あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

MENU

意外な穴場?オットー・ネーベル展は不思議な魅力がある美術展!【展覧会レビュー・感想】

f:id:hisatsugu79:20171201005607j:plain
【2017年12月8日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の、「オットー・ネーベル展ーシャガール、カンディンスキー、クレーの時代」。おそらく相当なマニアであっても、100人中98人くらいは「誰それ?」っていう反応になりそうな、日本ではまだあまり馴染みのない作家の、日本初となる回顧展です。

ちょうど11月28日に開催された、ブックカフェ6次元主催の「オットー・ネーベルナイト」という、美術館内で行われたトーク&内覧イベントで詳しい解説を聞きながら見て回ったのですが、ドイツ表現主義の流れを汲んだ、不思議な魅力のある作風の抽象画家でした。

さっそくですが、行ってきた感想を簡単に書いてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

オットー・ネーベル展について

オットー・ネーベルって誰なの?

f:id:hisatsugu79:20171201005809j:plain
引用:展覧会解説パネルより

オットー・ネーベル(1892-1973)は、1920年代~1970年代までの約50年間、抽象絵画を職人的につきつめて描いた、ドイツ表現主義に属する抽象絵画作家です。その作風は、1920年代~30年代、ワイマールのバウハウスで教育者・芸術家として親交を深めたパウル・クレーやカンディンスキーに多大な影響を受けています。

バウハウスがナチス政権の迫害を受け、閉鎖された後も、パウル・クレーとオットー・ネーベルは、共にスイスのベルンに亡命し、以降、生涯に渡って家族ぐるみでの付き合いを続け、互いの作品を見せあっては腕を競い合っていたようです。

▼美しいベルンの街並み
f:id:hisatsugu79:20171201014040j:plain
引用:Wikipediaより

彼の経歴の面白いところは、ナチスに追われ、ドイツからスイスのベルンへ亡命してからしばらく、永住権の申請許可を待つ間、芸術活動と並行して、食べるためにラジオのアナウンサーや、舞台俳優の仕事もしていたということ。売れない若手芸人みたいに、そのへんのコンビニバイトで食いつないでいた、っていうわけじゃなくて、よりによって俳優業ですからね・・・。

貧困に耐え抜いて絵画一本で・・・という気難しい絵画職人なのかと思ったら、意外ににも、柔軟に環境に適応して、その場で生活と芸術のバランスを取ってやりくりできるタフな一面もあったようです。

それにしても、オットー・ネーベルという画家は、本当に日本では無名なのですね。参考書籍も一切なく、Amazonで書籍を調べても1冊もヒットしませんでした。(こんなこと初めてです・・・)

Bunkamuraで制作された簡単な紹介動画も合わせて貼っておきますね。お時間のある時、ぜひチェックしてみて下さい。

スポンサーリンク

 

展覧会の内容は?

f:id:hisatsugu79:20171201022823j:plain

そんなオットー・ネーベルですが、没後約45年を経て、今回はじめてBunkamuraザ・ミュージアムと京都文化博物館にて、日本初の大規模な回顧展が開催されることになったのです。

展示点数は、全150点。かなりの点数が揃いました。展覧会前半では、彼が所属したバウハウスの紹介や、まだ作風が固まっていない時代の初期作品が、中盤から後半にかけては、彼が影響を受けたパウル・クレーワシリー・カンディンスキーの作品と共に、ゆるやかに年代別・テーマ別に、ネーベルの作風が確立されて以降の作品が展示されています。

僕が行ったこの日は、荻窪のカフェ6次元のオーナー、ナカムラクニオさんが主催する出張トークイベント「オットー・ネーベルナイト」がちょうど開催されていました。実は、僕はこのオットー・ネーベル展は、開催初日にすでに一度見ていたのですが、恥ずかしながら1回では全く理解できず、今回、このイベントに参加させていただき、リベンジとあいなりました。

▼トークイベントの様子
f:id:hisatsugu79:20171201014324j:plain

イベントには、いつものカフェでの20~30人規模ではなく、100人弱くらいは参加者がいたかもしれません。6次元のお客さんらしく、実に8割以上は女性客で、一人で参加している人が多かったイメージです。熱心なファンっているところにはいるものなのですね~。

f:id:hisatsugu79:20171201014346j:plain

ともかくも、6次元のトークイベントで、中村さんと学芸員さんのわかりやすい解説により、バウハウスの美術史に与えた影響や、その中でのオットー・ネーベルの立ち位置など、非常に勉強になりました。この日のために、わざわざ手書きでの別途資料を作って印刷してくださって、本当にわかりやすかったです。

f:id:hisatsugu79:20171201014536j:plain

家に帰ってから、アートは素人な家族に、オットー・ネーベルの魅力について、ここぞとばかりしったかぶりして、たっぷりとレクチャーを聞かせてやりましたよフフフ。

スポンサーリンク

 

オットー・ネーベルの作品の魅力とは?

見ると不思議と癒やされる、穏やかな雰囲気の作品たち

f:id:hisatsugu79:20171201025324j:plain
左:「純潔と豊潤」(1946年、1957年)右:「予言」(1939年)(ともにオットー・ネーベル作、オットー・ネーベル財団蔵)

オットー・ネーベルの手がけた作品の大半は、何かを具体的に表した「具象絵画」ではなく、ドイツ表現主義の流れを汲む、「抽象絵画」なのです。

漠然とした幾何学を組み合わせたような図像的なイメージだったり、ルーン文字や易経、音楽からインスピレーションを得て制作された完全に100%抽象的なイメージだったりと、基本的にはぱっと見て、何が描いてあるのかわからないように計算されています。

f:id:hisatsugu79:20171201022745j:plain
左「近東シリーズより イスタンブールⅣ」(1962年)右「近東シリーズよりアッティカⅠ」(1963年)(ともにオットー・ネーベル作、オットー・ネーベル財団蔵)

f:id:hisatsugu79:20171201014857j:plain
左下「冬の構成」(1940年)中上「満月のもとのルーン文字」(1954年)右「運命のルーン文字」(1955年)(全てオットー・ネーベル作、オットー・ネーベル財団蔵)

面白いのは、じっと見ていると、その色彩感覚やテクスチャー、構図などには、見ていると不思議と引き込まれるような魅力があること。なんだかわからないのですが、「あー、ずっと見ていたいな・・・」という感じにさせられるのです。

クレーやカンディンスキーよりもさらにデザイン寄りと言うか、構図や色彩に妙な安定感もあって、よくできた工芸作品を観ているような気分にもなりました。

f:id:hisatsugu79:20171201015000j:plain
左:「秋祭り」(1936年)右:「輝く黄色の出来事」(1937年)(ともにオットー・ネーベル作、オットー・ネーベル財団蔵)

おそらく、自宅などの洋間にかけてあっても、インテリアとして周りの空間に穏やかに馴染んでいることでしょう。なお、展覧会には、カンディンスキーやパウル・クレーの作品も何点か展示されており、オットー・ネーベルの作品と比較しながら楽しむことができるようになっています。

f:id:hisatsugu79:20171201015123j:plain
上記全てワシリー・カンディンスキー作品、左から、「小さな世界2」「小さな世界3」「小さな世界4」「小さな世界7」(全て1922年、宮城県美術館蔵)

職人的に作り込まれた丁寧な作品たち

ここ最近は、絵画でも工芸でも、圧倒的に作り込む「超絶技巧」的な展覧会が静かなブームとなっていますが、彼の手がけた作品もまた、驚くほど細かく、神経を使った丁寧な仕上がりが特徴的です。

f:id:hisatsugu79:20171201022522j:plain
左「青い広間」(1930年、1941年)右「高い壁龕」(1930年、1941-42年)(ともにオットー・ネーベル作、オットー・ネーベル財団蔵)

例えば、何層にも丁寧に塗られた油彩絵具や、0.1ミリ単位で計算しつくされた点描での徹底した描き込み、調和の取れた色彩感など。こういった作品の圧倒的な作り込みは、チラシやWebの画像ではもう一つわかりません。実物を、直に至近距離からじっくり見てみると、その凄さが体感できました。(だから、ぜひ展覧会へ足を運んで下さい!)

もともと、ネーベルはこういったエンジニア的な職人気質があったようで、全てにおいて几帳面に物事を進めるタイプだったようです。

▼手書きで自らまとめた所蔵品リストf:id:hisatsugu79:20171201022149j:plain

例えば、それが一番良くわかるエピソードとしては、晩年になるまで、彼は自分自身の制作した作品の全てを、今誰がどこで所蔵しているのかまで含めて、完璧な作品リストを自ら手がけていたということです。(きっと後世に自分の名前を残したかったのでしょうね。)

f:id:hisatsugu79:20171201021056j:plain
「イタリアのカラーアトラス(色彩地図帳)」(1931年)(オットー・ネーベル作、オットー・ネーベル財団蔵)

また、チラシのデザインにもなっているのですが、オットー・ネーベルはイタリア旅行に行った時、訪れた土地の色彩のイメージを、「カラーアトラス」(色彩地図帳)というスケッチ帳に、丁寧にまとめているんですよね。それ以後は、このイタリア旅行時に描き溜めたカラーアトラスの色彩配置や組み合わせを参考に、作品を手がけていくことも多かったのだとか。

でも、最終的には自分の感性でじっくり見るのがオススメ!

f:id:hisatsugu79:20171201011816j:plain
引用:映画「燃えよドラゴン」より

まぁ、あーだこーだ、僕がブログで下手な講評を書き散らしたのを読んでいるよりは、まずは展覧会に行って、ぜひオットーネーベルの絵画と向き合ってみて下さい!

