あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【レポート】小学館「週刊ニッポンの国宝100」編集部に遊びに行ってきました!

かるび(@karub_imalive)です。

昨年9月の創刊以来、毎週欠かさず購入中の分冊雑誌「週刊ニッポンの国宝100」(小学館)。個人的には、日本美術を体系的に勉強したいなら、これをコンプリートして熟読するだけで相当な教養・知識量がつくのでは??と思っています。

実際、ブログを始める2年半前は知識ゼロだった僕も、この「週刊ニッポンの国宝100」を読み始めてから、かなり知識がついてきたように思います。Twitterでもせっせと「#国宝」「#国宝100」などとタグを付けて、感想をこまめにツイートするなど、全国に数万人いると思われる読者の中でも、かなり真面目な読者だと自負しております(笑)

そうそう、創刊当時にアップしたこの記事とかも、編集部も含め(一時期は検索上位に上がっていたこともあり)かなり色々な方に読んで頂きました。 

そんな僕にまさかのご褒美(?)となったのが、小学館の「週刊ニッポンの国宝100」編集部から、「制作場面を取材させてあげるから小学館の編集部へ遊びにこないか?!」とお声がけを頂いたのです。

おお、まじか!!

大手出版社の、アート雑誌の制作現場の最前線を見れる?!ということで、二つ返事で「行きます!」とお返事をして、GW前に編集部へお邪魔してまいりました。

簡単ですが、今日は「週刊ニッポンの国宝100」の編集部を訪問してきたレポートを書いてみたいと思います!

地下鉄直結!さすが大手出版社!!

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「週刊ニッポンの国宝100」編集部のある小学館は、「古本の街」神保町にあります。ちょうど去年新社屋へと移転したばかりなのですが、その新社屋は、なんと地下鉄神保町駅A8出口直結なのです。さすが老舗の大手出版社!神保町という街を象徴する存在なわけですね。

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さて、そのA8出口からどんどん進んで行くと、目の前には小学館のドル箱コンテンツである「コナン」や「ドラえもん」といった記念写真用の立体紙パネルが!こういった、お客さんへのサービス精神は素晴らしいですね。

「週刊ニッポンの国宝100」編集部は書籍制作フロアに!

さて、受付で髙橋編集長に連絡して、早速8Fの書籍制作フロアへ案内していただきました。すると、意外なことに室内はかなり静かです!打ち合わせや社外へ離席している人も半分くらいいて、フロアにあんまり人がいません。しゃべると、2~3ブロック先まで話し声が聞こえてしまうくらい非常に静かな空間が、意外すぎてちょっとびっくりしました。

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移転したばかりの社内には清潔感があふれていました。一般的に、出版社に抱きがちなカオスな雰囲気は微塵も感じません。想像していたよりもスッキリとした明るい社内空間が広がっていました。書類なども意外にちゃんと片付いてますよね。僕の子供の通う小学校の職員室のほうがよっぽど書類だらけであります(笑)

聞いてみたところ、でも、こんなに静かなのはこのフロアだけなのだとか。他の階の「週刊ポスト」「女性セブン」といった情報誌や、営業・広告といったスタッフのいるフロアは、外部ライターさんなども室内に常駐して仕事をしていたりと、もっとざわざわしているようですね。

さて、こちらが、「週刊ニッポンの国宝100」の編集部です。

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あれっ、編集部はたった1シマで、数名しかいないんですか・・・結構、少人数なんですね???

聞いてみたところ、毎週40ページにもわたるあのコンテンツ量を、現在ではわずか4名の編集部員+編集協力者数名で回しているそうです。まさに少数精鋭であります。

この日は、ちょうど雑誌にも掲載されている髙橋編集長をはじめ、4名の編集部員全員にご挨拶をさせて頂きました。皆さん、僕より年上か同年代で、全員がキャリア20年以上の超ベテラン編集者でした。

ちょっとでも病気などしたら、途端にピンチになってしまうギリギリの体制なので、緊張感もあって、かえって風邪などはひかなかったそうです。ただ、全員がプロ編集者で、仕事が早いプロであるとは言っても、やはり結構仕事量は多く、残業なんかはかなりあるみたいです・・・。本当にお疲れ様です。

編集作業の様子を覗かせてもらいました

ちょうどこの日は、1ヶ月ぐらい先の第33号、34号あたりの編集作業が佳境に入っていました。編集のプロセスについて、資料を使って色々と説明していただきました。段取りとしては、概ね以下のようになります。

1.編集会議で基本構成を決定する 

どの号も、企画の起点となるのは、編集部全体での「編集会議」です。ここでは、編集部員全員が企画案を持ち寄り、内容・構成について綿密に検討が行われます。

こうして編集の最終案が決まってくると、次のステップに進みます。編集会議自体は、各号刊行のかなり前から行われます。たとえば、2018年4月末時点でまだ32号までしか刊行されていませんが、全50号全ての編集案は、すでにできあがっているのだとか。

