あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【美術展】カラヴァッジョ展(国立西洋美術館)は最高でした

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かるび(@karub_imalive)です。

3月1日より、この上半期で一番楽しみにしていた国立西洋美術館でのカラヴァッジョ展が開かれています。以前、このエントリでも「超期待!」と書いていたのですが、結論からいうと、やっぱり期待を裏切らない出来でした。

結論はシンプルです。とにかく「超おすすめなので見てね!」ということなんです。やばい。ほんと、これは見とかないと後悔します。

何が凄いかって、展示会の充実ぶりです。カラヴァッジョとそのフォロワーたちの作品で、あわせて50数点の佳作群に、ほとんど捨て作品はありません。捨て曲なしの「神盤」みたいなものです。どの絵も最高。中でも、カラヴァッジョ自身の作品11点はずば抜けて素晴らしかった。

今年は、日伊修好通商条約締結後150周年ということで、年始からボッティチェリ展ダ・ヴィンチ展など、イタリア絵画の大攻勢が続いています。個人的な印象では、その2つの先行する展示会よりも良かった。実際、現場で生の絵画に対面した時に受けた感銘・感動は大きかったです。美術展に特に興味がない人でもお薦め。日頃のストレス解消目的とか、デートとかのネタとかでも何でもいいので、是非見に行って欲しい、そんな最高の展示会でした。

・・・前置きが長くなりました。ここから、少し詳細な感想に入ります。

1,カラヴァッジョ展の混雑度について

僕が行ったのは、3月5日(金)の夜18時過ぎ。上手く仕事の段取りを組んで、客先から直帰にしてそのまま上野の国立西洋美術館へ。到着したら、あたりはだいぶ暗くなっていました。

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わざわざ親切に「今日は午後8時までやってるよ」という立て看板が。昔、ここで何年か前にフェルメール展をやった時は、平日金曜日夜に入場制限をかけたくらい混雑していたので、ある程度覚悟して臨んだのですが、なんかあっさりと入れました。

それでも会館の中は、それなりの混雑度。去年、モネ展の最終日に行った時ほどではなかったですが、著名な絵の前には人だかりがそれなりにできる、「中程度」の混雑でした。めちゃくちゃ快適に見れたわけではありませんが、いるだけで消耗する満員電車クラスの混雑ではありません。会期が6月上旬までと比較的長いこともあるのかもしれませんね。

ただし、平日夜でこれなので、土日の午後の時間帯はかなり混雑が予想されます。土日は思い切って早起きして、9時30分ジャストに入館するのがおすすめです。

2,音声ガイドは北村一輝でした

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僕は、音声ガイドがあれば、まず100%間違いなく借りるようにしています。ストーリーや時代背景と合わせて絵画を楽しむことで、理解に立体感や深みが増すからです。また、ブログで紹介しやすいネタも音声でだけ話してくれることもあるので、手放せない。スポーツ中継などの副音声、みたいなイメージでしょうか。

ガイド役は、俳優の北村一輝でした。調べたら、もう46歳なんですねぇ。落ち着いた渋い語り口が違和感なく、作品世界とよくマッチしていました。ぜひ借りてみてください。

3,カラヴァッジョとはどんな芸術家だったのか

カラヴァッジョの本名は、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョといいます。1571年生まれ、1610年死去、と短命でした。16世紀末~17世紀初頭に活躍した、イタリアを代表する大美術家です。ちょうど、今東京都美術館で開催中のボッティチェリや、ダ・ヴィンチと言ったルネサンス期の美術家よりも50年~100年後位に出た人ですね。

カラヴァッジョは、日本ではそこまで有名ではないかもしれません。というか、明らかにマイナーだと思います。今回、実は妻にも一緒に行こうよ、ってことで声をかけていたんですが、「カラヴァッジョ?誰それ、私いいや~。ボッティチェリとフェルメールはいく~」ってことで、あっさり断られました。

そんなにマイナーなのか?と思って、試しにGoogleのキーワードプランナーで月間検索数を、他の有名な画家名と比較して調べてみると・・・

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はい、明らかに桁が違いますね。あからさまに市井ではマイナーキャラなわけです。

それもそのはず、実はカラヴァッジョは、没後17世紀~20世紀中盤までは、本国イタリアでさえも完全に忘れ去られた存在だったのです。潮目が変わったのは、1951年、ミラノ王宮の大規模展覧会で出品された時でした。ここで、およそ3世紀ぶりにその天才性が再発見され、そこから一気にイタリアのルネサンス~バロック時代にかけての最重要芸術家として位置づけられるようになっていきました。

以来、本国や欧米では人気沸騰したのですが、日本での人気は今ひとつなままでした。ただし、今回の大規模展示会で、日本での地位・評価もだいぶ変わってくるのではないかと思います。それほど、中身が素晴らしすぎました。

4,殺人を犯してイタリア中を逃亡した半生だった

展示会でも、カラヴァッジョの肖像画が紹介されてますが、まぁ割と悪そうな人相をしております。いかにも少し気難しく喧嘩っ早い感じかな。

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展示会でも、ローマ市内の古文書がいくつか残っていて、銃刀の不法所持記録だったり、酒飲んでケンカをして暴れた時の調書だったり、喧嘩した時の裁判だったりと3つくらいそんなアホな記録が展示されていました。(そんな古文書が普通に残ってるのが凄いですが・・・)恐らく、割と気が短く、粗暴な一面があったのだろうと思います。Wikipediaにもこうあります。

