かるび(@karub_imalive)です。
映画「何者」が10月15日から封切りされました。僕自身、20年前の就職活動で酷く苦労した思い出と、前職で採用担当をしていたことから、この映画をものすごく楽しみにしていました。早速、初日の朝一でダッシュで見てきましたので、以下感想を書いてみたいと思います。
※なお、後半部分にネタバレを含みます。ネタバレ部分は明示しております。
- 0.映画館の状況
- 1.映画基本情報
- 2.映画の評価や原作など
- 3.あらすじ(ネタバレなし)
- 4.あらすじ(★ネタバレあり)
- 5.考察と感想(★ネタバレあり)
- 6.原作との相違点について(★ネタバレあり)
- 7.まとめ
- 8.映画「何者」をもっと楽しむために
0.映画館の状況
僕が行ってきたのは封切り初日のいつものユナイテッド・シネマ豊洲。朝9時の回なので流石に空いていましたね。客層は、若い人、特に就活を控えた大学生が多かったです。就活のイメージトレーニングにぴったりですからね。
1.映画基本情報
【公開日】2016年10月15日(土)
【監督】三浦大輔
【音楽・サントラ】中田ヤスタカ
<オフィシャル予告動画>
1989年「就職戦線異状あり」以来、大学の新卒就職活動を正面からテーマとして描いた作品は、26年ぶりです。
2.映画の評価や原作など
本作は、原作があります。2013年に直木賞を受賞した朝井リョウ「何者」のストーリーライン、コンセプト、雰囲気までを忠実に映像化した作品でした。
映画と合わせて読むと、より「何者」の世界観がしっかりとつかめると思います。冷静で明快な筆致が非常に読みやすいです。
3.あらすじ(ネタバレなし)
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人である光太郎の引退ライブをぼーっと見ていた。気がついたら横にいたのは、光太郎の元彼女で、拓人のクラスメイトでもあった瑞月。そして、瑞月の留学時代の友人、理香と、その彼氏で同棲中の隆良。
ひょんなことから、この5人がつながり、理香の家を就活対策本部として共同で就活を頑張っていくことに。
5人はそれぞれの思いや事情を胸に、就職活動は進んでいくが、やがて事態の進展とともに、5人の友情や人間関係も思わぬ方向に流れていく・・・。
就職活動という、子供から大人に、モラトリアム時期を終えて社会において「何者」かになろうとする、大学生の「特別」な時期における揺れ動く心を、最新のリアルな就活事情を反映させて描いた青春群像劇。
---以降ネタバレあり注意---
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---以降ネタバレあり注意---
---以降ネタバレあり注意---
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4.あらすじ(★ネタバレあり)
御山大学学園祭最終日、主人公の二宮拓人(佐藤健)は、留学帰りの田名部瑞月(有村架純)と一緒に、同居人である神谷光太郎(菅田将暉)の就活前の引退ライブを見ていた。ライブが終わり、拓人が自宅に帰ると、すでに光太郎は就活に向けて髪の毛を黒に染め、早くも臨戦態勢に。
ある日、すっかりスウェットでくつろいでいたところ、瑞月から電話があり、電話に出てみると、次の瞬間、拓人の部屋に瑞月からの突然アポなし訪問で面食らう拓人。実は瑞月の留学生時代の友人が、拓人と光太郎の住むアパートの一つ上の階に住んでいて、就活対策をしていたのだった。アルバイト帰りの光太郎も含め、瑞月の友人宅で急遽就活対策をすることに。
瑞月の友人は、小早川理香(二階堂ふみ)。まだ就活早期なのに、早くもエントリシート対策など余念がない意識高い系女子。自宅のプリンターが故障中の光太郎と拓人は、今後ありがたく使わせてもらうことにして、理香の提案で理香の部屋を今後4人の「就活対策本部」にしようと意気投合した。
すると、宮本隆良(岡田将生)がそこへ帰宅してきた。理香と知り合って3ヶ月で同棲したとのことだが、初対面の印象や、斜に構えたツイッターの文面から、拓人がかつて活動し、ケンカ別れした「劇団プラネット」での相棒、ギンジと似たような「痛さ」を感じ苦手意識を持つのだった。
