かるび(@karub_imalive)です。
日本がまだ縄文時代で、狩猟・採集生活に明け暮れていた時、大陸の中国では、すでに殷・周といった広大な国土を治める統一王朝が成立し、高度な青銅器文明が栄えていたことって知ってます?
学生時代、世界史が苦手だった僕は、恥ずかしながら40歳になって根津美術館で中国古代の青銅器コレクションを見るまでそのことを全く知りませんでした。
だって信じられます?古代ローマやギリシャなんかよりもはるか昔、3000年以上も前に、精巧な文様を刻みつけられた複雑な形をした青銅器を日常的に使っていた文明があったんですよ?
今回の「神々のやどる器」展は、泉屋博古館が所蔵する国内屈指の青銅器コレクションが集結した凄い展覧会です。数ヶ月前、チラシをひと目見てから「これは絶対行く!絶対レビューを書く!」と一人テンションを高めて待ち焦がれていた展示。早速、見てきた感想・レビューをまとめてみたいと思います!
※なお、本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。
1.神々のやどる器展とは
本展では、泉屋博古館が保有する、古代中国の青銅器や青銅鏡のコレクション約100点が一同に会した展覧会です。なかなかこれだけの数の青銅器や青銅鏡がこれだけ1箇所に集められて鑑賞できる展覧会はそうそうありません!
3000年以上前に栄えた古代中国文明が生み出した 青銅器文化。複雑で精巧に織り込まれた文様、かたどられた獣や人物たちの高度に抽象化された造形など、神秘的だけど斬新な青銅器のデザインを見ていると、まさに「神々のやどる器」という展覧会名がぴったりだと感じます。
2.展覧会での5つの見どころ・注目ポイント
注目ポイント1:古代中国の超絶技巧!「青銅器」「青銅鏡」
目玉作品《虎卣》を興味深くチェックする観覧客
まず、一つ一つ青銅器や青銅鏡を見ていくとすぐ気付かされるのが、どれもハンパなく丁寧な手仕事によって精巧に仕上げられているということ。特に、青銅器については、器の外側部分は左右対称で360度ぎっしりと文様とデザインの組み合わせで埋め尽くされています。
その古代中国の「超絶技巧」ぶりが体感できる、本展で一番の目玉作品がこちらの作品《虎卣》(こゆう)。デザインの複雑さ、奇抜さは本展随一です。
口を大きく開けた虎に、なぜか人間がしがみついている不思議な構図。頭には鹿やバクが乗り、側面には虎や蛇の複雑な文様が表されるなど、超ゴージャスな仕上がりです。当時の職人がこれ一つ制作するのにどれだけの時間がかかっているのか、考えただけでも途方もないですよね・・・。
虎卣(こゆう) 商後期 紀元前11世紀
筒状のガラスケースに展示され、360度あらゆる角度から楽しめる本作ですが、解説パネルもまた4方向から徹底的に見どころをがっつり解説してくれています!解説と本体を見比べながら、思う存分ゆっくり鑑賞してみてくださいね。
注目ポイント2:青銅器の文様を楽しむ!
