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あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して3ヶ月。無職または専業主夫で、ブログ書いてます。美術展と人事労務系の記事が多め。

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鈴木其一展は、江戸琳派巨匠の多彩な画業が一望できるリピート必至の大回顧展でした!

アート
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【2016年10月5日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

9月10日からスタートした「鈴木其一 江戸琳派の旗手」展。
個人的には、2016年度下半期の最注目展覧会として楽しみにしていたので、気合を入れて初日から行ってきました。

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サントリー美術館HP等での事前情報が少なくどうかな~と思っていましたが、目玉の「朝顔図屏風」を筆頭に、過去最高点数の鈴木其一の作品約220点が出展されており、力の入った回顧展で非常に良かったです。今日は、早速「鈴木其一展」の感想を書いてみたいと思います!

1.混雑状況と所要時間目安

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初日の土曜日11時頃に入館。土日でしたが、写真の通り特に混雑はしていませんでした。作品数は多めなので、大物の屏風なんかはゆっくり見るのであれば、90分は最低確保した方が良いと思います。

【2016年9月14日追記】
10月2日のNHK「日曜美術館」で特集されるらしいとのことで、これ以降は混雑するのではないかというコメントを頂きました。行くなら、まずは9月中が良さそうな感じですね。

鈴木其一展は、巨匠の意外な一面も見えるリピート必至の良い回顧展でした! - あいむあらいぶ

スマホアプリ良いなあ。他のところでもやってほしい/いい時期に行きましたね。日曜美術館では10月2日に鈴木其一を取り上げますので、それ以降は混雑するでしょう

2016/09/12 09:11

2.音声ガイドはダウンロードがオススメ

サントリー美術館の音声ガイドは、スマホアプリにダウンロードしてイヤホンをつける形式か、従来型の音声ガイドのどちらかを選べます。

今までは、なんとなく面倒だなと思って従来型の音声ガイドを借りていたのですが、今回思い切ってスマホ型にしました。ヤマハの「マイガイド」というアプリを落として、館内でもらえるQRコードを読ませると、ガイド音声がスマホアプリ内に配備されます。

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画面はこんな感じ。

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ダウンロード版音声ガイドの利点は、一旦ダウンロードしたら、家に帰った後でも何度も聞き返せるところ。僕も、帰宅してから図録を見ながらもう一度復習しました。

巡回する姫路県立美術館、細見美術館で使えるかどうかはわかりませんが、この仕組みは便利。これからサントリー美術館の展覧会はスマホ型を毎回使おうと思います。他美術展でも、もっと広まって欲しいなぁ。

3.鈴木其一と今回の展覧会のコンセプト

今回展示会の主役、鈴木其一(すずき「きいつ」)は、江戸時代末期~幕末に活躍した絵師で、「江戸琳派」の創始者酒井抱一(さかいほういつ)同様、同派絵師の代表格とされています。

江戸時代の絵画の流派やスタイルは、幕府の御用絵師系の「狩野派」を初め、京都の知識人で流行した「文人画家」、写実性に優れた円山応挙が起こした「円山派」伊藤若冲曾我蕭白など個性派ぞろいの「奇想派」などバラエティに飛んでいます。鈴木其一は、その中でも、俵屋宗達、尾形光琳の流れをくむ「琳派」に属します。

俵屋宗達の影響を受け、京都にて尾形光琳と、その弟尾形乾山が創始した「琳派」は、一旦江戸中期までに廃れましたが、18世紀に入り、徳川家の名門、酒井家の出身である酒井抱一により「江戸琳派」として再興されました。その、酒井抱一の一番弟子が、鈴木其一です。

下町の染物屋の町人として生まれた鈴木其一は、酒井抱一に弟子入りし、身の回りの世話から画塾の切り盛り、工房での制作まで、あらゆる面で抱一の一番弟子として15年以上献身的に仕えました。師匠存命中は、弟子として師匠の作風を忠実に受け継ぎ、制作面では師匠の下絵や代筆を完璧にこなしたといいます。(師匠が武家出身、其一が町人出身だったから、身分的にも全く逆らえなかったという説もあり)

やがて、酒井抱一没後、抱一の工房(画塾)「雨華庵」を抱一の養子である酒井鶯浦(さかいおうほ)が継ぐと、其一は一旦リフレッシュのため江戸を離れ、数年の長旅に出掛けます。

