あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して3ヶ月。無職または専業主夫で、ブログ書いてます。美術展と人事労務系の記事が多め。

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トーマス・ルフ展@東京国立近代美術館の感想~刺激的な新しい写真表現が新鮮でした~

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【2016年9月28日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

東京国立近代美術館にて、現代写真の巨匠、トーマス・ルフが日本での初の回顧展を開いています。非常に良い展覧会でしたので、以下、感想を書いてみたいと思います。

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1.混雑状況と所要時間

会期が1ヶ月過ぎましたが、それなりに混雑する時間帯はあるようです。土日の午後は、のんびり写真撮影するスペースはないかもしれません。午前中や平日は快適に入れるようです。

★館内の様子f:id:hisatsugu79:20160830125759j:plain

作品掲示は、約120点。所要時間は、およそ90分あれば大丈夫だと思います。当日は、東京国立近代美術館のMOMATコレクション(常設展)にも無料で入れます。

こちらにもドイツ現代写真の特集コーナーがあるので、併せて回るなら、さらに1~2時間余裕を持って来館したほうが良いでしょう。(僕はこっちも非常に楽しみ!)

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2.音声ガイドと写真撮影

音声ガイドも用意されています。耳に当てる形式で、収録時間は約30分でした。ただし、音声ガイドがなくても、各コーナーに作品のコンセプトが非常に明快に示されているので、ガイドなしでも充分理解できます。

また、今回は、全作品で写真撮影がOKです。アンドレアス・グルスキー展ではまったく撮影不可だったことを考えると、太っ腹ですね。

撮影条件は、下記を御覧ください。(※パンフレットからの抜粋)

★撮影許可条件
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3.トーマス・ルフと日本での展覧会について

3-1.ルフの日本での展覧会について

今回の展覧会は、ドイツの巨匠写真家トーマス・ルフの日本における初の大規模回顧展となります。海外では、ヨーロッパを中心として大規模な個展が過去何度も開かれてきましたが、日本では、これまでのところ彼が日本で懇意にしている大手のギャラリー小柳などが主催する小中規模の個展や、グループ展での出展にとどまっていました。

今回の展覧会で出展された作品群、全18シリーズは、彼の最初期作の「Interieurs」から、最新の「press++」まで、彼のキャリア全体から満遍なく収められており、トーマス・ルフ本人が選定したとのこと。

生涯の作品一覧を網羅した、回顧展としてふさわしい内容となりました。

3ー2.トーマス・ルフの作風

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トーマス・ルフ(1958-)は、ドイツを代表する現代写真アーティストです。デュッセルドルフ美術アカデミーの写真学科にて、ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻の元で写真を学び、彼らから大きな影響を受けました。

ベッヒャー夫妻の同門に、日本での回顧展を成功させたアンドレアス・グルスキーやトーマス・ストルゥース、カンディダ・へーファー、トーマス・デマンドら著名な写真家が多数輩出されており、彼らは、ベッヒャー派、またはベッヒャー・シューレ(ベッヒャーの教え子/一派)としばしば言われます。

トーマス・ルフも含め、ベッヒャー派の写真の特徴は、「タイポロジー」という手法を取ることで有名です。同じ撮影方法やフォーマットを用いて撮影した一連の被写体対象をグリッド上や横一列などにまとめ、似たもの同士を比べることにより、浮き上がってくる差異や共通性などを探ろうとする独特の写真表現を取りました。(試しに、Googleの画像検索で、『ベッヒャー』と入力するのが一番手っ取り早くわかります)

タイポロジー
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今回のルフ展でも、技法やコンセプトの異なる全18カテゴリごとに同種の写真群が横一列やグリッド上にまとめて展示されるものがあり、ルフがベッヒャー派の影響下にある写真家であることがよくわかります。

1枚だけぽつんと展示してあればどう解釈していいかわからない作品でも、シリーズとして数枚同じコンセプトで規則的に並べてあれば、人間の感覚は不思議なもので、その中からパターンや整合性を見出せるようになり、テーマがよりわかりやすくなる効果があります。

4.作品のみどころ

今回の展覧会で出展されている18シリーズのうち、そのほとんどが、従来の伝統的な手法で制作された「写真」にとどまりません。必ずと言っていいほどにデジタル加工処理を施して、作品に仕上げられています。

後半展示の幾つかの作品群に至っては、「写真」を自分で撮影すらせず、ネット等から拾ってきた画像を流用・加工するといった、いわば「レディ・メイド」的な手法で新境地を開拓していることに、驚きました。

4-1.「Hauser(ハウス)」シリーズ

その取組は、キャリア初期の1987年「Hauser(ハウス)」シリーズで既に始まっており、二枚のネガを接合するなど、レタッチやカット&ペーストといったオーソドックスな加工処理で、作品を恣意的に変化させて提示しました。

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(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

4-2.「nudes(ヌード)」シリーズ

そして、中期以降作品では、撮影すら自分では行わず、イメージや画像の加工処理そのものに焦点をあて、コンセプトを定めた作品を仕上げるようになります。

たとえば、1999年に発表された「nudes(ヌード)」では、インターネット上のポルノサイトから取ってきたデータを極限までぼかして、色調を変えるなどの画像処理を行い、ヌードの構造がわずかに認識できる程度まで加工した「画像」を作品化しました。

ルフは、本シリーズの作品の意図について、ポルノグラフィティという、「見てはいけないけれど見たいもの」こうしたものがインターネット上でいとも簡単に手に入ってしまう現代の状況に対して、問題提起をしたかったのだと言います。

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(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

