あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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「猪熊弦一郎展 猫たち」は猫好き必見の美術展!Bunkamura ザ・ミュージアムで絶賛開催中!【展覧会感想・解説・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

猪熊弦一郎って知ってますか?昭和~平成の入り口にかけて名を馳せた、個性派の洋画家です。故郷・丸亀市の駅前には、彼の名前を冠した「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」という立派な美術館もあるほど、昭和の画壇において、個性が際立った作家の一人でした。

猪熊弦一郎は、名前こそ「いのしし」「くま」と勇ましい感じですが、生前は無類の猫好きとして知られました。彼は、純粋な抽象画、戦争画など、様々な引き出しを持つ画家ですが、現在、Bunkamura ザ・ミュージアムにて、猪熊が生涯に渡って好んで描き続けた「猫」に着目した企画展が開催中です。

現代アートファンだけでなく、「猫好き」なら誰でも楽しめる、まさにBunkamura ザ・ミュージアムらしい好企画です。早速ですが、簡単に感想や見どころをまとめてみました。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.「猪熊弦一郎展 猫たち」とは

猪熊弦一郎ってどんな作家だったの?

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猪熊弦一郎(1902-1993) 撮影:高橋章

猪熊弦一郎(1902-1993)は、昭和~平成の入り口にかけて個性派の洋画家として様々な作品群を残した画家です。学生時代、故郷の丸亀を離れて東京へ移住すると、東京美術学校で洋画家の巨匠・藤島武二から学び、1938年、パリへ移住。移住先ではアンリ・マティスに学び、藤田嗣治とも親交を結びます。第二次大戦中は従軍画家として合計3回、戦争の最前線へと送り出されました。(※ちなみに、従軍画家として描いた戦争画の大傑作が、現在東京国立近代美術館のMOMATコレクション展で紹介されています)

▼第二次大戦中は従軍画家だった猪熊弦一郎f:id:hisatsugu79:20180326175617j:plain
参考:猪熊弦一郎「○○方面鉄道建設」 1944年 油彩・キャンバス 東京国立近代美術館無期限貸与

戦争が終わると、猪熊は1955年になって再びパリへ向かいます。しかし、その道中、ふらっと立ち寄ったニューヨークに魅せられてそのまま移住。そこから約20年間はニューヨークにアトリエを構えました。そして、帰国後は今度は東京とハワイの二拠点居住にて制作を継続しました。

画家としての知名度・名声も現役の頃からかなりのもので、1978年には日経新聞で「私の履歴書」が掲載され、一流文化人として認められていたことがよくわかります。また、最晩年の1991年には、故郷・丸亀市に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館も設立されました。(建物は、世界的に有名な谷口吉生が設計)

こうして猪熊弦一郎の一生を簡単に振り返って見て、東京・パリ・ニューヨークで活動した実績から、巨匠らしいスケール感の大きさを感じますね。

今回の展覧会「猪熊弦一郎展 猫たち」の内容とは?

猪熊弦一郎の展覧会は、タイトルの付け方が統一されているのが特徴です。どの展覧会を見ても、「猪熊弦一郎展 ◯◯◯」と名付けられ、このサブタイトル部分の「◯◯◯」で、展覧会のテーマを表現するのです。

これまで開催された、猪熊弦一郎の展覧会名をざっくり見てみると・・・

「猪熊弦一郎展 戦時下の画業」
「猪熊弦一郎展 私の履歴書」
「猪熊弦一郎展 『いのくまさん』」

など、非常に統一感がありますね。

そんな中、今回開催される展覧会は、

「猪熊弦一郎展 猫たち」

ということで、たくさんの猫に囲まれて生活を送っていた猪熊弦一郎が、生涯描き続けた様々な「猫」の絵画を大特集した企画展となりました。2015年、同タイトルにて丸亀の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で大人気を博した展覧会の構成をベースに、今回バージョンアップされてBunkamura ザ・ミュージアムで復活したのが、今回の展覧会なのです。

2.展覧会の5つのみどころ・感想

一言で言うと、「猫」です(笑)

猪熊はその長い画家のキャリアの中で、具象画~抽象画まで、様々なタイプの作品を残し、生涯に渡って試行錯誤を続けてきた画家でした。彼の作風の変遷に従って、本当に様々なタイプの「猫」が展覧会では次々に登場してきます。是非、猪熊弦一郎の描いた色々な愛すべき猫たちを味わってみて下さい。

みどころ1:大迫力の油彩画の中の猫

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個人的には、一番迫力があって、ほとばしる感じのエネルギーを感じるのが、ニューヨークへと渡った猪熊が具象画から抽象画へと移行していった移行期の時代の作品でした。特に、キュビスム的なデフォルメを加えて描かれた作品は、ピカソからの影響が大きく感じられ、非常に味わい深かったです。

みどころ2:カジュアルな作品群も味わい深い!

