あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】映画「3月のライオン(前編)」感想とあらすじ・伏線の徹底解説/原作よりシリアス路線な意欲作!

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【2017年4月28日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

3月18日にリリースされた人気マンガ原作の実写大作映画「3月のライオン前編」を見てきました。原作の持つシリアスな面に焦点を当てて、人間ドラマにガッツリ取り組んだ意欲作でした。早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。

なお、本エントリは映画「前編」のレビューとなります。「後編」のレビューは、こちらをご参照ください。 

※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「3月のライオン(前編)」の基本情報

<映画「3月のライオン」公式予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】大友啓史(「るろうに剣心」他)
【配給】アスミック・エース
【時間】139分
【原作】羽海野チカ「3月のライオン」

刊行済みの原作マンガ「3月のライオン」12巻のうち、時系列を入れ替えて大半のエピソードを網羅しつつ、原作マンガで当初想定していた結末までを扱う意欲作。そのため、前後編とも120分オーバーと大盛りの内容となりました。前編では主に主役、桐山零を中心とした棋士をめぐる群像劇、後編では3姉妹との人間ドラマが描かれます。

2.主要登場人物とキャスト

マンガ原作で出てくる主要キャラクターは、豪華キャストを迎えてほぼ全員出演となりました。原作では一人ひとり丹念に人物像を掘り下げてゆっくり進んでいきますが、映画ではどうしても時間の問題から、サブキャラクラスはもう誰が誰なのか説明すら無いような状態。

最近だと映画「相棒」でとにかく次から次へとTVシリーズのキーマンが出てきて頭がクラクラしましたが、この3月のライオンでもそんな感覚になります。できれば、映画に行くまでに人物相関図などを少しでも見ておくと良いでしょう。

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(引用:http://www.3lion-movie.com/chart/

桐山零(東出昌大)
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原作者羽海野チカ、大友啓史監督ら、製作者サイド全てから、主演は神木隆之介しかいない!と一致してオファーが出た逸話があるほど、今作での桐山零にぴったりフィットしています。神木自身も、出演が決まる前に「3月のライオン」原作を愛読していたそうですし、インタビューでも、零の雰囲気が普段一人でいる時の「素の自分」に通じるところがあると言うあたり、自他共に認めるぴったりの配役となりました。

川本あかり(倉科カナ)
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つい最近までグラビア女優の人だと思ってました(笑)でも、家庭的で母性あふれる日常生活での姿と夜の仕事で大人な雰囲気に変身する二面性を持つあかり役は、なかなか適役なんじゃないかと思いました。過去にグラビアアイドルをやっていたキャリアが見事に生きています。安心してみていられる好演でした。

川本ひなた(清原果耶)
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早熟でこれまでもリハウスのCMやNHK系の大作ドラマに重点的に起用されるなど、同年代の女優の中では実績を積んでいるので、演技的には問題ありません。ひとつ気になるのは、まだ中3なのにお姉さんより体格的にすでに一回り大きいという点(笑)モデル体型ですね。後編では、極めて重要な役どころになってきそうなので引き続き楽しみです。

川本モモ(新津ちせ)
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「君の名は。」で大ブレイクした新海誠監督の娘さんだそうです。イメージ的にはぴったりの天真爛漫な演技は良かったと思います。

桐山香子(有村架純)
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正直俳優の持っているイメージ感と全く違う配役だったので、「意欲的だなぁ」と思いましたが、決してミスキャストという感じはありませんでした。演技も熱演で良いと思います。ただ、もっと後藤9段からぞんざいな扱いを受ける原作と違い、割と大切に扱われていたし、川本三姉妹の出番を凌ぐほど出演シーンが多いのは、事務所サイドの意向なのかな・・・?

二海堂春信(染谷将太)
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特殊メイクで体格と顔つきを頑張って原作のイメージに極力近づけたのは良かったし、し、闘志を前面に出す熱いキャラクターは好演でした。ただ、1点残念だったのは「手」が普通の人のそれだったこと。将棋シーンは駒を持つ時「手」が一番映り込むので、そこで普通の「手」を見せられると少し醒めちゃうのですよね・・・。

島田開(佐々木蔵之介)
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原作のキャラクター像に激似のベストチョイスだなと思っていたら、実際に羽海野チカが原作マンガでのキャラ設定をする際、佐々木蔵之介をモデルとして作り込んでいったとのこと。そりゃ似てますわ(笑)将棋対局で勝った後に燃え尽きたシーンや、線が細くいつも胃が痛そうな演技はものすごくしっくり来ました。