井季卣(せいきゆう) 西周中期 紀元前10世紀 部分図
本展で展示されている青銅器はどれも器の外側表面に、びっしりと文様が施されているのがわかると思います。一見、ランダムに描かれているように見えるのですが、よーく目を凝らしてみてみると、いくつかパターン化した図像の組み合わせで表現されていることに気付かされます。
青銅器が盛んに制作されたのは、紀元前15世紀頃から紀元前3世紀頃まで1000年以上の長期間にわたります。その間デザインの流行や変遷はあったものの、基本的には下記の3つの文様の組み合わせをベースとしてデザインが組み立てられています。
◯饕餮(とうてつ)文様
偁缶簋(しょうふき) 西周前期 紀元前10世紀 部分図
古代中国では、饕餮(とうてつ)は邪悪な悪霊を喰らい尽くす神獣として「魔除け」のために器の中央部分に、大きな怪獣の顔面のように刻まれました。全部細い線で表現されていたり、浮き彫りで表現されたりといろんなバリエーションがありますが、鼻筋の縦線を中心に、線対称に「目」や「鼻」「口」「耳」「角」などが大きく刻まれているので、比較的見つけやすいです。
◯龍型文様
直文方座簋(ちょくもんほうざき)
西周中期 紀元前10世紀 部分図
中国の伝統的文様の一つ「龍」も青銅器のレリーフとして登場。3000年前からずっと使われてきていたんですね。饕餮文同様、夔龍(きりゅう)文、夔鳳(きほう)文、蟠螭(ばんち)文と、時代毎に様々なバリエーションがありますが、こちらは饕餮文よりもちょっと見つけにくいかも。目を凝らしてじーっと見てないとなかなか浮かび上がってきませんが、宝探しのような感覚で是非頑張って見つけてみてください!
◯鳥型文様
井季卣(せいきゆう) 西周中期 紀元前10世紀 部分図
龍型文様同様、鳥型の文様も多数描かれています。小鳥が横を向いた文様から、羽をいっぱいに広げた鳳凰や孔雀のような大型の文様まで様々なバリエーションがありますが、上記写真のような派手な孔雀文は美しいですよね。生物の系統樹的に龍も鳥も非常に近いこともあって、文様として抽象化されると素人目にはどっちがどっちかわからないものもありました。
本展では、展示されているそれぞれの青銅器について、特にこの3つの文様にフォーカスして、どの文様がどの場所に配置されているのか、丁寧に1つずつハイライトして解説パネルで図示してくれています。これはわかりやすくていいですよね!
▼わかりやすく図示された文様
また、細かく描かれた文様をしっかり細部まで見たい!という人のために、嬉しいサービスが。展覧会中、先着20台でVixenの美術館専用単眼鏡貸し出しサービスをやってくれてます!
受付で「貸してください」とお願いすると、音声ガイドのような感じで、落とさないよう首から下げる形で貸してくれます。
落とさないよう、首から下げて使います
これ、メガネの上からでもちゃんと見れるように工夫されているので、ストレス無く楽しむことができました。
ちなみに、このVixen単眼鏡(4×12)はAmazonでもかなりの高評価。★4.5個はダテではありませんね。もしレンタルで借りるのがちょっと・・・という方は、これを機に購入してもいいかもしれませんね。(一応リンク貼っときます)
注目ポイント3:意外にかわいい青銅器
鴟鴞尊(しきょうそん)商後期・紀元前12世紀
見ていくと気づくのですが、ミミズクや虎など、動物をかたどった青銅器の中には妙にかわいい形をしたものが少なくありません。展示品の中からいくつかピックアップして再構成すれば「かわいい青銅器」展・・・みたいな切り口でも開催できそうです!
