【2017年12月8日最終更新】
かるび(@karub_imalive)です。
2月24日に封切りされた、今年度アカデミー賞で6部門受賞を決めたミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」(LA LA LAND)を見てきました。
早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。
- 1.映画「ラ・ラ・ランド」の基本情報
- 2.映画「ラ・ラ・ランド」の主要登場人物とキャスト
- 3.映画「ラ・ラ・ランド」ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)
- 4.映画「ラ・ラ・ランド」の感想や評価(※ネタバレ有)
- 5.映画「ラ・ラ・ランド」の伏線・設定などの解説(※ネタバレ)
- 6.まとめ
- 映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
1.映画「ラ・ラ・ランド」の基本情報
<映画「ラ・ラ・ランド」予告動画>
【監督】デイミアン・チャゼル(「セッション」)
【配給】GAGA/ポニーキャニオン
【時間】128分
若き天才、デイミアン・チャゼル監督が名作「セッション」に続き、彼の得意分野「ジャズ」を絡ませたミュージカル映画はゴールデン・グローブ賞7部門受賞、アカデミー賞6部門制覇など、各方面から絶賛。アカデミー賞では、作品賞こそ逃しましたが、主演女優賞、監督賞を獲得するなど下馬評通りの強さでした。
2.映画「ラ・ラ・ランド」の主要登場人物とキャスト
主演のライアン・ゴズリングとエマ・ストーンは、「ラブ・アゲイン」(2011)、「L.A. ギャング ストーリー」(2013)以来、実にこれが3度目の映画共演となります。ダンスや歌など多くの場面で、ぴったり息のあった演技を見せてくれました。また、本作は多くの脇役たちが出演しているものの、主演の二人以外はほとんど印象に残らない「二人だけの世界」を描いた映画です。
セバスチャン(ライアン・ゴズリング)
いつの日か、ロサンゼルスで自前のジャズバー・レストランの経営を夢見る売れないジャズピアニスト。一番驚いたのは、普通に映画内でピアノを全編演奏していること。プロ根性を感じました。コメディからシリアスもの、SFまでこなせる多才ぶりですが、物凄い努力家でもあるんでしょうねぇ。現在上映中の「ナイス・ガイズ」も良いみたいですし、年末の「ブレードランナー2049」での演技も楽しみです。
ミア(エマ・ストーン)
ハリウッド女優を夢見て、ロサンゼルスのハリウッド近くの喫茶店でバイトをしながらオーディションを受ける毎日。エマ・ストーンの場合は、どの作品もある程度エマ・ストーンにしか出せない「地」が出ますが、ひたむきでガッツもあり、コケティッシュで女性らしい愛嬌も兼ね備えたキャラは、ぴったりはまっていました。アカデミー主演女優賞を2回目のノミネートで見事受賞!まで28歳なのに凄い!
