かるび(@karub_imalive)です。
国立西洋美術館での2017年最初の特別企画展「シャセリオー展」が2月28日からスタートしました。2015年「グエルチーノ展」2016年「メッケネム展」等々、日本ではそれほど知名度がない西洋美術のオールドマスターの「日本初」となる回顧展を積極的に手がける同美術館。
もちろん、僕自身も昨年この展覧会名を聞くまでは「シャセリオー?誰それ」的な感じでした。シャセリオーとはどんな画家だったのか、作品の魅力や画家の生涯について展覧会でバッチリ学んできましたので、以下、簡単に感想を書いてみたいと思います。
- 1.混雑状況と鑑賞に必要な所要時間の目安
- 2.音声ガイド、山田五郎の安定感が素晴らしい!
- 3.シャセリオーって誰なの?
- 4.シャセリオーの絵画の特徴や、展覧会のみどころは?
- 5.注目の展示作品について
- 6.まとめ
- 展覧会開催情報
1.混雑状況と鑑賞に必要な所要時間の目安
会期初日でしたが、混雑度を見るために敢えて午後の一番混雑する時間帯、14時頃に入館してみました。が、結構空いています。やはり知名度的に、熱心なアートファン以外はまだ様子見段階ということなのでしょう。展覧会公式Twitterのフォロワー数もかなり少ない状況。(3月4日現在800人程度と寂しい・・・)
会期中、主催者TBSでのTV特集が何度か入るまでは、しばらく土日でもゆっくり見れるとは思います。GW前頃からは少し土日は厳しくなるかもですね。
ただし、版画や素描など、比較的小品展示が多いので、少しでも混雑してくると鑑賞しづらくなる作品が多いです。できるだけ空いている会期前半に行ったほうがいいかもしれません。
全展示合わせて90点ちょっとであり、素描や未完成作品を除くと1/3以下となるため、鑑賞に必要な所要時間は、60分程度確保しておけばOKだと思います。音声ガイドを借りてガッツリ見るなら90分~120分欲しいところ。
2.音声ガイド、山田五郎の安定感が素晴らしい!
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/event/#tieup)
今回の音声ガイドは、西洋美術を独特のセンスで、わかりやすく噛み砕いて解説してくれることで定評がある山田五郎。シャセリオーが属したロマン派や、彼が描いた代表的な作品について、「西洋美術史」の観点から作風や人物像を説明してくれます。
通常の音声トラック20本に加え、特に山田五郎が熱く語り下ろす3つの特別ガイド(ボタン60番、70番、80番)の内容が素晴らしかったです。それぞれ2回ずつ聴いちゃいました。コアなファンからアート初心者まで、幅広く納得させる素晴らしいガイドでした。ガイドのレンタル、本当におすすめです。
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3.シャセリオーって誰なの?
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
テオドール・シャセリオー(1819-1856)は、19世紀に活躍したフランスの画家です。本国フランス同様、日本でも非常にマイナーな存在で、今回が初めての回顧展開催となります。試しにAmazonで調べましたが、シャセリオーを特集した書籍は、わずか1冊しか検索に引っかかりませんでした。(去年のメッケネム展のほうがまだ引っかかった)
現在では忘れ去られ、すっかり美術史の中で埋もれてしまったシャセリオーですが、生前はかなりの知名度を得ていました。後続のアーティストたちの中にはシャヴァンヌ、ギュスターヴ・モローといった熱狂的なファンも存在したようです。
シャセリオーは、美術史に輝く新古典派の巨匠、ドミニク・アングルにわずか11歳で弟子入りしました。この子は将来「美術界のナポレオンになる!」とアングルが絶賛したほどの天才・早熟ぶりだったそうです。
しかし、アングルがフランス国内での待遇に不満を持ち、ローマへ旅立ってからは、シャセリオーは(鬼のいぬ間に?)アングルの作風を離れ、アングルのライバル、ドラクロワらが属する「ロマン派」に傾倒していきます。
ドラクロワ「民衆を導く自由の女神」
(引用:Wikipediaより)
そして、彼は次第にロマン派の代表的な画家として評判になり、当時のパリでの一流文化人や著名人達と交流が増えていきました。驚いたのは、彼のキャリア絶頂期に、当時パリでNo.1の美貌を誇ったと言われる高級娼婦、アリス・オジーを文豪、ヴィクトル・ユーゴーと取り合い、そして見事に勝ち取って(!!)交際にこぎつけたこと。(失礼ですが自画像を見る限り、そんなにイケメンには見えなかったもので・・・)
後述しますが、今回の展覧会のハイライトの1枚でもある、「泉のほとりで眠るニンフ」は、彼女をモデルにした1枚だと言われています。
その後、シャセリオーはアルジェリアに写生旅行に出かけ、自らのルーツでもあるエキゾチックな絵画を沢山残しつつ、自身最大の労作となった会計検査院での壁画を手がけました。
もともと病弱だったシャセリオーは、わずか37歳で亡くなりますが、その独特の作風は当時熱狂的なファンを多数獲得したと言われています。
4.シャセリオーの絵画の特徴や、展覧会のみどころは?