後藤正宗(伊藤英明)
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最近ではすっかりマッチョな役回りばかり回ってくるようになった伊藤英明ですが、今作でも重厚感溢れるどっしり構えた対局風景は、後藤九段のイメージに近いものを感じました。

宗谷冬司(加瀬亮)
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孤高の名人として、近寄りがたい神秘的な雰囲気を醸し出す演技はなかなか良かったです。若い時の谷川浩司九段に雰囲気が近い感じでした。

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3.結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.桐山零、川本三姉妹と出会う(高2の春)

桐山零にとって、幼少時の交通事故はその後の彼の運命を大きく変えた出来事だった。彼以外の家族、父、母、妹が突然他界し、葬儀の場では誰が零を引き取るのか押し付けあいになっていた。そうした親戚の空気を察し、零は、生きるために父の親友だった幸田の内弟子として将棋指しを目指すことになったのだった。

現在、桐山零は17歳。中学を卒業後、一旦は進学せずにプロの将棋指しを目指したのだが、結局1年遅れで高校に入学することを決意したのだった。東京は月島の六月町のマンションに現在一人暮らしの零は、毎日学校と将棋会館と自宅を往復する質素な生活を送っていた。

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その日、零がいつものように将棋会館に向かうと、特別対局室では宗谷名人VS後藤九段の対局が行われるため、いつもより館内はざわついていた。その裏で、零は本日獅子王戦の予選で、育ての父、幸田柾近との因縁の対局を迎えていたのだった。

突然家を出て一人暮らしを始めてから、義父とは口を聞いていなかった。対局室に現れた父から言葉を欠けられたが、零は目さえ合わせない。そして、対極は零の完勝に終わった。そして、その日の名人戦は、宗谷名人が勝利した。

将棋対局がない日、零は一日中自宅で将棋の研究に明け暮れる。そして、学校でも友人が一人もいないので、休み時間は一人寂しく詰将棋の本を読み明かす毎日だった。しかし、その日の昼休み、いつものように一人で昼飯を食べようとする零に、担任の林田が声をかけてくれ、一緒に昼食を共にした。

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別の日、零は獅子王戦での松本5段との対局に勝利すると、その日松本と三角らと夜遅くまで飲みに行き、自宅近くの前で泥酔して酔いつぶれてしまった。そして、その日の夜、川本家の長女、あかりに拾われ、介抱されたのだった。その日が、川本家の3姉妹との初めての出会いだった。

翌日、目を覚めると、零は川本家にいた。翌朝の3女のモモを保育園に送るあかり、中学の朝練へ出かけるひなたとろくに挨拶をするヒマもなく、慌ただしく川本家のカギを閉めて高校へと登校した零だった。

すると、学校には零のライバル、二海堂春信が拡声器を持って零を探していた。慌てた零は、二海堂と霊の自宅でしばらく研究をしたが、零は川本家の家のカギを返し忘れていたことに気づき、慌てて川本家へと向かった。零はそのまま川本家で夕食を共にして、川本家のあたたかさに少しずつ癒やされるのだった。

3-2.川本家との交流で自分を徐々に取り戻す零(高2夏~冬)

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そして夏になった。ちょうどお盆の次期、零は再び川本家での夕食に呼ばれ、その日は一緒に送り火を焚いた。家族の前では気丈に振る舞うひなただったが、一人になって号泣した。

別の日の対局後、松本5段を下した零は、松本に奢れ!と迫られ、三角、松本とあかりの務めるバー「美咲」へ繰り出した。自宅での質素で家庭的な普段のあかりとはあまりに対照的な姿に驚いた零だったが、同僚の棋士たちは大いに気に入り、この日以来「美咲」は棋士たちの行きつけとなった。

その日、零が自宅へ帰ると、義姉の幸田香子が自宅のマンションへ来ていた。香子が父の方針で奨励会を退会させられ、香子が自宅を出ていこうとした日、責任を感じた零は代わりに幸田家を出てきたのだが、香子とはそれ以来の再会だった。

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香子は、妻子のいる後藤九段と不倫関係を続けていたが、零は後藤に良い感情を持っていなかった。香子は、それでも後藤と別れるつもりはないという。そして、香子はその日終電がなくなり、そのまま零の自宅に宿泊した。

