あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して3ヶ月。無職または専業主夫で、ブログ書いてます。美術展と人事労務系の記事が多め。

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【ネタバレ有】「ちょっと今から仕事やめてくる」映画感想・レビューとあらすじ徹底解説!/全ての働く人に見て欲しい珠玉の映画!

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【2017年6月6日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

人は、何のために仕事をするんでしょうか?自分のため?あるいは家族のため?やりがい?本来、人生に豊かさと喜びをもたらしてくれるはずの「仕事」は、多くの人にとっていつの間にか生きていくための「苦痛」でしかなくなっています。

僕も、最初は「希望」を持って入ったはずの前職(ITシステム開発)での仕事が「苦痛」に変わり「辞めたい!」と強く思うようになってから、実際に退職するまで、8年もかかりました。次の仕事が見つかる保証がないので、決意できなかったのです。

本作の主人公、隆もまた、入社早々に「仕事」へのモチベーションだけでなく「生きる」目的も見失ってしまいます。ブラック企業でドン底まで堕ちた隆が、力強く最後には生きる力を取り戻していくまでの過程を描いた本作は、仕事で悩む全ての働く人たちにとって、生きる希望をもらえる珠玉の一作となりました。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「ちょっと今から仕事やめてくる」の基本情報

<「ちょっと今から仕事辞めてくる」予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

【監督】成島出(「八日目の蝉」「ソロモンの偽証」他)
【配給】東宝
【時間】114分
【原作】北川恵海「ちょっと今から仕事やめてくる」

2003年のデビュー作「油断大敵」以来、ヒット作を連発し、2011年「八日目の蝉」では日本アカデミー賞作品賞を獲得するなど、まだ50代ですが大物監督としての風格たっぷりの成島監督。

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(映画.comより引用)

この人は舞台挨拶等で「演技指導が厳しい」的なコメントがよく出ますが、今回も、「最初に2人に会った時はちょっときついかなと思い、これ以上ないくらい追い詰めた。つぶれそうになったこともあったと思うが、日々成長し役者としてひと皮むけた。」と、5ヶ月間に及ぶリハーサルで、主演2名に対してブラック企業並のかなり厳しい演技指導を行った様子(笑)

幸いにして舞台挨拶では、「厳しく指導していただき大変だとは思ったけれど、やりがいもあって楽しかった。監督に出会えたのは、大きな財産になりました」と涙で福士蒼汰が感謝するシーンもあったとか。「ちょっと今から俳優やめてくる」とはならなかったようですね!

2.映画「ちょっと今から仕事辞めてくる」の 主要登場人物とキャスト

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人物相関図は、至ってシンプルな映画です。ヤマモトと隆の二人の主人公が、偶然の出会いからお互いの存在によって救われ、そして生きる目的を見出すまでのストーリー。ヒロイン役がおらず、一種のバディムービー的な要素もありますね。(ただしホモソーシャルな関係ではない)

ヤマモト(福士蒼汰)
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原作のキャラ通り、本作で初めて関西弁での演技に挑戦しています。関西出身者が聞くとところどころおかしなイントネーションもありますが、まぁ及第点かと。直近作「無限の住人」(2017)ではやや若すぎるかなという感じもありましたが、「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」(2016)など、作品にも恵まれ、彼が出演する作品の興収はいつも安定していますね。

青山隆(工藤阿須加)
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現ソフトバンクホークスの工藤公康監督の息子さんだと知ったのは最近なのですが、本人は全く野球に興味がないらしい(笑)2017年は、年始の「恋妻家宮本」で存在感が薄かったので、今作での力の入った演技は正直見直しました。今後が楽しみですね。

五十嵐美紀(黒木華)
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まだ27歳なのに、本作では疲れ切った表情やだらしない服装から30代後半くらいに見えるのは、日本アカデミー賞女優のある意味演技力の賜物なのかも。成島作品では「草原の椅子」「ソロモンの偽証」に続き、3度目の起用。

