あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【展覧会感想】「カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」展

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かるび(@karub_imalive)です。

10月19日から、「抽象絵画の父」とも呼ばれる、カンディンスキーと、パナソニック汐留ミュージアムが得意とするルオーを組み合わせた展覧会、「表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」展が始まりました。

この秋は、同じく10月7日からカンディンスキーから著しい影響を受けた「オットー・ネーベル」展も渋谷Bunkamuraにて行われていますし、10月14日からは新宿オペラシティで「韓国の抽象」展も開催中。まさに抽象絵画に集中的に慣れ親しむ絶好のチャンスなのです。

そんな中、運良くブロガー内覧会に応募したところ当選しましたので、早速行ってきました。以下、簡単ですが感想を書いてみたいと思います。
※本展は、特別な許可を得て写真撮影をしております。予めご了承下さい。

1.「カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」展について

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パナソニック汐留ミュージアムでは、ジョルジュ・ルオーの作品を多数所蔵している美術館です。だからなのか、彼と同世代の画家をフィーチャーする時は、「ルオーとの関連性」に着目したコンセプトで展覧会が開催されることが多いのです。

これまでも、2017年「マティスとルオー展」では彼らの間で長年交わされた書簡から、二人の友情を、2013年「モローとルオー展」では、二人の師弟関係をそれぞれフィーチャーして展示が行われました。 

そして、今回の「カンディンスキーとルオー展」では、20世紀初頭の「ドイツ表現主義」(カンディンスキー)、「フォーヴィスム」(ルオー)を通過して、独特の絵画表現の世界を確立した二人の「色彩表現」の豊かさに着目します。

2.展覧会の4つのみどころ

みどころ1:カンディンスキーのルーツが非常にわかりやすい!

この展覧会では、特に一番にフィーチャーされている抽象絵画の巨匠、カンディンスキーの画業を簡単に振り返ることができます。

彼が抽象画に移行する前の若き修行時代から、ドイツ表現主義にどっぷり浸かり、そこから独自の色彩感覚で抽象絵画へと傾倒していった全盛期までの、彼の画風の変遷をバッチリ見て取ることができました。

▼抽象表現への移行期のカンディンスキーの作品。
うごめく色彩が素晴らしい!
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左:カンディンスキー/ERキャンベルのための壁画No.4のための習作
右:ミュンター/抽象的コンポジション

面白かったのは、彼がそのキャリア初期の段階から、すでに独特の色彩感覚を持っており、色使いへのこだわりが感じられる作品を残していたことです。

▼カンディンスキー「商人たちの到着」f:id:hisatsugu79:20171019083135j:plain

拡大してみるとわかるのですが、細かいところまで「黒」を基調とした背景や輪郭線の上に、「白」「赤」「青」「黄色」と限られた色で、点描のように色彩を置いて表現した独特の描き方が非常に印象的です。

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画像:入り口設置ポスターを接写

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画像:入り口設置ポスターを接写

そして、もちろん抽象表現に移行してからの円熟期の作品も(多くはないですが)出展されています。

▼右:カンディンスキー「活気ある安定」
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決して「大回顧展」というほど作品が網羅されているわけではないのですが、コンパクトにしっかりまとまっているため、かえって短時間でパパッと把握しやすかったです。

みどころ2:ドイツ表現主義の画家たちの作品も多数出展!

本展では、カンディンスキー本人の作品だけでなく、20世紀初頭にドイツで結成されたアートの潮流「ドイツ表現主義」の画家たちの作品が多数展示されています。

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「青騎士年鑑」(カンディンスキー主催のグループ誌)

1905年に立ち上がったアート作家のサークル「ブリュッケ」や、カンディンスキーが1912年に立ち上げたサークル「青騎士」などに所属する画家たちの、プリミティブで自由な色彩感覚(でも結構寒々しい)の絵画を見比べることができます。

▼ドイツ表現主義の画家たちの作品f:id:hisatsugu79:20171019084133j:plain
左:ペヒシュタイン「森で」
右:カンペンドンク「少女と白鳥」

やっぱり、並べてみると彼らの作品ってすごく作風が似ているんですよね。サークル内で、お互いに影響を与えあっていたんだなぁと感心しながら見ていました。

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左:ペヒシュタイン/パイプ煙草を吸う漁師

面白かったのは、この作品。どこからどう見てもゴッホの「タンギー爺さん」であります。ちょっと見比べてみましょう。

▼元ネタ:ゴッホ/タンギー爺さん
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引用:Wikipediaより(今回出展されていません)

見たものにとらわれず、心象風景を大胆に描こうとしたドイツ表現主義の画家が、あくまで見えたものを見たままに描こうとしたゴッホをリスペクトしているのが、なんとなく不思議な気もしました。

みどころ3:パウル・クレーの作品も多数出品されてます!

今回の展覧会は、「カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」展なので、メインの2人以外にも、ドイツ表現主義の有力な画家たちの作品も出展されています。

その中で一番の目玉作家はパウル・クレーです。国内No.1のクレーコレクションを誇る宮城県美術館の所蔵品から、なんと大量26点もの水彩画・油絵・版画類が出展されていました。これなら、展覧会名は「カンディンスキー、クレー、ルオー展」とかでも良かったかも?!