キース(ジョン・レジェンド)
映画内でセバスチャンが参加するジャズバンド「Messengers」のバンドリーダーにしてメインVoを務めました。映画内で熱唱した、本人作の「START A FIRE」(サントラ収録)はかなりいい曲だったけどなぁ。彼の美声にかなり惹かれました。
ビル(J・K・シモンズ)
現在上映中の「ザ・コンサルタント」では退役寸前の気のいい軍人を演じましたが、2014年度のアカデミー助演男優賞を獲得した、チャゼル監督の前作「セッション」での迫真の鬼コーチぶりが強く印象に残っていました。そして、今作でも主人公の行く手を阻む「門番」的な役割です(笑)これは!と思い、J・K・シモンズがでてきたシーンは、主役そっちのけで表情を追ってしまいました(笑)
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3.映画「ラ・ラ・ランド」ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)
3-1.「冬」:セバスチャンとミアの出会い
ロサンゼルスのハイウェイは、今日も渋滞中だった。ドライバー達は、車中で思い思いの曲を聞いていたが、一人の女性が外で歌い出したのをきっかけに、全員中から出てきて全員で踊りだしてしまう。(サントラ#1「ANOTHER DAY OF SUN」)
踊りが終わると、全員車に戻って前進したが、プリウスの中にいたミア(エマ・ストーン)は、その日に行われる映画俳優のオーディションの練習(電話のシーン)に夢中で止まったままだった。ちょうど後ろにいたセバスチャン(ライアン・ゴズリング)は、クラクションを鳴らしたが、ミアは電話に夢中で前に出ようとしない。仕方なく、セバスチャンは隣の車線からイライラしながら追い越していった。
ミアは、現在ハリウッド女優を目指して、ワーナー・ブラザーズの入居するビルのコーヒーショップでバイトをしながらオーディションに挑戦中だ。コーヒーショップにはしょっちゅう俳優たちも訪れ、その度にミアはいつの日か自分も・・・と決意を新たにするのだった。
しかし、その日のオーディションは酷い出来だった。バイトを早上がりして急いでいた時に、シャツにコーヒーをかけられてしまい、それをジャケットで隠しながらオーディションに臨んだが、熱演も虚しく審査員は心ここにあらず、落選してしまった。
一方、セバスチャンは自宅に帰宅する最中、好きだったジャズクラブが閉店しているのを見かけるのだった。帰宅すると姉が部屋に上がり込んでいた。金欠な状況を見透かされた姉から、早く定職について落ち着くようにたしなめられた。
ミアは、オーディションから帰宅すると、同じく女優を目指して修行中のルームメイト3人から、ハリウッドのパーティに出かけようと誘われた。オーディションに失敗したばかりで気乗りがしなかったが、ミアはやはり行ってみることにした。(サントラ#2「SOMEONE IN THE CROWD」)
パーティ会場では、特に得られるものもなく、ひとり虚しく帰宅しようとしたら、駐車禁止で愛車プリウスがレッカー移動されてしまっていた。踏んだり蹴ったりで歩いて帰宅する途中、店の中から聞こえてきたピアノの音色に誘われて、「リプトンのバー」というジャズバーへ入るミア。
そのバーでは、ちょうどセバスチャンがピアニストとして演奏中だった。支配人のビル(J・K・シモンズ)からは、オリジナル曲ではなく、クリスマスソングを演奏するように指示されていたセバスチャンだったが、衝動を抑えきれず、自分自身の曲を弾いてしまった。(サントラ#3「MIA & SEBASTIAN'S THEME」)支配人から、即刻クビを言い渡されて不機嫌なセバスチャンは、ミアを突き飛ばしてバーを出ていった。
3-2.「春」:惹かれ合う二人
ミアは、あるプールパーティでふたたびセバスチャンを見かける。プールサイドのお遊びパーティバンドで、変な格好で演奏中だったセバスチャンたちに、「I RAN」をリクエストするのだった。
演奏終了後、セバスチャンはミアに話しかけた。プロのミュージシャンに「I RAN」(のようなチャラチャラした曲)はNGだと言い張った。ふたりはあまり友好的とは言えない状況の中で、自己紹介をするのだった。
パーティの場で、ミアはうさんくさい脚本家にしつこく話しかけられていた。ミアは、その場から逃げ出すため、通りかかったセバスチャンと一緒に会場を出た。そのまま駐車場のサンセットが見えるスペースまで移動して、二人は夜景見ながら会話と踊りを楽しんだ。(サントラ#4「A LOVELY NIGHT」)踊り終わると、ミアのボーイフレンド、グレッグから電話がかかってきた。
