あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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ホキ美術館「第3回私の代表作展」で驚異の写実絵画を堪能してきました!【展覧会レビュー・感想】

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【2017年12月23日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

ホキ美術館って知ってますか?

千葉市緑区の昭和の森に隣接した閑静な環境の中、2010年11月にオープンした新興の美術館です。手頃な値段で楽しめる評判のイタリアンレストランと、現代写実絵画の殿堂として、最近ではるるぶやまっぷるなどにも掲載されるなど、アートファン以外の観光客にも大人気。ぐんぐん知名度を上げてきている要注目の観光スポットでもあるのです。

今回、運良くプレス向けの内覧会で取材する機会を頂きましたので、喜んで行ってまいりました!少し時間が経ってしまいましたが、以下写真つきで内容を紹介したいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.ホキ美術館について

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ホキ美術館は、株式会社ホギメディカル創設者の保木将夫氏が収集した、絵画コレクション約350点を展示するスペースとして2010年11月3日に設立されました。設立保木氏が美術館を創設した理由には、「日本の写実絵画を世界で認められる絵画にする」という強い思いがあったのだそうです。素晴らしい志です。

ところで、ホギメディカルは、手術などで使う使い捨ての医療用製品の製造・販売を手がける会社で、創業以来、ずーっと右肩上がりで成長を重ねてきている優良企業であります。

▼参考:ホギメディカルの業績推移

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引用:http://www.hogy.co.jp/material/pdf/2017ar_j.pdf

もちろん、美術館の経営と本業には直接の関係はないものと思われますが、開館以来、約7年間で100点あまりの作品を継続して安定的に買い付けできているのも、本業が潤っているからこそなのかもしれません。アートファンとしては頼もしい限りです。

さて、そんなホキ美術館の最大の特徴といえば、現代の写実絵画に展示分野を絞り込んで作品を収集し、企画展を開催していることです。野田弘志、五味文彦、森本草介、諏訪敦ら、現代日本を代表する油絵での写実絵画を手がける作家たちの作品を安定的に買い付け、彼らの有力なパトロンとして活動を支えるとともに、近年は写実絵画を志す若手の登竜門となりつつある「ホキ美術館大賞」も開催中。ホキ美術館大賞からは、確実に次世代の新人たちが発掘されています。

また、2016年からは、所蔵品を首都圏以外のアートファンの要望にも応え、「ホキ美術館名品展」として、本格的に地方での美術館巡回展をスタートしました。特に、直近の2017年3月29日(水)~5月14日(日)まで佐賀県立美術館で開催された企画展では、41日間で約4万人の入場者を記録するなど、かなりの反響を呼びました。

▼海外の写実絵画系美術館とも交流開始f:id:hisatsugu79:20171216111859j:plain

さらに、来年2018年9月からは、バルセロナのヨーロッパ近代美術館(MEAM)との交換展がスタートし、翌2019年5月17日~9月1日まで、スペインの現代写実絵画約60作品を紹介する「MEAM展」(仮称)も決定したそうです!

2.私の代表作展&理想の風景画展とは

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さて、そんなホキ美術館ですが、この11月からスタートしている企画展は2本立てとなっています。一つは、地下の最深部「ギャラリー8」で、ホキ美術館が継続的に作品を買い付けている14~15人の作家の新作(100号クラスの大作)が発表される「第3回私の代表作展」と、所蔵品の中から風景画を中心として選りすぐった「理想の風景画展」の2つです。

▼ギャラリー8で特集されるアーティスト達f:id:hisatsugu79:20171216121817j:plain

特に注目したいのは、「第3回私の代表作展」です。この企画は、3年に1度、ホキ美術館所蔵の約50作家の中から特に選抜された14~15名の作家が、ホキ美術館のために人物画・風景画・静物画など、自由にテーマを選んで100号以上の大作を描き下ろして展示する、非常に贅沢なグループ展なのです。

▼絵画1点ごとに専用の音声ガイドがあるf:id:hisatsugu79:20171216121632j:plain

しかも、各作品には、1点ずつ専用のスピーカーで音声ガイドまでついており、1点ずつ作品を見ながら、じっくり作者の制作意図やテーマについて聞くことができるようになっています。

3.初心者でも写実絵画を楽しむ簡単な方法「すごく近くに寄ってみる」

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「諏訪敦/しろたえ」(2017)部分拡大図

ところで、写実絵画って、どんなふうに楽しんだら良いのでしょうか?

