かるび(@karub_imalive)です。
上野の森美術館で始まった『生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展
奇想版画家の謎を解く8つの鍵』に行ってきました。数々の不思議な「だまし絵」作品で有名なエッシャー。日本でも、毎年のように全国各地でエッシャー展が開催されていますが、いつも会場はにぎわっていますよね。
東京では実に12年ぶりの開催となったエッシャー展。どんな感じになっているのか、早速見てきましたので、感想レポートを書いてみたいと思います。
※なお、本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。
- 1.ミラクルエッシャー展とは
- 2.エッシャーについて
- 3.展覧会の8つのみどころ
- 4.見逃せないグッズコーナー!
- 5.混雑状況と所要時間目安
- 6.まとめ
- おまけ:エッシャーの世界が楽しめる映画を3つ紹介!
- 展覧会開催情報
1.ミラクルエッシャー展とは
今回の展覧会『生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵』では、エッシャーが生涯で製作した全448点の作品中、約1/3にあたる152点が出展されています。
展覧会のタイトルにある通り、今回出展された全ての作品が、世界最大級のエッシャー・コレクションを誇る「イスラエル博物館」の所蔵品なのが本展の特長です。
イスラエル博物館
引用:展覧会場解説パネルより
実は今回の展覧会は、現在イスラエル博物館が各国で開催中の世界巡回展の一部に組み込まれているのです。日本では、東京を皮切りに大阪(あべのハルカス美術館)、愛媛(※詳細は今後発表)、福岡(※詳細は今後発表)と約1年かけて4箇所で展覧会が開催される予定。
今回のイスラエル博物館の世界巡回展では、同館が常設展示にすら出していないような秘蔵作品も多く、日本初来日となる珍しい作品も含まれています。後述しますが、本当に見どころの多い、力の入った展示でした。
ところで、会期初日となる6月6日、公式サイトから、できたてほやほやの新しいプロモーション動画が公開されました。6月5日に開催された関係者向け内覧会の様子を撮影した内容で、館内の展示や見どころが整理されています。展覧会前の予習にぴったりですよ!
音声ガイドはお笑いタレント・バカリズムが担当!!
さて、展覧会で多くの人が借りていたのが音声ガイドでした。今回のナビゲーターはお笑いタレント・バカリズムさんです。僕も早速借りて聴いてみましたが、思ったより落ち着いた語り口で好感が持てました。
公式Twitterでも、バカリズムさんの音声ガイド収録風景をGIF動画にまとめたツイートが回ってきましたので、貼っておきますね。どんな感じか雰囲気がよくわかります。
【escher×バカリズム】
— ミラクル エッシャー展 (@escher_ten) 2018年6月4日
「ミラクル エッシャー展」いよいよ6月6日(水)開幕です!
展覧会ナビゲーターのバカリズム(@BAKARHYTHM)さん、音声ガイドにも初挑戦です。収録直後に感想をお聞きしました。バカリズムさんの「よい声」ぜひ会場でお聞きください。https://t.co/2g0JV2nT0j pic.twitter.com/c58AxtbqZ0
2.エッシャーについて
マウリッツ・コルネリス・エッシャー
引用:Wikipediaより
マウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898-1972)は、【だまし絵】や【トリックアート】の第一人者として知られる、20世紀を代表する個性的な版画家です。2018年は、ちょうどエッシャー生誕120周年にあたる記念イヤーでもあります。
エッシャーは、生涯を通じて全部で448点の作品を生み出しました。絵画や彫刻などは一切作らず、全ての作品が「版画」として制作されました。版画は、一般的に絵画や彫刻と比べると、作品制作上、不自由で制限の多い媒体なのかもしれません。でも、だからこそエッシャーは「不自由だからこそ挑戦するんだ」と、生涯を通じて木版画を中心とした「版画」にこだわり続けたと言われます。
展示室では、エッシャーが作品制作で用いた版画技法について、わかり易く説明した解説パネルが、1F、2Fに1枚ずつ設置されています。それぞれの作品で採用された版画技法の違いなどにも着目してみると面白いですね。