山上守(吉田鋼太郎)
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自ら主催する劇団では、厳しく叱ることもあるという、いかにも厳しそうなコワモテの吉田鋼太郎。しかし、さすがにこの映画での度を越したパワハラぶりは、演じている本人ですら辛かったとのこと。ある意味、真のプロ意識を感じた裏MVP的な怪演でした。

大場玲子(小池栄子)
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こちらも、黒木華同様、「草原の椅子」「不思議な岬の物語」など成島組では常連俳優ですね。小池栄子といえば、少年誌・青年誌を席巻したビキニ姿の巨乳グラビアで強烈な印象があるのですが、時の経つのは早いです。最近はすっかり落ち着いた主婦役が増えているし、またそれが凄く板についているんですよね・・・。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

隆の暗鬱な日常に突如現れた「ヤマモト」と名乗る男

青山隆は、中堅の印刷関連の、いわゆる「ブラック企業」で営業職として働く新入社員だった。入社して半年が経過したが、毎日起きて会社に行くのが非常に辛い毎日だ。その証拠に、部屋の中は荒れ放題。山梨でぶどう農園を営む両親から送ってもらった野菜や果物は箱の中に入ったまま腐っていた。

その日もやっとの思いで出社すると、山上部長が出社すると同時に朝の体操と社訓斉唱が始まった。続いて、社内表彰式だ。先輩の女性営業社員、五十嵐美紀がノルマ達成の金一封を受け取っていた。

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業務が始まると、まもなく隆にクレームの電話が入った。それを聞いた部長は、部屋が凍りつくほど大声で隆を怒鳴りつけた。さらに悪い事に、ミスした分を給与天引きにされる通告をされた上、翌日朝イチまでに営業資料をまとめておくように言い含められた。これで今日も深夜までの残業が確定だ。

すでに3ヶ月連続で150Hを超える残業をこなし、心身ともに疲弊しきっていた時に、実家の母からの電話があった。応対する気力もなく、つい親にぞんざいな対応をしてしまった。

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やっとの思いで残業を終わらせ、駅のホームで帰りの電車を待っていた時、携帯電話に部長からの着信が入ってきた。「もう限界だ、、、」そう思って、投げやりにホームから転落しようとしたその時、隆は若い見知らぬ男に手を強く掴まれ、危うく電車に轢かれるところを間一髪で免れた。

助けてくれた男は、「ヤマモトや!」と自己紹介してきた。誰だったのか思い出せなかったが、とりあえずヤマモトの勢いに押され、飲みに行くことにした。居酒屋で、トイレに立つふりをして小学校時代の友人に電話で「ヤマモト」を調べてもらった所、「ヤマモトケンイチ」というクラスメイトがいたことがわかった。

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とりあえずその日は乾杯し、昔話に花を咲かせた隆は、少し気持ちが楽になったような気がした。隆とヤマモトは、携帯電話の番号を交換してその夜は別れた。

ヤマモトとの交流で持ち直した隆

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ヤマモトと出会った最初の週末。ヤマモトが隆のマンションまで会いに来てくれた。ヤマモトは、勝手に近所のスーパーでカートを借りて、坂道を一緒に転がったり、一緒に買物に行ったり、二人はまるでデートのような時間を過ごしたのだった。

翌日月曜日、出社する際に少し気持ちが楽になったような気がした。先に出社していた五十嵐先輩から、雰囲気が変わったね、と声をかけられた。よい雰囲気のまま、その日、隆は半年通いつめた小谷製菓と新規取引を成約させることができた。

その晩、隆とヤマモトは祝杯を挙げた。隆が改めてヤマモトに礼を言うと、携帯に岩井から電話がかかってきた。小3の時仲が良かった「ヤマモトケンジ」は現在ニューヨークにいるという。フェイスブックで確かめたところ本当だった。では、今一緒に飲んでいるヤマモトは一体誰なのか?