この「編集会議」が、雑誌編集の最初の大きな「山」だということなので、ここからあとは、作るだけだー、、、と、ゴールが見えてきているからか、みなさん表情は明るかったです。

2.誌面の絵コンテを作る

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編集案がまとまったあと、いよいよ当該号の担当編集部員が、全誌面約40ページのレイアウト案を考えます。マンガや映画、ドラマと同じで、大まかな「絵コンテ」でアイデアを形にしていくんですね。

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とは言っても、編集部員はマンガ家ではありません。複雑な仏像などを「絵」で表現するのも割りと苦労が多そう。絵コンテで表現されている仏像も、その・・・怪獣のようです(笑)

僕も半端なく絵が下手くそなので、いやー・・・苦労されているんだなぁとしみじみ。ちなみに、この「怪獣」(?)の絵コンテは、下記の通り、第29号で取り上げられた向源寺十一面観音のお顔の裏側の写真でした。

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こうして苦労して出来上がった絵コンテが髙橋編集長によってOKが出たら、いよいよ次の作業へと進んでいきます。 

3.写真選定と執筆作業

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コンテンツ案が決まれば、あとは全40ページの文面を埋めていくだけです。文章は、専属のプロの外部ライターさんが担当します。基本は、1号分の文章をまるまる全部一人のライターさんに委託します。

かなりの文章量があるので、さすがにプロのライターさんをもってしても、最低でも2週間くらいはガッツリ「週刊ニッポンの国宝100」の記事作成でかかりっきりになるとのこと。

ライターさんも必死で調べて良い記事を書こうと頑張ってくれています。実際、調べるだけじゃわからないことは、ちゃんと国宝の所蔵先へ赴いて、現地取材を入れることも多々あるようですね。

いやー、僕もいつかこういうプロの仕事がしてみたいです。

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一方、文章と合わせて掲載する写真を選定するのは、編集部員の大事なお仕事です。「週刊ニッポンの国宝100」では美麗かつ詳細な写真が生命線ですよね。なので、あらゆるリソースを使って、各編集部員は必死で「良い写真」を探します。

例えば、過去の写真集や展覧会図録をチェックしたり、「飛鳥園」「便利堂」といった文化財写真の有力な撮影業者のアーカイブを漁ったり・・・。そのため、小学館の社内には相当な量の図録や写真集が常備されています。時には編集部員で奪い合いになるんだとか(笑)

また、どうしてもほしい写真がない場合は、作品の所蔵先(寺社や個人)などから、新しい写真を頂く交渉をしたり、文化財専門のプロのカメラマンに頼んで撮ってきてもらうこともしばしばあるようですね。

4.綿密な校正作業を行う

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そして、写真と文章が一旦出揃ったら、ここから校正作業に入ります。編集部内で徹底的に読み込んで、文章や図案、写真の色合いなど、あらゆる角度からチェックを入れていきます。

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基本的には、チェック→ゲラ作成→チェック→ゲラ修正→チェック→ゲラ修正・・・と校正作業を最低限3回は繰り返すとのこと。いや・・・途方もない作業です。(ブログなんて、1回ササッと誤字脱字見直して終わりですからね・・・)

5.誌面完成!印刷所から取次や書店へ発送

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こうして、ようやく我々の手元に完成した誌面が届くんですよね。ここまで編集プロセスを拝見して、ほんとにこれ、1号たった680円でいいの?って正直思っちゃいました。ライター、編集者が、身を削って作った渾身の作品、これからはもっと姿勢を正して読ませて頂かないとです・・・

編集部は取材より調査・チェックに時間をかける

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見て下さいこの「赤」の入り方。というか、赤だけじゃなくて、青や緑、黄色などわけがわからないくらい直しが入ってます。特に、こういった固有名詞や人名の読みがななどは徹底的に読みやすさを追求してチェックを入れるのだとか。

あとで「週刊ニッポンの国宝100」を持っている人は読み返してみてほしいのですが、確かに、執拗なまでに固有名詞には全ページ「ルビ」がきちんと入ってます。

また、連絡先の電話番号は必ず電話を入れてチェックも怠らず実施するのだとか。Webなら後から簡単に訂正できますが、印刷物は一度出回ったら直せませんからね。あらゆる面からファクトチェック(事実検証)が徹底されているのですね。

「写真」への徹底的なこだわり

僕が誌面づくりで感じたもう一つのこだわりが、「写真」です。展覧会や寺社で現物を観るだけでは味わえない、写真ならではの特徴を活かそうと、本当に写真選定には気を使っているのだなと。