カラヴァッジョの暮らしは「二週間を絵画制作に費やすと、その後1か月か2か月のあいだ召使を引きつれて剣を腰に下げながら町を練り歩いた。舞踏会場や居酒屋を渡り歩いて喧嘩や口論に明け暮れる日々を送っていたため、カラヴァッジョとうまく付き合うことのできる友人はほとんどいなかった。

やはり、面倒くさいやつだったらしい(笑)

そして、彼がローマで活動していた時、ある時に、いざこざからとうとう人を殺してしまい、指名手配されてしまいます。そしてローマを出て、以降流浪の旅に出ます。1710年に亡くなるまで、ナポリやシチリア、マルタ島などを転々としながら、その逃亡生活の間に、今日評価されている傑作群を生み出していくことになりました。天才っていうのは、皆どこかしらこういう狂気や闇を抱えているんでしょうね。

5,カラヴァッジョの作風の特徴

カラヴァッジョの生きた17世紀でも、芸術家は相変わらず貴族やパトロン達の庇護、タニマチ的な後見の下で多かれ少なかれ活動していました。彼も、多分タニマチがいたからこそ強気で喧嘩に明け暮れた私生活が送れたのでしょう。でなければ、あっという間にチンピラに絡まれてもっと早く消されていたかも。

それでも、ルネサンス期までの仰々しい宗教絵画だけでなく、果物などを描いた静物画や人々の日常風景をリアルに描いた風俗画など、この時期の画家の取り扱うジャンルは確実に広がっていきました。

今回のカラヴァッジョ展での出展だと、下記の「バッカス」や、

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果物籠を持つ少年

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これらは、本当に美しい静物画でした。
とにかく現場で見て欲しいです!

そして、カラヴァッジョの得意としたのは「光」の使い方です。従来の絵画よりも、よりリアルにスポットライトのような明確な方向性を持つ光を用いました。そして、光と影の対比により、絵画空間によりリアルな3次元空間を創りだします。背景は極力シンプルに暗く抑え、その分暗闇の中に浮かび上がる人物や静物の繊細な表情を引き出すその独特な作風は、当世随一の腕前であり、後世のレンブラントらに確実に影響を与えています。

下記は、そんな「光」を最大限巧妙に操って描かれた代表作「エマオの晩餐」。ある農家に宿泊した見知らぬ旅人が、実は磔にされ、その後復活したイエスであることに人々が驚きの表情を見せる場面を切り取って描いた絵画です。漆黒の闇の中、斜めから効果的に光を当てた構図は、まるで写真みたいですね。

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6,フォロワーさんたちもハイレベル!

さて、私生活はハチャメチャなカラヴァッジョでしたが、腕前は当代随一のスーパースターだったようです。そして、彼の存命中~没後数十年にわたり、「カラヴァジェスキ」と言われるフォロワー群を大量に生み出しました。

驚いたのは、その「カラヴァジェスキ」達のレベルも非常に高く、粒ぞろいであったことです。ルネサンス期などの有名な絵師たち、例えばダヴィンチ、ボッティチェリなどのフォロワーや弟子達は、一部を除きかなりレベルが落ちます。有り体に言うと、まぁ下手くそです(笑)今、ちょうど東京江戸博物館で開催されているダ・ヴィンチ展に行けば分かります(笑)

それが、カラヴァジェスキ達、例えば展示会で紹介されていたバルトロメオ・カヴァロッツィ、シモン・ヴーエ、スペインのジュゼペ・デ・リベーラ、オランダのヘリット・ファン・ホントホルスト、オラツィオ・ジェンティレスキなどは、カラヴァッジョにこそ少し劣るものの、50年~100年前のルネサンス期の画家達よりはるかに高い写実的技量を持っていました。まぁこれも行けば分かります!

中でも一押しで気に入ったのは、このオラツィオ・ジェンティレスキ「スピネットを弾く聖カエキリア」。カトリック教徒の間では有名な、古代ローマ時代に殉教した聖人だそうです。

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これも、ネット上のJpeg画像ではいまいち良さが伝わらないんですよね。何度も言いますが、是非展示会に足を運んで見てきて欲しいと思います!

7,世界初公開の「法悦のマグダラのマリア」

さて、最後に紹介するのは、2014年にカラヴァッジョの真作と認定され、今回が展示会世界初公開となる「法悦のマグダラのマリア」

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よく見ると白目を剥いてたりして、何か怪しい薬がガンギマリしてそうなそんな表情なのですが、なにせ「法悦」(Ecstasy)ですからね。ただ、この表情は、実際に描いて表現しようとするとものすごく繊細なタッチや技量が必要なんだろうな、というのは素人でもよくわかりました。色合いのトーンなどもアセ気味で、鬼気迫るものがありました。

実際、この絵は逃亡生活中、1610年に不慮の死を迎えたその時まで、カラヴァッジョが肌身離さずに置いていた2つの作品のうちの一つです。近年まで行方がわからなくなっていましたが、個人のコレクターが所持していたものを鑑定したところ、カラヴァッジョ本人の真筆として認定されたものです。

8,まとめ

色々長くなりました。でも言いたいのは冒頭でも書いたとおり、まずは是非会場に足を運んでぜひ見てきてほしい、ということです。東京でしかやってないので、遠方の方にはキツイと思います。でも遠征しても見るべき展示会だと思います。これだけの展示会がわずか1,500円だかそこそこで見れるのって本当に凄いことです。興味がある方は是非!

それではまた。
かるび

PS 
そういえば、他にも今期こんな西洋美術展に行ってきました。まだ会期中の物を貼っておきますね。 

それと、近代西洋美術じゃないけど、日本の現代アートの巨匠「村上隆」の展示会も3月末までやっていますので、こちらもお薦め。