エッシャーは他の人が真似できない、唯一無二ともいえる「奇想の」版画作品を多数生み出しました。その卓越した技術力や着想・発想の独創性は凄いの一言。数学的な理論や表現技法に基づいた構図で「錯視」や「幻視」を自由自在に生み出し、現実ではありえない独自の作品世界を作り出しました。
では、一体どのあたりが凄かったのでしょうか?次に、展覧会で出展されている作品群を見ながら、僕自身が感じた「エッシャーの凄さ」を説明してみようと思います。
3.展覧会の8つのみどころ
本展では、エッシャー作品の見どころについて、わかりやすく章立てして、8つのテーマ別に作品群を整理してくれています。「科学」「聖書」「風景」「人物」「広告」「技法」「反射」「錯視」という8つのテーマに分かれ、順路に沿って整理展示されていました。展示エリアごとに、壁の色が塗り分けられているのもわかりやすくて良いです。
ただ、展覧会と全く同じ着目点でブログを書いてもあまり面白くありませんので、ここからは僕が感じた独自の見どころを8つピックアップして紹介したいと思います。
見どころ1:劇的に表現されたイタリアの風景
エッシャーは、キャリア中期以降の一連のだまし絵作品が良く知られていますが、20代、30代の頃を中心に、風景画の秀作を多数残しています。
彼は、特にイタリア各地へ写生旅行に出かけるのが好きでした。ラヴェッロ、アヴルッツィ、ローマ、シエナ・・・出かけた各地で印象に残ったイタリアの風光明媚な風景に目をつけ、いくつもの優れた作品を残してくれました。
例えば、こちらの作品。
《サンコジモ、ラヴェッロ》1932年
高い壁のように切り立った崖と、その麓に立つ白い建物を左半分に、右半分は野原など遠景が見渡せます。息を飲むような迫力が感じられる構図が素晴らしいです。浮世絵や日本の山水画のように、現実の風景よりも若干縦方向に引き伸ばすことで劇的な効果を生み出そうとしているのでしょうか?
エッシャーの風景画は、どの作品も独特のアングルから見た構図や、緊張感のある構図を選んでいることが多く、キャリア初期から早くも非凡な才能を感じさせるものがありました。
見どころ2:正多面体に惹かれたエッシャー
《対象(秩序と混沌)》1950年
エッシャーは、しばしば「正六角形」「正八角形」など、作品内に正多面体を好んで描き込みました。正多面体が持つ幾何学的なプロポーションの美しさに惚れ込んでいたのでしょうか。
この作品でも、画面のど真ん中に正十二面体がどーんと置かれています。その周りには敢えて冴えないガラクタ(=混沌)を配置することで、中央に配置された多面体の美しさ(=秩序)を際立たせる効果があります。
見どころ3:モザイク状に並べて表現された「無限」の世界
《発展Ⅱ》1939年
エッシャーは、スペインのアルハンブラ宮殿を装飾していた「モザイク」の模様に感銘を受け、そこから作品制作への着想を得ました。ここで生み出されたのが「正則分割」と呼ばれる技法です。同じ形の複雑な図形を、色分けして平面上に敷き詰めた模様を螺旋状に並べ、「無限」を表現しようとしました。
本作の中心点は六角形が並んでいますが、周辺に広がるにつれて、六角形が少しずつ「トカゲ」へと変化していく不思議な作品です。この「トカゲ」は、エッシャーが生涯を通じて最も多用した動物のイメージの一つでした。
見どころ4:「正則分割」応用編:循環し、溶け合う2つの世界
《昼と夜》1938年
エッシャーの全作品の中で、最も人気の高い作品の一つとされる本作。やはりここでも、平面の「正則分割」の技法が使われています。昼と夜の世界が鏡像のように左右対象に置かれ、お互いの領域に白と黒の鳥が入り込んでいく構図。
どれ一つとして同じ形の鳥もなく、画面真ん中の灰色の畑から両サイドへ向けて、なめらかに溶け込むように出現する鳥たち。いつまでも見ていたい気持ちにされる傑作です!
見どころ5:球面に写った、ゆがんだ鏡の世界
《球面鏡のある静物》1934年
エッシャーの作品には、鏡による反射を描いた作品が数多く残っています。球面上に映し出された鏡像の反転世界と、直接見えている世界が同居する奇妙な構造。そして、なんとも言えないシュルレアリスム的な人面鳥。
球面鏡の内部に写っている男性は、エッシャー本人の自画像でもあります。球面鏡の真ん中に必ずエッシャー本人の両目が位置するのが特徴で、エッシャーは「観測者が世界の中心から逃れることができない」という点が大いに気に入っていたのだとか。
見どころ6:”ネッカーの立体”:よく見るとありえない柱の構造?!