その後も、ナースや警察官など慣れない役どころのオーディションを受け続けるミアだったが、相変わらずハリウッドのコーヒーショップで働いていた。そこへ、ある日突然セバスチャンが尋ねてきた。
バイトが終わった後、ハリウッドの界隈を散歩して歩く二人。ミアが叔母さんの影響でハリウッド女優を目指すことになったことや、セバスチャンが古き良きジャズが好きであることなどを話し、少しずつ打ち解けていくふたり。
セバスチャンは、ジャズが好きではないと言うミアをジャズ・バーに連れていき、本物のジャズを聞かせてジャズの良さを語った。(サントラ#5「HERMAN'S HABIT」)そして、翌週月曜日10時に、オーディションを突破して、学園モノ映画への出演するミアの勉強のため、映画に行こうと誘った。
しかし、そのオーディションは酷い出来だった。顔も見られず、わずか1行セリフを読んだだけで落とされてしまった。憤慨して自宅へ帰ると、さらに悪いことにグレッグとのグレッグの兄との会食の時間と、セバスチャンとの待ち合わせがダブルブッキングになっていた。
セバスチャンと連絡先を交わしていなかったので、やむをえず会食へグレッグと出かけたが、どうしてもセバスチャンが気になったミアは、会食を抜け出してセバスチャンの待つ劇場「リアルト」へ向かった。
映画はすでに始まっていたが、首尾よく隣の席に座り、二人は映画を見ながらいい雰囲気になっていった。キスを交わす寸前というその時、映写機の調子が悪くなり、上映は中止となった。ふたりは、映画のシーンで出てきた「グリフィス天文台」へ向かい、その中でデートの続きを楽しんだ。(サントラ#6「CITY OF STARS」、サントラ#7「PLANETARIUM」)天文台の中で、彼らは初めてキスを交わした。
3-3.「夏」:セバスチャンの成功、二人の関係の変化
二人の交際は順調だった。ミアは、セバスチャンの提案で脚本も自分で書くようになっていた。秋に、一人芝居の舞台を企画していたのだ。二人がデートする時は、セバスチャンが家の外でクラクションを鳴らすのが通例になっていた。
二人は、行きつけのジャズバー「LIGHTHOUSE」へ行き、セバスチャンはいつか自分のバーを持ち、経営したいと熱く夢を語った。話していると、セバスチャンは過去のジャズバンド仲間、キースから声を掛けられた。
新たにバンドを立ち上げるので、仲間にならないかと誘うキース。条件も良かったが、自分の夢にこだわるセバスチャンは一旦断った。ミアは、キースのために店名とロゴを(SEB'S)を提案したが、セバスチャンは「CHICKEN ON A STICK」という名前にこだわった。伝説のジャズ・ミュージシャン、チャーリー・パーカーが鶏肉が好きだったのでついたあだ名「バード」にちなんだ名前にしたいというのだ。
その夜、二人は「CITY OF STARS」(サントラ#9)をデュエットで歌った。
翌日、ミアのためにも、セバスチャンはキースのバンド「メッセンジャーズ」に入ることを決めた。それはセバスチャンの目指す古き良きジャズとは大きくスタイルが異なっていたが、稼ぐために割り切った。
ミアは、セバスチャンのバンドのライブに行くと、ちょうど「START A FIRE」(サントラ#10)がかかっていた。モダンで若者好みの音楽性に、戸惑うミアだった。
3-4.「秋」:二人の前向きな「別れ」
ミアは、いよいよ一人芝居の舞台の最終準備にかかっていた。たくさんの招待状を送付した。夏以降、順調なバンドがツアーに出てしまい、セバスチャンと会えなかったミアだったが、その日、セバスチャンは多忙な中、ミアと会う時間を作っていた。
近況を話し合う二人。セバスチャンは、ミアにツアーに帯同して欲しいと頼んだが、ミアは一人芝居の舞台が2週間後に迫っていたので丁寧に断った。ツアー終了後も、さらにレコーディングと次のツアーが続いていることに驚いたミアは、自分自身の夢を妥協するセバスチャンにそれで満足しているのか?と迫った。
ミアのために割り切って活動していたとは言え、痛いところを突かれたセバスチャンは、ミアに対して「成功して欲しくないからそんなことを言うのか」と、彼女を傷つけてしまう。ミアは、泣いて出ていってしまった。
