かるび(@karub_imalive)です。
11月1日から上野の国立科学博物館で始まった、「世界遺産ラスコー」展に行ってきました。
クロマニヨン人が洞窟内で描いた動物の壁画や装飾品類がハイレベルであり、心の通った人間らしい「アート作品」であることに非常に驚かされました。また、クロマニヨン人の当時の生活や文化レベルについても、科学博物館らしい多彩な分析展示が非常に良かったです。
美術館系よりも写真撮影に寛容で、触ったり臭いをかいだり、音を聞いたりと先進的で、子供にもバッチリ配慮した良い展覧会でした。
ということで、早速行ってきた感想を書いてみたいと思います。
- 1.混雑状況と所要時間目安
- 2.子供も楽しめる音声ガイド!
- 3.ラスコーの壁画と今回の展覧会
- 4.展覧会の見どころは?
- 5.その他気になった展示
- 6.まとめ
- 展覧会開催情報
- 展覧会の予習・復習に役立つ書籍類
1.混雑状況と所要時間目安
初日はガラガラでした
春休み~GW期間を含んで開催された「恐竜展2016」もそうでしたが、平日は割と空いていますが、休日は一転して家族連れで大混雑するのが、国立科学博物館の特徴です。
3連休や子供の冬休み期間中は混雑すると思いますので、念のためこちらのサイトを見てから出かけるのがいいと思います。
2.子供も楽しめる音声ガイド!
前々回の「大恐竜展2016」の際は、子供と大人の音声ガイドが別々になっていました。今回の音声ガイドは、大人/子供共通ですが、遊び心と工夫が満載の楽しいガイドでした。
これは面白い!と感じたポイントとしては、いくつかのガイド音声の最後に3択クイズが出題されること。例えば、
問題:
「◯◯について、正しいものはどれでしょうか?」
回答:
「◯◯なら、21番をプッシュ」
「△△なら、22番をプッシュ」
「✕✕なら、23番をプッシュ」
といったように、ガイド機が一種のシミュレーションゲームのような使われ方をされているのが斬新でした。大人も子供も楽しめるので、是非借りてみて下さい!
3.ラスコーの壁画と今回の展覧会
フランス中西部~スペインにかけて、ネアンデルタール人やクロマニヨン人の生活していた遺跡がいくつも見つかっています。壁画もいくつか見つかっていて、世界最古の壁画はショーヴェ洞窟にあり、およそ32000年前に描かれたものであるとされています。
ラスコーの壁画は、約20000年前と世界最古ではないものの、現存する壁画群の中では、群を抜いて大規模で、しかもクオリティも高く保存状態も良いので、世界的に有名になっています。
フランス政府では、1940年の発見以来、常にこのラスコーの壁画を人類共通の世界遺産として丁寧に取り扱い、国を挙げて保護と出土品の多角的な研究を進めてきました。
このラスコーの壁画展は、フランス政府の企画により各国を巡回中の国際的な展覧会で、日本では東京と宮城、福岡と3箇所を巡回する予定です。日本では、さらに日本独自のコンテンツも付け加えて展示されています。
ちなみに、写真は一部のコーナーと映像を除いて、フラッシュなしであれば撮り放題なので、思い出に残したい方は、是非カメラを持っていくと良いと思います。
4.展覧会の見どころは?
4-1.ラスコーの壁画にまつわるストーリー
ラスコーの壁画は、1940年にフランス中西部、ドルドーニュ県レゼジー村で、地元の少年がヴェゼール渓谷の野原で遊んでいたときに偶然に発見されたところから始まりました。
ラスコー洞窟近辺ののどかな風景
発見後、すぐに調査隊が入り、600点を越える大規模な壁画群と、その良好な保存状態、ハイレベルな美しい動物画で、瞬く間に世界的な注目を浴びる有名な遺跡になりました。世界中から観光客や研究者が訪れ、多い時は1年間に10万人の見学者が殺到したと言います。
見学者を迎える1940年代のラスコー洞窟
(引用:http://www.lascaux.culture.fr/)
高松塚古墳などもそうですが、暗く密閉され、外気や細菌との積極が最低限に保たれていた環境が大きく変わってしまうと、脆弱な壁画は一気に劣化が進んでしまいます。
ラスコーも例外ではなく、洞窟内に多数の人が入るようになってから、呼気に含まれる二酸化炭素と壁画の石灰岩が反応して絵の鮮明さが落ちたり、人間の持ち込んだ細菌や空調施設を設置したことで、カビや苔が生えたりしたといいます。
カビ、変色の痕
(引用:http://www.lascaux.culture.fr/)
事態を重く見たフランス政府は、ラスコーを立入禁止として、そのかわり観光資源や研究用として、1980年代にオリジナルのラスコーの洞窟と壁画そのものを複製した「ラスコー2」という洞窟を近隣に作りました。今では、観光名所として有名です。
さらには、国際巡回展用に、コンピュータやデジタルプリント技術を駆使して、「ラスコ-3」という、オリジナルと誤差1ミリ以下の超精巧な複製が制作されました。今回巡回展で展示されるのは、この「ラスコー3」です。 現場ではパネルや立体模型、複製を制作する際のプロセスや道具などが、分かり易く展示されています。
複製画制作に使用された道具類
4-2.ラスコーの壁画の複製(ラスコー3)
ラスコーの洞窟壁画は、洞窟の広範囲に渡って描かれています。展覧会で洞窟ごと再現された5つの洞窟壁画の複製画は、デジタル技術を駆使した上、最終的な作業は専門家の手作業で仕上げられ、洞窟内の微細な形状やひび割れ、退色など、オリジナルに非常に近い完璧な仕上がりになっています。
完璧に再現された洞窟壁画
特に、数分おきに館内の照明が全部落ちて、蛍光塗料で描かれた壁画の動物たちの輪郭だけが浮かび上がる趣向は非常に幻想的で良かったです。ここまで仕上げるのは本当に大変だったはず。何度見返しても価値がある展示だと感じました。
照明が落ちると、壁画に描かれた動物の輪郭が浮かび上がる
4-3.クロマニヨン人の遺した芸術品達
(引用:国立科学博物館HPより)
そして、本展示のハイライトは最終コーナーにあるクロマニヨン人の遺した優れた芸術品たち。猿から類人猿を経て、原人~ホモ・サピエンスへと至る人類進化の歴史の系譜の中で、「人類」になったと言える境目はいつからとみなせばいいのでしょうか?