12月24日は、安井6段との対局があった。離婚が決まり、零との対局後、勝てば娘と最後の一日を過ごす予定だった安井だったが、無気力な差し回しで零にアッサリ負けてしまう。そして、娘のクリスマスプレゼントを対局場へ置き忘れたまま、ヤケ酒をあおりながら将棋会館を後にした。プレゼントを持って安井を追った零だったが、安井は対局に負けたのでもう娘とは会わないという。

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好意を無にされ、不条理な怒りを向けられた零は、一人絶叫して絶望的な気分になったが、そんな日でも結局零には将棋しかなかった。自宅に帰り、過去に幸田家で受けた辛い出来事が頭に蘇ったが、それでも将棋と向かい続ける零だった。

辛い出来事も重なり、零は年末に高熱を出して倒れてしまった。心配したあかり達が零の自宅へ来て、零を川本家へ連れていって看病してくれた。

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正月も、零は川本家でおせちを頂き、川本家のメンバーと初詣に出かけた。初詣の神社で、ばったり後藤と香子に出くわした零は、香子と不倫を続ける後藤にくってかかった。後藤は、零を殴り倒すと、川本家のメンバーが心配する中、零は一人自宅へ帰宅した。

それ以来、零は順調に行けば獅子王戦の決勝で当たる予定となっていた後藤の棋譜を集め猛烈に研究を始めた。そして、対後藤戦で勝てば香子に不倫関係を止めと約束させた。しかし、零はその前の準決勝で島田八段との対決で思わぬ苦戦を強いられ、良いところなく敗北した。

島田八段の老獪な差し回しにA級棋士の厳しさ・実力を知った零は、その日、島田の主催する研究会に入れて欲しいと懇願した。

自宅に帰ると、再び香子が泊まりに来た。将棋を奪われ、父親との関係も悪化したままだった香子もまた、心に大きな傷を抱えたまま毎日を過ごしていた。翌日朝、最寄り駅まで香子を送り出した零は、香子との「他人以上、兄弟以下」の特殊な関係に、複雑な気持ちだった。

3-3.新人王戦での優勝と、獅子王戦での宗谷名人との邂逅

島田との戦いに破れ、今期の獅子王戦は終戦となった零だったが、新人王戦は順調に勝ち進んでいた。ブロックは別だったが、二海堂もまた、勝ち進んでいた。順当に行けば、決勝で二海堂と当たる予定だった。

獅子王戦の決勝は、島田八段VS後藤九段となった。零も駆けつける中、深夜になるまで将棋会館で戦われたが、かろうじて島田が戦いに勝利して、宗谷名人への挑戦権を獲得したのだった。

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その後、新人王戦の決勝までコマを進めた零だったが、二海堂は準決勝で山崎順慶5段に敗北していた。体調不良の中、1局目を長手数の中千日手に持ち込まれ、2局目を秒読みでの対決となる中、倒れて不戦敗となったのだった。

そして、新人王戦の決勝戦。敵の体調不良を利用して、わざと長手数での千日手指し直しへと誘導した山崎の意図を知り、怒りの感情の向くまま強引に指しそうになった零だったが、二海堂や島田から受けたアドバイスを思い出し、冷静に差し回して勝ち切り、無事に新人王のタイトルを取ることができた。

対局後、零は獅子王戦の島田八段VS宗谷名人の第1戦で、初めて大盤解説を担当することになった。島田が敗色濃厚となり、皆が宗谷勝勢であると判断した中、零は一人島田の起死回生の一手を「7九角」を見つけ出し、島田のいる対局場へ向かったが、島田はすでに投了した後だった。

対局室を出て行く宗谷名人と少し目があった零は、いつの日か宗谷との対決できる日に思いを馳せるのだった。(以下後編へ続く)

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.「3月のライオン」のシリアスな面に真正面から取り組んだ意欲作!