ミアの一人芝居の舞台の当日、セバスチャンは必ず行くと約束していた。しかし、バンドの練習終了後、当日になって、キースから写真撮影が予定されているため残るように指示されてしまう。写真撮影が終わって駆けつけると、すでにミアの舞台は終わっていた。
観客は10人ほどしか見に来ておらず、しかも終了後、舞台袖から観客の悪評が聞こえてきて、完全に落ち込んでしまったミア。セバスチャンの制止も振り切り、そのままネバダの実家に帰ってしまった。
少ししてから、その日、ミアの一人芝居を見て高く評価した映画関係者から、メジャーな映画のオーディションがあるので、セバスチャンにミアの連絡先を教えてほしいと連絡が入った。携帯をオフにしていたミアに連絡が取れないため、セバスチャンはミアの実家を探し出し、必死で説得して連れ戻した。
オーディションで自由演技を求められ、出し尽くしたミア(「THE FOOLS WHO DREAM」(サントラ#12))。その後、二人でロサンゼルスの岡の上で語り合い、物理的にも会う機会が取れなくなるため、お互いの夢を優先して二人は関係を保留することにした。
3-5.5年後の「冬」:エピローグ
ミアはオーディションに合格し、ハリウッド女優としてのキャリアで成功しつつあった。別の夫、デイビッドと結婚し、子供も生まれていた。一方、セバスチャンも自分の原点だった「ジャズ・バー」を開く、という夢を実現していた。
その日、ミアは夫と二人でハリウッドのイベントに出かけ、その帰り道、ひどい渋滞に捕まっていた。高速道路を降りて、街中でディナーを摂ったあと、車に乗り込もうとした矢先、聞き慣れたジャズが耳に入ってきた。
見に行くと、そこには「SEB'S」という看板がかかっていた。そして、ちょうど中ではセバスチャンがこれからピアノソロを演奏するところだった。ミアに気づいたセバスチャンは、二人の思い出の曲「CITY OF STARS」を演奏した。もし、二人があの時分かれていなかったなら、今頃どうなっていただろうかー。演奏が開始されるとともに、二人の「もしも」の空想がはじまった。
その空想は、ちょうど二人の出会いに遡って始まった。二人は出会うやいなやキスを交わし、セバスチャンはキースと会話すらもしなかった。満員となったミアの一人芝居の舞台の最前列でスタンディングオベーションをするセバスチャン。ミアがパリに行くとセバスチャンも一緒にパリに渡り、セバスチャンはパリで演奏家として仕事を始め、ミアと結婚して子供も授かった。そして、ミアとジャズバーに出かける幸せな日々を送るのだった…
そこで、空想は終わり、セバスチャンの演奏も終わった。ミアは夫と静かに席を立ち、ジャズバーを後にした。出ていく時、後ろを振り返ったミアに、寂しそうに微笑むセバスチャンだった。
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4.映画「ラ・ラ・ランド」の感想や評価(※ネタバレ有)
4-1.主人公達が結ばれない、切なすぎるハッピーエンド
事前に公式予告動画での予想に反して、ミアとセバスチャンはお互いの夢を尊重し、人生を「前進する」ために、別れを選択するという切なすぎるハッピーエンドで終わりました。一旦関係が保留になる中、ミアはハリウッド女優として成功し、セバスチャンはロスに自分のジャズバーをオープンさせるといういう夢を達成しました。
いわば、物理的な面では、完全に彼らは「アメリカン・ドリーム」的な夢をつかんで大成功したわけです。それでも、ジャズバーを後にするミアを見送るセバスチャンの寂しげなラストシーンの表情が、忘れられません。名シーンだったと思います。
大成功し、結婚して子供にも恵まれ、物心両面で幸せになったミアに対して、ほろ苦い喪失感を伴う「不完全な成功」に終わってしまったセバスチャン。
キャリアの成功と人間関係の充実はトレードオフなのか、それとも両立しうるのか非常に考えさせられました。(というか、キャリア上の成功をまず収めるのも本来は難しいので、贅沢な悩みなのだけれど)
4-2.新海誠「秒速5センチメートル」との類似性
(引用:https://www.youtube.com/watch?v=1X95eE2fwuc)
一旦遠く離れた後、その後の「復縁」に一縷の望みをつなぎ、待ち続けたセバスチャンと、大成功した後、自分をサポートしてくれる堅実な夫を探し出して、さっさと結婚してしまったミア。
