かるび(@karub_imalive)です。
僕の前職は、社長が一代で築き上げた成長企業でした。ITのシステム開発業で若い社員も多く、割とスキル重視の実力主義が徹底されていました。僕も、会社の成長期にお世話になったので、27歳でヒラ社員で入社して、5年後くらいには部長格の待遇にさせてもらえるなど、ベンチャー企業のエネルギーというか、ダイナミズムを感じながら仕事をさせてもらえたのでした。
その反面、中小企業でもあったので、上に上がれば上がるほど仕事は激務になっていきました。核家族共働きの中、子供が生まれ、加齢と共に体力が低下していくのに、会社の拡大に伴い、求められる仕事の成果や責任、勤務時間は増える一方で、少しずつ仕事へのモチベーションが下がっていきました。
最終的には、何年か我慢した後、その他の様々な要因もあって40歳で「退職」を選んだのですが、今思い返すと、もし「自主的に降格する」オプションが使えれば、会社に残ることもできたのかな?と考えています。
後述するように、公務員では「希望降格制度」が数年前から定着してきています。しかし、民間企業では、こういった「希望降格制度」を会社の就業規則やルールとして明確に定めているところはほぼ皆無です。。試しに、図書館に行って「日経テレコン」や「朝日新聞縮刷版」を過去30年以上チェックして事例を探してみましたが、それらしい記事すらひっかかりませんでした。
でも、ネットで普通に「降格したい」と調べると、山ほど事例が出てくるわけです。民間企業でもキャリアの途中で、管理職から「自主的に降格」するニーズってかなりあるんじゃない?と思い、その現状や可能性について調べてみました。
- 1.公務員で広がる「希望降格制度」
- 2.民間企業では、「降格」は会社都合しかない
- 3.強制的な「降格制度」がもたらす様々なデメリット
- 4.一方、自ら「降格」を希望する人たちもいる
- 5.希望降格制度による自主的な「降格」オプションは、「降格」への悪いイメージを払拭できるのでは?
- 7.まとめ
1.公務員で広がる「希望降格制度」
官公庁や教職には、自主的に降格を申し出ることができる制度「希望降格制度」(公務員)/「希望降任制度」(教職)が、正式に条例として設けられている自治体が多数あります。
文科省の統計データがあります。平成26年度の調査によると、教職員が希望降任制度を活用して実際に自主的に降格した事例は、全国合計で過去最大の281名になりました。
★希望後任制度の利用者全国統計(文科省/平成26年度)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/12/25/1365254_16.pdf
公務員での典型的な「希望降格」事例としては、「教頭/副校長→ヒラの教職員への降格」です。教頭/副校長は、校長の直下で、中間管理職として責任が重く、激務です。担任を受け持たずフリーな立場である教頭は、教職員のとりまとめだけでなく、PTA(モンスターペアレント含)対応や臨時の庶務・雑務のとりまとめなど、あらゆる多種多様な校務が集中しやすくなっており、平均残業時間も月間60Hオーバーと、ヒラの教職員より20H以上多いのです。これに耐えきれなくて「降格」を申し出るわけですね。
もっとも、公務員の場合は、制度としてパフォーマンスが悪いことを理由とする降格制度がないから、代わりに「希望降格制度」が発達してきた側面があるのかもしれませんね。
2.民間企業では、「降格」は会社都合しかない
公務員で制度として定着しつつある「希望降格制度」。これに対して、民間企業はどうなのでしょうか?調べてみたら、就業規則やルールとして取り組みを文書として明確化している企業はほぼ皆無でした。
その代わり、人事施策として実力主義を敷いている会社では、人事査定の一貫として、業務パフォーマンス上の能力不足や加齢(例:55歳役職定年など)によって、「強制的に」降格する制度を設けている企業は多数あります。
企業規模別・降格制度有無
(労政時報第3885号データよりグラフ作成)
「労政時報」第3885号(2015/3)の最新の調査によると、民間企業の59.8%で、会社のルールとして「降格制度」を設けているというデータがあります。規模別で見ると、1000人以上で72.1%と、大手企業が最も割合が高くなっていますね。
その降格要件としては、「一定期間における効果結果の累積」「単年度での業務成果・実績、目標達成等の著しい不振」のどちらかが大多数です。能力未達や業績不振の責任を取らせるための、あくまで会社が決める「降格」ですね。
自分たちで稼いで利益を上げなければ会社が立ち行かない民間企業にとって、能力に応じた柔軟な人材の配置は不可欠ですから、成果/実力主義による「抜擢人事」の裏には「降格人事」が行われるのは致し方ないことではあります。
しかし、これまでのところ、会社都合による「降格人事」は、会社運営上様々なデメリットももたらしています。
3.強制的な「降格制度」がもたらす様々なデメリット
70%以上の会社で、職能・実績に応じた「降格」制度が定着した今、降格人事は日常風景になりつつあります。
ただし、それが自分の身に降り掛かった時に、どうなるんでしょうか?