写実絵画って、どれを観ても写真みたいにリアルできれいで、最初に見た時はその技術力の高さに言葉を失いますよね。でも、慣れっていうのは恐ろしいもので、そうやって20、30と作品を見ていくうちに、それが当たり前のようになってきて、折角の作品をどう楽しんだらいいのか、いまいちわからないまま展示後半は流して終わってしまった・・・っていう経験ってないでしょうか?

僕も、美術館に通いだしてから、最初の1年目はそうでした。超絶技巧系の工芸・絵画の展覧会に行くと、最初だけは「おぉ、凄い!」とテンションは高いのですが、後半は息切れしてしまい、終わってみたら不完全燃焼だった・・・ということがよくありました。

これは、何度かホキ美術館に通って僕なりに気付いた鑑賞法なんですが、一つ、シンプルな僕なりの写実絵画の楽しみ方をご紹介したいと思います。

それは、

「絵にすごく近くに寄ってみる」

というシンプルな楽しみ方です。

写実絵画は、遠くから引いて作品全体を見ると、基本的にはどれも写真のように見えて、作家ごとの個性が見えにくいんですよね。(超絶に上手なのはわかるけど)だから、淡々と見ていると、だんだんと慣れてきて、飽きてくるわけです。どれも同じに見えるから。

でも、そこでさらっと流すのではなくて、気に入った作品は、是非一度至近距離まで寄ってみてください。すると、実際はやっぱり写真ではなくて、ちゃんと作家さんが膨大な時間と手間をかけて、丁寧に手作業で制作していることがわかります。よーく見てみると、作家ごとに描き方や筆触のクセなどが全然違うんです。

出来上がった作品はどれも結果として写真のような完成度なのですが、細部に着目してみると、きちんと個性や手作業独特の温かみが感じられるのです。また、引いたり近づいたりしてみて、絵画の見え方の変化を楽しむのもいいかもしれませんね。

たとえば、ここでは、島村信之「新緑」を例にとって説明してみたいと思います。

▼島村信之「新緑」f:id:hisatsugu79:20171216120813j:plain

上記作品は、霧がかった晩春~初夏の森の中の風景を切り取って、写実的に描いた作品です。遠目に見ると、どこからどう見ても写真のように丁寧に仕上げられた作品です。

では、ちょっと寄ってみましょう。

▼「新緑」拡大図。少し寄ってみた。f:id:hisatsugu79:20171216121029j:plain

拡大したことで、よく目を凝らしてみると、ようやく写真との違いが何となく分かるレベルになりました。確かに、ちゃんと筆で描かれている感じです。でも、まだなんとなく詳細な筆触や筆使いの個性は見えませんよね。そこで、更に寄ってみます。

▼「新緑」更に拡大図。かなりズームアップしたf:id:hisatsugu79:20171216121044j:plain

どうでしょうか?ここで、ようやく作者の筆使いが感じられるようになりましたよね。細かいところまで見ていくと、明らかに写真とは違う、ある種の筆触のパターンがきっちり現れるんです。

4.特に気に入った作品について

以下、「私の代表作展」を中心に、いくつか気に入った作品を紹介したいと思います!

