あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】「サバイバルファミリー」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/オールロケにこだわった災害映画の秀作!

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【2017年12月9日最終更新】
かるび(@karub_imalive)です。

2月11日に封切られた矢口史靖監督の映画最新作「サバイバルファミリー」を見てきました。早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。

※後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「サバイバルファミリー」の基本情報

<公式予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】矢口史靖(「ウォーターボーイズ」「スゥイング・ガールズ」「ウッジョブ!」「ハッピー・フライト」)

【配給】東宝
【時間】117分
【原作】矢口史靖「小説版:サバイバル・ファミリー

また、本作品は、東宝の公式チャンネルから前後編合わせて30分近くのメイキング動画もアップされています。映画の予習に見ておくと、さらに本編が楽しめます。今後まず他の映画では実現しない高速道路の撮影シーン裏話は必見!それぞれ、下記の画像をクリックすると、Youtubeがスタートします。

<メイキング動画前編>

<メイキング動画後編>

2.映画「サバイバル・ファミリー」の主要登場人物とキャスト

キャスト陣は、これまでの矢口監督の過去作での常連俳優、小日向文世を主演に、監督の信頼するベテラン・キャスト陣(深津絵里/矢口作品2回目、柄本明/同3回目、時任三郎/同2回目)で脇を固め、矢口組のオールスターが揃いました。

鈴木義之(小日向文世)
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鈴木家の頼りない家長。内弁慶で亭主関白、そして見栄っ張りで口だけなダメオヤジ。実生活でも同じような年頃の子供がいる小日向文世の演技は、日常生活からそのまま飛び出てきたようなリアルさが素晴らしかったです。カツラってこういうふうにつけてるんだ、って初めて知りました(笑)

鈴木光恵(深津絵里)
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厳しいディザスター的な環境下にいても、楽観的でおっとりした雰囲気で家族のムードメーカーとなる母親。どんなキャラを演じても、ソツなく地に足の着いたキャラクターでしっかりとドラマを締めてくれる女優ですね。

鈴木賢司(泉澤祐希)
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鈴木家の長男。IT機器・ガジェット類に自分の興味関心が集中しており、その他の衣食住への執着は薄い。まるでミニマリストのような生活スタイルだが、だからといって完全にオタク気質なわけではなく、それなりに女性にも興味がある。泉澤祐希のオールマイティな演技力は、イケメンすぎず、ダメすぎずといったちょうどよい感じの役柄にフィットしていたと思います。

鈴木結衣(葵わかな)
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鈴木家の長女。クラスでの「オシャレ」クラスタでの人間関係維持に忙しいが、本当は辟易しており、自分らしくありたい願望も持っている。年頃の女子らしく、兄、父には生理的な嫌悪感を隠そうともしない演技が痛快でした。

齋藤敏夫(時任三郎)
「ハッピーフライト」での教官役以来、2度目の起用となった時任三郎。字幕では「友情出演」と出ていました。
齋藤静子(藤原紀香)
オフィシャルでのキャラクター紹介に「いけ好かない母親」と書かれていましたが、こういう意識高い系のキャラクターを演じさせれば藤原紀香はぴったりですね。よく本人も受けたなこの役・・・
高橋亮三(宅麻伸)
会社での義之の上司。出世が遅れて冴えない義之に比べて、若い奥さんに3人の子宝、そしてできるエリート然としたビジネスマン役として出ています。

田中義一(大地康雄)
鈴木家が疲労困憊していた時に自宅近くで出会い、彼らを家に宿泊させる。

佐々木重臣(柄本明)
母、光恵の実父。鹿児島の農村で家庭菜園を営み、釣りが趣味とサバイバル能力は非常に高い。ちなみに、柄本明は矢口組での起用が3回目。毎回、それなりの脇役で多彩な役柄を演じています。

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3.ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.鈴木家に試練を与えた突然の大停電

鈴木家は、どこにでもいるような平凡で都会の生活に慣れた、東京郊外の公団マンションに住む4人家族だった。

父、義之は、亭主関白で、会社人間なサラリーマン。会社では経理部長を任されており、現在は決算前の多忙な時期だ。母、光恵は少しおっとりした専業主婦。2児の母として堅実に家庭を切り盛りするも、魚をさばいたり、手の込んだ料理は苦手である。そして、兄、賢司は電子ガジェットマニアな大学生。デジタル機器と自転車があれば、それで生活が事足りるオタク気質も持っている。妹、結衣は高校生で、クラスの「おしゃれ系」クラスタの人間関係維持に執心中で、LINEでのやり取りにハマっている。