舞台設定やストーリーは違いますが、物語の大枠の構造が新海誠の映画「秒速5センチメートル」とそっくりでした。(アメリカの掲示板でも類似性についての指摘が複数あった!)秒速5センチメートルでは、小学生以来の幼馴染で相思相愛となった貴樹と明里は、中学生の時に両親の仕事で離れ離れとなりますが、いつまでも彼女を待ち続けたのは貴樹で、明里は徐々に現実の中で新しい幸せを見つけていきました。
ラストシーンで、偶然二人がニアミス的に出会い、男の側が復縁への望みが叶わないことを知る、というラストも同じ構造ですね。
ネット上で「男の恋はフォルダー保存、女の恋は上書き保存」という格言(?)を見つけたのですが、こういった過去の恋やロマンチシズムに引きずられるのは古今東西、男性の方なのかもしれないですね。
4-3.ハリウッドへの毒を利かせたコメディ要素も楽しめた
とはいえ、途中の展開は結構笑える箇所がいくつもありました。特に、いわゆる「ハリウッド的」なものへの毒の利いたシニカルな笑いが散りばめられていたのが面白かったです。例えば・・・
◯グルテンフリーのメニューを注文するクレーマー客
ミアのバイト先で出されたマフィンがグルテンフリーではないとわかったクレーマー客が、払い戻しをミアに強要するシーン。ハリウッド発で大流行した「グルテンフリーダイエット」を揶揄していると思われます(笑)
◯パーティにプリウスだらけ
プールパーティから帰る時、クロークにあった車のキーが全部プリウスのものでした(笑)「クリーン」で「エコ」なイメージが意識の高いハリウッドセレブに一時期大ウケしたプリウスで、ハリウッド中が溢れかえった現象を皮肉っていましたね。
◯一方通行だらけのロサンゼルス
ミアとのデートでセバスチャンが細い路地を間違って入っていき、対向車から追いかけられてバックで戻るシーンがありましたが、ロサンゼルスは一方通行だらけのわかりづらい道路区画で特に有名なのだそうです。
他にも探せば結構ありそうですが、ちょくちょく本筋と関係ない小ネタが挟まれていて面白かったです。
4-4.キャリアの成功と幸せな家庭の両立の難しさ
エンディングシーンで、ミアは最初に付き合っていたグレッグのような風貌の黒髪で保守的な男性デイビッドと結婚していました。デイビッドは、家でミアの帰りを待っていました。ということは、自らはキャリアを諦め、ミアをサポートする専業主夫的な立ち位置か、在宅中心で回せる副業的な仕事への関わり方だったということです。だからこそ、ミアとの結婚生活が成り立っているのでしょう。
これは、彼ら二人の空想シーンでも、ミアがハリウッド女優として活動する一方、セバスチャンはミアに帯同してパリに渡り、現地のジャズ・バーで雇われ演奏家として生活している様子が描かれていたからです。これは、彼自身の原点である「ジャズバーの店を持つ」という夢を諦めることと引き換えに、ミアのキャリアを100%実現させ、彼女との幸せな結婚生活を手に入れたことに他なりません。
どちらかが極端に難易度の高い夢を追いかける人生を歩むのであれば、その伴侶となる者は、夢を諦めて伴侶のサポート(=家庭を守る)に回り、バランスを取っていくのが現実的なのでしょうね。キャリアと家庭の両立の難しさ、あるいは、仕事のプロフェッショナル同士の結婚生活の難しさについて、改めて深く考えさせられました。
4-5.自分自身の夢の追求と経済的な成功の両立の難しさ
セバスチャンの顛末については、さらにもう一つ気付かされることがあります。それは、経済的に成功することと夢の追求はトレードオフになりがちである、ということです。
セバスチャンの夢は、ジャズバーで自らがオールドスタイルな古き良きジャズピアノを演奏することでした。ですが、現実的にはお客さんが付いてこないため、彼はいつもお金に困っていました。
そこで、一旦キースの誘いを受けバンド「Messengers」に加入して、自らの夢を一時保留し、「仕事」として客の喜ぶ音楽をやりだすと、お金は入ってきましたが、多忙な日々に自らの夢が宙ぶらりんになってしまいます。(ここはミアに散々突っ込まれることになります)
さらに5年後、セバスチャンは念願のジャズバーをオープンしますが、そこでは、自分より上手なピアニストと契約するシーンが描かれていました。技量的な問題、経営面での問題(経営者なので忙しい)などもあるのでしょう。彼女もあきらめ、自らの店を持てたのに、自分の代わりのピアニストを雇用しなければならないセバスチャンの現実は、100%自分自身の夢を追求する難しさを象徴していたように思います。
5.映画「ラ・ラ・ランド」の伏線・設定などの解説(※ネタバレ)
5-1.映画タイトル「ララランド」とはどんな意味なのか?