劇場で本作を見終わった直後の感想としては、「重たっ!」という複雑な気持ちでした。コメディ的な場面とシリアスなシーンが交互に描かれるマンガ原作やアニメとは違い、とにかく139分間、ひたすら主人公の桐山零が将棋や日常生活で悩み抜く日々を真正面からガッツリ描いた作品。

毎週金曜日、小1の息子と夕飯を食べながらTVアニメを見ていたので、息子から実写映画も見に行きたいとせがまれていたのですが、ちょっと連れていくのをためらうレベルです(笑)

ただ、個人的にはこうしたシリアス路線は嫌いではありません。メディアミックスで先行するアニメ編では、マンガ原作の世界観や雰囲気を忠実にトレースして作られているため、後発の実写映画では少しテイストを変えて正解でしょう。この意外なまでに重厚な作りは「差別化」という意味では良い判断だったと思います。

4-2.主人公、桐山零が人の温かさに触れて、成長していく前編

映画前編では、過去の回想シーンを幾つか挟みながら、零がこれまでの半生の中で罪悪感と孤独感の中心を閉ざしてきた経緯がまず描かれます。そして、一人暮らしを始めた零が、川本三姉妹や二海堂たちと交流を重ねながら、少しずつ自分自身の居場所を見つけようともがき、精神的に成長していく姿を、原作の名シーンを網羅しつつ真正面から描き出そうとしていました。

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特に、最初にあかりに拾われ、三姉妹の家で温かい夕飯を頂き、心が満たされて家路に就くシーンでの神木隆之介の表情や、自暴自棄になった安井6段との試合後、不条理なキレ方をされた零が「将棋しかねぇんだよぉ~」と原作の名シーンで絶叫する場面は絶妙の味わいがありました。天才子役として、早くからプロの世界(=芸能界)で生き抜いてきたという点で、零と共通項を持つ神木隆之介ならではの絶妙の演技には舌を巻きました。上手い!

4-3.将棋対局シーンや棋士たちの描き方も重厚で素晴らしかった

前後編での公開だから、きっとシリアスな将棋対局シーンは後編だろうと事前に予想していたのですが、意外にも前編に対局シーンが沢山詰め込まれていました。零の対局シーンだけでなく、島田八段や後藤九段、宗谷名人など零以外の個性豊かなサブキャラが盤上で戦うシーンにもかなりの時間が割かれます。

「3月のライオン」で描かれる棋士は、全員がどこか心身のどこかに問題を抱えているのが特徴です。パーフェクトには程遠く、皆不完全な存在なのです。心に深い闇のような孤独を抱える主人公、桐山零を始め、故郷の期待と重圧で胃痛が収まらない島田八段、半身不随の病気の妻を抱え、一方で不倫をやめられない後藤九段、腎臓に思い先天的な病気を抱える二海堂などはもちろん、神がかった強さを発揮する宗谷名人ですら、難聴というハンデを負っているのです。

そんな「不完全」なキャラクター達が、その一局一局に「お金」や「名誉」がかかる真剣な将棋対決を通して、それぞれ生きるために必死な姿が「シリアスに」描かれたのは、非常に良かったと思います。将棋がわからない人にも、彼らが必死で戦う姿から伝わるものがあったのではないでしょうか?

4-4.やや詰め込みすぎて、川本三姉妹との交流シーンが薄くなった

後編でたっぷり描かれるので、敢えて出番が抑えられたのかもしれませんが、他のエピソードとの兼ね合いで、ストーリー前半で零の精神的成長の「触媒」となる川本三姉妹との交流の描き方がやや雑だったのは少し残念でした。

反面、幸田家での回想シーンや香子や後藤との交流場面が少し多すぎた印象です。例えば、年末に風邪で倒れて川本家の世話になり、そのまま出かけた初詣で後藤に絡んで殴られるシーンは映画オリジナルの場面でしたが、ここでは川本家との心温まる交流をじっくり描きこんだほうが、映画後半で心が定まってきた零の成長をスムーズに表現出来たのではないでしょうか。

エピソードをニコイチに凝縮したり、時系列を入れ替えたりして、短時間の間にかなり巧みにマンガ原作のエピソードを網羅していました。でも、やっぱりマンガ原作モノの宿命なのか、本作でも描きこみの足りないシーンはどうしても出てきていました。ほぼ男性社会での人間関係を映し出す将棋界での描写が続く中、バランスを取るためにも、三姉妹(=女性たち)との交流シーンをもう少し描いてほしかったです。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.獅子王戦や新人戦の実際のモデルはあるの?

