あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

MENU

近代日本画の意外な伏兵?!川合玉堂展が予想外にハイクオリティで素晴らしかった!(山種美術館)

スポンサーリンク

f:id:hisatsugu79:20171102112857j:plain
【2017年11月16日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

近代日本画の殿堂といえば、何と言っても山種美術館。先日まで開催されていた「上村松園展」は、夏期としては大入りの39,000人を動員して、大好評のうちに終了したそうです。

そんな山種美術館で、早くも次の企画展「川合玉堂展」がスタートしましたので、早速行ってきました。タイトルにも書いたのですが、これが予想外に素晴らしい回顧展になっていて、ちょっとした衝撃を受けました。日本画好きなら、絶対見逃せない素晴らしい展覧会でしたので、早速ですがレビューを書いてみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真は、予め許可を得て撮影させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.川合玉堂展について

f:id:hisatsugu79:20171102132754j:plain

明治期以降の近代日本画を最も得意とする山種美術館では、横山大観、奥村土牛、速水御舟、上村松園といった、同時期の代表的な画家の大コレクションを保有しています。今回の企画展で特集されている川合玉堂についても、2017年現在、なんと71点もの川合玉堂の作品を保有しています。

・・・つーか、71点ですよ71点!!

これを最初に聞いた時、「どんだけ持ってるんだ~!」って思いました。

これだけの大コレクションを保有できた理由としては、第二次大戦中の苦しい時期に、美術館創始者の山﨑種二が川合玉堂にお米を送り続け、パトロンとして彼の芸術活動を下支えしたという実績があるからに他ならないからですが、それにしても71点は凄い!

どれだけ先見の明があったんだ種ニ!偉いぞ種ニ!この事実一つをとっても、山﨑種二の日本美術に残した功績はめちゃくちゃ大きかったんだなと実感します。

そんな豊富な山種コレクションを元に、前回の回顧展が開催されたのは2013年。玉堂の描いた素朴な農村の風景をフィーチャーした、「川合玉堂 ─日本のふるさと・日本のこころ─」展というタイトルで、生誕140年にふさわしい記念展となったようです。

その時はまだアートにちゃんとはまっていなかったので、残念ながら未見なのですが、当時の展覧会のレビューは、以下のベテラン美術ブロガーの皆様の素晴らしい記事で読めます。僕も一通り展覧会前に勉強させてもらいました!

「川合玉堂展」 | 弐代目・青い日記帳
川合玉堂展行ってきた – 雨がくる 虹が立つ

「川合玉堂展」 山種美術館 - はろるど
川合玉堂展 山種美術館: 今日の献立ev.

さて、前回展から4年。今回の企画展では「没後60年記念 川合玉堂ー四季・人々・自然ー」と題して、同館が保有するコレクションだけでなく、東京国立博物館や、桃居国立近代美術館、玉堂美術館など、他館所蔵品も含め、前後期で全86点の総力特集を組んだ、力の入った回顧展となりました。

これは日本美術ファンなら、絶対見ておかないといけませんね?!

2.川合玉堂について

f:id:hisatsugu79:20171102134450j:plain
引用:展覧会のパネル写真より(部分拡大)

さて、そんな川合玉堂ですが、恥ずかしながら、この展覧会が始まるまでは、ほとんど作品をちゃんと見たことがありませんでした。今回の展覧会をきっかけに、心を入れ替えてガッツリ勉強しましたので、展覧会の紹介に入る前に、簡単に「川合玉堂」についてまとめてみます。

川合玉堂(1873-1957)は、1873年(明治6年)、愛知県に生まれ、幼少時代は岐阜で育ちました。1887年、京都の画家、望月玉泉(円山四条派)に入門し、そこで徹底的に修行に励みます。のち、竹内栖鳳や上村松園らを育てた幸野楳嶺(円山四条派)に弟子入りし、さらに幸野楳嶺が亡くなってからは、第4回内国勧業博覧会で見た橋本雅邦(狩野派をベースとする)の作品に一目惚れし、勢いで東京へと移住して雅邦に弟子入りします。

▼「写生画巻」(部分/玉堂美術館)f:id:hisatsugu79:20171102141653j:plain
15歳にしてこの腕前!

