あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】実写映画「ピーチガール」感想・レビューとあらすじ徹底解説!/原作より深く練り上げられたストーリーが良かった!

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【2017年5月31日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

5月20日に封切られた少女漫画原作の恋愛青春映画「ピーチガール」を見てきました。原作のにぎやかなドタバタコメディ風味を受け継ぎつつも、実写ならではのオリジナル表現でしっかりと内容が掘り下げられた映画でした!

あまり期待していなかった分、内容に映画ならではの深みが加えられていて、わりと嬉しいサプライズでした。早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.実写版「ピーチガール」の基本情報

<「ピーチガール」公式予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】神徳幸治(「モテキ」「バクマン!」※いずれも助監督)
【配給】松竹
【時間】116分
【原作】上田美和「ピーチガール」「裏ピーチガール」

神徳幸治監督は、これまで助監督歴20年のベテランですが、今回が記念すべき監督初作品となりました。映画人としてのキャリアの中で、これまで少女漫画原作の恋愛映画を手掛けた経験がなかったため、オファーを受けた時は「誰かと間違えてるのかな?」と一瞬困惑するも、「どうしても映画監督になりたい」という夢をかなえるため、最終的には張り切って引き受けたそうです。


(画像内のイラストが神徳監督!)

すでに2018年には、同じく少女漫画原作の「honey」も公開予定で、現在撮影中とのこと。今後要注目になっていきそうな若手監督ですね。 

2.映画「ピーチガール」の 主要登場人物とキャスト

本作は、マンガ原作同様、主役4人が大きくクローズアップされます。

安達もも(山本美月)
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今年26歳になる山本美月。映画デビューとなった「桐島、部活やめるってよ」(2012)の時点で、すでに大人びた表情が特徴的でした。さすがに高校1年生はもう限界な感じはありますが、時折見せるあどけない表情はやっぱりかわいいですね。多少のコスプレ感は愛嬌として見ておきました。

岡安浬(伊野尾慧)
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「戦う!書店ガール」(2015)などドラマではいくつか出演歴があったものの、映画出演は今回は初めてとなります。初出演初主演ということでプレッシャーはあったと思いますが、素のキャラクターを上手く活かしたキャラ作りは良かったと思います。多少の棒読み感は、まぁ経験が浅いので仕方ないところですかね・・・。

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そして、意外な見どころは、「女装」シーンでした!元々中性的な顔立ちで「可愛い」感じですが、あそこまで似合うとは・・・。(笑)

東寺ヶ森一矢(真剣佑)
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「ちはやふる」(2016)、「チアダン」(2017)など映画では広瀬すずとセットというイメージがあった真剣佑。今年は、さらに「ジョジョの奇妙な冒険」が待機するなど、俳優として活躍の幅が広がりつつあります。ハリウッド進出予定もあるようで、今後の動向が楽しみですね。

柏木沙絵(永野芽郁)
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「小悪魔キャラってどんな子なんだろう?と思って原作を読んだら、小悪魔じゃなくて悪魔でした(笑)」とパンフでのインタビュー記事にある通り、非常に難しい役柄をコミカルに、時にエグく演じていました。怒りのあまり「白目」になる演技は自らの発案だったとか?!

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撮影時はまだ若干16歳でしたが、今年すでに主演を務めた「ひるなかの流星」「帝一の國」「PARKS」など邦画実写青春モノに出ずっぱりと大活躍。17歳と思えない見事な演技力は将来性を感じさせます。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

高校1年生になったもも

(ある暑い夏の記憶。真っ白な砂浜で仰向けに横たわった少年の上に、もう一つの影が重なっていくシーンが映し出される)

高校1年生になった安達ももは、泉琳高校に入学早々、これ以上日焼けしないよう、手袋、日傘で完全防備して登校していた。中学の時から一目惚れ中の、東寺ヶ森一矢、通称「とーじ」は色黒の女子が好きではないと聞いていたからだ。

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中学時代に水泳部に所属していたことから、ももは色黒で、髪の毛も脱色したように茶髪である。そのためか、入学早々クラスの男子からは「遊んでいる」イメージを持たれていた。ただひとり、とーじのみが、もものことを理解してくれていた。高校に入って、ますますももはとーじのことが好きになった。

クラスで一つ前の席に座っているのは柏木沙絵だ。高校に入ってから知り合った。雑誌の読者モデルをやっている有名人でもある。その日も、有名なモデル「ジゴロー」のスポーツカーで学校に乗り付けてきていた。