再び江戸に戻ると、其一は独立します。琳派の伝統画法をベースに、大名家や豪商のオーダーを受けて、売れっ子絵師として様々な種類の絵画や工芸品へと手広く制作物を手掛ける中、独自の画風を獲得するとともに、工房では多数の弟子を育成しました。

この展覧会では、そんな其一の一生をトレースする回顧展スタイルで、江戸琳派のルーツから抱一の弟子時代、独立してからの壮年時代、そして晩年の大作、弟子たちの活躍などを順番に展示して見ていくことができるようになっています。

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4.鈴木其一展の見どころは?

みどころ①:10年ぶりに来日した代表作「朝顔図屏風」

f:id:hisatsugu79:20160911180302j:plain(Wikipediaより)

収蔵先のメトロポリタン美術館でも展示されるたびに人気を博している、鈴木其一の最高傑作との呼び声が高い「朝顔図屏風」が戻ってきました。2004年の東京国立近代美術館での「琳派展」以来、12年ぶりの里帰りとなります。

これ1枚だけでも見ておく価値があります!

画面での紹介だと全く魅力を伝えきれないのですが、まず、単純にこれが大迫力なのです。特大サイズの大屏風に、実物よりも大きなサイズで埋め尽くされた群青色のアサガオは、まさに圧巻!

細部まで一つ一つ写実的に描かれ、奔放にツルを伸ばす様子は、さすが江戸時代のアサガオの大生産地、浅草入谷の近くに終生住んだ其一ならではの描写です。繁殖力の高いアサガオの奔放な様子が良く描かれています。

また、青と緑だけの限定的な色使いで、ひたすらアサガオだけを描いたモチーフは、琳派の大先輩、尾形光琳「燕子花図屏風」へのオマージュであることは明白ですね。

また、音声ガイドによると、左隻、右隻の図柄の構成が、宗達、光琳、抱一も描いた琳派伝統の屏風絵「風神雷神図屏風」をも模しているとの分析がありました。

「なるほど!その見方はあるよな」と思わず目からうろこでした。音声ガイドは、パネル解説には書かれない、こういう鋭い分析をしれっと入れてくるから外せないんですよね・・・。試しに見てみましょう。

尾形光琳「風神雷神図屏風」f:id:hisatsugu79:20160911225917j:plain(Wikipediaより)

朝顔図屏風(再掲)f:id:hisatsugu79:20160911230341j:plain(サントリー美術館HPより)

どうでしょうか?確かになんとなく全体の構図として似ているような気もしますね?!

今度は、実際のアサガオと比べてみましょう。琳派らしく装飾性、デザイン性を整えつつもなかなか写実的ではあると思います。今日、僕の自宅近くで偶然撮ることができた写真です。恐ろしい繁殖力ですね・・・。

紫の咲き乱れるアサガオ(2016/9/14)f:id:hisatsugu79:20160914213842j:plain

諸説いろいろある本作ですが、傑作であることは間違いありません。会期中、ずっと最終展示室手前でゆっくり鑑賞ができますよ。これだけでもいいから、是非見に行ってください!

みどころ②:其一の様々な画業が俯瞰できる

今回展示では、いわゆる琳派の伝統的な「花鳥画」「山水画」にとどまらず、其一の手がけた「仏画」「風俗画」「物語絵」や、掛け軸、扇、凧、羽子板、絵馬などの工芸品も展示しています。大名家や豪商への祝いの品や贈答品需要に応え、御用絵師としてなんでもこなした売れっ子作家らしい多作ぶりでした。

「神功皇后伝図絵馬」 

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(鈴木其一展 図録より)

 行田八幡神社に伝わる、其一が奉納した絵馬です。海の波濤の表現が、葛飾北斎スタイルで描かれていたところに目が釘付けに・・・。幕末は広重、北斎、国芳ら個性的な絵師が多かったの絵、江戸で交流があったのかもしれませんね。実際、研究家の指摘でも、円山応挙と葛飾北斎からの影響を指摘されています。

「虚空蔵菩薩像」
f:id:hisatsugu79:20160911180524j:plain
(鈴木其一展 図録より)