今回の展覧会で、僕が感じたシャセリオーの絵画の「みどころ」や「特徴」を、その絵画の特徴とあわせて少し整理してみました。
みどころ1:遅れてきたロマン派の大物
シャセリオーは、いわゆるギリシャ・ローマ~ルネサンス絵画の伝統を踏まえた「新古典派」を捨てて、感情的で動きのある絵の中に個性を盛り込むスタイルの「ロマン派」絵画の一派に属しました。しかし、彼が活躍した1940年代以降、ロマン派はムーブメントとしてはやや落ち着いてきており、彼はいわば「遅れてきた最後の大物」的な登場だったようです。
ただ、彼自身はあまり作風にはこだわらず、1850年代から隆盛してきた写実主義の代表格、クールベや、自然を好んで描いたバルビゾン派のテオドール・ルソー(アンリ・ルソーじゃないよ)らとも親しくして、彼らの作風も自分自身の絵画へと柔軟に取り込んでいきました。
みどころ2:エキゾチックな絵画
シャセリオー自身、フランスの植民地(今のドミニカ共和国)生まれであり、彼の父は一年の大半を植民地への遠征で過ごすなど、彼の作品から「異国的な香り」が強くただよってくるのは、その生い立ちや家庭環境にルーツがあったと言われています。
今回の展覧会では、特に1940年代に入ってから、シャセリオーが旅して回ったアルジェリアの日常風景を描いた作品が多数出展されており、見どころの一つになっています。
みどころ3:かわいい馬
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
ロマン派の代表格、ジェリコーやドラクロワもしばしば絵画のモチーフの中に「馬」が登場しますが、シャセリオーも絵画の中に「馬」を沢山描きました。
それにしても、シャセリオーの描く馬は、顔の表情がとにかくかわいい!馬への愛情が感じられる絵画が非常に多いのです。特に下記の黒の雌馬を描いた作品は馬の「かわいさ」に目を惹かれました。
みどころ4:モチーフに多用された「赤ちゃんと母親」
「コンスタンティーヌのユダヤ人街の情景」
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
シャセリオーが生涯大切にしたモチーフの一つとして挙げられるのは、「赤ん坊と母親」というテーマです。遺作となった伝統的な宗教画「東方三博士の祈り」でも、真ん中に神々しい母親と赤ちゃんが描かれました。今回の展覧会でも、出展された絵画の中に多数「赤ん坊とそれを抱く母親」がモチーフとして使われていますので、是非探してみてください。
みどころ5:熱狂的なフォロワー達
シャセリオーは、画家仲間の中に熱狂的なファンが多数いたことで有名です。特に後続の画家の中から、2人の熱狂的なファンがこの展覧会で紹介されています。
ギュスターヴ・モロー「若者の死」
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
その一人は、ギュスターヴ・モロー。聖書や神話をテーマに幻想的な絵画を沢山描いた象徴主義の先駆けのような画家ですが、モローは、シャセリオーが好きすぎて、当時通っていた美術学校エコール・デ・ボザールを辞めて、シャセリオーの隣の家に引っ越してくるほどの力の入れようでした。そんなモローが大成して、再度美術学校に戻った時に今度は講師としてジョルジュ・ルオーやアンリ・マティスを見出して育てるのだから、面白いものですね・・・
シャヴァンヌ「海辺の乙女たち」
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
もう一人は、シャヴァンヌです。彼は19世紀最大の壁画アーティストとして有名ですが、シャセリオーの手がけた会計検査院での大壁画を見て多大なインスピレーションを受けました。公私共に付き合いがあり、シャセリオーが亡くなって以後、シャセリオーの最後の奥さんといい仲になってしまった(!)そうです。(やり過ぎですよね??)