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猪熊弦一郎 題名不明 1987年 インク・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

猪熊弦一郎の作品は、大迫力の油彩画もあれば、一方で、ノートの切れ端に即興で描いたような感じの、タイトルもつけられていない作品まで様々なタイプがあります。ボールペンでさささっと描いた作品は、絵画といより、素朴なイラストやマンガのように見えました。こうしたほのぼのとした雰囲気の作品であっても、猪熊ならではの個性がしっかり伝わってきます。

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猪熊弦一郎 題名不明 1986年 インク・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

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猪熊弦一郎 題名不明 1987年頃 インク・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

みどころ3:奥さんと猫

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猪熊弦一郎の妻・文子 展覧会解説パネルより引用 

展覧会でほっこりさせられたのは、猪熊弦一郎が本当に妻・文子を生涯に渡って大事にしてきたところ。夫婦揃って猫好きで、猫と一緒に何度も作品内でモデルとして描かれているのを見ると、本当に仲が良かったのだなと思わされます。

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そして、泣けるのが猪熊が晩年に描いた作品です。彼が最愛の妻・文子に先立たれてから描いたいくつかの最晩年の作品からは、独特の物哀しさが伝わってきます。

作品の中では、奥さんの顔、ヌードなどが猫や動物達と一緒に升目状に配置されており、奥さんに先立たれた哀しみが伝わってくるようでした。きっと奥さんと過ごした数十年の思い出を振り返りながら、繰り返し描いたのでしょうね。

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みどころ4:すごく器用な猪熊弦一郎

展覧会で出品されている猪熊弦一郎が描いた「猫」の作品を時系列で見ていくと、様々な画家から影響を受けていることがわかるのですよね。すごく器用だなと思うと同時に、彼が自分自身の理想の作風に向けて、貪欲に試行錯誤を続けていたことがよくわかる展覧会でした。

たとえば、戦前に描かれたこの作品の中で出てくる人物の顔つきや描かれ方を見ていると、パリで親交のあった藤田嗣治の影響をどことなく感じるのですよね。

▼ちょっとフジタっぽい感じ?f:id:hisatsugu79:20180326114545j:plain

同じく、パリへの留学時代に心酔していたアンリ・マティスの影響が色濃く感じられる作品もいくつか展示されています。それでもちゃんと猫が画面内に配置されているのが猪熊流ですね。

▼マティスにも惚れ込んでいましたf:id:hisatsugu79:20180326114552j:plain

みどころ5:味わい深いキャプション

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今回、作品以外に注目したいのは、その味わい深いキャプションです。作品展示の要所要所で取り付けられたキャプションには、作品そのものの解説よりも、作品に纏わる猪熊のエピソードや猪熊自身の言葉が配置されているのが良かったです。

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あぁ、これはあれこれ評論するのではなく、「猪熊ワールドに浸って、絵を見て感じろ!」ということなんだなと解釈しました。難しいこと抜きで、猫の絵の前に立って色々自分の感じるままに味わってみて下さい。

3.撮影OK!猪熊弦一郎の「猫」が撮り放題のコーナーも!

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展示の最終コーナーには、写真撮影OKとなっているコーナーが設けられています。紙とインクで描かれた素朴な作品から晩年の作品まで、ブルー系のかわいめの作品が並んでいます。カメラを忘れずに持参して、SNSでガンガン紹介しちゃいましょう!

▼写真撮影がOKとなっているコーナーf:id:hisatsugu79:20180326170143j:plain

4.グッズコーナーは猫一色!猫グッズ買い放題!!