極彩色の仏画は、保存状態もよく非常に目を惹かれました。花鳥画、山水画、風景画にとどまらず、こういった作品まで器用にこなせてしまう其一の多才ぶりに驚かされました。

「紅葉狩図凧」
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(鈴木其一展 図録より)

日本画の美術展で、タコを鑑賞したのは初めて!桜とモミジを背景に、般若の面をあしらったデザインで、江戸の空には映えたでしょうね。作られてからかれこれ150年以上経過しているのに破損もなく美麗な状態を保たれているので、美術品というより、風俗史・文化史的な資料としても貴重な作品だと言えそうです。

みどころ③:個人蔵の珍しい出展が多数

今回展示で目立ったのは、「個人蔵」の出品に隠れた名品が多かったこと。やはり、光琳や抱一に比べて、まだ研究や収集が進んでいない分、美術館に収蔵されている点数の比率が少ないのかなと思わされました。

たとえば、出口付近にあったこの屏風絵。

 富士千鳥筑波白鷺図屏風f:id:hisatsugu79:20160911180331j:plain(鈴木其一展図録より)

其一晩年作で、写実よりも琳派らしい装飾性が前面出た作品。状態も非常に良く、群青や緑青、銀の発色もよく、明るく極彩色でまとめた其一らしい傑作だと感じました。

インターネットで検索しても一切引っかからず、図録によると今回が美術展初出となる作品のようです。NHKの「日曜美術館」でもラストで取り上げられていました。

みどころ④:弟子たちの作品も面白かった

鈴木其一は、いわゆる江戸っ子気質だったといいます。町人出身で、大酒飲み。そして、弟子たちを沢山取ってよく面倒を見て後進を育成しました。

琳派は昭和初期まで日本画の一流派として続きますが、明治期以降への確かな流れを作ったのは其一の功績でした。其一の弟子を、江戸琳派の中でも「其一派」と呼びますが、江戸末期~明治前期までは「其一派」が琳派絵師を引っ張る中核的な存在になりました

鈴木守一「楓桜紅葉図」
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(鈴木其一展 図録より)

鈴木其一の実子で、父親同様絵師となった鈴木守一(すずきしゅいつ)の作品が、弟子たちの作品の中では一番しっくりきたかなぁと思います。親子ですから、一番画風が似ているのでしょう。本作では、雨の表現やもみじの描き方などは、伝統に忠実な琳派らしい作品です。

池田孤邨「蓬莱・百亀・百鶴図」
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(鈴木其一展 図録より)

池田孤邨(いけだこそん)は、酒井抱一門下で、其一より9歳年下の兄弟弟子でした。抱一の後を継いだ酒井鶯浦や鈴木其一とは、程よい距離を保ちながら明治維新直前まで活躍しました。沢山の鶴(群鶴)のモチーフは、特に尾形光琳以来の琳派の伝統的なスタイルを踏襲していますね。

彼の住居が、僕の前職の会社があった日本橋久松町だったこともあって、ちょっと個人的に勝手に親しみを感じています。(知らんがな)

5.その他気に入った作品たち

5-1.文読む遊女図

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引用:http://reinori.blog67.fc2.com/blog-entry-59.html

師、酒井抱一と鈴木其一の合作。其一が絵を書き、抱一が俳諧を詠みました。吉原に遊びに行った際、夜が明けて、翌朝お客を送り出したあとに休憩中の遊女を素早く描いた作品だと言われています。「手紙を読む遊女」は、浮世絵などでも良くある構図ですね。(「文読む遊女図」でぐぐってみるとわかります

遊女の何とも言えない「あー、今日もお疲れ自分・・・」的なまったりした表情が見飽きない早描きの佳作でした。

5-2.「雪中竹梅小禽図」(右幅)

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雪がドサドサっと、たった今落ちゆく一瞬を捉えたモチーフを描き出すのは鈴木其一の得意技です。落雪に驚いた小鳥が慌てて飛び出したような構図が、臨場感たっぷり。伊藤若冲の粘着質な湿雪風の表現も好きですが、其一の軽そうな落雪の表現も独特で面白いです。

5-3.水辺家鴨図屏風

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(引用:水辺家鴨図屏風 : サントリー美術館で展覧会開催!鈴木其一とは? - NAVER まとめ

たびたび過去の琳派展で出展されている、割と認知度の高い其一の屏風絵です。

水辺で遊ぶアヒルの群れは琳派での伝統のモチーフですが、其一の独自性が伺える迫力ある作品です。家鴨の描き方が写実的で、1羽1羽の羽の色・形が違っていたり、水流が屏風の上部まで回り込んでいたりと、其一ならではの工夫が見られます。

6.その他注意点(展示替えに注意!)