シャセリオーと付き合いが深かったロマン派の詩人テオフィル・ゴーティエが、シャセリオーを評して言った有名な言葉があります。
もっと純粋で、もっと完璧な、もっと明確な画家はほかにいたが、テオドール・シャセリオーほど我々の心をかき乱した画家はいなかった。
シャセリオーだけが持つ、独特な絵画の作風や個性を的確に表現した名言ですね。
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5.注目の展示作品について
5-1.「カバリュス嬢の肖像」
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
今回の展覧会の一押し作品です。展覧会のチラシにも選ばれるほど、パッと目をひく華やかな作品。肖像画として、ずっと見ていても飽きない不思議な魅力に溢れた一枚で、非常に写実的に丁寧に描かれています。展覧会でも、後半の目玉作品としてどーんと設置されていますよ。
5-2.「泉のほとりで眠るニンフ」
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
絵画の名声が高まり、フランスの社交界でも人気絶頂だったシャセリオーが、当時付き合っていた高級娼婦のアリス・オジーをモデルとして描いたとされる裸婦像。ルネサンス期のティツィアーノの「ウルビーノのビーナス」を彷彿とさせる一方で、普通はあまり描かれない脇毛などを丁寧に描いた写実へのこだわりは、当時急速に台頭しつつ遭ったクールベらの写実主義の影響も受けていると言われます。
5-3.肖像画「アレクシ・ド・トクヴィル」
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
有名な古典「アメリカのデモクラシー」を書いた有名な政治思想家で、シャセリオーとは家族ぐるみのつきあいだったそうです。オーダーがあれば誰でも彼でも仕事と割り切って肖像画を描いたドラクロワらとは違い、シャセリオーが描いた肖像画は身近な親しい人に限られました。トクヴィル、見るからに頭良さそうですね~。
5-4.「アポロンとダフネ」
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
ロマン派の作風は、新古典派やそれ以前の画家たちとモチーフは同じでも、そこに、より豊かな感情表現や動きを入れたり、自分自身の思いや自我を絵画に積極的に投影させていったのが特徴です。
この「アポロンとダフネ」は、中世以降何度も沢山の先達の画家により繰り返し好んで用いられたテーマですが、シャセリオーの作品は、いかにもロマン派らしい情感豊かな構図が印象的でした。ダフネの髪が水平になびいているのが特に(笑)
5-5.「コンスタンティーヌのユダヤ人女性」
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
シャセリオーがアルジェリアへ写生旅行へ出かけた際に、現地の女性をモデルに描いた半身像。顔以外の上半身部分は、少し省略された「習作」レベルの作品ではあるのですが、西洋人とは明らかに少し異なる風貌として描かれた女性の「眼力」が非常に印象的で、しばらく見とれてしまった一枚。シャセリオーはエキゾチックな絵画を描いたと言われますが、個人的に、この展覧会でエキゾチスムを一番感じた作品でした。
5-6.「海から上がるヴェヌス」
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/)
この作品は、特にシャヴァンヌに影響を与えた1枚という文脈で展覧会では紹介されていましたが、僕自身の個人的な感想としては、シャセリオー自身の師匠へのリスペクトが良く現れた一枚だな、という印象でした。
というのも、師匠アングルの有名なこの絵画を45度回転させ、ポーズを少し変えれば、そっくりだと感じたからです。
アングル「泉」
(引用:google arts&cultureより)
20歳で師匠アングルとイタリアで再開した時、作風の違いから師弟関係を解消したその後も、人前ではずっと「アングルの弟子」であることを誇らしげに強調していたというシャセリオーの師匠への思いが感じ取れた1枚でした。
6.まとめ
まだまだ西洋美術史の中でも知られざる巨匠や名手は沢山いるものですね。少しマニアックだけど、注目すべき画家をどんどん発掘してくれるこうした展覧会は、非常に勉強になるし、新しい発見があって楽しいです。
4月から東京で始まるランス美術館展でも、シャセリオーの絵画が2点出展されているようですし、合わせて見ておくとより楽しめそうですね。
それではまた。
かるび
展覧会開催情報
展覧会は、残念ながら地方への巡回は予定されていません。5月28日までたっぷり3ヶ月間開催されていますので、当面は混雑せずにゆっくり見れるとは思います。Twitterが頻繁に情報更新されているので、要チェックです!
◯展示会場・所在地
国立西洋美術館(東京・上野公園)
◯最寄り駅
JR・地下鉄・京成上野駅から上野公園内
◯開館時間・休館日
午前9時30分 〜 午後5時30分 (金曜日は午後8時) ※ 入館は閉館の30分前まで
月曜日 (ただし、3月20日、3月27日、5月1日は開館)、3月21日 (火)
◯公式HP
http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/
◯Twitter
https://twitter.com/chasseriau2017