鈴木家の家族は4人とも、同じ家で生活をしていても、バラバラだ。お互いを気遣う余裕はあまりなく、最近は灰色な生活が続いていた。

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そんな中、ある日朝起きると突然電気が使えなくなっていた。単なる停電ではなく、電池や電源で動く機械や車、水道、トイレ、マンションのエレベータなども機能しなくなっていた。かろうじて、鈴木家でも、かろうじて携帯用ガスコンロだけが満足に動く有様だ。

それでも何とか日常生活を続けようと、父、義之は電車で、兄、賢司は自転車で、妹、結衣は徒歩で家の外に出た。

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義之が駅に着くと、電車は完全にストップしていた。ホームには人が溢れ、ラチが開かない。早々に電車を諦めた義之は、2つ隣の駅にある会社へ徒歩で向かうことにした。会社に着くと、今度は電子制御されているエントランスのカギが開かない。ガラスを叩き割って中に入ったが、資料は全てパソコン上に保存されている上、社員の半分も出社していなかった。上司である高橋から、帰宅指示が出たため、毒づきながらも義之は決算資料を持って帰宅した。

一方、光恵はとりあえず近くのスーパーに非常食の買い出しに出かけていた。真っ暗なスーパーで、そろばん片手に現金清算のみとなったレジには長蛇の列ができていた。

晩になっても電気が回復しないため、結局その日は家族揃ってろうそくの明かりを頼りに、非常食を食べた。夕食後は、家族全員で夜空の光を楽しんだ。町中の明かりが消えたので、東京でもくっきりと天の川が見えたのだった。

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そして3日目。妹、結衣のクラスにはすでに数名しか来ていなかった。会社も、この日から全員正式に自宅待機となった。上司である高橋も、家族を連れて山のキャンプ場に避難するとのことだった。義之は、帰宅途中で銀行に立ち寄ったが、ATMカードが使えない上、預金者が殺到していた。殺気立った預金者たちにもみくちゃにされて、資料も踏まれたて散逸した上、結局1円も下ろせなかった。

3-2.母・光恵の実家、鹿児島へ旅立つ鈴木家の4人

大停電から1週間。スーパーの棚はすっからかんとなり、学校も会社も休業となリ、今後の対策をマンションの住民集会で話し合ったが、結論は出なかった。そんな中、隣の住人がいち早くマンションを出ていった。残されたペットの鳴き声が悲しげに響いていた。

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これを見て、義之も羽田空港から、妻、光恵の父が住む鹿児島へと疎開することを決意した。事前に調達しておいた自転車で羽田まで行って、そこから飛行機で鹿児島へ飛ぶ計画を立てた。

翌日朝早く、山のように荷物を抱えて鈴木家4人は羽田空港へ向かった。道中、どんどん水の値段が高くなったが、光恵が主婦の粘りで値切って大量に水を手に入れることができた。また、途中で休憩した公園では、浮浪者が鯉を勝手に干物にしていたり、公園内のトイレがひどい状態になっていたりと、驚きの光景を目にした4人だった。

やがて羽田空港に着いたが、案の定飛行機は飛んでいなかった。辺りは騒然としており、暴動寸前の状態に陥っていた。詰めかけた客と警備員との間で小競り合いが続く中、4人は一旦近くに宿を取ることにした。素泊まり1泊3万円のボッタクリ価格だったが、我慢するしかなかった。

その晩、再度家族会議を行った結果、やはり義之たちは鹿児島へ向かうことにした。自宅に戻っても、ジリ貧になるからだ。翌日、閉まっていたブックオフで「るるぶ鹿児島」を手に入れ、途中の米屋でウィスキー2本と自転車・米10キロを交換して確保すると、4人はその地図を頼りに自転車で鹿児島へ向かった。

3-3.自転車で鹿児島へ!本格的なサバイバル生活のスタート

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しかし、地図が不正確で、たびたび道に迷ってしまう。途方に暮れた時、母、光恵がちょうど目の前に東名高速川崎ICの入り口を見つけた。光恵の発案で、彼らは高速道路で鹿児島を目指すことにした。