本作で桐山零が戦った棋戦は、「獅子王戦」と「新人戦」です。それぞれ、モデルとなった実際の棋戦としては、獅子王戦=竜王戦、新人戦=新人王戦となるかと思います。

獅子王戦のモデルとなった「竜王戦」は、読売新聞社の主催する棋戦で、日本将棋連盟では、「名人戦」とともに2大タイトルと呼ばれます。プロ棋士全棋士で争われ、1組~6組までのトーナメント戦で決勝トーナメント進出者を選び、さらにその中から「竜王」タイトル保持者への挑戦者を一人選びます。

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なぜ竜王戦に棋士たちがそれほど特別な思い入れがあるかというと、ズバリ「ギャラの高さ」です(笑)全棋戦の中でもNo.1の対局料が設定されているのです。1局勝てば50万円以上の対局料が収入として得られるため、各棋士は名誉と生活をかけて特にこの「竜王戦」で力を入れて戦うのでます。

一方、新人戦のモデルとなった「新人王戦」は、26歳未満で、6段以下の若手棋士によってトーナメント形式で争われる年1回の棋戦です。プロになる前の「三段リーグ」成績上位者も混じって戦われるのが特徴。羽生三冠や、佐藤名人、渡辺竜王など、現在最前線で活躍している棋士たちは、過去に新人王戦での優勝経験者が多いです。

5-2.A級棋士ってどんな存在なの?

映画中、後藤9段が零に「おい、A級ナメてんじゃねえぞ!」と凄んでいましたが、将棋界でのA級棋士というのは実際にすごい人達なのです。

将棋界で一番重要な棋戦「順位戦」では、プロ棋士はそれぞれAクラスからC2クラスまでの5クラスに分かれて所属し、リーグ戦形式で勝敗を競います。毎年順位戦終了時に各クラスの成績上位者数名が「昇級」し、下位者が「降級」する仕組みです。

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(引用:http://www.asahi.com/shougi/meijin/66/michi05.html

Aクラスに所属する10名だけが、名人への挑戦権を持ちます。Aクラスで戦われたリーグ戦で、成績最上位者が「名人」への挑戦権を得ることができます。プロ棋士約160名中、たった10名の選ばれし強豪が、「A級棋士」と言われ、他の棋士達から一目置かれる存在として扱われるのです。

ちなみに、映画前編終了時での各棋士の所属クラスは、以下のとおりです。

松本一砂・・・C2
桐山零・・・C1
二海堂春信・・・C1
安井学・・・C1
三角龍雪・・・B2
幸田柾近・・・B2
後藤正宗・・・A
柳原朔太郎・・・A
島田開・・・A
宗谷冬司・・・名人(A)

5-3.各棋士のモデルはどうなっているの?

今回の映画に出演している各棋士たちは、実在する棋士にそれぞれモデルを採っているケースが多いです。現在、モデルがはっきりしている作中の棋士達を紹介したいと思います。

◯桐山零
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(羽生3冠近影/Wikipediaより引用)

モデルは羽生善治三冠。中学生で棋士デビューし、高校生活では単位取得に苦労した点や、メガネで無頓着な外見、オールラウンダーな棋風などは、羽生善治三冠に一番近いと思われます。

◯島田開
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(島朗9段/日本将棋連盟HPより引用)

島朗9段が島田のモデルと言われています。名前の感じが似ていること、当時、羽生・森内・佐藤康光ら、超優秀なメンバーが揃っていた伝説の研究会「島研」を主催し、優秀な後進棋士達と積極的に交流した点、敗勢になった時の投げっぷりの良さなど、共通点が多数ありますね。

◯宗谷冬司名人
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(谷川浩司9段/日本将棋連盟HPより引用)

宗谷冬司名人は、谷川浩司九段と羽生善治三冠の合成だと言われています。作品中、神秘的で他を寄せつけないオーラを放つ宗谷名人ですが、モデルとなった両者とも神童と言われ、将棋界で孤高の存在として圧倒的な存在感を保った時期がありました

◯二海堂春信
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故・村山聖9段
(引用:http://makige39.hatenablog.com/entry/2016/06/22/185853より)

→故・村山聖九段がモデルと言われます。先天的な腎臓の病気「ネフローゼ」の症状によりぽっちゃり体型であること、常に病気がちで体力面に不安を抱えながらの棋士生活だったことから、すぐにわかります。2016年秋に上映された映画「聖の青春」でも主役として取り上げられましたね。 

5-4.実写映画で削られた登場人物やエピソード

極力大盛りでマンガ原作の登場人物を網羅した本作でしたが、時間的な制約からいくつか登場人物達やエピソードは省略されました。(※ひょっとしたら後編で出てくるのかもしれません)たとえば、以下のキャラクターやエピソードです。