沙絵は、なぜかももに対抗心を持ち、ももの欲しがるものは、ヘアピンからソックス、彼氏まで全て真似して手に入れようとする変わったところがあり、最近面倒な存在になりつつあった。

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その日のランチタイム、学食で少し離れてた席でひとりとーじに見惚れていたももだったが、そこへ、沙絵がやってきて「ももちゃんの好きな人、あててあげようか!」と言ってきたので、とーじを取られたらたまらない、と思い、とっさに学年一のモテ男、4組の岡安浬(通称”カイリ”)を指すと、女子たちに囲まれていたカイリは、もものほうに視線を向けてきたのだった。

数日後、ももはカイリの取り巻きの女子たちに絡まれた。カイリから、ももとキスしたと聞かされて腹を立てたらしい。ももは、カイリを探し出して問い詰めたが、逆にスキをついてキスされてしまった。しかも、そのキスシーンは、沙絵に隠し撮りされていたのだった。

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カイリとのキスシーンは翌日早速ネット上に動画がアップされ、とーじにも見られてしまった。ももは、カイリが自分でアップしたのだと思い、カイリを問い詰めたが、やったのはカイリではなかった。また、とーじもカイリを校舎裏に呼び出し、ももに対する気持ちが本気かどうか、問い詰めた。カイリは、だったら、僕も本気になろうかな、とつぶやいた。

カイリがその日帰宅すると、兄の涼とその婚約者の操が父と結婚式の打ち合わせをしているところだった。兄と操が部屋を出ていくと、父は一転厳しい表情になり、カイリの芳しくない成績に苦言を呈するのだった。

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カイリの夢は、将来一流パティシエになること。その為、高級フレンチの店でバイトしながら菓子作りの修行をしていた。近日中に開催されるコンテストで好成績を収めたら、パリに留学するつもりで、フランス語の習得にも力を入れていた。

もも、沙絵の妨害にも負けず、とーじと両思いになる

沙絵は、ももが好きなのはとーじであることに気づいており、翌日以降もとーじが盲腸で休んだ時に、ももにだけ情報や入院先を伝えず、ももには「とーじがもう会いたくないと言っている」と嘘の情報を流した。

しかし、カイリの機転で、ももはとーじの入院先の藤沢中央病院へ見舞うことができた。ももは、カイリや沙絵がその場にいたにもかかわらず、とーじに告白した。とーじもそれを受け入れ、二人は翌日から付き合うことになった。

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奥手でピュアなとーじだったが、それでも何度かデートを重ね、二人は、ももの誕生日をとーじの家で祝うことにした。とーじは、偶然アクセサリーショップで出会った沙絵のアドバイスに従い、「桃」の香りがする香水をももにプレゼントした。そして、部屋でいい雰囲気になった時、沙絵からももに電話が入った。

沙絵の仕掛けたいくつものわな

電話によると、沙絵がジゴローからストーカーされており、不安なのでももに付き添って欲しいという。急いで約束の待ち合わせの場所にかけつけたが、さえは見当たらず、ももはジゴローに後ろから羽交い締めにされて、眠らされて車でラブホテルへ拉致されてしまった。

とーじは、部屋でももの帰りを待っていたが、代わりに部屋に入ってきたのは、ウィッグをつけ、ももに変装した沙絵だった。ピュアなとーじは、さえの行動に抗議したが、うまくいいくるめられてしまった。そして、とーじに来たももからのLINEには、「もう一人好きな人がいて、今日はその人と付き合うことにした」と表示されていた。そして、沙絵はとーじに対して、もものいるホテルを知っているといい、とーじと一緒にいくことにした。

その頃、バイト先に食事に来た涼と操にデザートを振る舞ったカイリは、窓の外を通りかかるとーじと沙絵を偶然見かけた。怪しいと踏んだカイリは、二人のあとをつけることにした。

とーじと沙絵がホテルの部屋に到着すると、ちょうど脱がされたももがベッドで目を覚ました所だった。はめられたことを悟ったももだったが、トージを目の前にして、申し訳ない気持ちと恥ずかしさでいっぱいだった。密かにつけてきていたカイリは、ジゴローと沙絵のLINEメッセージを見て、沙絵の仕業であると見抜いていた。