小尾修「静寂の声」

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写実絵画と言えば、やっぱり王道は女性のヌード(笑)でも、単にエロ目線で描かれているだけであれば、美術館には展示されません。例えば、本作などは、ちゃんと局部は隠されて性的な誇張を抑えた上で、バックの炭化した枯れ木と合わせて構図を取ることで、鑑賞者に深く考えさせるきっかけを与えます。

また、枯れ木の複雑な形状と、モデルの女性のポーズがちゃんとシンクロしてて、妙に馴染んでいる絶妙のバランス感もいいですよね。椅子に座っているというより、木のゆりかごに抱かれているような感じもします。

▼「静寂の声」部分拡大図f:id:hisatsugu79:20171216112251j:plain

何かをいいたげな表情で、こちらを「キッ」と睨んでいる感じの顔立ちも思索的な感じがして、良かったです。

塩谷亮「月洸」

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写実絵画の世界で、若手の代表格として人気急上昇中の塩谷亮の新作は、得意とする人物画ではなく、月の光に照らされた竹林を描いた一対の油絵でした。穏やかで柔和な作風はそのままに、屏風絵のような和のテイストもしっかり感じられる意欲作です。

▼「月洸」部分拡大図
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青木達郎「白デルフトの焼き物と獅子、果物達」

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写実絵画の中では、静物画も人気ジャンルです。光の当たった陶器やくだものの質感を極限までリアルに、ある意味写真以上に存在感を際立たせて描いていますね。

▼「白デルフトの焼き物と獅子、果物達」部分拡大図
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野田弘志「掌を編む」

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こちらは、常設コレクションの中から写実絵画分野で第一人者として名高い野田弘志氏の作品。ホキ美術館でも、創立時から多数の作品を展示していますが、中でも僕はこの肖像画が好きなんです。

その理由としては・・・

▼「掌を編む」部分拡大図f:id:hisatsugu79:20171216120007j:plain

これ、どことなく、榮倉奈々に似てません?

ずっと榮倉奈々そっくりだーと思っていたのですが、妻に話したら、いや、松たか子でしょ?って言われました。・・・そ、そうかな?!

曽根茂「深冬」

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こちらは、「理想の風景画展」から。個人的に、風景画は特に雪景色に惹かれるのですが、本作はまさにすっきりしない真冬の典型的な寒々しい風景。「深冬」とは見事なタイトルです。分厚い雪雲の間から、遠くに少しだけ晴れ間が除いている寒々とした農村の素朴な風景に惹かれました。

▼「深冬」部分拡大図
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上記作品の左上部分を拡大してみると、ほんとうに細部まで丁寧に描いていることがわかるんですよね。難易度の高そうな積雪の深い冬の風景を見事に表現しています。

4.建物も凄い!外観や内部の構造もじっくり見てみましょう!

また、ホキ美術館は、展示内容も個性的ですが、美術館の建物も面白い形をしています。建築ファンからも評価が高いようですね。建物内部の様子や、外観の写真なども、独特の風合いが感じられ、いわば、美術館のハコ自体が一つのアート作品として成立しているのです。

これは、各フロアの通路の風景を撮影した写真ですが、ちょっと近未来異世界のような雰囲気が漂ってませんか?四方を真っ白な壁に囲まれ、巨大な宇宙船の中にいるような非日常感あふれる館内を是非味わってみてくださいね。

▼館内(2F)の様子
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▼館内(1F)の様子
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▼館内(地下1F)の様子f:id:hisatsugu79:20171216122504j:plain

続いて、外に出てみましょう。建物の一部が空中に大きくせり出した外観は、まるで建物が空中に浮いているように見えてきます。

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そして、建物の屋上部分にも、アート作品が飾られています。

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美術館の四方に目を向けると、道路を挟んだすぐ向こう側には、巨大な公園「昭和の森」が広がり、道路の手前側は、新興住宅地が広がっています。外に出て、静かに佇んでみるとわかりますが、日中でもほとんど物音が聞こえない非常に静かな環境です。 

