あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

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【感想】ジャコメッティ展:異常な細さはクセになる?!充実の大回顧展を見逃すな!

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かるび(@karub_imalive)です。

国立新美術館で6月14日からスタートした、彫刻家アルベルト・ジャコメッティの没後50年の節目に開催された大回顧展「ジャコメッティ展」に行ってきました。

国立新美術館ならではの贅沢な展示空間で、20世紀最大の彫刻家と言われたジャコメッティの個性的な作品群が大量130点出展されている、力の入った回顧展です。

いやー、噂に違わぬ細さ、堪能してきました!圧倒的な個性としかいいようのない、激細の彫刻達!何とも言えない神秘的な味わい深さがありました!

早速ですが、以下、簡単に感想を書いてみたいと思います。 

※本エントリでの展覧会風景の写真は、予め関係者の許可を得て撮影・掲載したものとなります。

1.ジャコメッティ展に行く前に知っておきたい4つの前提知識

ジャコメッティの芸術は、大雑把に分類すると現代美術に属しますが、その作品に見た目上のわかりにくさはなく、絵画や素描に至っては、完全に具象画です。

ただし、何も前提知識なしに行くと「だから何?」ってことに陥りがち。簡単でも良いので、前提知識を仕入れておくと、より展覧会が楽しめると思います。ここでは、4つに絞って、簡単に前提知識を紹介したいと思います。

ポイント1:ジャコメッティって誰なの?

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(引用:Wikipediaより)

アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)は、スイスに生まれ、1922年以降はパリを主な活動拠点とした芸術家です。その唯一無二な作風で、20世紀を代表する大彫刻家として知られます。最近では、彼の作風が大きく変化するきっかけとなった時期に制作された1947年の作品「指差す人」彼の作品史上最高の約170億円で落札されるなど、死後50年経過しても、その人気は留まるところを知りません。

「指差す人」
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引用:Giacometti: the defining gesture | Christie's

ジャコメッティが作風を確立したターニングポイントとなったのは、まさにこの「指差す人」を制作した1947年頃でした。彼は、1920年代~30年代にかけて、キュビスムやシュルレアリスムなど現代美術の潮流の中で影響を受けながら絵画や彫刻の制作を続けてきました。

バリバリキュビスムな初期作品「コンポジション」f:id:hisatsugu79:20170615235649j:plain

 

しかし、アンドレ・ブルトンと「人体の頭部」を巡っての見解で対立すると、シュルレアリスムや抽象芸術から距離を置き、独自の芸術を目指します。

前衛的な現代アートのメインストリームだった抽象芸術から離れ、あくまで「見たものを見えたままに表現する」具象表現へ回帰していったジャコメッティは、この頃から急激に極端に細長い人体像を量産しはじめました。

それまで無名の存在だったジャコメッティでしたが、この作風転換を契機として、高名な評論家や同時代の芸術家たちに評価され始め、1948年の13年ぶりの個展を追い風として、とうとう遅咲きの大ブレイクを果たしたのでした。

ポイント2:ジャコメッティの作品はどうしてこんなに細いのか?

「石碑Ⅰ」
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彫刻作品に空間的な広がりを作るため、とか、孤独や恐怖を表現するため、など、評論家によって、様々な説明がなされています。どれもそれなりの説得感があるのですが、一番しっくり来たのは、ジャコメッティ本人の説明でした。

シュルレアリスムと決別したジャコメッティの新たな悩みは、目に見えるものをその通りに作り出そうとすると、作品がどんどん小さくなってしまうことでした。当時は、小さければ小さいほど作品の中にリアリティを感じたからです。1941年頃、彼の彫刻作品は、とうとうマッチ箱に入るようなサイズにまで縮んでしまいました。

しかし、これ以上小さな作品はもう作りたくない!と思って、とにかく作品の「高さ」を確保しようとしたら、今度はどんどん細くなっていってしまったのだそうです。

これら一連の変化は、彼の中では、あくまで「見えたものを見えたままに作り出す」ことにこだわった結果でした。狙って作り出した作風というより、無心に理想を追い求めた結果、このような唯一無二の作風が出来上がっていったというわけです。

ポイント3:なぜジャコメッティはこんなに評価されているのか?