しかし、これをきっかけに、とーじは翌日ももに別れ話を切り出した。前の晩のホテルでの一件は、カイリの計らいで、ももに嫉妬した沙絵が仕組んだワナだったとわかったが、沙絵は次のトラップを仕掛けていた。沙絵は、その晩ジゴローとももがベッドに入っている写真を撮っており、ネットにばらまかれたくなければ、ももとわかれて沙絵と付き合うようにとーじを脅したのだった。

カイリとつきあいはじめるもも

落ち込んだももは、1週間学校を休んだが、7日目になってカイリが見舞いに来て、ももを外に連れ出した。買い物から帰ると、カイリはもものために厨房で手作りのケーキを振る舞った。カイリの意外な才能とやさしさにびっくりするももだった。

翌日、ももが学校に登校すると、クラスではとーじと沙絵が付き合い始めたことで話題はもちきりだった。立ち尽くしていると、カイリはももを中庭の花壇に案内し、二人で「桃」の種を植えて元気づけた。

そして、1週間後、もういちどカイリに手を引かれて花壇に行くと、そこには桃の花ではなく、木瓜(ボケ)の花が咲いていた。何の事はない、枝がさしてあったのだった。しかし、カイリのやさしさに心打たれたももは、その場でカイリの告白を受け入れ、この日からカイリと付き合うことになった。

そして、横浜でデートしたある日。赤レンガ倉庫横のカフェで、ももとカイリは偶然に涼と操とばったり遭遇する。挨拶した時、カイリの浮かない表情が気になったが、ももは涼が誘ってくれた異業種交流会に参加することにした。

カイリの過去、操との関係

異業種交流会で、ももは、操から様々なカイリの昔の話を聞き出した。カイリが昔かなり荒れていたこと、それをきっかけとして操が昔カイリの家庭教師を始めたこと、操が家庭教師を突然辞めた時、カイリが海で自殺未遂を起こしたことなど。

会場には、沙絵もなぜか来ていた。沙絵は、涼を見ると一目惚れした様子だった。涼は、沙絵にも抜け目なくアプローチしているようだった。それよりももが気になったのは、操とカイリの関係だ。カイリと楽しく話す姿を見て、カイリはまだ操のことが好きなのではないだろうか?とモヤモヤするのだった。

カイリと約束していた神社の夏祭りの日。19時30分に待ち合わせしていたが、カイリからLINEで「遅れる」と電話が入った。家を出る時、たまたますれ違ったタクシーの中にカイリと操が座っているのを見たももは、不安な気持ちになっていた。

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そして、待ち合わせ場所現れたのは、なんととーじだった。とーじの次に、遅れてカイリがやってきた。ももを挟んでにらみあうとーじとカイリだったが、ももはカイリととーじ、両方のどちらも選べず、そのまま自宅へと帰った。

沙絵の援助交際問題

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翌日、学校に行く気が起きず、海で独りたそがれていたももだったが、そこで沙絵が見知らぬ中年男性とカフェから出てくるところを目撃した。ももが、沙絵を問い詰めると、沙絵は涼のファッション事業の開業資金集めを手伝うため、援助交際をしていたのだ。

バイト後にカイリに相談して、涼の動きを確かめようとしていたその時、沙絵からSOSのLINEがあった。先程会っていた中年男性にホテルで縛られ、軟禁されているという。

カイリと急いで現場へ向かい、沙絵を救助すると、カイリは風呂から上がってきた中年男性を締め上げた。中年男性は、先物取引に失敗して借金漬けになった涼から、お金と引き換えに沙絵を好きなようにしていいと言われている、と言い訳した。涼から裏切られた沙絵は、ショックのあまりトイレで手首を切って自殺をしようとしたが、傷は浅く、操の働く藤沢中央病院で手当てを受けて事なきを得た。

涼は、父親も騙そうと、カイリのバイト先のレストランで投資話をもちかけた。カイリとももは、会話に割って入り、涼の悪事について涼の父親に洗いざらい話した。また、ももはパティシエを目指して本気で勉強中しているのカイリをしっかりと認めるよう、カイリの父に訴えた。カイリの父は、カイリに「すまなかった」と謝罪し、カイリのパティシエへの夢を応援すると約束してくれた。

カイリを選んだもも

後日、沙絵を見舞ったももは、沙絵から、とーじが急に冷たくなった理由(ジゴローとももの写真をばらまくととーじに脅した)を聞かされ、混乱して病院をあとにした。とーじが急に別れ話を切り出したのは、ももを守るためだったことがわかり、どうしていいかわからなくなった。