その日の夜は海老名SAで野宿することになった。寒くて寝付けない中、深夜に水のペットボトルを盗まれてしまった。犯人を追った兄、賢司は、犯人がその水を使って乳児に粉ミルクを与えているのを見て、複雑な気持ちになった。

道中、様々な失敗や困難が彼ら4人に待っていた。途中で立ち寄った富士川では、水を飲みすぎた父・義之が下痢で腹を下し、大雨にあって米や持ち物の幾つかが台無しになった。その時は、兄・賢司と妹・結衣が近くのホームセンターで代替の飲み水となる自動車用の精製水と、代替食料としてペット用缶詰を入手して事なきを得た。

また、高速道路の旅の意外な難所は、明かりの消えたトンネルだった。静岡にある長大な「日本坂トンネル」では、盲目のガイドに助けられながら何とか走りきった。

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ようやくサバイバル生活も板についてきた22日目、浜松を過ぎた頃、爽やかに野宿をする家族、斉藤家と出会った。彼らはサバイバル生活の達人のようで、燻製の食料を常備しており、サバイバルの知識もふんだんに持っていた。父・義之は一人ライバル意識を燃やしたが、名古屋まで同行することになった。

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名古屋で斉藤家と別れて43日目。大阪にようやく到着したが、やはり状況はかわらず、大阪も東京と同じく、都市機能が停止していた。通天閣の前で、とうとう兄・賢司、妹・結衣は独断専横だが頼りない父への不満が爆発してしまう。それを聞いていた母・光恵も「お父さんはそういう人なんだから!」とたしなめたが、義之へのフォローになっていなかった。

大阪では、炊き出しの列に並んだが、運悪く彼らの直前で配給が終了してしまう。父・義之はプライドを捨て、土下座までして食料をなんとか得ようとしたが、どうにもならなかった。

そして67日目。岡山近辺の田園風景が広がる畑のあぜ道で、とうとう彼らは空腹と疲れのあまり、精魂尽き果てかけていた。その時、彼らは畑をさまよう豚を見かける。何とか豚を仕留めたところで、飼い主が現れた。その日は彼の家に宿泊し、残りの逃げ出した豚を捕まえることを前提に、衣食住の提供を受けられることになった。久々のまともな食事に涙が止まらない妹・結衣だった。

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翌日以降、1週間ほど田中家にとどまり、豚を柵に追い込む仕事をしながら、旅の支度を整えた鈴木家だった。一人暮らしが長い田中から、ここにずっと居ても良いと言われたが、やはり鹿児島を目指すことにした。

3-4.父・義之の遭難、母・光恵のケガで絶体絶命に!

しばらく順調だったが、すぐにやはり困難が待っていた。川にかかっているはずの橋がなく、戻るにも困難な状況で、父・義之は黙々といかだを組み始めた。

家族全員で協力して作った即席のいかだで、まず家族を向こう岸に渡してから、その後自転車を渡そうとしたとき、急に大雨が降ってきて、いかだがバラバラになって急流に流されてしまった。兄・賢司は何とか泳ぎきって助かったが、父・義之は下流に流されていった。また、自転車を4台とも失ってしまった。

あとには、父親のかつらだけが残されていた。仕方なく、残された3人で旅を続けることになった。

94日目。今度は、母親がケガをして動けなくなってしまう。歩いて電車の線路沿いに旅を続けていた3人だったが、野犬の群れに燻製の入ったバックパックを引っ掻き回され、そのはずみでガケに落ちたとき、足をくじいたのだ。

動けなくなった母を抱えて、野犬達と対峙して命の危険も感じていた絶体絶命となったその時、蒸気機関車が彼らの前に現れた。機関車に乗せてもらい、しばらく手当を受けていると、車窓から遠く発煙筒を手にする父・義之の姿が見えたので、機関車に止まってもらい、義之も奇跡的にピックアップすることができた。泣いて再会を喜ぶ4人だった。

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4人は、途中慣れない機関車の窓を開けっ放しでトンネルですすだらけになりつつも、何とか鹿児島で光恵の父・重臣のところまでたどり着くことができた。