《ベルヴェデーレ(物見の塔)》1958年
これもよく見る有名な作品ですよね。建物の細部までよく目を凝らして見てみると、2階建ての建物の「脚」が、現実にはありえない付き方をしているのです。これにより、階段を登った1F部分と2F部分の床の向きもおかしなことになっています。
でも少し引いて作品全体を見てみると、建物が違和感なく存在しているという・・・なんとも不思議な作品ですが、画面左下のベンチに座っている男が手に持っているだまし絵の立体と、その下に落ちている図面(通称”ネッカーの立体”)がこの作品を読み解くカギとなります。
引用:Wikipediaより
すなわち、座った人が持っている立体は、辺の前後関係がちぐはぐにつながった、現実にはありえない立体です。しかも見る角度によって立体の見え方が2通りに見えるんですよね。この構造を、まるごと作品に援用したのが本作でした。
見どころ7:存在不可能な立体!「ペンローズ回廊」
《滝》1961年
そしてこちら。滝壺に落ちたはずの水が、いつのまにか滝の上まで登ってきているという不思議な錯視を招く作品。作品のベースになったのは、イギリスの数学者ロジャー・ペンローズとライオネル・ペンローズが1958年に発表した、現実には存在しない「ペンローズの三角形」でした。
数学に興味があったエッシャーは、実際にペンローズと交流し、本作以外にも作品のアイデアをもらうことも多かったそうです。
ちなみに、本作の滝の上に多面体を複数合成したような謎のオブジェが乗っかっていたり、画面左下に海藻のような謎の植物が描かれているのも不気味で面白いです。
見どころ8:絶対に見ておきたい大作「メタモルフォーゼⅡ」
《メタモルフォーゼⅡ》(1939-40年)
そして、本展のハイライトは、日本初公開となる4mの超大作「メタモルフォーゼⅡ」です。「メタモルフォーゼ」とは、エッシャーの母国語・オランダ語で「変身」を表す言葉です。
そのタイトルの通り、作品左端からモザイク状の平面が、トカゲ→ハチ→チョウ→魚→鳥→ブロック→イタリア風景→チェス盤→モザイクへと次々変わっていく楽しい作品。元々は郵便局の壁画を飾る作品として制作されたとのこと。
なお、「メタモルフォーゼⅡ」が設置されているコーナー四方の壁面には、壁画のように、原画よりも大きく図柄を拡大したバージョンが印刷されています。混雑して細部まで見られない場合は、この壁面パネルをじっくり見ていってもいいですね。
《メタモルフォーゼⅡ》部分図(1939-40年)※壁面パネル
この「世界が移り変わっていき、そして最初に戻ってくる」という作品に誰しもが「循環」「再生」といったメタファーを感じることと思います。
図録の解説によると、本作が製作された1939年は、ナチスドイツがフランス、オランダに侵攻した年でした。ただでさえ暗い世相の中、エッシャーは相次いで両親を亡くします。一方向への変化にとどまった最初のバージョン「メタモルフォーゼⅠ」と違い、敢えて物事の再生や復活を予感させるような「循環」を描きこんだところに、エッシャー自身の、再生・復活への祈りが感じられるようでした。
4.見逃せないグッズコーナー!
絶対入手しておきたい!「展覧会公式図録」
ところで、エッシャーほど「図録」の価値が重要となるアーティストはいないのではないでしょうか?展示作品数も多いですし、展示会場が混雑していると、中には満足に見ることができなかった作品もあったかと思います。でも展覧会場で1度見ただけで終わりにするのはもったいないです!
そこで、公式図録の登場です。家に帰ってから、思う存分時間をかけて復習してみてはいかがでしょうか?僕も、美術館への滞在時間は1時間30分でしたが、帰宅後、ブログを書く前に少なくとも数時間は眺めていたと思います(笑)
しかも、現在ネットやリアル書店で市販されているエッシャーの画集には絶版が多く、普及版の画集をリーズナブルな価格で手に入れるのが意外に難しいのです。こんな状況なので、少しでも気になったら、思い切って図録を購入することを強くおすすめしたいです!会場限定での販売ですので、あとでAmazon等で購入することができません。売り切れないうちにお早めに!!
しかも、今回の図録では、最近ちらほら見るようになった「コデックス仕様」が採用されています!「コデックス仕様」で製本された図録は、糸綴の背中をそのまま見えるように本を仕立てるため、本の開きが良いのです。どのページで開いても本にストレスをかけずに大きく開くことができます。
これは嬉しい工夫ですよね!
トリックアートが描かれた定番グッズたち
今回の展覧会でもマグネット、クリアファイル、ハガキ、ボールペンといった文房具類や、トートバッグ、Tシャツなどの定番グッズが充実。
それぞれ、アイテムのどこかに必ずトリックアート的なデザインが施されているので、展覧会の思い出が心に残りやすい作りになっています。
▼マグネット
▼クリアファイル
▼トートバッグ
▼Tシャツ
▼トリックアートノート
この「トリックアートノート」はちょっと面白かったです。一見、普通のノートに見えますよね?!でも、ページをめくると、各ページにエッシャー的なだまし絵の描き方が解説してあるのです。まさにトリックアートを描くために用意されたスペシャルなノート。これは面白い!