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Bunkamura ザ・ミュージアムのグッズコーナーは、毎回特設されるグッズコーナーと、常設のグッズコーナーと2つありますが、今回はどちらのコーナーもとにかく猫だらけ!展覧会オリジナルの猪熊弦一郎グッズはもちろん、それ以外にも猫に関するあらゆるグッズが集められています。

▼Tシャツやクリアファイル、iPhoneケースなど、定番のオリジナルグッズが多数用意されています!
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中でも面白かったのが、この砂時計。展覧会グッズとしては非常に珍しいです。

▼砂時計
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最愛の妻・文子とその頭の上に乗っかる猫が描かれたそばちょこ。おしゃれでお酒が進みそうです。

▼そば猪口
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▼Tシャツも多数あります!f:id:hisatsugu79:20180326112722j:plain

▼iPhoneケース
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そして、奥の方には常設のミュージアムショップもあるのですが、こちらも物凄い品揃えで、びっくりしました。

▼常設のミュージアムショップも見てみましょうf:id:hisatsugu79:20180326111835j:plain

進んでいくと、常設のグッズコーナーにも、所狭しと猫グッズがもの凄い密度で置かれていました!!

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特に、猫好きにとってはたまらないくらい、猫に関する書籍類が揃っていました。

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物凄い物量が用意されているので、猫好きな方は、是非お金をたくさん持って展覧会場へ行きましょう!目移りして困るくらい揃っています! 

5.混雑状況と所要時間目安

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総作品点数は約160点と大ボリュームな上、最後の写真撮り放題コーナーや、充実したグッズコーナーもあるため、所要時間に関しては多めに取っておきたいところです。落ち着いて見て回るなら、90分~120分はあったほうがいいでしょう。

会期が短く、「ネコ」という非常に普遍的なテーマでもあるため、春休み期間や土日は混雑しそうです。毎週金・土は夜21時までやっていますすので、夜間開館や朝イチを狙っていくと、比較的ゆっくり見れると思います。カメラもお忘れなく!

6.関連書籍・資料などの紹介

ミュージアムショップでは、猫好きにはたまらない物凄い種類の書籍が置かれているのですが、中でも、特に展覧会と関連が深い関連書籍を2つだけ紹介しておきますね。一般書籍なので、展覧会場でも置いてありますし、ネットでも買えます。

猪熊弦一郎のおもちゃ箱

猪熊弦一郎現代美術館の監修で、猪熊弦一郎に関する逸話を、ストーリーとイラスト(絵画作品)でつづった心温まる書籍。今回の展覧会の直前に出版された最新の書籍です。猪熊弦一郎の世界観がよく分かるエピソードが掲載されています。

ねこたち

公式図録が用意されていない今回の展覧会で、事実上の図録代わりとなる書籍です。展覧会場でも、一押しでフィーチャーされていました。

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展覧会に出品されている全ての作品を網羅しているわけではありませんが、猪熊弦一郎の代表的な作品がまんべんなく掲載されているので、「猫」の絵を中心に、彼の画業を振り返るにはちょうどぴったりの画集です。これはおすすめ! 

7.まとめ

この展覧会で描かれた猪熊弦一郎の猫は、見ているだけでも色々バリエーションがあって本当に味わい深かったです。猫を通して猪熊弦一郎の画風の変遷をじっくり確認するも良し、お気に入りの猫の絵の前でじっくり猫と語り合うも良し、色々な楽しみ方ができる展覧会です。

展示期間が結構短いので、会期を逃さずお出かけ下さい。Bunkamura ザ・ミュージアムらしい、いろんなお客さんが楽しめる展覧会でした。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
Bunkamura ザ・ミュージアム
〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
◯最寄り駅
・JR線/渋谷駅(ハチ公口)より徒歩7分
・東京メトロ・銀座線、京王・井の頭線/渋谷駅より徒歩7分
・東急・東横線・田園都市線、東京メトロ・半蔵門線、副都心線/渋谷駅(3a出口)より徒歩5分
◯会期・開館時間
2018年3月20日(火)~4月18日(水)
10時00分~18時00分(入館は閉館30分前まで)
※毎週金・土曜日は21時まで(入館は、20:30まで)
◯休館日
会期中無休
◯入館料(消費税込)
(当日)一般1300円/大学・高校生900円/中学・小学生600円
(団体)一般1100円/大学・高校生700円/中学・小学生400円
※団体は20名以上、事前の電話予約が必要(03-3477-9413)

※学生券の購入には学生証の提示が必要(小学生は除く)
※障害者手帳の提示で割引料金あり、詳細は窓口で要問合せ
◯公式HP
展覧会特設HP
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_inokuma/
◯Twitter
 https://twitter.com/Bunkamura_info