重臣の村は、漁村だった。それから2年半、男たちは漁に出て魚を取り、女たちは機織りや野菜づくりで自給自足の生活で生き抜いた。

3-5.突然電気が戻り、東京での生活へ戻った4人

そんな中、ある日突然日本全体に電気が戻った。原因はサイバーテロ等、人為的なものではなく、太陽フレアの影響などが考えられたが、停電時の記録が一切残っていなかったので、結局わからないままだった。

鈴木家は、ふたたび東京に戻ってきて都会での生活を初めたが、彼らはすっかりたくましくなっていた。自転車通勤をはじめた父・義之、ガジェットを捨て、ギターを始めた兄・賢司、手芸を始めた妹・結衣。そして、彼らのもとに1通の手紙が届いた。それは、道中で出会った斉藤家に撮ってもらった家族の写真だった。 

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4.映画の感想と評価(※ネタバレ有注意)

CGなしのオールロケで、極力リアリティを出そうとした労作

本作は、CG、VFXを一切使わず、全て日本各地でのロケの積み重ねで製作されました。消えた信号機、駅ホームや空港での群衆のシーン、豚との格闘、筏での遭難シーン、蒸気機関車C751の乗車シーンなど、予算も限られる中、かなり頑張って場面設定にリアリティを出そうとしていました。

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一番の見所は、メイキング映像でも矢口監督が自賛していたとおり、東名高速の川崎インターから高速道路に乗って自転車で移動をするシーン。(本当は東名高速は3車線とか)細かいディテールの違いはあるものの、まさか本物の高速道路を確保して通行止めにしてまで映像にこだわるとは。。。「CGにするくらいなら、映画企画自体をボツにしてしまおう」という不退転の決意で徹底的にロケでの撮影にこだわった矢口監督の執念が乗った力作でした。過去作「ハッピー・フライト」でも徹底的にリサーチして、航空業界の裏まで見せてくれましたが、今作も綿密なロケハンとシミュレーションに裏打ちされた作品だったと思います。

極限状態での群集心理や起きうる事象を丁寧にシミュレーションしている

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さらに、家族のサバイバル・ロードの道中で、実際に電気がなくなった時に起きうる様々な問題点も、合わせてしっかり描かれていたのは見ごたえ十分でした。

銀行の取り付け騒ぎ、暴動、弱みに付け込んだあこぎな商売、窃盗などのネガティブな面はもちろん、本当にどん底な状況では、人々は物々交換で糊口を凌ぎ、普段あんなにありがたがっている「お金」が全く用をなさなくなっていくところなどは非常に興味深いです。

災害時に最終的に役立つのは、アナログでシンプルな仕組み

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また、物流が止まり、電気が使えない中で一番使える移動手段が「自転車」だったのは印象的でした。足回りは簡単に修理できるし、徒歩よりも断然機動力が高くて、荷物も載せられて小回りも利くわけです。

東日本大震災時当日、電車が不通となり、徒歩で自宅への帰宅を余儀なくされる中、飛ぶように東京都心で自転車が売れたというエピソードを思い出しました。(映画でも、普段なら絶対買わないようなダサい3輪自転車を44,800円で義之が買っていましたね・・・)

サバイバル能力ゼロの鈴木家は都会の住人たちの脆弱さを象徴的に体現していた

都会生活に最適化しすぎた鈴木家。衣食住全てが高度に構築されたライフライン上での便利な生活に慣れすぎた現代人が突然のサバイバル生活に放り出されたら、鈴木家のようになる人もかなりいるのではないでしょうか?

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僕だって、恐らく虫は掴めないですし、燻製も作れなければ豚も魚もさばけないです。野菜も満足に作れないだろうし、裁縫も全くダメです。鈴木家の右往左往ぶりを見ていて、まるで自分を見ているようで薄ら寒い気分にもなりました。少なくとも、画面を見て「こいつらバカだなぁ」とあまり笑えなかったかも。(それこそが監督の狙いだったみたいです・・・) 

災害を通して成長し、家族としてまとまっていく流れは救いになった

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単に都会の住人たちが慣れないアウトドア生活に翻弄される構図だけでなく、そこで「苦難」に立ち向かうことで成長し、家族の絆も強くなるという王道的展開は救いがありました。