ヤマモトを問い詰めると、アッサリと「小学校の同級生っていうのは勘違いやったわ」と白状した。本当の名前は「山本純」という。免許証で確認させてもらった。写真が若干違っているようだったが、確かに本人だった。彼らは改めて友人として乾杯をするのだった。

発注ミスが発覚し、落ち込む隆

少したった別の日。出先で商談中、隆の携帯に五十嵐から電話が入った。小谷製菓へ納品した製品の型番違いのクレームだった。急ぎ戻り、五十嵐と原因を確認すると、隆が工場への発注ミスをしていたことが判明した。

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五十嵐と小谷製菓の担当へ謝罪訪問に行くも、受付のところで担当者から冷たくあしらわれた。五十嵐は、隆を先に自社へ戻らせ、改めて担当へ謝罪の挨拶に向かった。

自社に戻ると、隆は部長から凄い剣幕で叱られた。しかしその日山上部長は、隆だけでなく五十嵐に対してもプレッシャーをかけていた。言葉はキツくなかったが、ノルマ未達を責めるのだった。

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その日の夜、隆は一睡もできなかった。昼間の大失敗がぐるぐる頭の中を回り、ひたすらベッドでうずくまるしかなかった。翌朝、出社すると、部長から小谷製菓の担当を五十嵐に変更すると指示があり、改めて全社員の前で何度も土下座して大声で謝罪させられた。

ようやく退社した時、隆はヤマモトに呼び止められ、イタリアンレストランで食事をした。隆は経緯を全て話すと、ヤマモトは、誰かに発注書のデータを書き換えられたのでは?と誰かの嫌がらせを疑った。そして、元気のない隆に対して、思い切って転職したらどうか?と勧めるのだった。しかし、隆はこのご時世に半年で退職して、正社員として採用してくれる会社があるとは思えず、難色を示すのだった。

しかし、ヤマモトは、「隆にとって、仕事をやめるののと死ぬのはどっちのほうが簡単なのか?」といつになく食い下がってきた。

謎が深まるヤマモトの正体

しばらくすると、また隆にも平穏な日々が戻ってきた。しかし、すでに隆には会社生活や人生に希望を見いだせず、ただ平穏に1週間を過ごせればいい、と諦めの境地になっていた。

そんな時、流山の自社工場からの帰り道、駅前で「流山霊園」への送迎バスにいつもと全く違う落ち込んだ表情で乗り込むヤマモトを見かけた。

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自宅に帰ってから、「山本純」でネット検索をかけると、なんと、ヤマモトは3年前に亡くなっていた。ミヤタフードカンパニーという会社に勤務していた山本純は、心労から会社で飛び降り自殺したのだ。すると、自分が会っているヤマモトは幽霊なのか?とわけがわからなくなった。

翌日出社すると、自分のデスクのPCを五十嵐が操作していた。声をかけると、五十嵐はいつになく余裕のない表情で「小谷製菓」についての書類を検索させてもらっていた、と話した。

その日退社する時、隆はヤマモトとフットサルに飛び入りした。裸足でフットサルを楽しむヤマモトを見て、確かに「足」があるので幽霊ではなさそうだ、とも思ったが、もし幽霊だとしたら、ヤマモト自身が成仏できるよう、自分がもっとしっかりしなくては、とも思った。

再び自殺へと追い込まれる隆

翌日、隆は再度気を取り直して出社し、五十嵐に小谷製菓についてまとめた引き継ぎ資料を渡した。すると、五十嵐からは「こんなのが役に立つか」となぜか激しく叱責を受けた。五十嵐は、そのままトイレでうずくまってしまった。

デスクに戻ると、隆は部長から呼ばれ、「小谷製菓の数字を五十嵐に取られたことに文句たらたらなのか」と激しく叱責された。そんなつもりで引き継ぎ資料を作ったわけではないと弁明したが、部長は聞く耳を持たなかった。