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5.グッズコーナーも充実しています

ホキ美術館は、受付手前にあるグッズコーナーも非常に充実しています。簡単に紹介しますね。

▼大量の絵葉書!
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まず、目を見張るのは、物凄く沢山の種類の絵葉書が販売されていることです。どれも写実絵画がプリントされているのですが、紙に印刷されていると、本当にどれも写真みたいに見えるんですよね。気に入った一枚があれば、記念に購入してみるのもいいですね。

▼その他のグッズも多種多様なアイテムが揃うf:id:hisatsugu79:20171216122807j:plainf:id:hisatsugu79:20171216122826j:plain

また、その他グッズ類も、一通り定番のクリアファイル、一筆箋、マスキングテープなど定番はもちろん、千葉県北部の名産品など、食べ物から工芸まで、地域の有名なお土産も置いてありました。どれも目移りする面白いグッズが揃っています!

6.混雑状況と所要時間目安

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展示点数は、常設展示と合わせると3フロアで200点以上になるため、じっくり見て回るのであれば90分~120分程度は空けておいたほうがいいでしょう。館内が混雑することはまずありませんが、1Fの併設レストランで食事を予定しているのであれば、予約してから行ったほうが無難です。(いつも地元の人達でレストランは大混雑!)

また、土日にマイカーで来る場合は、時間帯によっては東京方面へ帰る時、高速道路が(アクアライン経由、千葉経由共に)大混雑します。時間には余裕を持ってお出かけ下さい。

7.関連書籍・資料などの紹介

写実絵画の新世紀: ホキ美術館コレクション

ホキ美術館の保有するコレクションをまとめた、市販されているムック本の代表格。A4サイズの美麗写真で、文句なくおすすめできます。さすが、その美しさには定評がある別冊太陽です。図録代わりに、まずはこちらをじっくり予習してみるのもいいですね!

写実絵画とは何か? ホキ美術館名作55選で読み解く

こちらも、ホキ美術館で保有する名作を集めたムック本。別冊太陽より少し小さめのサイズですが、写真は見開きで印刷されているため、1枚1枚の絵を細部までじっくりと堪能できます。こちらもおすすめ。

野田弘志「聖なるもの」

ホキ美術館で最もフィーチャーされている代表的な画家、野田弘志の出版した画集です。表紙の写真は、つい最近まで差し替えられるまで、地下1Fの奥の目立つ場所にかかっていました。

カフェのある美術館

こちらは、アートブロガーのレジェンド、Takさん(@taktwi)が監修・執筆された本です。Takさんが自らの足で確かめた、全国津々浦々の美術館に併設されたカフェの中から、「ほんとうにイケているミュージアムカフェ」を厳選して掲載しています。そして、この本の中に、ホキ美術館のカフェも含まれているんですよね。僕も本書で太鼓判が押された美術館のカフェをもう10件以上回りましたが、たしかにハズレがありません!ホキ美術館のカフェと、本書、おすすめです!

「カフェのある美術館」に関しては、過去に掘り下げた記事を2つ書いています。もしよければこちらもどうぞ。 

8.まとめ

2018年以降は、いよいよ海外の写実絵画系美術館との交流も活発になるホキ美術館。オーナーがまだまだ作品購入に意欲的で、毎年コレクションが増え続ける中で、どんどん存在感が大きくなってきている要注目の美術館です。一度遠征しても行く価値があります!印象派や現代アート、日本画とはまた違う、独特の絵画世界が味わえる美術館です。是非、写実絵画の深い世界を味わってみてくださいね。
それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
ホキ美術館
〒267-0067 千葉県千葉市緑区あすみが丘東3-15
◯最寄り駅
JR外房線土気(とけ)駅
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◯会期・開館時間
2017年11月18日~2018年5月20日
 午前10時~午後5時30分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週火曜日
◯公式HP

https://www.hoki-museum.jp/
◯Twitter
 https://twitter.com/hoki_museum