色々な基準が考えられると思うのですが、著書「ラスコーの壁画」で、哲学者のジョルジュ・バタイユが提示する「芸術が誕生した時」という回答は説得力があります。
今のホモ・サピエンスへと進化する一つ手前のネアンデルタール人は、労働の象徴である「石器」は利用していましたが、言語や装飾品や生活上の儀式など、独自のアートや文化を持ちませんでした。そして、石器を使うだけなら、チンパンジーやゴリラでもある程度出来るのですよね。
しかし、ラスコーを始めとする、紀元前2万年前前後と推定されるフランス中西部のクロマニヨン人の遺跡では、鹿の角や象牙を加工した装飾品や、埋葬の際に添えられた副葬品や、美しい壁画類など、生きるために最低限必要な「道具」を超えた「芸術」とみなせる作品群が見つかっています。
ネコ科の動物が描かれた骨角器(引用:国立科学博物館HPより)
ヴィーナス像(引用:国立科学博物館HPより)
これがさらに少しずつ進化していって、紀元前3000~4000年前の古代ギリシャ文明につながっていったのだな、と、自分の中で人類の文化・芸術史ののミッシング・リンクが少し埋まったような気がしました。
この最終コーナーの作品は写真NGなので、画像を載せましたが、是非目で見ていただきたいと思います。2万年前の人類が、石器や骨角器などをこんなにアートの香りがする精巧な加工をしていたのか、と驚かされます。(というか今の自分に同じものを作れと行っても多分ムリ/笑)
5.その他気になった展示
5-1.精巧に作られたクロマニヨン人の人形
今回の展覧会では、非常に精密に制作されたクロマニヨン人の人形が展示されています。顔を見ると、ほとんど今のヨーロッパ人と変わらない作り。よくよく見ると、体毛や手足の太さなどは違いがあるのですが、多分現代的な衣服を来てそのあたりに紛れ込んでいたとしたら、見分けがつかないと思います。
物凄くリアルで、細かいところまで作り込まれていますので、是非チェックしてみて下さい。
5-2.クロマニヨン人第1号の頭骨のレプリカ
19世紀、ラスコー洞窟から少し離れたクロマニヨン洞窟から見つかった第1号の人骨。ここから、近辺一帯で見つかった同時代の人骨が「クロマニヨン人」と名付けられたそうです。
5-3.埋葬されたクロマニヨン人のレプリカ
洞窟で発見された埋葬された女性の人骨ですが、面白かったのは、頭蓋骨に付着していた貝殻みたいなつぶつぶ。埋葬されたときに副葬品として頭に被されたものだそうです。面白いですね・・・。
6.まとめ
厳重な壁画保護のため、一部の研究者以外は入ることが出来ないラスコーの洞窟。幸いなことに最先端のデジタル複製技術で制作された精巧なレプリカを通して、氷河期に生きたクロマニョン人の素晴らしい壁画を臨場感たっぷりに味わうことができます。
展示自体はあっさりしていますが、超リアルな壁画展示とクロマニヨン人の遺した原初のアート作品は、非常におすすめできるコンテンツでした。親子での鑑賞にも好適な展覧会です。驚きと楽しさに満ちた展覧会ですので、是非!
それではまた。
かるび
展覧会開催情報
「世界遺産ラスコー」展は、東京展のあと、宮城、福岡へと巡回します。来年までやっているから、旅行のついでに見て回るのもいいかも。
展覧会名:「世界遺産ラスコー」展
会期:
【東京】2016年10月15日~2017年1月15日
【宮城】2017年3月25日~2017年5月28日
【福岡】2017年7月11日~2017年9月3日
会場:
東京:国立西洋美術館
宮城:東北歴史博物館
福岡:九州国立博物館
公式HP:http://lascaux2016.jp/index.html
Twitter:https://twitter.com/lascaux2016
展覧会の予習・復習に役立つ書籍類
今回の展覧会に合わせて出版されたムック本。ラスコーの壁画の大特集に加えて、世界各地の古代~中世にかけての洞窟壁画を一気に紹介した、価格の割に情報量の多いまとめ本的な良書。
ラスコーに魅せられたフランスの大哲学者、ジョルジュ・バタイユがラスコーの壁画を「哲学者らしく」熱く語ります。古くて高い本だから、図書館で借りてもいいかも。僕もつまみ食いで読みましたが、難解ですが彼の熱さは十分伝わってきました(笑)