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左:パウル・クレー/グラジオラスの静物
右:パウル・クレー/橋の傍らの三軒の家

上記の写真では、暖色系と寒色系の色の塗り分けだけで、立体感やモノの存在感を際立たせる試みや、水彩画特有の色の滲みで味わい深さを表現しています。感性だけでテキトーに作品を作れる天才肌なのかなと思っていたら、意外にも緻密な試行錯誤によって作品を生み出していた人だったのですね。

▼宮城県美術館
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まだ行ったことがないのですが、宮城県美術館はそれ意外にも日本画・洋画を問わず、近代絵画で良さそうなコレクションを沢山もっていそうなので、この展覧会を見て是非今度行かねば!と決意を新たにしました。

みどころ4:ルオーを見るならやっぱりパナソニック汐留ミュージアムがNo.1

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まだ著作権が残っているため、写真撮影は禁止されているのですが、やっぱりパナソニック汐留ミュージアムは、ルオー作品が本当に充実しています。

カンディンスキー同様、ルオーもまた、フォーヴィスムを経て、彼の心の内面に秘めた宗教観や色彩感覚をキャンバスに大胆に塗り尽くしています。面白かったのは、カンディンスキーの作品には、リズム感や独特の動きが感じられるのですが、ルオーの作品には妙な静けさや落ち着きが漂っていることです。

「赤」「緑」「青」「黄色」などの三原色系の色に、極太の輪郭線であんなに厚塗りしているにもかかわらず、じーっとみていると、聖なる神々しさが感じられるというか。さすが20世紀最大の宗教画家ですね。カンディンスキー作品と比べることで、「マティスとルオー展」のときには感じなかったまた別の印象が感じられました。

3.グッズコーナーもあります!書籍コーナーや絵葉書が充実!

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個人的にはここの書籍コーナーが好きで、展覧会に来たら、必ず棚を見るようにしています。今回も充実した書籍コーナーをはじめ、ルオーの定番グッズ、カンディンスキーやパウル・クレーのグッズが充実していました。

 ▼公式図録(会場内限定販売:2400円)
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▼クリアファイル(カンディンスキー)f:id:hisatsugu79:20171019090011j:plain

▼たくさんの絵葉書!
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▼ハンカチ(カンディンスキー柄)f:id:hisatsugu79:20171019085641j:plain

4.混雑状況と所要時間目安

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今回の展示品は、全部で109点。広いとは言えない展示スペースに、毎回頑張って詰め詰めで展示してくれています。全部見終わるまで、1時間程度見ておいたほうがいいでしょう。ここ2~3年の傾向から、まず大混雑することはないと思います。休日でもゆっくり見れるはずです。

5.関連書籍・資料などの紹介

カンディンスキー「点と線から面へ」

カンディンスキーが自らの芸術論を語った美術書の古典。2017年4月に文庫化されたばかりで、今回の展覧会を深く理解するには、本人による著書を読むのが一番の予習・復習になると思います。

骨太な新書!「美の構成学」

抽象的な造形の中に、どのような「美」が隠れているか?それはどうやって見つけ出し、解釈したらいいのか、1920年代に始まったバウハウスの時代の各作品を例に上げつつ、詳細整理した骨太な新書です。カンディンスキー、クレーといった抽象絵画を多く手掛けた作品を読み解くのにも使えそうです。

。パウル・クレー「造形思考」

本展の第3の主役、パウル・クレーが、上下巻で残した大著。いかにもインスピレーションに基づいて自由に制作していた下に見えるクレーですが、このような長大な理論書を書けるくらい、しっかりこだわって制作していたのですね・・・。

7.まとめ

カンディンスキーとルオーという組み合わせは、非常に意外な気もします。しかし、資料によると、カンディンスキーがパリに留学中、二人には交流した形跡があるようです。その後、カンディンスキーはドイツに渡りますが、ドイツで彼が主催した展覧会にも、ルオーの作品が出展されていることから、それなりの友情を育んでいたのかもしれませんね。

お互い、全く違う作風ですが、共通していたのは心の内側から湧き上がるような色彩へのこだわりでした。強烈な個性を持つ二人の作品を、見比べながらじっくり鑑賞できる贅沢な展覧会でした!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯展覧会名
「カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち展」
◯開催美術館・所在地
パナソニック汐留ミュージアム
〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1
パナソニック 東京汐留ビル4階

◯最寄り駅
JR新橋駅「烏森口」「汐留口」「銀座口」より徒歩約8分
東京メトロ銀座線新橋駅「2番出口」より徒歩約6分
都営浅草線新橋駅改札より徒歩約6分
都営大江戸線汐留駅「3・4番出口」より徒歩約5分
ゆりかもめ新橋駅より徒歩約6分
◯会期・開館時間・休館日
2017年10月17日~12月20日
午前10時より午後6時まで

水曜日休館(ただし12/6、13、20は開館)

◯公式HP
http://panasonic.co.jp/es/museum/