虎鴞兕觥(こきょうじこう)商後期 紀元前12世紀
これ、凄いデザインですよね。前が虎、後ろがミミズクを組み合わせた、ちょっと他にはあんまり見たことのないユニークなデザインの兕觥(じこう)=酒器です。出土例が少ない貴重なアイテムなのだそうです。
鴟鴞卣(しきょうゆう) 商後期 紀元前12世紀
こちらは、ミミズクを2体前と後ろに合体させた卣 (ゆう/釣手がついた酒器)。ずいぶん寸胴でとぼけた感じの表情が妙にかわいいですよね。三葉虫の化石を思わせるような羽の部分の渦巻き型デザインや、脚部までしっかり作り込まれた丁寧な手仕事が素晴らしいです。これは当時でも高級品だっただろうな~。
注目ポイント4:触って叩ける「体験型」展示が充実
展覧会で面白かったのが、精巧に再現されたレプリカを実際に触ってみたり、叩いてみたりできる「体験型展示」です。
触るとわかりますが、鋳造された青銅器は意外に肉薄で、持ち運びを考えて軽量化されている感じなんですよね。実際に展示品の中には、厚さ数ミリクラスの激薄青銅器が展示されていますし。また、年月を経て錆びちゃって緑青が表面に浮いている本物と違い、元々は10円玉みたいな色合いだったことがわかります。
ちなみに、西周時代~戦国時代にかけて大量に制作された「鐘」のレプリカは、叩いて楽しむことができます。
「神々の宿る器」展は、体験コーナーも充実してて、結構力入ってました。中でも古代中国の打楽器「編鐘」の復元レプリカを実際に鳴らして楽しめるコーナーは、かなり面白かった。ちゃんとスイートスポットがあったり、叩く場所によって音が変わったりします。これやるだけでも元は取れるかな(笑) pic.twitter.com/Iq6dx6h528
— かるび@アート&映画! (@karub_imalive) 2018年11月16日
これ、実は何度か撮り直ししてるんですが、ちゃんとスイートスポットを叩かないといい音が出ないんですよね(笑)そういうところも含め、本当によくできているなぁ~と。いろんな場所を叩き比べて、音色の違いを確かめるのも面白いですよ。
また、館外には目玉展示の《虎卣》をかたどった記念撮影立体パネルも用意されていました。虎に抱きつく人間像になりきることができます(笑)
記念撮影コーナー。思い出づくりに是非!
注目ポイント5:青銅鏡コレクションも見どころ満載
また、第二室では青銅鏡コレクションが充実。戦国時代から前漢・後漢時代を経て、唐代まで、龍、鳳凰、四神などが描かれたゴージャスなアイテムが沢山並んでいます。
神人竜虎画像鏡 後漢中期1~2世紀
こちらも、主要な作品には解説パネルつき。鏡に描かれた図像について詳しく知ることができるのはありがたかったです。
「四神」はキトラ古墳・高松塚古墳の古墳壁画で現れたり、西王母や東王父などの神仙たちなどは水墨画や江戸絵画などでも頻繁にモチーフとして使われました。 漢代に現れた中国でのこうした図像が、その後日本に伝わり、脈々と美術作品の中で受け継がれてきたのは感慨深いものがあります。
3.混雑状況と所要時間目安
過去に開催された展覧会の傾向から見て、展示を見るのがしんどくなるほど混雑することはまずないと思われます。ただ、所要時間は結構見ておいたほうがいいかも。ハマる人は徹底的にハマりそうな超絶技巧作品がズラッと並んでいるので、一つ一つ丁寧に見て回りたい方は、90分~120分程度は見ておいたほうが良いかと思います。
4.まとめと感想
1回目は内覧会でじっくり最後の一人になるまで粘って見せて頂いたのですが、それぞれの展示物のクオリティが素晴らしく、じっくり鑑賞するには全然時間が足りず。近日中にもう一度再訪するつもりです。
いつも古代中国の青銅器や青銅鏡、唐三彩などを目の当たりにすると、古代中国の圧倒的な文明の力に畏敬の念を覚えるのですが、今回も「神々のやどる器」たちに圧倒されっぱなしでした。3000年前の職人たちが精魂込めて制作した名器の数々、堪能させて頂きました!本当に素晴らしい展覧会なのでおすすめです!
それではまた。
かるび
展覧会開催情報
泉屋博古館分館
〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1
◯最寄り駅
・東京メトロ南北線線六本木一丁目駅北改札口より
屋外エスカレーターで徒歩3分
・東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口から徒歩10分
・東京メトロ銀座線溜池山王駅13番出口から徒歩10分
◯会期・開館時間
2018年11月17日(土)~12月24日(月・祝)
10時00分~17時00分(入場は閉館30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日(※12/24は開館)
◯入館料
一般800円/大学生・高校生600円/中学生以下無料
◯公式HP
https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/
https://twitter.com/SenOkuTokyo