拓人にとって、「劇団プラネット」のサワ先輩(山田孝之)は頼れる先輩であり、たびたびバイトの前後に寝泊まりさせてもらっている。今日もサワ先輩の家でエントリーシートを書いていると、ギンジの立ち上げた新劇団「毒とビスケット」の話を振られるのだった。
就活が始まり、ある日拓人は筆記試験を受けた広告会社で、偶然瑞月と鉢合わせた。瑞月の話によると、意外なことに就活に否定的な態度を採っていた隆良が午後からの試験会場に来ていたという。瑞月と拓人が会場近くの定食屋でラーメンを食べていると、広告会社に走っていく理香も発見するのだった。皆必死なのだ。
昼食を取り終わった拓人と瑞月は、地下鉄に乗ると、瑞月は、両親の不和と、母親の看護のため、就職活動で必ず確実な内定を取らなければならない話を拓人に打ち明ける。
ある日、拓人はギンジとの過去の公演後のLINEのやり取りのことを思い出していた。地に足が付いていないフワフワしているように見えるギンジ。ギンジへのダメ出しがエスカレートし、人格攻撃になってしまったが、ギンジから帰ってきた答えは、「大学をやめて劇団を立ち上げる」という回答だった。それ以来、二人は決裂し、疎遠になってしまった。
隆良も含め、5人の就活は徐々に佳境を迎え、ある日、理香の家に再び集まった際、理香は就活用の名刺を作ったことをアピール。OB訪問等に使う相変わらずの意識の高さ。そして、光太郎は早くも最終面接へと進んでいた。
4月に入り、久々に大学キャンパスへ行ったある日、拓人は喫煙所で隆良とサワ先輩と鉢合わせする。隆良を見たサワ先輩は、拓人に「ギンジとは全然違う。もっと想像力を働かせろ」と言い残して去ってしまう。
5人の中で、一番最初に内定が出たのは瑞月だった。自宅でその報告電話を受けた拓人は、側にいた光太郎にそっと携帯電話を回すのだった。
後日、演劇に関連する会社のグループディスカッションで、理香と偶然鉢合わせした拓人。ディスカッションが始まると、理香に押されて発言できなかった。
その晩、理香の家で瑞月の内定第1号パーティが開かれた。大手通信会社のエリア職を手堅く内定していた事が判明。しかし、パーティの雲行きが怪しくなる。家庭の事情で本命の外資へいく夢をあきらめ、結果を選んだ瑞月には隆良のいい加減さが我慢できなかった。瑞月は相変わらず就活に中途半端な隆良に我慢できずにキレてしまう。部屋を出て行く瑞月を追う拓人。
拓人は、途中で瑞月を捕まえ、瑞月と会話。すると、瑞月は、前日、再度光太郎に告白したが、やはりどうしても気になる人がいるから、とまたも振られてしまったとのこと。
続いて、光太郎も中堅出版社に内定が出た。拓人のバイト先の飲食店で、サワ先輩と拓人、光太郎で祝賀会をした。拓人は、喫煙所でサワ先輩から、ギンジの5月公演に来いとクギを刺されるのだった。
終電を逃し、タクシーで帰宅する光太郎と拓人。拓人は、翌日の面接に備え、プリンターを理香の家に借りに行く。その時、理香は拓人の携帯に残っていた光太郎の内定先についての検索履歴を、拓人は理香のブラウザのキャッシュに残っていた瑞月の内定先についての検索履歴を見てしまい、お互い口論に。その時、理香は、拓人の「何者」というTwitterの裏アカウント「@何者」の存在を見て、激しく拓人を非難する。裏アカウントを暴露された拓人は、いたたまれなくなり理香の家を出ようとするが、部屋を出ようとする際に、就活に本腰を入れる決意をした隆良から「就活2年目なんだから、色々教えてくれ、よろしく」と言われてしまう。実は、拓人は就職浪人中の大学5年生なのであった。
拓人はTwitter上で別次元から事態を観察し、回りの痛々しくも必死に「何者」かになろうとしている友人を冷笑することで自分を保っていただけだったのだ。自分が一番想像力に欠け、何者でもない痛々しい存在であることに気づいた拓人は精神的に不安定になり、走り出してしまう。
そして、拓人は端月の元で泣き崩れてしまう。瑞月は、そんな拓人を見て「昔の拓人の書く演劇が好きだった」と伝え、慰める。
翌日、予定通り面接会場に向かった拓人は、たどたどしいながらも、自分の本音を面接で伝えるべく、不器用ながらチャレンジするのだった・・・。
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5.考察と感想(★ネタバレあり)
5-1.主題歌と劇伴がすごく良かった
劇伴音楽と主題歌には中田ヤスタカを起用。そして、米津玄師をVoに据えた中田ヤスタカの主題歌「NANIMONO」が、都会のビルの真ん中で若者たちが一人ひとり孤独な自分探しに似た就活と格闘する映画の世界観にハマリすぎてて、怖いくらいの良い出来でした。できればこれをエンディングだけじゃなくて、劇中に少し流してほしかったかなと思います。
5-2.就活生は絶対見たほうがいい!リアルな最新の若者の新卒就活シーン
映画中、新卒の就職活動のほぼすべての活動プロセスが描かれますが、今年春まで就活採用側の最前線にいた自分が見ても、非常にリアルに再現されていました。合同企業説明会、Webテスト、筆記試験、面接、グループディスカッション、採用/不採用連絡、就活生の心理描写、面接官の顔つきなど、本当によく考証されています。
大学生や就活生の親御さんは、絶対見ておいたほうがいいと思います。特に、立ち直った拓人が採用面接に挑む最終シーンは、新卒就活での独特な空気感を完璧に描ききっています。
また、映画中の主役6名のうち、特に理香=意識高い系、光太郎=天真爛漫系、瑞月=マジメ素直系は就活中によく見るタイプであり、就活に強いのは光太郎と瑞月のような人材なのであります。
5-3.みどころは、就職活動を通して、モラトリアムから突然放り出される若者たちがどう振る舞うのか
夢想的な自己実現に固執し、就活やギンジとの企画に泥臭く取り組もうとしない隆良や、安全な立ち位置から観察ばかりして悦に入る拓人は、いわばモラトリアムの象徴的存在でした。
それに対し、悩み抜いた上、家庭の事情から外資への夢を一旦あきらめ手堅く大手のエリア職を確保した瑞月と、中堅企業ながら、高校生からの憧れの出版社を決めた光太郎、そして痛々しくも演劇作品を創り続けることで夢へ必死で近づこうとするギンジ。
彼ら3人は、まさにモラトリアムから大人へと踏み出そうとする中で、まずは最初の結果を残そうとあがき、大成功ではないですが、小さな結果を出したわけです。
だけど、モラトリアムの終わりは突然やってくるので、ギアチェンジは非常に難しいものです。劇中、隆良は瑞月に正面から反論され、拓人はサワ先輩や理香から厳しく指摘され、ようやくそれぞれ目が覚めるわけですが、特に拓人はモラトリアムから脱出するのに2年かかっています。
小学校~中学校~高校~大学と、自分と全く同じ高さ、角度で人生を歩む仲間と、自分以外に自分の人生を一緒に考えてくれる家族や先生がいたからこそ、周りには結果よりプロセスを見て「優しく」承認してくれる人がいたわけです。
でも、与えられたレールは大学まで。社会人になったら、自分で進路を決め、自分で実現したいキャリアや結果を考えなければならないのです。
たとえ上手にできなくて痛々しくても、自分が「何者」かであることを周りにアピールしていかなければいけない。それが大人への第一歩なんだ、というメッセージが、クライマックスの瑞月の言葉から感じられました。
5-4.拓人が隆良とギンジを好きになれなかった理由を考察する
拓人は、隆良とギンジを「アピールばかりしていて痛々しいやつ」と同列に扱い、二人に対してその歪んだ自我の痛ましさを指摘してやりたい衝動にかられ、ネガティブな感情を押さえることができません。
映画でも、二人に対して全く同じセリフを投げかけます。ギンジにはLINEで、隆良には瑞月の後を追う前の捨て台詞として。
頭のなかにあるうちは、いつだって、なんだって、傑作なんだよな。お前はずっと、その中から出られないんだよ。
キツい一言ですよね。結果を出す前からうだうだ大言壮語を吐くなよ。結果を出してから物を言えよと。
映画の終幕直前で、実は拓人こそが一番痛々しく卑怯な観察者であることが暴露されるわけですが、拓人は、実は自分自身で、無意識に自分の痛ましさに気づいているのではないでしょうか。だから、繰り返し劇中で語られるこのセリフは、拓人が自分自身に投げかけている言葉なんですよね。
拓人は、ギンジと隆良にそれぞれ自分を投影しているのです。彼らの中に、どうしても自分自身と同じ「痛さ」を見てしまうので、反射的に嫌悪感を抱いてしまう。