特にキーマンだった父、義之が段階的に本来の意味での「父親」らしくなっていく姿は心に残りました。大阪で家族全員からダメ出しされたことで少し目が覚め、ブタを追い込み、川に流されてからは、かつらも投げ捨てて精神的に強くなっていく様子は見ていて爽快でした。

また、電気が復活したらアッサリ都会に戻ってきて、普通に生活を再開しているエンディングも良かったです。

矢口監督の作家性あふれる映画作品らしい映画だった

矢口監督は、映画製作に対して、安易にキャラクターたちにセリフで説明をさせないというポリシーを持っています。

名台詞のような言い聞かせることを、映画の中では絶対やらないようにしています。この作品だけでなく、僕は映画を撮る時に、テーマや伝えたいことは、具体的な台詞とか、画的に解るシーンを、見せちゃいけないと思っているんです。

今作でもそれは徹底されており、TVドラマの劇場版のように饒舌にキャラクターが状況説明をしてくれるセリフは一切ありませんでした。それどころか、今回は、

・CG/VFXでの映像的な支援効果なし
・時間軸をいじった説明的な回想シーンは一切なし
・GoProなどの奇をてらった技巧的なカメラワークは一切なし
・劇伴音楽等での音楽的な支援効果は極力なし

過去作と比べても、一番映像的にシンプルだったのではないでしょうか?

時系列に沿って、ストーリー上起きるべきことが起き、各キャラクターが場面場面で必要なセリフと行動を取るシーンをシンプルな形で見せられ、鑑賞者は自由にそれを判断・検討できるように仕向けられます。

映像1本で勝負しているため、その分映像内での情報量が非常に多く詰め込まれていました。鑑賞者はよーく見てないとすぐに意味を取り逃してしまうという意味で、集中力が要求されるハードな映画でもありますし、2回、3回と複数回の鑑賞に耐えうる作品だと思います。

東日本大震災から5年以上経過した2017年が、見るには絶妙のタイミングだった

映画内での出来事ほど酷くはありませんが、おおむね東日本に住んでいる人の中には、つい先日、2011年に「東日本大震災」で、この映画内で鈴木家が遭遇した状況と似たような体験をした人も多いのではないでしょうか?

僕も、震災当時コンビニからモノが一瞬でなくなり、物流・交通網が麻痺した日常を送りましたし、その後仕事で仙台方面に何度も視察に行って、被災地の厳しい状況も目の当たりにしてきました。毎日、得体も知れない先行きへの不安を感じて毎日生活していた思い出があります。

しかし、あれから5年、しんどかった記憶もだいぶ薄れ、災害時の苦い思い出も少しずつ過去のものになりつつありました。このタイミングで、改めてこうしたリアルなディザスタームービーを見ることで、少し気が引き締まる思いもしました。

5.伏線や設定、みどころなどの解説(※ネタバレ有注意)

虫や動物使いがポイントな矢口監督映画作品

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矢口史靖監督は、過去作で必ずと言っていいほど動物や虫を映画内に効果的に登場させてきます。例えば、過去作ではこんな感じ。

・ウォーターボーイズ・・・イルカ、シャチ
・スウィングガールズ・・・イノシシ
・ハッピーフライト・・・カモメ
・WOOD JOB・・・トカゲ、鹿

今回も、冒頭でキャベツについていた青虫に始まり、犬、鯉、ブタ、もう1回青虫、もう1回犬と、過去最高頻度で動物たちが次々と出てきました。特に今回は「サバイバル」がテーマなので、笑いを誘うシーンだけではなく、重要なシーン、考えさせられるシーンで使われているのが印象的でした。ぜひ、映画内で動物・虫の登場場面に注目してみてください。

川の水は飲んではいけないのか?

映画では、ペットボトルの備蓄が尽きて我慢できなくなった父・義之が川の水を「うんめぇー」と飲んでお腹を壊します。一見、飲んでも問題なさそうに見えた川の水ですが、意外に危ないようです。

まず、第一にキレイそうに見えても、どこからか流れ込んだ生活排水等に細菌類、ウィルスが潜んでいることも多く、さらに川の上流に工場や鉱山、大規模農場などがある場合は、重金属や農薬で汚染されている可能性があります。

上流に工場等がない場合は、煮沸すれば殆どの細菌類が死滅して安全になる他、フィルター類で濾過すればかなりのケースで真水に近づくようです。最近では、東日本大震災後、入れるだけで濾過されて、飲めるような水筒も発売されていますね。

太陽フレアによる大規模停電は発生するのか?

