味わうためにも、この機会にじっくりと本作を通してオラファーの考え方や作品に親しんでおくのはいかがでしょうか?見終わった後、一人でいろいろ深く思索したくなるような、そんな豊かな作品でした。おすすめです!

それではまた。
かるび

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オラファーとの対談が読める本「美術館をめぐる対話」

著者とオラファー・エリアソンが美術館をめぐって対話した対談ログを収録。日本語でまとまって彼のアートに関する考え方を読むことができる数少ない文献です。