ただ、サワ先輩が指摘したとおり、「ギンジと隆良は同じではない」のです。
劇団の拙いクオリティを批判されても表現することをやめず、必死で「何者か」であろうとするギンジの痛ましさは、拓人のもう一つの可能性でした。演劇から下りず、観察者に安住せず自分と向き合っていたなら、拓人はギンジ同様の葛藤や痛みと直面しなければならなかったはず。拓人はそのつらさがわかるからこそギンジを正視できず、ギンジの作る未完成な演劇から逃げ回りました。
一方、隆良は現在進行系の拓人の自意識が分かり易く「見える化」された別バージョンのような存在です。斜に構えて本気で行動せず、別次元から評論するだけの空っぽな生き様は拓人にとって、自分の情けなさを見るようなものであり、やはり正視できるものではありませんでした。
サワ先輩が「お前はどちらかというとギンジに似てるよ」と言ったのは、拓人の中にかつて確実に灯っていた情熱を高く評価している、サワ先輩独特の優しさの表現だったのではないでしょうか。
5-5.拓人が就活2年目であり裏アカウントを持っている伏線について
物語のラスト20分で、理香に裏アカウント「@何者」の存在を暴露され、部屋を出る際に隆良のセリフで拓人が「就活2年目」であることが判明し、物語は一気に動きを見せました。
が、その伏線は果たして映画中で表現されていたのでしょうか?
まず、裏アカウントについては、原作同様、物語前半では手がかりや伏線は全く明かされません。かろうじて、拓人が暇さえあればスマホに視線を落とし、SNSをチェックしているところから、Twitterに何かを書き込んでいるのだろう、というところがわかるくらいです。
これに対して、拓人が「就活2年目」であることは、割と簡単に推測できます。例えば、
・冒頭の光太郎の引退ライブで、拓人がすでにスーツ姿である。
・光太郎が就活を始める時「これから就活始めっから色々教えてくれよ拓人先輩」と話しかけているシーン
・サワ先輩の部屋でエントリーシートを書いていると、サワ先輩から「お前書き慣れてんだろそんなもん」と言われるシーン
・理香と瑞月が留学帰り=1年留年している、隆良が1年間休学をしていた事実
・瑞月と光太郎、拓人は1年生の時同じクラスだったクラコンのシーンがある
このあたりから、勘がいい人はひょっとしたら拓人も留年していたのかも?と推測することができたかもしれませんね。
5-6.後半クライマックスの演劇仕立ての演出について
映画最終盤、拓人が裏アカウント「@何者」に書き込んだ内容を物語序盤からのシーンと合わせて走馬灯のように振り返りながら思い出すシーンの演出は見事でした。
元々脚本家として観察力に優れた拓人が自意識をこじらせた結果、ギンジとの演劇でみずからの放つ痛さに耐えられなくなった結果、引退後はTwitterという閉じた自分だけの安全(に見えた)Twitter劇場でフォロワーに対して「演じる」ことで承認要求を満たしていた拓人。顔もわからない匿名の観衆たちの中に、ひとりスポットライトが当たり、拓人へ温かい眼差しを向けていた瑞月がいたことは、拓人にとって唯一の救いだったのかもしれません。
6.原作との相違点について(★ネタバレあり)
本作は、ストーリーや世界観、俳優のキャラクター設定に至るまで、ほぼ原作のコンセプトに忠実に描かれています。最終盤、三浦大輔監督の独創的な演出は非常に印象的で独自性を感じましたが、映画全体の雰囲気はちゃんとキープされた、計算された良い演出だったと思います。
とはいえ、細かいところでより映画らしい変更点がありました。主な違いを書いてみたいと思います。
6-1.全体的にセリフ回しがカットされている
文庫本で300ページを超え、約半年にわたる就職活動を100分弱に凝縮したので、ここは致し方ないでしょう。ただし、原作から抜粋されたセリフは、ほぼ一字一句忠実にスクリプトに起こされていました。
6-2.カット・変更された主なシーンや設定
・隆良の裏ツイッターアカウント「@備忘録」の存在
→就活をバカにして斜めに構えつつも、裏では就職活動に取り組んでいた隆良ですが、原作ではTwitterの裏アカウント「@備忘録」で自身の就活状況について淡々と綴っていました。ここは時間の都合上カットされましたね。