そして、写真は選定して終わり、ではないんですね。

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右側:元の図版
左側:図版の元画像データを使用して印刷した誌面

例えば、上の写真を使って説明してみましょう。右側が、誌面に使うと決めた、印刷物の図版です。その場合、まずは図版の元になった(その印刷物で使用されている)画像データ、またはポジ・フィルムを入手してきます。そして、その画像データ、ポジ・フィルムを使用して実際に印刷をかけてみます。

しかし、「週刊ニッポンの国宝100」と元の図版では、印刷方法が違うので、同じ画像データを使用しても、見え方はかなり異なってくるのです。上の印刷比較でも、光沢や色合いが微妙に変化しており、雰囲気がかなり違っていますよね。このあたりをどう調整するか。非常にさじ加減が難しいのです。

表紙の写真にも神経を使います。「週刊ニッポンの国宝100」の表紙は、通常のコート紙にポリプロピレンフィルムを貼り付ける加工を施しています。これにより、光沢を出しつつ強度を高めているのですが、普通にコート紙に印刷した時(右側)とは発色や色味もやはり微妙に変わってきます。

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左側:表紙(コート紙+ポリプロピレンフィルム加工)
右側:通常のコート紙での試し印刷

こういったものを全て調整し、理想の色味へと微調整をかけていくのです。実際、髙橋編集長は、週に1回以上のペースで、実際に印刷所に足を運び、誌面の印刷状態をその場でチェックしているそうです。いやー、大変ですよね。

さらに、写真選定で大変なのは、誌面に掲載される各写真の権利関係をきちんと処理すること。寺社への写真使用申請書を出したり、写真業者にお金を払ったり、クレジットを正確に記載したり・・・といった管理は、本当に大変なのです。ブログを書いてるだけでも「ああん、うっとうしい!!」といつも煩雑さに音を上げそうになるのに、1号あたり100枚単位で写真を使う本誌ではどれだけ苦労することでしょうか・・・

幸いにして、こうしたクレジット管理は、専門のプロがきちんと処理してくれるそうで、毎号毎号、専門スタッフの方がExcelに丁寧にまとめます。(僕もブログ用に一人こういうアシスタントの人ほしい・・・(^^) )

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拡大してみます。すごいですよね~。この徹底した管理。間違えたら一発で著作権法違反ですからね。正確を期して、万全の体制で臨んでいるのです。

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まとめ

いかがでしたでしょうか?雑誌づくりの流れを、めちゃくちゃお忙しい編集部員の方々に約1時間かけてガッツリご説明頂きました。

数万部規模の安定読者を抱える「週刊ニッポンの国宝100」。1冊の雑誌づくりには、我々が思ったよりはるかに凄いプロセスと工数がかけられているわけです。少数精鋭の凄腕編集部員やプロのライターさん達が、時には徹夜も辞さず徹底的にこだわって作った誌面が、わずか680円で読めるこのありがたさ。

書籍や雑誌が売れない時代と言われてから久しいですが、こうやって編集者の皆さんの本気の取り組みを見ていると、本当に頭が下がる思いです。個人ブログやWebメディアのお手軽な制作風景とは違い、雑誌制作ならではの厳しさや複雑さが良くわかった取材となりました。

第50号の最終号まで、あと17冊ほど残っていますが、残りも楽しみにしています!また、ライター&ブロガーとしても、こういった雑誌のお仕事ができるように頑張っていきたいなぁと思いました。小学館の「週刊ニッポンの国宝100」の編集部のみなさま、お忙しいところありがとうございました!

それではまた。
かるび

分冊百科雑誌「週刊ニッポンの国宝100」とは?

国宝制度120周年を記念して、小学館より創刊された週刊分冊雑誌です。2017年9月に創刊されました。全50号発行予定で、1号につき2件の国宝が毎週紹介されます。創刊号は、豪華付録もついて10万部以上を完売。現在も、数万部規模で安定して売れているそうです。

特徴は、初心者~中級者向けに書かれたわかり易い文面と、美麗な写真。写真ならではの高品質画像で細部まで紹介してくれます。1冊全40Pと、程よい情報量なのもうれしいところ。

僕は初回号からガッツリ愛読させてもらってますが、この雑誌と出会ってから、日本美術に対する基本知識が身についてきたことを実感してます。

特に嬉しいのは、発売後1週間経過した時点で、Kindleをはじめとして、様々な電子媒体でも手に入るようになったことですね。こういう分冊雑誌は、コンプリートする安定読者にとって、まず「紙」ベースで揃えたい!というニーズが第一に来るのは確か。でも、この号だけ買いたい!読みたい!っていう人にとっては、半永久的に品切れとならない電子版の存在は、非常に心強いと思います。