◯野球少年の高橋君との交流

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→原作では、ひなたの初恋の相手、高橋君と零は、ひなたを通して交流するようになります。中学卒業とともに、高橋君は四国の甲子園強豪校へ旅立ちますが、実写化にあたり、まるごと削除されているようです。

◯松永七段との対局シーン

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→「零との対決に負けたら引退する」と決意した松永七段と零が公式戦で戦い、長い感想戦を通して交流するエピソードがありましたが、全部カットされています。

◯川本家のネコたち
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→マンガ原作やアニメでは、「和ませる」シーンを演出するために定期的に、時には擬人化されてコミカルに出演してきましたが、実写ではさすがに少し表現が難しいのか、全てカットされました。

◯放課後理科クラブの野口たちとの交流

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→林田先生の取り計らいで、零が唯一高校で交流を持った部活のメンバー達で、ストーリー中でコメディ要素として頻繁に登場します。部長の野口は、野口英世そっくりのトボけたキャラが最高でした。原作では、高校卒業後もちょくちょく野口が便利屋的に活躍します。

5-5.後編のみどころ予想(ストーリーの予想)

早くも4月22日には後編が封切となりますが、予告編と、前編エンドロール後に紹介されたティザー予告から、後編ではこんなエピソードが含まれていそうです。

ひなたへのいじめ問題
・零、京都に修学旅行に来ていたひなたと再会するシーン
実父(通称「捨男」)との攻防
・零のひなたへのプロポーズ
零と宗谷のタイトル戦での対決シーン(ラストシーンか?)
・香子、後藤の関係について

また、後編では現在マンガで進行中のストーリーの「先」まで扱い、当初羽海野チカが想定していた結末を描いているようです。映画パンフレットにも、羽海野チカのこんな談話が掲載されています。

このあと公開される後編では、あらかじめ作っていた最終回までの話を大友監督にお伝えしました。原作で当初予定していた結末が映画では描かれます。

プロ棋士として零はどこまで成長するのか?、宗谷名人を超えることはできるのか?また、零とひなたの関係はどうなるのか?後編での描写に目が離せませんね!

6.まとめ

映画「3月のライオン」はマンガ原作、TVアニメとは少し作風も変わり、実写ならではのシリアスなシーンが見どころの重厚なヒューマンドラマに仕上がりました。雰囲気は違えど、羽海野チカが描き出した世界観のエッセンスはしっかりと受け継がれている作品です。後半のオリジナル展開が非常に今から待ち遠しいです!

それではまた。
かるび

※レビューは「後編」へと続きます。もしよろしければ、下記もご覧ください。 

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作マンガ「3月のライオン」

今作を見て、まだマンガ原作を未読の方は、是非後編に向けて予習をしておくと良いと思います!コメディ要素とシリアス要素が絶妙にMIXされた羽海野チカの独特の作風はいちどはまると病みつきになります。特に、映画後編の話の核になりそうな「ひなたいじめ編」「捨男編」までの展開(7巻~11巻)は必見!是非、これを機に試してみてください!【Kindleで一気読みはこちら!

別冊クイック・ジャパン 3月のライオンと羽海野チカの世界

マンガ原作、アニメ、実写映画を含め、これまで発表された「3月のライオン」関連の全てのコンテンツを振り返る意欲的な総特集。原作者羽海野チカをはじめ、実写映画監督の大友啓史、TVアニメ監督の新房昭之、監修した先崎学9段、神木隆之介らへの豪華インタビュー他、極めつけに羽生三冠へのインタビューまであります!!

また、「3月のライオン」だけでなく、デビュー作「ハチミツとクローバー」の回顧特集までついています。過去に出版されたどの「3月のライオン」特集本よりも素晴らしかったムック本でした。超おすすめ!

アニメ版「3月のライオン」動画配信はHuluで!

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2016年10月~2017年3月に渡ってNHKで放送されたアニメ版「3月のライオン」(第1話~第23話)が現在Huluで見放題となっています!

原作漫画で描かれる零の心象風景や個性的な棋士達が命を削って戦うシリアスなシーンから、川本3姉妹とにゃんこたちも絡んだコミカルなシーンまで、原作の世界観を忠実に再現したハイクオリティなアニメは、絶対見て損はありません!

加入後2週間はトライアル期間で「無料」、その後も月額933円(税抜)とかなりの低額で海外ドラマや見逃し配信など、膨大な作品が楽しめます。このGW中、無料期間を活用して全23話見てしまうことも可能です!是非検討してみてくださいね。

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