外回りに出ていく五十嵐に、改めて謝罪する隆だったが、五十嵐からも「消えろ、バカ」と言われ、突き放されてしまった。隆は、もう死ぬしか無いと覚悟を決めた。

翌日は土曜日だった。誰もいない会社に出社し、屋上から飛び降りて死のうとしたその時、ヤマモトが屋上に来て、必死で引き止めた。人生は誰のためにあるんだと思う?お前を大切に思ってくれる人のためだ!」と説得され、隆は自殺を思いとどまった。

久々に実家に帰省し、退職を決意

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翌日、隆は、ヤマモトの強い勧めを受けて実家の山梨に久々に帰宅した。1年半ぶりだった。これまで両親に対して酷い言動を取ってきたことを詫びると、隆は恐る恐る退職したいと両親に切り出した。すると、両親は「若いうちにたくさん失敗しろ」と全面的に隆の意向を尊重してくれた。

隆は、東京に帰り、翌日の朝、ヤマモトを近くの喫茶店に呼び出すと、晴れやかな気持ちでヤマモトに改めて礼を言い、「ちょっと今から仕事やめてくる。少し待っていてくれ」と言い残し、会社へと向かった。

会社につくと、隆は部長に今日で退職する旨を告げ、職場の全員と五十嵐に礼を言って会社を後にした。エレベーターホールのところで、呼び止められた五十嵐から、小谷製菓の発注書ミスは、五十嵐が改ざんしたものだったと打ち明けられた。隆の成績が上がると、ノルマも上がり、追い込まれていた五十嵐は、隆の成績を落とすためにやったのだという。そんな五十嵐に対しても、いたわりの言葉をかけて、隆は意気揚々とヤマモトを待たせている喫茶店へと戻ってきた。

しかし、喫茶店へ戻るとヤマモトの姿はすでになかった。

明らかになったヤマモトの正体と、過去の傷

無職に戻った隆は、自宅を片付けて、健全な自炊生活に戻っていた。今後の人生についてじっくり考えてから再就職に臨むつもりだったが、どうしても消えてしまったヤマモトのことが気になっていた。携帯もつながらなくなっていた。

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どうしても諦めきれない隆は、ネットで山本純の知り合いに連絡を取り、会うことにした。彼女は、大場玲子といい、死んだ山本純のいた孤児院の院長の娘だった。その結果、ヤマモトは双子で、亡くなった「純」の他に「優」という兄弟がいることがわかった。5才の時、両親を亡くして孤児院に入った純と優だったが、特に優は、最初は純以外の誰とも口をきこうともしなかったという。

優が変わったきっかけは、純がどこからか持ち込んだ、ポリネシアの孤児たちの笑顔の写真集を目にした時だった。同じ「孤児」という境遇なのに、笑顔を絶やさない彼らを見て、優も笑うようになったのだ。それ以来、この兄弟は、孤児院を出たら、兄の純は医者として、弟の優は教師として、この写真に映っている「バヌアツ共和国」の孤児院で働くと決めて大学進学を志した。

優は首尾よく大学に合格したが、純は、医学部受験に失敗してしまった。孤児院は18歳で出なければならない規定だったので、純は就職しながら医師を目指すことになった。しかし、就職先が運悪くブラック企業だったため、純は翌年度も大学に不合格となり、とうとう就職して2年目となった20才の時、自殺したのだった。優は、一足先にバヌアツに行って、純を待ちながら教師になると決めていたが、純の自殺を受けて心に傷を負ってしまい、渡航を延期したのだった。

しかし、半月前ほど、優は玲子に会いに来て、バヌアツに行く決意が出来たと告げた。純が亡くなって以来、できた友人のお陰で、ちゃんと生きていこうって決意することができたとの話だった。そして、優は隆が玲子に会いに来ることを予見しており、隆に「ありがとう」という言葉とともに笑っているバヌアツの子供たちの写真を託していたその写真の裏には、優の手書きで「俺の天使たちだ。この子達と一緒に笑ってみないか」と、バヌアツに来ないかと隆を誘っていた。