こうして、様々な師匠や私淑した画家たちからの影響を受けて、玉堂は狩野派、円山四条派、琳派、西洋絵画など、様々な画風を自分のものにしていきます。

展覧会で見ていただくとわかりますが、作品によって、「これは狩野派」「これは伝統的な大和絵風」「これは琳派(!)」とカメレオンのように作風を自在に変えられる凄腕の画家だったんですよね。しかも、全部ハイレベルで上手い!

川合玉堂「紅白梅」(玉堂美術館)f:id:hisatsugu79:20171102141857j:plain
琳派風に描かれた見事な作品!

第二次大戦に入ると、玉堂は、奥多摩の御岳へと疎開し、以降亡くなるまで奥多摩の大自然に囲まれて絵を描き続け、やがて柔和で穏やかな独自の画風へと到達しました。そして、ここで戦争中の物のない時期の玉堂の疎開生活を支えたのが、山﨑種ニだったわけですね。

f:id:hisatsugu79:20171102133955j:plain
たくさんの孫に囲まれてうれしそうな玉堂!

とはいえ、全体的に見ると、玉堂の画家人生は、恵まれたものであったようですね。晩年は、子宝にも恵まれ、日本画壇でもリスペクトされ、心安らかに叙情的で落ち着きのある山村や自然の風景画を描き続けました。写真に映る穏やかな顔つきが、何よりも彼の充実した画家人生を物語っているようです。 (孫多すぎ/笑)

スポンサーリンク

 

3.川合玉堂展の4つのみどころを感想を踏まえて紹介!

みどころ1:癒やされるような叙情的な風景画をガッツリ堪能できる!

玉堂といえば、やっぱり風景画です。田舎の美しい日本の大自然や山村での人々の素朴な表情を写し取った自然を描き出すことを得意とした川合玉堂。いろいろな技法で、田舎の素朴な美しさを堪能させてくれます。

▼川合玉堂「春風春水」(山種美術館)
f:id:hisatsugu79:20171102192801j:plain

面白いのは、図録でも指摘されていますが、構図が妙に広重や北斎の描いた名所絵のような構図や雰囲気の作品が散見されること。一瞬、浮世絵の版画を観ているような錯覚になりました。

▼川合玉堂「山雨一過」(山種美術館)
f:id:hisatsugu79:20171102193058j:plain

また、農村の人々が見せる素朴な感じの表情もいいですね。(これが上手なのかどうかはわかりませんが)あくまで風景が主体なので、画面上で描かれるのは小さな人物なのですが、玉堂の柔和な人柄を反映してか、可愛い感じに描かれていると思います。

田舎での田植え風景をすこしひねったアングルから捉えた「早乙女」は、特に玉堂の作品の中でも人気の高い一枚だそうですが、ここで描かれている農夫の女性の表情が、実に生き生きとして素晴らしいんですよね。

▼川合玉堂「早乙女」(山種美術館)
f:id:hisatsugu79:20171102193729j:plain

近くに寄って、クローズアップしてみます。

▼「早乙女」(山種美術館)部分拡大図
f:id:hisatsugu79:20171102193932j:plainf:id:hisatsugu79:20171102194026j:plain

温かい春になり、村の仲間とゆったり田植えをしている農夫たち。彼らのリラックスしきった表情が可愛くて、じっと見入っていると癒やされてきます・・・。会社のPCのデスクトップの壁紙にして、残業中の疲労回復にいかがでしょうか?

・・・

・・・

・・・

で、これってどこかで見たような風景だなと思ったら、時代も場所も違いますが、昨年大ヒットしたアニメ映画「この世界の片隅に」のすずさんみたいなんだよなぁと。

▼「この世界の片隅に」裏庭の畑で作業をするシーンf:id:hisatsugu79:20171102195242j:plain
引用:史上最多額の資金調達を達成! こうの史代「この世界の片隅に」| cinemacafe.net

戦時中の非常に厳しい時期でも、決してユーモアを忘れず、朗らかな生活を送っていたすずさんと、川合玉堂が描く「早乙女」の穏やかな農村での一コマが、重なって見えて仕方ないのでした。

みどころ2:彼が特に好きだったモチーフとは?