「La・La・Land」という単語は、1970年代後半からアメリカで使われ始めた、比較的新出のスラング寄りの俗語なのですが、主に2つの意味があると言われます。
- 恍惚で、心ここにあらず陶酔した状態。
- ロサンゼルス周辺のことを差す言葉。「La」=「Los Angels」の愛称で、ハリウッドやビバリーヒルズなど、浮ついたイメージのある地名から連想されてこう呼ばれるようになった。
夢の国=ハリウッドで大成功を収めるのは、自分に酔い、愚かなほど盲目にならないとやってられないほど、低確率で難しいことです。ほぼ不可能に近い夢に挑戦する愚かなほどまっすぐな男女二人を描いた物語として、絶妙なタイトルだったと思います。
5-2.アカデミー賞6部門で受賞!ここまでの受賞歴とノミネート状況
「ララランド」は、元々ハリウッドで夢を追う若者を扱った、いわば業界内輪向けのテーマを扱った映画なので、各種賞レースの審査員の心に響きやすい作品でした。
そして、2月27日、事前に14部門でノミネートされたうち、6部門で見事にアカデミー賞受賞。惜しくも作品賞は逃しましたが、監督賞、主演女優賞など主要部門で、また、ミュージカルらしく作曲賞、歌曲賞もしっかりゲットしました。
以下は、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の受賞状況です。
その他、各種受賞状況は、英文ソースになりますが、こちら(IMDB)でまとめられています。全部足し合わせると、軽く100部門以上で受賞しており、賞レースを席巻する本映画の凄さがわかります。
5-3.映画中でのライアン・ゴズリングのピアノ演奏は本物なのか?
映画中、ライアン・ゴズリング扮するセバスチャンは、かなりの難易度なピアノソロをガンガン弾きこなしていました。演奏シーンが始まると「手だけ」フォーカスしたピアノ映像でつなぐのが、通例ですよね。(「のだめカンタービレ」の玉木宏とか「四月は君の嘘」の山崎賢人とか/笑)
これは、ライアン・ゴズリングが本当に全部自分で弾きこなしているのだそうです。実際、彼の演奏シーンは全部「手だけ」のカットは一切ありません。物凄い超絶技巧シーンなどがありましたが、ロケ開始前に全て3ヶ月の猛特訓で覚えきったそうです。その間、全ての仕事を止めて執念で習得したライアン・ゴズリングのプロ意識には恐れ入りました。
ついでにいうと、エマ・ストーンの歌声も期待以上、物凄い上手だったというわけではありませんでしたが、それなりに普通に聴けるレベルでした。調べたら、2014年にブロードウェイの舞台「キャバレー」でデビューしていました。俳優になってからこちらも猛特訓したのでしょうね。ハリウッドの俳優は気合いも違います・・・。
5-4.映画内のバンド「Messengers」のヴォーカル担当、キースを演じていた俳優は?