バヌアツで再び出会った優と隆

人生の恩人である優の申し出に応えたいと強く思った隆は、バヌアツへ向かうことにした。現地へ着くと、すでに優は現地の子供たちに青空の下、算数のクラスを楽しそうに教えていた。

優は、隆を見つけると、改めて握手をして隆を歓迎した。隆はぎこちない表情で子供たちに挨拶すると、優は、「しばらくは言葉の特訓やな!」と笑ったのだった。そして、隆の最初の仕事は、子供たちとの鬼ごっこだった。

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子供たちと駆け回る隆を見て、優は「人生っとそれほど悪いもんでもないな」と死んだ空の方を向いて純に話しかけるのだった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

賛否両論?!映画オリジナルのクライマックスが用意されていた

僕は、7ヶ月前にすでに原作のライトノベル版を読了し、昨日2回原作を読み返してから満を持して本作に臨みました。隆が会社を辞めるところまでは原作そのままの忠実な作りで、安心しきって見ていたのですが、途中でみぃさん=玲子(小池栄子)にコンタクトを取るシーンから、怒涛のオリジナル展開が!

隆が小池栄子扮する玲子と面会するシーンで、「優」と「純」についての過去の経緯について掘り下げられて語られます。TVの推理モノ2時間ドラマの謎解きのように、セリフベースで怒涛のように語られ出したのはやや苦笑いせざるを得ませんでしたが、原作では、ヤマモトの正体は最後まで「謎」の存在のまま終わってしまうので、この追加シナリオは個人的には歓迎です。

このシナリオ追加がなされたことにより、隆とヤマモトは、表面上「支えられる者」「支える者」という関係ではありますが、実は二人はお互いにとって必要なモノを「与えあう」不可欠な存在同士だったことがわかります。

お互いを必要としていた二人f:id:hisatsugu79:20170528004626j:plain

ブラック企業で激務に喘ぐ隆は、ヤマモトの心の支えが無ければ当然再生できませんでした。そして、ヤマモトもまた、最愛の兄、純をそのまま投影したような、生真面目で純粋な隆の苦境を救うことで、3年前に純を救えなかった罪悪感から解放されることができたのですよね。優にとって、隆との出会いは、過去を清算し、前を向くために必要なプロセスだったわけです。だからこそ、優は最後に「ありがとう」と玲子に隆向けのメッセージを託したんですよね。

こうして2つの「隆」と「優」の二人の物語が交差して、最後に抜けるような青空が広がるバヌアツでの新生活へとつながっていったのは、物語としてすごくキレイな終わり方だったし、原作より一回りスケール感も大きくなっていてよかったです。

隆のオフィス。狭くて陰鬱で息が詰まりそう。f:id:hisatsugu79:20170528004714j:plain

ぶっちゃけ、ラストはバヌアツでもなんでも、開放的なロケ地ならどこでも良かったと思うんですよね。隆が半年間暮らした牢獄のようなブラック企業のオフィスに対して、優がバヌアツの子供たちに算数を教えた青空教室のなんと明るく開放的なことか!この対比は見事でした!オフィスで萎縮して土下座していた隆が、バヌアツの子供たちと活き活きと鬼ごっこを始めたラストシーンは、映画的なカタルシスにあふれていました。

彼らだけでなく、見ている鑑賞者一人ひとりにとってバヌアツの地は「再生の象徴」だったのでしょうね。エンドロールで、まるで人生のように曲がりくねったバヌアツの川を下りきり、大きな海に出た2羽の白鳥が空高く画面を横切って飛んでいくシーンは、まさに我々自身も、「人生の可能性」を自由に探求していいんだよ、と優しく諭されているみたいで、涙が止まりませんでした。