4-3.「jpeg」シリーズ

さらに、圧縮率を高くするとモザイク状に劣化してしまうJPEGフォーマットの特性を作品に活かした2004年の「jpeg」シリーズなども面白かったです。

大判の写真でも、充分遠くまで離れたら、普通の写真に見えますが、近くに寄ると、格子状のドットが目立つようになり、まるで点描などの近代絵画のように見えるというJpeg画像の特性を活かしたユニークな作品でした。

★遠ざかると普通の写真に見えるf:id:hisatsugu79:20160830124340j:plain

★近くに寄ると、点描のような独特の格子が見える(上記写真の煙の部分)f:id:hisatsugu79:20160830124630j:plain
(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

2001年9月11日、ちょうどニューヨークに滞在中だったルフは、テロ現場を手元のカメラで収め帰国します。しかし、帰国してから作品制作のためにフィルムを確認してみると、撮ったはずの写真がなぜか全部消えてしまっていたそうです。

そこで、仕方なくネット上で使えそうなテロ現場の写真を検索していた際に、この「jpeg」シリーズのコンセプトがぱっとひらめいたという逸話が面白かったです。

4-4.「Photogram」シリーズ

フォトグラムとは、1920年代後半にマン・レイらによって開発された写真技法で、カメラを用いず、感光紙の上に物を置いて直接露光して、その影や、透過する光をかたちとして定着する技法です。(参考:トーマス・ルフ展図録P204)

ルフは、ここに最新のデジタル技術を導入し、独自の味わいを持つ「光の造形」を作り出し、フォトグラムの新たな表現手法を開拓しています。写真というより、美しい抽象絵画といったような感じです。四次元空間の中なのか、宇宙の始まる前の状態なのか、こういった光が無秩序に混沌とした造形は、鑑賞者に様々なイマジネーションを提供してくれそうです。
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(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

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(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

5.グッズ

グッズもおしゃれなものが用意されており、写真の絵柄がプリントされたシャツや、トートバッグなどがなかなか良い感じでした。特に、シャツはオシャレで普段から着まわしても全く違和感がありません。(ちょっとヌード図柄のトートバッグは勇気いりそうですが・・・)f:id:hisatsugu79:20160830133005j:plain

面白かったのは、クリアファイル。通常よくあるA4やB5サイズではなく、A3サイズで非常に大判です。これはちょっと珍しい感じ。

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グッズ担当の方にお聞きしたら、基本的に、売り切れ次第終了になる可能性が高いとのことです。スタイリッシュでクオリティが高いので、是非お早めに!

6.まとめ

こうして、トーマス・ルフの作品全般を俯瞰してみてみると、彼が、伝統的な記録媒体という「写真」という枠を大きく超えて、様々な「画像イメージ」を自由な発想で作り上げてきたのだないうのがよくわかりました。

全18シリーズとも、西洋のアーティストらしくコンセプトはしっかり際立っており、整理されていました。初心者である僕にも、「何をどう意図して表現したかったのか」というルフ自身の狙いや目的がしっかりと理解できました。

図録の中田耕市氏の解説のタイトルに『トーマス・ルフ「写真」の臨界へ』とありますが、これはうまい表現だなと思います。ルフ自身も、内覧会のインタビューにて「これからも技術革新とともに写真はもっともっと創造性豊かに、可能性が広がっていく」と語っていましたから。

今回の展示会では、そんなルフの写真に対する独創的・創造的な取り組みをたっぷり楽しめます。もちろんそういった細かい文脈抜きで、単純に自分の感性だけで見ても、「あぁ、これいい写真だな」と思える作品も沢山あります。

楽しい展覧会です。是非足を運んでみてください。

それではまた。
かるび

展覧会概要

11月までは東京で開催され、その後、金沢21世紀美術館へ巡回します。

展覧会名:「トーマス・ルフ展」
会期:
【東京】2016年8月30日~11月13日
【金沢】2016年12月10日~17年3月12日
会場:東京国立近代美術館、金沢21世紀美術館
公式HP:http://thomasruff.jp/

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

今回の展示会の前に、写真を鑑賞するための知識や歴史的な文脈を知るためにいくつか予習した中で、役に立ったものを紹介しておきますね。写真を「撮る」入門本は腐るほどあるのですが、「写真を見る」鑑賞入門のための本って少ないんですよね・・・。

今展覧会の特設Webサイトでも、トーマス・ルフが学んだデュッセルドルフの美術学校の写真と推薦文の寄稿をしているホンマタカシ氏。よい子の・・・とありますが、普通に大人の初心者向けです。写真史、写真の見方・楽しみ方を分かり易く噛み砕いてくれています。

アンリ・カルティエ=ブレッソンに代表される「決定的瞬間派」、今展示会のルフの流れを組むベッヒャーら「ニューカラー派」の違いは、端的に言ってシャッタースピードの違いである!との分かり易い解説は目からうろこ!国際的に活躍する写真家が易しく語る、写真鑑賞のための入門書。

写真家、菅原一剛氏が個人的に尊敬する歴史上の重要写真アーティスト達を紹介した本。各アーティストの写真や作風の特徴、有名な逸話、より理解するための参考図書をコンパクトに纏めてくれています。日本人からも、土門拳や田淵行男などがピックアップされています。

世界的に活躍する現代写真家数十名をピックアップし、彼らの代表作をピックアップしながら、現代アートの文脈で写真を語り尽くした労作。カラー写真をふんだんに使い、やや値段は張りますが、アートとして写真を本格的に味わいつくすなら欠かせないレファレンスだと思います。もちろん、トーマス・ルフも紹介されています(ポルノ写真が/笑)オススメ!