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結局、物語上で電気が使えなくなっていた期間は、足掛け約3年にわたって続きました。ニュース解説番組で原因は不明だ、とされていましたが、有力な説として、太陽フレアによる磁気嵐の影響が指摘されていました。

実際、過去に似たようなケースを見てみると、1989年に北米で大規模停電が起きた時は、キューバでもオーロラが見えるほどの、過去100年で最大級の太陽フレアによる磁気嵐が直接の原因でした。磁気異常による空中の電流が送電線へと一気に流れ込み、電力網を破壊して大規模停電へとつながりました。

ただし、その時も電池は普通に予備電源として使えていたようなので、今回の「電気一切が使えなくなる」という設定は、SF的な創作であるといえそうです。

6.まとめ

矢口史靖監督の最新作品「サバイバルファミリー」は、ストーリーこそシンプルですが、鑑賞者に考えさせる味わい深い作品でした。綿密な製作準備によりリアリティを追求した本作は、どの場面を切り取っても楽しめるインパクトの強い映画となりました。

「映画でしか見れないものを見せてくれる映画は良い映画だ」と映画評論家の宇多丸が言う通り、矢口監督の作家性が強く出た、良質の映画作品だと思います。おすすめ。

それではまた。
かるび 

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7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

ブルーレイ/DVD「サバイバル・ファミリー」はスペシャルエディションがおすすめ!

国内オールロケにこだわって制作されたリアルな迫力映像がすごい本編だけでなく、映像特典も凄いのがこのスペシャル・エディションです。映画と同時に制作されたスピンオフ/ショートドラマ「サバイバルボーイ」「サバイバルガール」に加え、矢口監督へのインタビュー・舞台挨拶・映画論を語り尽くした動画など、見どころ満載です。また、「わろてんか」の藤岡てん役をゲットして全国区の知名度となった葵わかなの無名時代の代表作として、貴重な作品になるかもしれませんね。

小説版「サバイバル・ファミリー」

矢口史靖監督は最近のオリジナル作品では、必ず小説も自ら手がけています。元の絵コンテを原案に、監督自ら描き下ろした小説なので、映画との親和性は限りなく高いです。それに加え、小説では、映画で省略された説明的な表現が「地」の部分でバッチリ描かれているので、映画の各シーンに対する解釈の答え合わせもできますし、映画本体では、上映時間の都合上省略されたいくつかの印象深いプロットも楽しめます。

映画公式ガイド「サバイバル・ファミリー」の歩き方

アニメーターのように絵コンテを各シーン毎に製作し、スタッフと各シーンのイメージを共有していくという独特な制作手法を取る矢口監督。この公式ガイドでは、まず重要な各シーンの絵コンテがたっぷり満載されており、さらに製作時の各スタッフの苦労話や製作時の狙いがわかりやすくまとめられていました。

また、各俳優の撮影時オフショット、インタビュー記事、サバイバルのためのショートコラムなども充実しており、映画が気に入った人には非常にオススメなムック本でした。これは良いです!

矢口史靖監督のオススメ過去作品1:「ハッピー・フライト」

製作段階で、執拗なまでに各部門業務のディテールを取材して、それをムダなくつなげあわせて一つのストーリーに作り上げた手法は、今回の「サバイバルファミリー」でさらに洗練されて応用されていると思います。航空業界に興味がある人は、純粋なお仕事映画としてイメージトレーニングのためにチェックしても非常に有用です。

矢口史靖監督のオススメ過去作品2:WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」

「林業」の仕事内容や、「林業」に関わる村の人々の生活スタイルを丁寧に取材して、三浦しおん同名原作を映像化した作品。巨木を切り倒したり、杉の木を飛び歩いて幹をメンテナンスするシーンを全て俳優達に再現させ、ワイルドな山の男たちを熱く描いた「お仕事映画」としても出来は良かった。残念ながら興収は10億円に到達しなかったが、クオリティはかなり高かったと思います。Amazon Primeでは、2017年2月現在無料で視聴できます。オススメ!