希望はいつでもすぐそこにあるけれど、見ようとしていないだけ

本作は、バヌアツの南国的な風景美以外にも、冒頭からラストまで、雲が程よく広がった明るい初夏の陽光が広がっていました。特に、最初に隆とヤマモトがカートで坂を転がった時に見上げた空、隆がビルから飛び降り自殺を図ろうとした時に広がっていた空、いずれも抜けるような美しい空でした。

隆が苦しい時でも、いつでも晴れわたる美しい空f:id:hisatsugu79:20170528004801j:plainf:id:hisatsugu79:20170528004824j:plain

星空を見ながら優がバヌアツの子供に語りかける場面で、印象的なセリフがあります。

「生きるということは希望は持つこと。希望は見えなくなってしまうだけなんだ。でも常にそこにあるんだよ」

このセリフが入ったシーンは、映画が終わった後でも意識下に刷り込まれるように、冒頭とラストで2度繰り返されます。

この映画で印象的だった「快晴の空」は、明らかに「希望」のメタファーですよね。ブラック企業で傷つき、疲弊し、目の前の暗い現実しか見えなくなってしまった隆は、仕事の合間に空を眺める余裕すらなくなってしまうのですが、どんな時でも「空」=『希望」はいつでも目の前に広がっていたのですよね。

少し視点を変えれば、いつでも希望はそこにあるんだ、だから落ち込んだときほど目の前に広がっている希望を見ろ!と、この映画からそんな強いメッセージを受け取ったような気がしました。

影のMVPは吉田鋼太郎扮する鬼部長か?!

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この映画で出てくる吉田鋼太郎扮する山上部長は、まさにレジェンド級のブラック上司でした。いびるターゲットを決めると、必要以上に大きな声を出して全身でいびり倒すトラウマ級の圧倒的なパワハラは、ブラック企業の恐ろしさを体現した見事な怪演でした。

ちなみに、山上部長は、高卒叩き上げで自衛隊に入隊し、結婚を機に除隊してサラリーマンになったという裏設定があります。自衛隊内で徹底的に愛情を持ってしごかれたため、彼の中ではあくまで「部下を育てている」という意識なのでしょう。(それがまたホラーなのですが・・・)

こんな上司の下だったら僕なら速攻で心折れそうですが、FilmarksとかYahoo映画のコメントを見ていると、結構このクラスは「ザラにいる」というコメントもちらほら。日本企業恐るべし・・・。

真面目な人ほどハマりやすいブラック企業の罠

本作では大切なことはわかりやすく「セリフ」で表現されています。端正な映画では、セリフで過剰に語りすぎるのは下品だとされますが、本作に限っては、大切なことはセリフで表現されたのがかえって良かったかなと思います。

なぜなら、それくらい強く打ち出さないと、本当にこの映画を見なければならない、ブラック企業で耐えて頑張っている生真面目な人たちには届かないでしょうから・・・。

「人生はお前を大切に思ってくれてる人のためにある」
「隆にとって、会社辞めることと、死ぬことはどっちのほうが簡単なわけ?」

僕は、前職で人事もやっていました。10年ちょっとやらせてもらった中で、印象的だったのは、生真面目でいい人ほどつらさを我慢してしまうこと。僕の担当ではなかったですが、結果として自殺した人も複数見てきましたし、鬱症状になる人は何十人も見てきました。

だから、病気になる前にさっさと逃げなきゃダメなんです。映画中でヤマモトがサッカーの話で例えて言ったように、仕事の成果は、能力だけでなく人間関係の「相性」に左右されることが非常に多いのです。ある会社、あるプロジェクトでダメでも、別の会社やプロジェクトに行けばエース格になれたケースなんていくらでもあります。

だから、生真面目な人ほど、この映画のタイトルのように、「ちょっと今から仕事やめてくるわ~」と、カジュアルに考えるくらいでちょうどいいのかもしれません。

5.その他伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

隆の所属したブラック企業の恐るべき「社訓」

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(Twitterより)