ジャコメッティの強烈なオリジナリティと深い精神性が評価されているからです。ムダなものが極端なまでに削ぎ落とされ、縦に大きく引き伸ばされた細長い彫刻をじっくり見ていると、様々な感情や感想が湧き上がって来る人が多いようですね。

「生と死の深淵を覗いたような気がする」
「空間が変容するような体験をした」
「精神性と物質性が高いレベルで共存している」

こればかりは、直接作品を見ないとわかりませんが、強烈な何かを感じさせてくれる作品群であることは間違いありません。是非美術館へ足を運んで、直接体験してもらえればと思います。

ポイント4:「見たものを見えたように描く」理想を追い求めた作家

1940年代から1966年に死去するまでのキャリア後半では、ジャコメッティは一貫して細長い人物彫刻をストイックに作り続けました。特に、以下の3つのモチーフは、繰り返し制作を続けています。

・歩く男
・女性立像
・頭部像

彼の作品では、男性像は歩いていることが多く、女性は直立不動です。そして、彼が他の何よりも魅了されたのは、人体の「頭部」でした。

今回のジャコメッティ展でも、作風が確立した1947年頃以降の作品については、ほぼこの3点に絞って制作が続けられています。「犬」とか「鼻」は、いわば息抜きのために一瞬のインスピレーションで制作された例外的作品

彼は深夜から朝方まで寝ないで制作をする、超のつく「夜型」人間でしたが、前日まであった頭部の彫刻が、次の日にはもう跡形もなく壊されていることもよくありました。彼のアトリエは、しばしばその狭さと、創造と破壊を短期間で繰り返す制作スタイルから「まるで戦場のようだ」と言われました。

「ディエゴの胸像」
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ちなみに、現在まで残っている彼の作品の相当数が、朝方にジャコメッティが寝ている時こっそり鋳型を取って、壊される前に作品をサルベージした弟、ディエゴの働きによるものともいわれています。

2.ジャコメッティ展とは

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・・・さて、すっかり前置きが長くなりました。ここからが、「ジャコメッティ展」の感想記事本編となります。

今回のジャコメッティ展は、2006年の「アルベルト・ジャコメッティ展」以来、約11年ぶりに日本国内で開催される大型回顧展です。今回は、初期~晩年までの彫刻が満遍なく展示されている他、素描や挿絵本など、約150点もの作品が集結しました。

今回の出展は、その多くを南仏のニース近郊にある「マーグ財団美術館」からの大量貸出によって実現しています。「マーグ財団美術館」は、元々パリの有力な画商だったマルグリット&エメ・マーグが、長年のキャリアの中で収集した近現代の巨匠作家たちの作品を中心として、1964年に設立されました。

ジャコメッティも、開館に際して大量35点の彫刻をはじめ、約100点の素描や版画類を寄贈しています。そのため、同美術館のコレクションは世界3大ジャコメッティ・コレクションの一角を占めています。(他の2つはパリとスイスのジャコメッティ財団)

マーグ財団美術館
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(引用:http://www.tbs.co.jp/giacometti2017/about/

ジャコメッティの他にも、ミロ、カルダー、ブラック、ピカソ、レジェなどの絵画・彫刻や素描類が収蔵されています。20世紀近現代美術の愛好家にとってはたまらないラインナップですね。

音声ガイドが秀逸!山田五郎のスペシャルトークも良い!

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音声ガイドのメインパーソナリティは、速水もこみちが担当します。今や俳優業より、すっかり「料理男子」としてのイメージが確立しましたが、今回の音声ガイドでは、アナウンサーの助けも借りず、しっかり情感込めて説明してくれています。収録ボリュームも多めで、クオリティの高いガイドでした。

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(引用:http://www.tbs.co.jp/giacometti2017/etc/

そして、特別ゲストは山田五郎!同じTBSつながりで、前回の「シャセリオー展」に続いてのゲスト起用。「シャセリオー展」では、見事なトーク力でわかりやすく西洋美術史の観点からシャセリオーの絵画について紐解いてくれましたが、ジャコメッティ展でもそのわかりやすさは健在!特に現代美術系になると、評論家は難しいことしか言わないので(苦笑)、この人のようなわかりやすさは貴重です。