今回の展覧会も、日本絵画の展覧会らしく、会期が50日と非常に短い展示期間です。また、期間中に3回の展示替えが発生し、かなりの展示が入れ替わる予定です。

会期初日時点では、大物である六曲一双(つまり12面ある)「四季花鳥図屏風」や定番モチーフである「風神雷神図襖」、そして根津美術館所蔵の「夏秋渓流図屏風」あたりは展示されていませんでした。展示期間をよくチェックして、何度か足を運んでみてください。

7.まとめ

これまで、琳派をテーマとした総合的な展覧会は毎年のように多数開催されてきましたが、その中で鈴木其一の作品も、必ずセットで展示されてきました。ただし、尾形光琳や酒井抱一に比べると、どうしても一歩下がった脇役という位置づけであり、専門家の研究も一歩遅れ気味でした。

其一単独の展覧会は、ここ30年でわずか2回の開催にとどまります。これまで、なかなかまとまって「其一」単独で焦点を当てた回顧展は開催されていなかったので、今回の回顧展が、若冲のようにファンの間で再評価が進むきっかけになりそうです。

今回展示は、前回細見美術館のコレクション展での特集展示以来、約10年ぶりの大回顧展となりますが、いわゆる琳派伝統の花鳥画、山水画だけでなく、扇子や凧、羽子板、絵馬などの工芸品やだまし絵的な描表装、絵本の挿絵、能謡画、さらに其一の弟子達の作品など様々な角度から其一の画業を俯瞰できる、回顧展の決定版です。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

今回の鈴木其一展は、サントリー美術館から始まり、その他2会場へ巡回します。
※朝顔図屏風は、姫路・京都には巡回しませんのでご注意!
展覧会名:「鈴木其一 江戸琳派の旗手」
会期:
【東京】2016年9月10日~10月30日
【姫路】2016年11月12日~12月25日
【京都】2017年1月3日~2月19日

会場:
【東京】サントリー美術館
【姫路】姫路市立美術館
【京都】細見美術館

公式HP:http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2016_4/index.html
Twitter:https://twitter.com/sun_SMA

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

1.鈴木其一の旅日記「癸巳西遊日記」(きしさいゆうにっき)

ダウンロード先
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/t226/t226cont.html

師である酒井抱一が亡くなり、その数年後、暇をもらった其一が近畿、四国、中国地方、九州など、約10ヶ月間の長期旅行にでかけた際に、旅先でスケッチをまとめた絵日記。原本は失われ、現存するのは息子、鈴木守一による書写版。スキャンしたデータが京都大学付属図書館谷村文庫に収められ、オンライン上で誰でも自由に読むことができるようになっています。

摺針峠(すりはりとうげ)から琵琶湖の全景を描いたページは、今回展示されている「琵琶湖入江遠望図」の構図そのまんまでした。是非覗いてみてください。

2.書籍

花鳥画や屏風絵を中心に丁寧にまとめられたムック本。鈴木其一の画業を振り返る、唯一の出版物です。(寂しい限り・・・)少々お値段は張りますが、きれいなカラー写真と詳細解説で、主要作品をたっぷり収録しています。図録以外で其一を掘り下げた書籍はこれしかありませんので、ファンなら要チェックですね。

3.図録が特大ボリュームでお勧め!

これは残念ながら会場に行かないと購入できませんが、簡単に特集本やムック等が手に入らない以上、2016年9月の現時点では、図録を購入するのが鈴木其一を理解する最短ルートだと思います。分厚くて、メチャ重たい(笑)ですが、それは内容が充実しているため。220点もの作品を網羅しているから仕方がありません!是非購入を検討してみてくださいね。

図録(大きさ比較のためミニカーを置いてみた)f:id:hisatsugu79:20160914214941j:plain