・留学中に光太郎に振られた端月との長距離電話回想シーン
→端月は、留学中に一度光太郎に別れを切り出されますが、それを電話で拓人が慰める回想シーンが原作にはありました。映画では全部カットされています。
・拓人と瑞月の広告代理店筆記試験受験後の食事内容
原作では、拓人は定食屋で生姜焼き定食を注文していますが、映画ではふたりともラーメンを食べていました。
・光太郎が主催のキーマカレーパーティ
→たまには拓人・光太郎宅に集まろうと呼びかけた光太郎が得意料理「キーマカレー」を理香に振る舞うシーン(瑞月、隆良は欠席)がありますが、映画では普通の宅飲みに変更されていました。
・LINEの導入
→2013年の原作発表時は、まだ一般的ではなかったLINEですが、映画ではギンジの存在が回想シーンだけの登場となったため、ギンジと拓人が劇団の運営方針を巡って口頭で本音をぶつけ合うシーンが、直接のやり取りではなく、LINEでの議論の応酬に変わっていましたね。
6-3.クライマックスで瑞月が拓人に「拓人の演劇が好きだった」と告げるシーンの順番が入れ替わっていた
原作では、前半部分でこのシーンが早々と出てきます。広告代理店の筆記試験後、偶然出会った瑞月と拓人が定食屋でゴハンを食べている時に、「拓人の演劇が好きだった」とエピソードを語るのです。このシーンを、映画では最終シーンの一つ手前へと移動させていました。
この設定変更は、正直すごく上手だなと感心しました。
サワ先輩や理香をはじめとする就活の仲間たちに、矮小な自我と自意識を見透かされ、Twitterの裏アカウントの存在も暴かれた拓人は、うちのめされ、言葉にならないくらい精神的に破綻寸前まで追い詰められるわけです。
そんな拓人を救うのは、拓人がずっと片思いだった瑞月しかありえないわけです。まだ演劇活動を通して一心不乱に「何者か」であろうと取り組んでいた、拓人の昔のひたむきな姿を、かつて好きだった人が見ていてくれて、承認してくれていたわけですから。しかも、Twitterでの軽い「いいね」ではなく、好きだった人から、ささやかながら肉声で届けられた意味のある承認。
瑞月の一言は、傷ついた拓人を精神崩壊寸前から救い出し、拓人に、不器用ながらようやく人生と向き合い、再び就職活動のスタートラインに立たせるだけの勇気を与えたことでしょう。
希望の持てるエンディングにスムーズに繋がっていくには、この瑞月の「演劇、好きだったよ」という強い承認シーンが、ストーリー上どうしても必要だったと思います。
7.まとめ
僕がこの映画で一番好きになったシーンは、拓人の最後の面接シーンです。演劇を辞め、長い間シニカルな観察者の立場に慣れきってすっかり自分を表現することから疎遠になってしまった拓人が、絞り出すような声で、自分の声を出そうともがくシーンは感動的でした。
結果、面接は失敗しましたが、ギンジのように、不器用でも「何者」かになろうと最初の一歩を踏み出せた拓人の懸命な姿勢は、見る人の心を温めたと思います。
原作も素晴らしかったですが、映画も期待を裏切らない良い出来でした。ぜひ興味があれば劇場に足を運んでみて下さい。
それではまた。
かるび
8.映画「何者」をもっと楽しむために
原作は、絶対読んだほうが得だと思います。朝井リョウが若干23歳の時に書き上げた、まさに作者との同世代をリアルに若い感性で描き出した傑作。さすが直木賞を獲得しただけあります。文体も軽快で、非常に読みやすいのです。映画がよかったなと思った人は、こちらを読んで損なしです。
「何者」のサイドストーリー6編を収めた短編集。演劇を創り続けるギンジのその後、光太郎の高校時代の初恋と、社会人になったサワ先輩の心暖まるエピソード、瑞月の家庭事情、理香と隆良の付き合うきっかけなど、本編のサブキャラ達のサイドストーリーがまず5編描かれます。
最終章の表題タイトル「何様」では、「何者」最終シーンで面接を担当した新卒採用担当に焦点が当たります。就職してからもまだ「何者」にもなりきれていない新卒人事が悩み葛藤する姿を描きました。「何者」をより深く楽しむためには、ファン必携のアナザーストーリー作品集でした。「何者」を読んでいなくてもこれだけでも楽しめるようにできています。文句なくお勧め!