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3.展覧会の見どころ

ジャコメッティは、マッチ箱に入るような超ミニチュア作品から、最大は2メートルを超える大作まで、様々なサイズの作品群を制作しました。やっぱりメインの見どころとしては、「大きい」作品でしょう。特に、本展覧会の後半のハイライトをまず2つ紹介しますね。

写真撮影も可能!最晩年の代表作品群3点

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ジャコメッティ作品の中でも、特に大きな晩年の作品が、チェース・マンハッタン銀行からの依頼で1959年に制作された3つの彫刻「女性立像」「頭部」「歩く男」です。

「歩く男」
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「頭部」
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「女性立像」
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理想主義的なところのあるジャコメッティは、本作を自身のキャリアの集大成としていたのか、チェース・マンハッタン銀行から依頼を受けてから、納得がいくまで作っては壊し、作っては壊しを繰り返しました。結果的に、本作品は一時期作業中断をはさんで、数年がかりでの完成にこぎつけられましたが、かなりの難産となったようです。 

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そして、この3点に限っては、写真撮影もOKとなっています。是非、記念にどんどん撮って思い出を残していってくださいね。 

ベネチア・ビエンナーレ出展作品

「ヴェネツィアの女」
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もう一つのハイライトは、まるでボウリングのピンのように、三角形に置かれた9体の女性像「ヴェネツィアの女」です。よく見ると、1体1体、どれも他とは微妙に違っています。

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このように、近くで見てみると、細長く引き伸ばされた彫刻1体1体も、表面にはかなりの凹凸があります。1体ずるじっくり見ても良いですし、遠目から9体まとめて鑑賞してみるのも面白いです。

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4.特に印象に残った展示物

4-1.「女=スプーン」

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まるで、古代ギリシャ時代のキクラデス文明から着想を得たようなプリミティブな雰囲気が漂う作品。キュビスムやシュルレアリスムに影響を受けていた時代の初期作品の中では、これが一番力強い感じがして好きでした。

4-2.鼻

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吊り下げられた彫刻は、アレクサンダー・カルダーの「動く彫刻(モビール)」のような軽やかさがあります。ピノキオのような長い鼻は、横から見るとピストルのような形状に見えたり、男性器の象徴に見えたりと、いろいろ解釈がありそうですが、シュルレアリスム的なおかしみがあって印象的でした。 

4-3.犬と猫

「犬」
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「猫」
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後半生で人体にこだわって彫刻を作り続けたジャコメッティが、息抜き的な思いつきで時折取り組んだ動物の彫刻。しかし、結果的に彼らも見事に骨と皮だけになってしまいました。哺乳類というより、まるで恐竜の化石のような雰囲気が漂っています。

4-4.絵画・素描

「真向かいの家」
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ジャコメッティは、彫刻作品以外にも、多数の絵画や素描類を残しました。起きている時は四六時中制作のことを考えており、取り憑かれたようにデッサンに取り組んでいたそうです。亡くなる臨終の瞬間まで、側に控えていた弟ディエゴを心のなかでデッサンしていたという逸話まで残っています。

「肘をつくヤナイハラ」
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彼の制作には終わりがなく、一度デッサンを続けたら、何百日もモデルを拘束することもザラにありました。ジャコメッティとの親密な交流で有名な哲学者・矢内原伊作も、肖像画のモデルとして、のべ230日間も彼の狭いアトリエで1日中座らされたそうです。

今回の展覧会でも、パリの風景画、スイスのスタンパの自宅から見える風景、静物画、肖像画、およびその素描類が相当数出展されています。素描類の中には、ちゃんとした紙に描かれたものだけでなく、読んでいた新聞に直接描いたもの、チラシの端にサラサラと描いた落書きレベルのものまで展示されていて、面白いですよ。 

5.混雑状況と所要時間目安

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現代美術系の展覧会ですし、広い国立新美術館なので、混雑することはまずないでしょう。館内も相当ゆったりスペースが取られていますし、会期最終週以外なら快適に見れると思います。所要時間は、意外と必要。展示量が多めなので、1時間30分は見ておきたいところです。