少し古い記事で恐縮ですが、2005年「日本の人事部」の記事によると、降格制度の最大の問題点は「降格者のモチベーションの低下」であります。さらにアンケート結果を精査すると、「降格者のモチベーションの低下が周囲にも悪影響を及ぼしている」こともわかります。
★降格制度のもたらす問題点
(引用:日本の人事部より)
実際、これは僕の前職でもよくありました。降格人事が行われると、本人に近い同僚や部署の雰囲気が沈み、全体的に社員のモチベーションが下がるという・・・
民間企業が現在導入している「降格制度」は、会社が与える「信賞必罰」の「罰」としての側面が強いから、能力不足に由来する懲戒的な色彩をどうしても帯びてしまうのです。(そして、判断を下した上司や役員は何とも思ってなくても、本人がダメージを受ける)
降格された人は、賃金の減少という物理的なダメージに加え、なによりつらいのは、職場での居場所のなさや、恥ずかしさといった精神的な負荷をずっと背負って仕事をしていかなければならないことです。それが、結果として「降格」された人へある種の諦念をもたらし、降格後の士気が戻らず、回りを巻き込んで部署全体のムードをお通夜にするのですね。
4.一方、自ら「降格」を希望する人たちもいる
ところで、その一方で、会社から言われるまでもなく、自ら「降格」を望む管理職は年々増えているのです。こちらのグラフを見て下さい。
上記グラフは、産業能率大学が定期的に民間企業の「課長職」に聴取している意識調査「最終的になりたい立場」の結果比較です。
グラフが見づらくて恐縮ですが、点線で囲っている部分が、アンケートに対して「プレーヤーの立場に戻りたい」と回答した人の割合です。第1回の調査では、9.6%でしたが、そのわずか5年後に、14.9%まで拡大しています。現場では、7人に1人強の割合で、「管理職はもういいや」って感じているんですよね。
調査結果に、なぜプレーヤーに戻りたいのか理由までは書かれていませんが、ネットで「降格したい」と調べると、山ほど出てくる悩み相談から、おおよその理由はすぐに推測できます。
★「降格したい」悩み相談をランダムにピックアップ
中間管理職ですが希望降格したいです。自分の部下にあたる人の中... - Yahoo!知恵袋主人が降格をしたいと告白してきました : 家族・友人・人間関係 : 発言小町 : 大手小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
降格希望をどう思いますか - 社会・職場 | 【OKWAVE】
まとめると、主な要因は、こんな感じでしょう。
・求められる職能に対するミスマッチ
・キャリア志向でのミスマッチ
・育児や介護などのプライベートな事情によるもの
担当職として現場で優秀な実績を上げた論功行賞として管理職に引き上げられたけれど、管理は苦手だった、あるいは、プレーヤーに戻りたい!管理をしたくないケース。また、プレイングマネージャーとして成果も管理も任せられ、業務多忙を嫌ってのケースも目立ちます。
潜在的な希望降格者はかなりいるのですよね。しかし、後述しますが、現状では、会社はきっと自主的な降格は認めないでしょう。そして、自主的な降格がままならず、ミスマッチを起こした人材はどうなるのでしょうか?退職・転職するしかなさそうですよね。
アンケートにあったとおり、「降格したい」管理職は、年々増えています。7人に1名の課長さんに、退職・転職されてしまうのは会社としてもかなりきついはず。
それであれば、思い切って公務員を見習って、民間企業でも「希望降格制度」を設けてはどうでしょうか?
5.希望降格制度による自主的な「降格」オプションは、「降格」への悪いイメージを払拭できるのでは?
僕自身、部長職で行き詰まった時、退職前に模索したオプションとしてプレーヤーへの復帰と職務軽減を目指した「自主的な降格」を上司に相談したことが何度かありました。
しかし、配下のメンバーや仲間の士気低下に対する懸念から難色を示され、「自主的な降格」は実現しませんでした。また、「降格」はあくまで会社が決めるものであり、自分できめるものではなく、前例も無いから難しい。。。と。
ですが、会社の準備するキャリアオプションの一環として、オフィシャルな「希望降格制度」が、公務員同様に、入社時から周知されていたらどうでしょうか?
「ライフステージの変化等、働き手の都合に合わせ、自主的な降格ができる」ことを保証されるのは、福利厚生上ポジティブなイメージも喚起され、悪くないような気がします。「降格」することへの悪いイメージが和らぎ、少なくとも既存の降格制度のもたらす弊害は弱まるのではないでしょうか?
7.まとめ
民間企業における自主的な降格制度を「見える化」する「希望降格制度」は、働き手のワークライフバランス増進と、定着率向上を促すはずです。また、「降格」そのものの暗いイメージを払拭する効果により、実際に降格した時に本人の士気が下がってしまうデメリットも打ち消すことができるのではないかと思います。
週休3日制同様、今取り組めば、先駆的な取り組みとして人材採用における差別化を図る大きな武器になるはず。いいアイデアだと思うのですが、いかがでしょうか?
それではまた。
かるび
PS
大手企業で最近導入されている「スタッフ職」「地域限定職」などは、自主的な降格のような使われ方ができるのかもしれませんが、管理職を下りることを直接意味しないケースが大半だと思われるので、少し弱いような気がします。これらと「希望降格制度」の併用は相乗効果になるのでいいと思います。