映画後半で、セバスチャンが加入したバンド「Messengers」のリーダー兼Vo担当は、実際にソウルシンガーとしても有名な、ジョン・レジェンドです。本職ですね。一旦有名コンサル会社に就職した後、歌手デビューしたという変わった経歴の持ち主で、2004年のデビューアルバム「Get Lifted」が全世界200万枚を超える大ヒットを記録しました。
ちょうど、本人も歌手から俳優へと活動の場を広げたいという意向があった中、本職を生かした演技は渡りに船だったようですね。
それにしても美声でした。映画中で歌われた曲「START A FIRE」は、映画「ララランド」のサントラ盤に収められています。僕も、迷いなくポチってしまいました!
5-5.映画内に散りばめられた様々なメタファー
チャゼル監督の鬼才振りは、前作「セッション」でもそうでしたが、主人公たちにセリフとしてテーマを饒舌に語らせるのではなく、情景描写や映画の撮影方法、主人公たちの服装の変化、プロットなどにそれとなくメッセージやメタファーを散りばめて、きっちりとテーマやストーリーを浮き上がらせる演出力や構成力にあると思います。
たとえば、冒頭とラストの高速道路の渋滞の描写の対比は鮮やかでした。LAの名物「大渋滞」は、いわばハリウッド=成功に続く道の困難さを表しているのでしょう。実際、映画冒頭で踊りだした人たちは、ミア、セバスチャンも含めてみんな若者ばかりでした。
そして、エンディングでやはりミアは渋滞に捕まるのですが、冒頭と違うのは、そう、脇に出口があったことです。家路に向かうミアが、あっさり脇道から渋滞を抜けていくシーンは、ミアがすでにハリウッドでの大成功を収めたことを暗示していました。
それ以外にも、二人の関係が深まり、現実というカベにぶち当たるに従って、ビビッドな服装が地味になっていったり、2人が食事をするシーンで、メインディッシュが焼け焦げてしまうトラブルが二人の行く末を暗示していたり、様々な工夫がありました。
何度見直しても新たな発見がある、情報量の濃いしっかりとした作品だったと思います。複数回行く予定なので、もう少し探してみるつもりです。
5-6.最後の空想はミアの夢なのか?セバスチャンの夢なのか?
エンディングラスト10分の空想シーンは、ミアの空想なのか、セバスチャンの空想なのか、チャゼル監督は明らかにしていません。正直なところ、どちらの立場でも解釈できてしまいますし、意見は割れています。
ミアの夢とする立場
SEB'Sに入っていき、ミアがセバスチャンのステージを見ている時に空想シーンへ飛んだこと、空想シーンではミアのキャリアが優先されて描かれていたことから、これはミアの夢である。
セバスチャンの夢とする立場
セバスチャンは、ミアと一緒になれなかったことを後悔し、寂しがっていた。ラストシーンは未練たらたらの表情だった。これに対してミアはキャリアも実現し、子供にも恵まれ、現在の夫と幸せに暮らしている。ミアには「こうだったら良かったのに」と空想する動機が強くないため、この夢はセバスチャンの夢である。
良い映画とは、見終わった後、鑑賞者にあれこれと考えさせる映画でもあります。封切後わずか3日で10,000記事を超えたFilmarksの感想エントリ(過去最速)では、やはりエンディングの解釈についての感想が集中していましたね。
6.まとめ
僕は、どちらかというと洋画ではあまり泣けないのですが、今回の「ラ・ラ・ランド」は本当に切ない話で、泣かされてしまいました。と、同時に、キャリアと人間関係のトレードオフなど、人間の幸福に直結する、考えさせられるテーマを含んでいた傑作だったと思います。何度も見返したい素晴らしい作品です。前作「セッション」に引き続き、若き天才、チャゼル監督の渾身の作品でした。文句なしにおすすめ。
それではまた。
かるび
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今作で主演した二人は、ピアノ・歌唱・ダンス・演技と、すべての要素でハイレベルなパフォーマンスがさすがオスカー候補になる一流ハリウッド俳優だな、と唸らされる素晴らしい出来でした。
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