▼ノートを開くとだまし絵の描き方が解説されている
ガチャにも挑戦してみる?
最近、展覧会場限定のガチャマシーンをよく見るようになりました。本展でも、トリックアート的な意匠が施されたオリジナル缶バッジのガチャが用意されていました。種類は全部で8種類。会場では、初日から意中のアイテムを取り出そうと、複数回挑戦している猛者も見かけました・・・。
5.混雑状況と所要時間目安
今回の展覧会は、全部で152作品とかなり多めに用意されました。版画作品なので、比較的小ぶりな作品が目立ちます。だから、しっかり見ようと思ったら意外に時間がかかります。混雑していない前提なら、90分~120分程度は見ておきたいところ。
ただ、やっぱり気になるのが混雑状況ですよね。エッシャー展は、本当に混雑します。前回2006年のBunkamura・ザ・ミュージアムの展覧会に妻と行った時は、散々並んだ挙げ句、若いリア充カップルたちに押しつぶされました(笑)
まして、今回の展覧会場は入場待ち行列ができやすい「上野の森美術館」です。会期後半にもなると、かなりの混雑が予想されます。会期後半になると、チケットを買うだけでも、かなり並ばなければならない可能性も大いにあります。
チケットは事前にプレイガイド等で購入した上で、できるだけ朝一に近い時間帯でおでかけください。(上野の森美術館の混雑は昼以降になることが多いため)
6.まとめ
毎年のように日本のどこかで開催されている人気のエッシャー展。しかし今回は、超大作「メタモルフォーゼⅡ」や、日本初公開作品も多く出展されています。アートファンならもちろん抑えておきたい展覧会となりました。
その一方で、キャリア後期の有名な代表作は、ほぼ全て網羅しているため、「エッシャー入門編」としても最適な展覧会でした。何より、わかり易い作品が多いので家族や仲間、恋人と気軽に見に行けるのも嬉しいところ。
色々な楽しみ方がある今回の「ミラクルエッシャー展」。是非楽しんでみてくださいね。僕も期間中、混雑を避けてもう一度行ってきたいと思います!
それではまた。
かるび
おまけ:エッシャーの世界が楽しめる映画を3つ紹介!
映画「ナイトミュージアム/エジプト王の秘密」
夜になると、博物館の展示物が一斉に動き出し、毎回一騒動が起きる「ナイトミュージアム」シリーズ第3弾。本作ではイギリスの博物館へ潜入した主人公が、エッシャーの代表作《相対性》の中へ入って敵と戦うシーンが出てきます。3方向に重力が働く特殊な空間で、どこが地面なのかもはやわからないアクションシーンは見ごたえがあります。展覧会場の入り口でも放映されています。
引用:上記いずれも映画「ナイトミュージアム/エジプト王の秘密」DVDより
映画「インセプション」
鬼才、クリストファー・ノーランの代表作です。ストーリー中盤で、代表作《上昇と下降》の3次元セットが組まれ、その上を主人公たちが歩くシーンが出てきます。もちろん、現実には組むことが不可能なので、別の角度から見ると行き止まりになっているのですが・・・。
引用:映画「インセプション」DVDより
それ以外にも、潜在意識の第2層に入り込んだ主人公たちが、ふとした拍子に天地がひっくり返り、宇宙遊泳のような状態で激しいアクションシーンを繰り広げる場面や、意識の力で空間を曲げるシーンなど、不可思議な映像が満載。もう10年近く前の作品ですが、今見ても、エッシャー作品のような不思議な映像体験ができる秀作です。
映画「ドクター・ストレンジ」
最後は、マーベルのアメコミヒーロー「ドクター・ストレンジ」です。こちらも映画「インセプション」を正常進化させたような、CGで作られた不思議な空間が癖になります。調べてみると、本作の空間演出は、シュルレアリスム系の作家やエッシャーの作品をかなり参考にしているとのこと。やっぱり!
両方共に引用:「ドクター・ストレンジ MovieNEX」予告編 - YouTube
展覧会開催情報
東京都台東区上野公園1-2
◯アクセス
・JR「上野駅」公園口より徒歩3分
・東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩5分
毎週金曜日は20時まで
◯開館時間
◯観覧料金
一般1600円/大学・高校生1200円/中学・小学生600円
※小学生未満無料 ※障害者手帳保持者と付添1名まで無料
https://twitter.com/escher_ten