玉堂が特に好んで描いたモチーフとして有名なのは、「鵜飼」(うかい)の風景です。岐阜の長良川で昔から行われてきた、鳥を使った伝統的漁業を題材とした「鵜飼」の絵は、実に生涯で500枚以上描かれたとされます。

今回の展覧会でも、入り口を入って最初に出会う絵画が、ずばり川合玉堂「鵜飼」なんです。

▼川合玉堂「鵜飼」(明治28年/山種美術館)
f:id:hisatsugu79:20171102191638j:plain

切り立った険しい半島状の山岳地帯の自然を描いているのですが、最初の数秒間は、鵜飼の姿が目に入ってきません。一瞬、これのどこが鵜飼なんだ?と思うんですが、よーく画面全体を見てみると、最下方に主役がちゃんといるんですね。

▼「鵜飼」(明治28年/山種美術館)部分拡大図
f:id:hisatsugu79:20171102192004j:plain

伝統的な腰ミノをつけた親方(鵜匠)が、鳥の口からまさに魚を取り出そうとしているシーンですね。船の左には篝火も煌々と輝いていて、まさに鵜飼の真っ最中です。

このように、玉堂の作品は、あくまで「風景」が主体で、人物や動物は風景画の一部分を担当する小さな構成要素に過ぎないことがあるので、よーく隅々まで絵をきちんと見る必要があります(笑)

また、同様に顧客やファンから人気が高かったのが、水車が配置された絵画です。顧客からの要望を受けて、たくさん製作したようですね。

▼川合玉堂「水声雨声」(山種美術館)
f:id:hisatsugu79:20171102185826j:plain

これも拡大してみると、左下に、勢い良く水路から、水車に流れ落ちるリアルな質感の水流が素晴らしいのです。玉堂は、本当に滝や水流、雪景色など、「水回り」(?)についての表現が抜群だと思います。玉堂の水車がなぜ人気があるのか、わかるような気がしました。

▼「水声雨声」(山種美術館)部分拡大図
f:id:hisatsugu79:20171102190452j:plain

そして、水車小屋をくぐるようにして、二人の村人が描かれています。雨の降る中、素朴な普段着で山道を登っていく二人の女声。「今日はもう雨だから畑ヤメにするべ~」「んだんだ~」的な会話が聞こえてくるようです。

▼「水声雨声」(山種美術館)部分拡大図
f:id:hisatsugu79:20171102190533j:plain 

みどころ3:かわいい小動物!

また、写実的なんだけど、どこかしら牧歌的で優しい表情をした小動物も、玉堂の作品の特徴です。単体で描いたり、風景画に溶け込むように描かれていたり、その表現方法は多彩ですが、幾つか紹介してみます。

まずは、ずばりそのものをタイトルで表した「猿」です。

▼川合玉堂「猿」(山種美術館)
f:id:hisatsugu79:20171102185030j:plain

拡大してみると、メチャ可愛いんですよねこれが!

▼「猿」(山種美術館)部分拡大図
f:id:hisatsugu79:20171102185333j:plain

続いては、やっぱりズバリ、「虎」というタイトルの絵画。第2次大戦で戦地へ出征する友人の無事を祈願して贈ることが多かったそうですね。

▼川合玉堂「虎」(山種美術館)
f:id:hisatsugu79:20171102191313j:plain

玉堂の描く虎は、獰猛さや厳しさよりも、どこかしら柔らかい感じがあって、見ていて怖さを感じないのですよね。どこかホッとするというか。

▼川合玉堂「虎」(山種美術館)部分拡大図
f:id:hisatsugu79:20171102191342j:plain

さらにもう一つ。晩年の作品「猫」です。

▼川合玉堂「猫」(山種美術館)
f:id:hisatsugu79:20171102191430j:plain

あっさりとした水彩画のようなタッチで、水色の背景にさらさらっと描かれただけのシンプルな作品ですが、やっぱり見ているとどこかしら癒やされてくる感じがします。

▼「猫」(山種美術館)拡大部分図
f:id:hisatsugu79:20171102191502j:plain

他にも、各作品で細かく小動物が描きこまれていますよ。是非、実際に美術館で作品を見て、探してみてくださいね。 

みどころ4:音声ガイドのレンタルが超おすすめ!