隆の務めていた印刷会社は、ブラック企業のエッセンスを凝縮したようなある種のおかしさがありましたが、映画で一番面白かったのは、壁にかかっていた社訓です。そして、それを真面目に唱和していたバカバカしさ。思わず笑ってしまうブラックユーモアでした。で、これは、広告の鬼と言われた電通中興の祖、吉田秀雄が作った「電通鬼十則」を明らかにパロってますよね(笑)

割りとまともそうな項目もありますが、明らかにおかしなものも半分くらい含まれていますね(笑)「有給なんていらない。体がなまるから。」「折れる心が無ければ耐えられる」って、説明会で壁にかかっているのを見た瞬間に入社志望者が全員逃げるレベルです(笑) 

原作との主な相違点

本作は、中盤までは原作に非常に忠実な作りになっていますが、終盤に入って完全に映画オリジナルのストーリーへと枝分かれしていきました。原作には原作の良さがあると思いますが、主な相違点を簡単にまとめておきたいと思います。

★原作と映画の主な相違点

・原作では五十嵐先輩は男性である。
・原作では、純が死亡した年齢は22歳。(映画では20歳)
・部長に退職を告げる時、原作では激しく戦っている。有給を要求したり、部長に「うるせーよ!」と怒鳴り返したりする。
・原作では、優には両親がいる。優は親元を離れて一人暮らしをしている。
・原作ラストで、優はフリーランスの臨床心理士になっている。2年振りに隆が臨床心理士の見習いとして優の勤務先に配属されてくる。

今回の映画化にあたり、1点だけ惜しかったなと思った点は、部長に退職を申し出る時、原作のような対決姿勢じゃなかったことです。部長から「懲戒解雇だ!」と言われたのに「それでもいいです」とアッサリ受け入れたのは頂けなかった!(笑)そこは、「出るトコ出ましょうか?今日このまま労基行ってもいいんですよ?!タイムカードも記録取ってるし、今の会話も録音させていただいています」くらいの戦う姿勢が欲しかった!!

6.まとめ

恐らく、この映画を一番見なきゃいけない人たちほど、映画館に立ち寄っている暇などないとは思います。「だからこそ、まず助けなきゃいけない人たちの周辺にいる人にまず見て欲しい!」と成島監督がインタビューで答えていましたが、本当にその通り。働く全ての人にとって、見て損のない、非常に意味のある映画だと思います。

是非、映画館でチェックしてみてくださいね。

それではまた。
かるび

 

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年5月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作ライトノベル「ちょっと今から仕事やめてくる」

これまで60万部を売り上げた大ベストセラー。いかに会社や仕事を辞めたい人が多いかよくわかります。僕も、たまたま去年仕事をやめようと決断する直前にこの本と出会い、少し背中を押してもらいました。ライトノベルのような軽くて柔らかい文体ながら、描かれるストーリーは非常に共感できます。映画が気に入った人はこちらもオススメ!また、本作については、別途半年前に書評も書いていますので、もしよければ覗いてみてくださいね! 

コミカライズ版「ちょっと今から仕事やめてくる」

原作小説を忠実にマンガ化したコミカライズ。マンガのほうがしっくり来る人は、これを読むのでもOKだと思います。ポイントを押さえた堅実な出来でした。映画、小説と見た後に買ってみましたが、様々なメディアで別の角度から物語を見てみると、より立体的に把握できるようになりますね。

映画「何者」

「ちょっと今から仕事やめてくる」は、入社半年でブラック企業からの退職を決意するストーリーですが、こちらは就職活動中の大学生を描いた群像劇。キャリアについて悩んでいる人や就活中の若い人は、こちらも物凄くおすすめです!

ちなみに、昨年僕もレビューを書きました。もしよければこちらもご覧くださいね。

成島出監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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どの作品にもハズレがない成島出監督作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。

現在、僕はU-NEXT、Hulu、AmazonPrimeとオンデマンドサービスに3社加入しているのですが、成島出監督作品はU-NEXT代表的な7作品中、6作品を「見放題」でチェックすることが出来ます。

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