ももは、母親からのアドバイスに従い、「自分自身が愛されるか」ではなく「大切な人をどう幸せにするか」考え行動することにした。白浪海岸に行こうと約束した日、代わりに、ももはカイリを操の病院へ行かせ、自分自身の気持ちを伝えるように背中を押してやった。カイリは操を呼び出すと、「ずっと好きでした、だから兄との結婚は忘れて、いい人を見つけて欲しい」と伝え、自分の気持に区切りをつけた。

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ももが自宅に帰ってくると、とーじが待っていた。歩きながら、とーじは、ももに再び告白した。とーじとももがカイリのバイト先のレストランの前にを通りかかった時、レストランの軒先にカイリがパティシエコンクールで優勝した案内板が貼ってあった。レストランに入ると、カイリがコンテストで制作した「ピーチスマイル」という作品が展示されていた。

涙が止まらなくなったももは、自分が一番幸せにしたいのはカイリだとわかった。とーじと別れると、ももはカイリの待つ白浪海岸へと向かった。LINEで待っている、とメッセージが入ったからだ。

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一方、カイリも、白浪海岸でももを待っていた。海岸で落としてしまったももからもらった携帯のストラップを地元のヤンキー風の男に取られ、海に投げ込まれてしまったのだった。

カイリはストラップを探し海の中へ入っていったが、ストラップを掴んだ瞬間、大波に飲まれて、溺れてしまった。

ももが到着した時、カイリは波打ち際に横たわっていた。息をしていないことに気づくと、ももは人工呼吸をした。すると、カイリの息が蘇った。そのままふたりは抱き合っていたが、落ち着いた所で、お互いのLINEをチェックしてみると、お互い送った覚えがなかった。恐らく、沙絵が仕組んだことに違いなかった。

エピローグ

2年後。今日は、フランスの製菓学校に留学したカイリが、修行期間中を終えて日本に帰国する日だった。沙絵、とーじも入れて、4人で合流すると、彼らは母校の泉琳高校へと向かった。

高校の中庭には、2年前に彼らが植えた「桃」の木が、見事に大きくなって花を咲かせていたのだった。二人は、桃の花を見ながら、幸せそうに微笑みあった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

マンガ原作を上手にまとめきり、ドタバタ劇コメディに深みをもたせることに成功した作品だった

今回が初メガホンとなる神徳幸治監督でしたが、全18巻にわたる壮大なドタバタコメディを、大きく設定を変えず、約2時間で上手に圧縮した手腕は見事でした。少女漫画の実写では、「マンガの単なるダイジェスト版」と揶揄されるような失敗作品が山ほどあります。表面上のストーリーを追うのに精一杯で、中身が伴わないものが非常に多いですよね。しかし、本作は違っていました。

原作のストーリーラインやキャラクターのエッセンスをしっかり凝縮しつつ、原作にはなかった岡安家、安達家の家庭内の人間関係や、カイリの将来の夢も描かれたことで、物語のバックグラウンドに深みが与えられていました。

原作では、非常にテンション高く主人公4人を中心としためまぐるしい人間関係、恋愛模様がコメディタッチで描かれますが、どこか現実感がないのですよね。マンガならそれでいいですが、そのまま実写にしたら確実に中身のなさが目立ちそう。

映画版では、涼やカイリの両親との屈折した関係や、それをバネにしてパティシエへの夢を追い求めるカイリ、ももをお店の植物同様に大切にあたたかく見守るももの母親などを付加して描くことにより、各キャラクターにもリアリティが増して、地に足の着いたストーリーを作り出すことに成功していると思います。

サービスカット連発な恋愛シーン

約100人の女子高生から綿密にヒアリングをするなど真面目にリサーチした上で、最終的にリアルJKでもある沙絵役の永野芽郁に一つ一つの場面設定を確認させるなど、徹底して「きゅんきゅん」するシーンを追求したという本作。

その成果もあって、各恋愛シーンでは、定番の「壁ドン」、バックハグ、人工呼吸、投げキッスなど惜しみなくリサーチの成果が反映されていました(笑)

バックハグ
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授業中、サインを出すももf:id:hisatsugu79:20170522105426j:plain

雨の中抱き合うふたり
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恋愛映画を120%楽しみたい!という人たちは、大満足だったんじゃないでしょうか?