f:id:hisatsugu79:20171102134817j:plain

山種美術館といえば、個人的に、根津美術館と並んで、音声ガイドを借りる価値の最も高い美術館としてマイ認定しているのですが(笑)、それはなぜかというと、ずばり、作品全体に対して、ガイドのカバー率が高いからなんです。

通常、音声ガイドが企画展ごとに準備されるのは、東京国立博物館とか国立新美術館など、大きなハコで開催されるメジャーな展覧会だけです。山種美術館クラスの中規模美術館では、採算性やニーズなどから、あんまり完備されていないことが多いのですよね。

ところが、この山種美術館では、毎回50点~70点くらいの展示量に対して、ちゃんと毎回20作品ほどがピックアップされて、30分以上の音声ガイドが作り込まれているんです。大型作品に至っては、ほぼ全部用意されていると言っても過言ではありません。しかも、ちゃんとプロのナレーターが雰囲気を出してしゃべってくれてるのも、ストレス無く聞くことができて、ポイントが高い!

「あ、これいい作品だな!」と思ったら、大抵音声ガイドのパネルがついていますから。音声ガイドを借りる価値が非常に高いんですよね。是非、ガイド付きで心ゆくまで作品を味わってみてくださいね。

スポンサーリンク

 

4.グッズやカフェも注目!

売り切れ注意!川合玉堂展の図録がおすすめ!

まず、絶対に買っておきたいのが図録です!会場限定で販売されている、コンパクトにまとめられた川合玉堂展の公式図録が本当におすすめ!今回出展されているほぼ全点の図版をコンパクトなB6サイズにまとめてくれています。

f:id:hisatsugu79:20171102134311j:plain

普通、図録って、展示が充実すればするほど、かさばって激重になっていくものですが、山種美術館で発行される図録は、ちゃんと普通にストレス無く持って帰れるちょうどいい重さなのがいいんですよね。そして、値段も安い!

でも、割りと売り切れやすいので、できれば会期前半に来館して、早々に押さえて置くのが良いと思います!

その他グッズ類や企画展にちなんだカフェメニューも充実!

来年2018年の山種コレクションを厳選したカレンダーは魅力的でした。こちらも売り切れる前に是非!

f:id:hisatsugu79:20171102134129j:plain

他にも、クリアファイル、レターセット、てぬぐいなど、今回の展覧会に合わせて製作された新しいグッズが一杯用意されていました。山種美術館のグッズってどれも上品なんですよね~。

f:id:hisatsugu79:20171102141331j:plain

ちなみに、カフェメニューはいつもどおり、本展に出展されている5つの作品から着想を得て期間限定で作られた5つの一口サイズの和菓子がおすすめです!

f:id:hisatsugu79:20171102141245j:plain

5.混雑状況と所要時間目安

f:id:hisatsugu79:20171102142554j:plain

山種美術館での展覧会は、まず大混雑するという事態にはならないかと思います。ゆっくりくつろぎながら、川合玉堂の作品を堪能できます。所要時間は、60分~90分程度といったところでしょうか?

f:id:hisatsugu79:20171103005218j:plain

ちなみに、いつもどおり写真撮影が可能な作品が1点用意されています。今回は、川合玉堂「鵜飼」(昭和14年頃)です。お手持ちのスマホで、記念に是非持ち帰ってみてくださいね!

6.まとめ

個人的には、前回の上村松園展よりも満足度が高かった川合玉堂展。思わず冒頭から「たねじ」呼ばわりしてしまいましたが、前回の上村松園へのサポートにしても、玉堂との逸話にしても、本当に山﨑種二の功績は大きかったんだなとつくづく実感しました。

そして、あのカリスマ的な日本画研究者の第一人者、山下裕二先生が、しみじみと「いい展覧会になったね~」と呟いたとされる今回の展覧会。川合玉堂って誰だよ?っていう人でも、見たら絶対何か感じるものがある素晴らしい作品が並んでいます。初心者でもわかりやすい作品群は、絶対お薦め!是非お早めに!
それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2017年10月28日(土)~12月24日(日)
*会期中、一部展示替えあり
(前期: 10/28-11/26、後期: 11/28-12/24)
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum