かるび(@karub_imalive)です。
文化庁が主催する、アートを通じて共生社会を考える入場無料の展覧会「ここから3ー障害・年齢・共生を考える5日間」に行ってきました。展覧会のサブタイトルにある通り、5日間限定の展覧会です。
これまで障害者の方が制作したアートはきちんと見たことがなかったのですが、改めていろいろな作品をじっくり見ることにより、「障害者だから」というのではなく、普通に面白い作品・凄い作品と沢山出会えました。
簡単ですが、レビュー・感想を書いてみたいと思います。
※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。
- 展覧会「ここから3ー障害・年齢・共生を考える5日間」とは?
- 第1章:「ここからはじめる」斬新な作品が並ぶ障害者アート
- 第2章:「ここからおもう」エイジレスに着目した作品群
- 第3章:「ここからひろがる」障害者との共生を考えるインスタレーション
- グッズコーナーも充実しています
- まとめと感想
- 展覧会開催情報
展覧会「ここから3ー障害・年齢・共生を考える5日間」とは?
作家さんたちの記念写真
本展「ここから3ー障害・年齢・共生を考える5日間」は、文化庁が主催する障害者アートを主に取り上げた展覧会で、
「ここからーアート・デザイン・生涯を考える3日間」
(平成28年10月開催)
「ここから2ー障害・感覚・共生を考える8日間」
(平成30年3月開催」
と、先行して2回開催された展覧会の”第3弾”となる展覧会。今回のテーマは、
「障害・年齢・共生を考える5日間」
ということで、前回開催とほぼ同じテーマを継承しつつ、新たに「年齢」という要素を加えて展示が構成されています。
簡単に見ていきましょう。
第1章:「ここからはじめる」斬新な作品が並ぶ障害者アート
本展監修者の前山裕司氏(新潟市美術館館長)、小林桂子氏、戸田康太氏(独立行政法人日本芸術文化振興会)によって全国各地から選ばれた障害者10名のアート作品が展示されています。何人か気になった作家を紹介してみたいと思います。
横溝さやか
大きなキャンバスに描かれているのは、大阪や東京、オリンピック会場など、人が多く集まる場所に集まった無数の人々の様子。特徴的な建物やお店などとともに、行き交う人々を明るい色使いで楽しく描き出しており、見ていると楽しくなってきます。
「洛中洛外図屏風」や、ぎっしりと人々が描かれたフランドル絵画など、人物が密集した絵画作品が好きな人は絶対ハマると思います。
数ある作品群の中でも、1番感銘を受けたのが、コミカルなキャラクターで埋め尽くされた横溝さやかの作品群。東京や大阪、オリンピック会場を描いた作品はどれも独自のセンスで端的かつ的確に人物の特徴が捉えられており、どの作品からも平和でユートピア的な雰囲気が漂っていて不思議と癒されました。 pic.twitter.com/NIJ2LSwP2p
— かるび@アート&映画! (@karub_imalive) 2018年12月5日
見ているだけで、童心に帰って楽しい気分になれる不思議なエネルギーを持った作品でした。美術展を沢山回っていても、これほど心を明るくさせてくれる作品にはなかなか出会えないと思います!
大庭航介
下半身が不自由な大庭さん。当日、車椅子で展覧会場にかけつけてくださったのですが、その車椅子が自由で素晴らしい!
なんと、車椅子の下部には緑や青のLEDランプが点滅し、大音量で音楽も流せるようになっていました。普段は外部のスピーカーユニットも取り付けて、オリジナル車椅子で毎日を過ごしているそうです。いいですねこういう自由な発想。
大庭航介《ヒマワリ》
大庭さんの作品は、幾何学的な図形や、様々なパターンの模様を組み合わせて描く白黒の細密画。かなり抽象度が高く、純粋に図形同士の膨大な組み合わせが織りなすリズム感を楽しむような感じで鑑賞しました。
少し引いてみると、モノクロームの版画作品に質感が似ているのですが、これを一つ一つボールペンで描いているとのこと。
大庭航介《ヒマワリ》拡大図
ものすごく近寄って見ると、確かに丹念にボールペンで描いていることがわかります。微妙に少しずつ塗り残したり、線が曲がっていたりするあたりが、木版画のような温かみや人間味を生んでいるのも面白いです。
大庭航介《ヒマワリ》拡大図
ちなみに、1作品あたり完成まで2~3ヶ月かかるとのこと。毎回作品ごとにものすごい沢山の数のボールペンを消費するそうです。
大倉史子
大倉史子《アイスクリームやさん》
アイスクリームやアメリカンチェリー、鮭、しめさばといった、「食べ物」を大画面にひたすら反復して表現する作風が面白い大倉史子さん。引いてみると抽象的な図形が並んでいるように見えますが、近づくと、食べ物が並んでいることがわかります。
全く同じ色合いで描くのではなく、たまに色や並べ方が変化するので、見ていて飽きもこないのです。見れば見るほど、親近感がわいて手元においておきたくなる可愛い作品でもありました。
中崎強
重度の身体障害のため、足の指を使って絵を描く中崎強さん。具象画ですが、非常に単純化された形で対象が表現されています。
中崎強《夜の砂浜》
僕が感銘を受けたのは、画面上に残った足の指使いの跡と、抜群の色彩感覚。見れば見るほど引き込まれました。過去、「二科展」でも入賞した実績があるのもわかる気がします。心に染み渡るような良い作品でした。
石栗仁之
遠くから作品群を眺めてみると、何かの形がが非常に薄く着色されており、何が描かれているのか近寄って確かめたくなるのですが、、、
石栗仁之《筑波山》
作品に近づいてみると、細かい線描で風景が描かれていることがわかります。さらに寄って近づいてみると・・・
石栗仁之《筑波山》拡大図
なんと!山や海、宇宙などの風景画が、様々な色で着色され、超高密度で描かれた迷路で表現されているのです!しかも、ひとつひとつちゃんと最初から最後まできっちりつながっており、迷路としても遊ぶことができるのだとか。
石栗仁之《筑波山》拡大図
作者の石栗仁之さんは、幼い頃から迷路が大好きだったとのこと。その大好きな迷路がそのままアート作品になってしまった・・・ということですね。
他にもまだまだ面白い作品はありました。どの作家もユニークな着想と圧倒的な集中力で、作家独自の世界観を作品の中にしっかり投影して、アート表現を楽しんでいるのが作品を通じて伝わってくるのが良いです。画像で見るのではなく、展覧会場で実際の作品を見たほうが、いろいろと感じるものがあると思います。
第2章:「ここからおもう」エイジレスに着目した作品群
先日まで国立新美術館にて開催された文化庁主催「第21回メディア芸術祭」出展作品の中から、「年齢」や「生きること」をテーマとしたマンガやアニメ作品が展示されています。
特に印象的だったのが、池辺葵「どぶがわ」、松田洋子「大人スキップ」。文化庁メディア芸術祭で受賞歴のある実力派作家が、「年齢」をテーマとしたオリジナリティあふれるストーリーを展開。読んでいるうちにぐいぐい引き込まれる佳作です。
僕も帰宅してから、早速Amazonでポチりました。
不慮の事故で入院した中学生が、超長期の昏睡状態から目覚めたら、26年後の40歳になっていたという設定のストーリー。心の中は14歳なのに、外見は40代の中年女性。周囲からの見られ方と自分自身の未熟さのギャップに悩み、傷つき、それでも何とか生きていくしかない中で、主人公が選んだ人生とは・・・。
誰もが近寄らない、異臭のするドブ川で日々目を閉じて空想にふける老女。この老女と偶然に接点を持った近所の住民たちが、思いがけず少しずつ幸せを掴む不思議なストーリー。心温まります。
私達は日常生活や社会との関わりの中で、「年齢」相応に正しく振る舞うことが周囲から求められます。何か新しいことを始めようと思いついても、「もうそんな年じゃないだろう」と自ら心の中で制限をかけて諦めることも多々ありますよね。
だからこそ、「年齢」にとらわれず、思い立ったらまずは行動してみる、新たな一歩を踏み出してみることこそが、精神的な自由を獲得する大きなカギになるんだろうな、と作品を読みながら考えていました。
また、第2章の前には原爆をテーマに描いた絵画で有名な丸木位里の母、丸木スマの作品約20点を特別展示。70歳になってから初めて絵筆を握り、81歳で亡くなるまで約800点を描いた「おばあちゃん作家」です。
ギャラリートークを担当された前山さんも「70歳を過ぎてから天才性を発露させた偉大な作家」と絶賛。
第1章で展示されている障害者のアーティスト同様、正規の美術教育を受けていないこともあり、自身のセンスが爆発した作品は、かわいいキャラクター、素朴な画題、画面を埋め尽くす自由奔放な色使いが特徴的でした。プロの作家の中にも、熱心なコレクターがいるのだとか。
丸木スマ《ヒマワリ》
初めて見ましたが、「素朴さ」「かわいさ」という点では、東郷青児記念損保ジャパン美術館の常設コーナーで展示されているグランマ・モーゼスの作品を想起させました。同じく70代から絵を描き始めたという点でも共通項がありますね。
第3章:「ここからひろがる」障害者との共生を考えるインスタレーション
echo《回音》
最後の第3章では、目が不自由な障害者向けに開発されたセンサーのデバイスを使った体験型インスタレーションが展示設置されています。
インスタレーションの真ん中には青白い光を放射するLEDランプが設置されており、その周りを「障害物」として薄い布のカーテンが何重か張り巡らされています。
障害物を感知すると様々な音や振動を発する装置
装置を手につけて歩きます
鑑賞者は、障害物を検知するデバイスを手に装着して、目を閉じてインスタレーションの周りを自由に歩くことができます。これにより、目の不自由な障害者が空間を知覚する時の感覚を擬似的に体験できるのです。
僕も何回かこのデバイスを片手に、目を閉じて展示を味わってみました。会場内中央に垂れ下がる障害物は薄い布なので傷つくことは全くありません。それでも、センサーが障害物に反応するたびにびくっとして立ちすくんだり。ちょっと面白い体験ができました。
ちなみに、このコーナーだけは一般鑑賞者も写真撮影OKとなっています。
グッズコーナーも充実しています
第1章で紹介されているアーティスト達や、彼らが所属する工房が制作した各種グッズが入り口脇のグッズコーナーで買えるようになっています。
また、展覧会で紹介されているマンガ作品や、障害者とアートに関する関連書籍も発売中。展覧会を見て、少しでも何か感じるものがあれば記念に購入してみると良いかもしれません。
まとめと感想
本展で特に印象に残ったことは、障害者のみなさんが制作した作品群の一つ一つが非常にユニークで、作品の中にポジティブなエネルギーが満ち溢れていたこと。
例えば横溝さやかさんの作品は見るだけで楽しくなれますし、石栗仁之さんの迷路アートは、本人が心から楽しんで制作している痕跡がよくわかるのですよね。
楽しんで自由に制作していることがよくわかります
石栗仁之《難崖富士山》部分図
ものをひたすら切ったり、同じ図形や図柄を反復して徹底的に描くことで、作家独自の世界を作り上げるとともに、インパクト抜群の作品を作り出す障害者のアーティストたち。その情熱を高密度で作品制作にぶつける彼らの作品群を見ていると、人間の内側に秘められたパワーの大きさを再認識させられました。
月並みな表現ですが、なにか「元気をもらえた」そんな展覧会でした。
一つ要望を書かせて頂くとすると、今後ももし継続して第4弾、第5弾と継続するのであれば、是非、全作品写真撮影OKにしてほしい、ということです。決して障害者の方の著作権を軽んじているわけではないのですが、大きな展覧会に比べてそれほどマスメディアの注目度も高くない現状、彼らが作り上げた作品の本当の価値を伝えるには、SNS等での草の根的な情報拡散が不可欠だと考えるからです。
5日間の開催と非常に短い期間ではありますが、誰でも入場無料で気軽に入れます。他の展覧会とあわせてでも良いので、ぜひフラッと覗いてみてください。インパクトあふれる斬新な作品との出会いが待っていますよ。
それではまた。
かるび
展覧会開催情報
金土:10時00分~20時00分