6.グッズコーナーはスイス系とダジャレ系

そして、最後は物販コーナー。今回は、かなりタイアップに苦戦したのか(?)、それとも最近のアート系展覧会の密かな流行りなのか、ダジャレ系のグッズが目立ちました。えー、売れるといいですね、、、

公式図録
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恐竜の写真集ではありません(笑)展覧会の図録の表紙を飾ったのは意外なことに「犬」でした。中身はオーソドックスながら、ジャコメッティの生涯年表が非常にわかりやすく堅実な作り。日本語文献が非常に少ない芸術家なので、今展覧会の図録は、資料的な価値も非常に高いと思われます。

スイスのグッズ類
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そして、ジャコメッティの生まれ故郷にちなんで、スイスの珍しい輸入雑貨が並んでいました。ファンシーで洗練された感じ、すごく良いですね。

ここまではいいのですが、問題はここから。
こちらがTwitterでも話題沸騰中(?)のハイセンスなタイアップ商品となります!じっくりご覧ください!!

ジャコメッTEA
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ジャ米ティー
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グッズ類で一番目立つところに堂々鎮座していたのが、お茶と日本酒のダジャレ系商品。すごいセンスだ!しかも、パッケージには「歩く男」と「女性立像」がばっちり印刷されていて、独特の妖しさを放っています(笑)特に2つ目の日本酒「ジャ米ティー」は、無理やりすぎて凄い!ていうか、そもそもお茶ですらないし! 

7.展覧会に関連する資料など

 ジャコメッティの肖像

矢内原伊作の著作など、ジャコメッティとの交流を克明に記録した書物は数冊あるのですが、個人的にはこのジェイムズ・ロード氏の記録が一番読みやすく、客観的にジャコメッティの制作プロセスや彼との交流が整理されていると感じました。お値段は張りますが、ジャコメッティがどんな人だったのか、何を考えて制作に取り組んでいたのかガッツリ理解できるハイクオリティな書籍です。

DVD アルベルト・ジャコメッティ 本質を見つめる芸術家

ジャコメッティの業績や人となりを、彼と交友のあった芸術家や評論家、コレクターの証言でまとめあげた珠玉のアート・ドキュメンタリー。晩年のジャコメッティがアトリエや実家で制作するシーンも満載。特に、アンリ・カルティエ=ブレッソンが撮りためたジャコメッティの写真を元に、その人となりを解説するシーンは貴重な映像資料だと思います。すでにAmazonで中古しかないけど、高額な書籍を買うなら、こちらのほうがおすすめ!再発しないかな・・・。

8.まとめ

一見、普通のどこにでもいるような汚らしいおじさんにしか見えないジャコメッティ。しかし、彼は、世俗的な成功には目もくれず、40年以上狭いアトリエで求道者のように作品を作り続けた真の芸術家でした。来る日も来る日も「目に見えるもの」を形にしようと理想を追い求めたジャコメッティの作品には、そこはかとなく神聖な雰囲気も宿っているような気もします。

ジャコメッティの彫刻作品は、絶対に近くで自分の目で見た方が良いと思います。この夏は、是非ジャコメッティ展へ!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

ジャコメッティ展は、東京展のあと、豊田市美術館へと巡回予定です。

◯美術館・所在地
国立新美術館
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
◯最寄り駅
東京メトロ千代田線 乃木坂駅 青山霊園方面改札6出口(美術館直結)
東京メトロ日比谷線 六本木駅 4a出口から徒歩約5分
都営地下鉄大江戸線 六本木駅 7出口から徒歩約4分
◯会期・開館時間・休館日
平成29(2017)年6月14日(水)~9月4日(月)
10時00分~18時00分(毎週金・土は20時まで)
※入場は閉館の30分前まで

◯公式HP
http://www.tbs.co.jp/giacometti2017/
http://www.nact.jp/exhibition_special/2017/giacometti2017/

◯Twitter
https://twitter.com/giacometti2017

◯美術展巡回先
■豊田市美術館
2017年10月14日(土)~12月24日(日)