具体的な形のない、ほぼ純粋な「抽象絵画」ですが、決して心がネガティブな方向にざわつくような作品ではなく、向き合っていると、次第に心が落ち着いてきて、幸せな気分になれる作品群ばかりです。優しい色彩と、不思議なテクスチャー(筆触)の世界を思う存分、楽しんでくださいね!

展覧会グッズも魅力的!

f:id:hisatsugu79:20171201015329j:plain

で、一緒にイベントに参加したキンさん(建築・デザイン系に強いベテランアートブロガー)もブログで書いていらっしゃるのですが、オットー・ネーベルの作品は、色使いだったり、全体の雰囲気だったりが、どこかしら牧歌的な「かわいさ」に溢れた作品が多いので、必然的にそこから派生して作られるグッズ類も、可愛い感じなのが多いんですよね。持ってるだけで癒やされるというか。

f:id:hisatsugu79:20171201015402j:plainf:id:hisatsugu79:20171201015425j:plainf:id:hisatsugu79:20171201021208j:plain

しかし、僕が今回買ったのは、オットー・ネーベルではなく、なぜかカンディンスキーのハンカチだったのですが(苦笑)せっかくなので、これ、子供の小学校の給食用ランチョンマットにしてやろうかと企んでおります(←英才教育のつもり)

▼不思議と見飽きないカンディンスキーの抽象画ハンカチf:id:hisatsugu79:20171201020240j:plain

そうそう、図録もちゃんと売っています。というか、事実上この公式図録が、今のところ唯一といっていい「オットー・ネーベル」について入手可能な日本語での書籍となるので、20世紀抽象画ファンの人にはマストアイテムかもしれません!

f:id:hisatsugu79:20171201021330j:plain

混雑状況と所要時間目安

f:id:hisatsugu79:20171201021419j:plain

基本的には、今回の展覧会はそれほど混雑しないはずです。(抽象絵画の展覧会で並んでいることってそうそうないですから・・・)ぜひ、じっくりと絵画に近づいて、きめ細かく描きこまれた筆触や、こだわりの点描など、ネーベルの職人魂あふれる作品を味わってみてくださいね。

所要時間は、約60分~90分あれば十分でしょう。オススメは、藤井隆のナレーションで語られる、オットー・ネーベルの紹介ビデオコーナーです。展覧会内での紹介動画としては、15分間とかなり長めのビデオですが、わかりやすくオットー・ネーベルの生涯や、その作品・作風について丁寧に説明してくれます。

まとめ

事前に配布されていたフライヤーのデザインを初めて見た時、北欧家具の大御所デザイナーかなんかの回顧展かな?と思ったのですが、行ってみれば、カンディンスキーやパウル・クレーに近い作風の抽象絵画作家でした。

決して難解な感じはなく、見たまんまに自分の感性で感じ取れれば、温かい気持ちになって帰路につける、そんな穴場的な良い展覧会です。日本ではマイナーな作家ですが、展覧会マニア達をも納得させる、ハイクオリティ作品が並んでいます。ぜひ、気軽に立ち寄ってみてくださいね。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

「オットー・ネーベル展」は、東京展のあと、2018年4月~6月にかけて、京都文化博物館へと巡回します。版画作品を中心として若干の展示内容変更があります。

◯美術館・所在地
Bunkamuraザ・ミュージアム
〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
◯最寄り駅
JR渋谷駅(ハチ公口)から徒歩7分
東急・地下鉄渋谷駅3A出口(109口)から徒歩5分
◯会期・開館時間・休館日
2017年10月7日~12月17日(会期中無休)
10時00分~18時00分(入場は30分前まで)
※毎週金・土曜日は21時まで
◯公式HP
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_nebel/
◯Twitter
 Bunkamura公式ツイッター (@Bunkamura_info) | Twitter
◯美術展巡回先
■京都文化博物館
2017年4月28日~6月24日