原作より主体的で強く描かれたヒロイン「もも」

最終的に、ももがカイリかとーじのどちらかを選ばなければならない、というシーンで、映画では原作よりも、ももの「強さ」を感じる選択が描かれたのが印象的でした。

原作では、「私を幸せにしてくれそうな方」をほぼ直感で選びとりますが、どうしても最後まで「受け身」な感じが否めません。

それに対して、2017年の実写映画では、母親の桜子(菊池桃子)のアドバイスにより「自分がより幸せにしてあげたい方はカイリととーじ、どちらなのか」と、受け身な原作よりも踏み込んで、より主体的な判断をしているのです。「女性」の強さを描く2010年代の映画らしい鮮やかなバージョンアップでした。

自分の夢と恋愛を両立させるカイリ

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一方、原作にはないエピソードとして、映画ではカイリの情熱的な一面を掘り下げて、鮮やかに描き出しました。幼少時に、父、崇史のために作ったお菓子を褒められたことがきっかけで、パティシエを本気で目指すカイリは、やっぱりキラキラしているんですよね。自分も学生時代こんな一途でありたかったなぁと、映画を見ながら後悔しました(笑)

自らの夢を理解してくれず、時代遅れなキャリア論を押し付けてくる父親との関係に悩み葛藤する日々を描き出したことや、ラストシーンでももがカイリの思いを父親に必死でアピールする場面は映画的なカタルシスが感じられるシーンでした。

工夫されていたエンドロールが素晴らしい!

一旦ハッピーエンドとなって、エンドロールが始まった途端に帰る人が何人かいましたが、非常にもったいなかったです!邦画のスイーツ系映画では、特にエンドロールでエピローグが「記念写真」等の体で語られ、見逃せないことが多いですが、本作は特に力が入っていました。物語中で、特に沙絵が謀略のために駆使した(笑)Youtube、LINEを可愛くマンガ的にデフォルメした画面で、印象深いエピローグが用意されていました。

パンフレットでも語られていますが、神徳幸治監督は、過去に助監督を務めた「バクマン」「モテキ」等で、エンドロールに非常に工夫をこらした大根仁監督を見習い、特にどう楽しく見せるか気を使った、とのことです。

脚本や編集で残念だった点もいくつかあった

とはいえ、若干の不満が残るポイントがいくつかありました。
一番何とかならなかったのかな、と思う点としては、ラストシーンの描写です。ももとカイリが出会った場所とシチュエーション(=白浪海岸で溺れた所を、助け出される)をそっくりクライマックスでも繰り返す、というストーリーは、マンガ原作に忠実な描写なのですが、これって、実写映画化すると非常にムリがあり、情けないシーンになってないでしょうか?

無人の海水浴場にどこからともなくヤンキー達が出てきて、金にもならなそうなケータイのストラップを奪い、海に投げ込むシーンは、実写化すると、もの凄い不自然な感じがありました

そして、どう見ても溺れる余地もないような波打ち際で水飲んで意識を失い、次のカットで波打ち際に「さぁ人工呼吸をしてください」と言わんばかりに仰向けに都合よく倒れているシーンは、ずっこけそうでした。

誰が波打ち際まで運んだのでしょうか(笑)しかも置き去りにして??なんだか、非常に不自然でダサい絵面になっちゃってました。

大事なクライマックスシーンだけに、ここは少しアレンジを加え、もう少し実写映画にフィットするような表現に柔軟に変更してほしかったかな、と感じました。

また、編集でもいくつか杜撰だった点が。映画後半に入り、すでに7月になっているのに、背景に満開のサクラが咲いているのはどうなんでしょうか?少なくともクライマックス前後の2ヵ所以上で、画面にはっきりとサクラが見えています(笑)

撮影期間が2016年3月~4月と、タイトな予算・撮影スケジュールだったのはなんとなく想像できるのですが、せめてCGとか使って消す努力をすべきだったと思います・・・。

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

映画中、様々な場面で出てきた「花」が暗示したテーマやキャラクターの心情

映画中では様々な「花」にちなんだ表現がちりばめられたのも良いアクセントになっていました。例えば、「真実の愛」を花言葉に持つマリーゴールドの鉢植え。映画中、ももを諭すように、冒頭から最後までももの自室に置かれ続けたのは印象的でした。

また、学校の中庭に植えられた「桃」の花が暗示するのは「あなたにぞっこんである」という意味でしたし、代わりにカイリが自宅近くの庭から切り取ってきた「木瓜」の花にも、「ひとめぼれ」「魅惑的な恋」という意味があります。

ももの母親、桜子の一挙手一投足に要注目!

菊池桃子扮する桜子の登場シーンは、ほぼすべてのセリフが直接的、間接的に娘、ももへのアドバイスや教訓に満ちており、ももの行動に大きく影響を与えています。

例えば、映画冒頭で、ややオカルト的に桜子が鉢植えに「声がけ」をしていたシーンは、「恋愛や人間関係は、自ら主体的に関わって育てていくべきものである」という隠喩と解釈できます。これが、ラストシーンでももがとーじとカイリのどちらかを選ぶ際、受け身ではなく自ら行動して選び取る主体的な姿勢につながっています。

あるいは、ももが失恋して学校を欠席中、カイリが遊びに来た際に、桜子は「カニ」を二人に振る舞いました。なぜにここでカニ?と思ったのですが、よく考えてみると、カニは「再生」「脱皮」を暗喩する象徴なのですね。恋愛が一旦リセットされ、相手役がとーじからカイリへとスイッチする物語の節目を意味していたと解釈できます。

なぜ沙絵はラストシーンで二人が白浪海岸で会うことがわかっていたのか

沙絵は、物語後半で援助交際で涼から裏切られたショックで自殺未遂を起こし、藤沢中央病院に入院します。一方、白浪海岸に旅行に行く予定だった日、カイリはももに促され、中央病院で働く操を病院の屋上に呼び出して、自分の気持ちを伝えます。

対面終了後、カイリはその日ももに渡すはずだった「白浪海岸」行きの切符を病院の屋上から捨てていました。沙絵は、屋上から落ちてきた切符を目ざとく拾い、状況を察知したのですね。さすがです・・・。 

6.まとめ

キラキラした恋愛スイーツ映画として、ファンが期待するようなサービスカットをたっぷり入れつつ、決してきゅんきゅんさせるだけでは終わらない。人生や恋愛の本質はどうあるべきなのか、キャラクターを掘り下げて描写しようと取り組んだ意欲作でした。今後の神徳監督の作品に期待ですね。

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年5月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画ノベライズ小説「映画 ピーチガール」

映画のノベライズ。ほぼ忠実に描かれていますが、途中、頻繁に映画本編になかったセリフや場面が出てきたり、ストーリーの順序が入れ替わっています。映画では語られなかった、主人公たちの心情描写や背景説明もあり、映画が気に入った人は読んで損なしのノベライズ作品です!

マンガ原作「ピーチガール」

1997年10月~2004年1月にかけて、「別冊フレンド」で連載され、コミックス累計1300万部を売り上げたメガヒット作品となりました。ストーリー前半~後半にかけて、まんべんなく各エピソードが組み合わされて映画内で取り上げられています。今なら1巻はKindleで0円になっていますね。Kindleでまとめ買いしたい方は、こちらからどうぞ!

スピンオフ「裏ピーチガール」

マンガ原作では、終盤手前で改心するまで、サイコパス級の悪役を演じた沙絵のスピンオフ。その強烈な個性ゆえ、読者投票ではいつも人気上位だったそうです。このスピンオフ全3巻では、本編以上にやりたい放題やっています(笑)

続編「ピーチガールNEXT」

「ピーチガール」本編終了から10年後を描いた続編で、2016年から連載がスタートしています。カイリとももは今のところ幸せそうですが、とーじは何だか空白の10年のうちに闇を抱えていそうな感じですし、相変わらず沙絵がやりたい放題です(笑)20代後半になると、結婚や子育ての話題が中心になってくるのも面白い!

「ピーチガール」台湾ドラマがU-NEXTで見れます!

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「ピーチガール」は、今回の実写映画版がリリースされる前に、2001年に台湾ドラマ版が、2005年にアニメ版が先行して製作されています。アニメ版は勉強不足で見れていないのですが、2001年の台湾ドラマ版は、U-NEXT「見放題」でチェックすることが出来ます。

台湾版は、4人は大学生という設定。沙絵がクラスの人気者だったり、とーじがロンゲでクラブでDJやってたりと、なんかかなり設定が違っているのも面白いのですが、原作のエッセンスはしっかり受け継がれていました。DVDの入手が非常に困難になっていることもあるので、「ピーチガール」の世界をとことん味わい尽くしたい人は是非U-NEXTどうぞ!

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