かるび(@karub_imalive)です。
正月も開けて、いよいよ2017年も大型の美術展があちこちでスタートしています。個人的に、1月は一番楽しみにしていた「ティツィアーノとヴェネツィア派」展。
早速行ってきたのですが、結論から言うと、ティツィアーノ最高!去年の国立新美術館&国立国際美術館で開催された「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展では、わずか2点しか見れなかったので、今回展示で、工房作品も入れると7点もの作品群と対面できたのは本当に嬉しかった。
やっぱりね、近くで見ると違うんですよ、オーラが。名作の輝き、というか、巨匠の凄みというか。そういったものを、ビシビシ感じることができた素晴らしい展覧会でした。
ということで、以下、早速感想・レビューを書いてみたいと思います!
※ブログ中の画像は、主催者の許可を得て掲載しています。
- 1.混雑状況と所要時間目安
- 2.「ティツィアーノとヴェネツィア派展」とは
- 3.「ティツィアーノとヴェネツィア派展」のみどころは?
- 4.まだまだある、見どころ満載の絵画群!
- 5.グッズ類について
- 6.まとめ
- 展覧会関連書籍
1.混雑状況と所要時間目安
僕が行ってきたのは、会期の始まる前の内覧会でしたので、厳密な混雑状況はわかりませんが、過去の経験則から、東京都美術館開催の大物オールドマスターの名前を冠した西洋美術展で、入場待ち行列が発生しなかった美術展はほぼ思い当たりません。
特に、今回は主催がNHKとなります。会期前半~中盤にかけて、NHK特集、日曜美術館等で繰り返し特番が組まれそうなので、それ以後の土日はかなり混雑すると思って間違いなさそうです。特番で「ダナエ」と「フローラ」を見たら、行きたくなりますよ?きっと!
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2.「ティツィアーノとヴェネツィア派展」とは
15世紀から17世紀にかけて、ルネサンス期の西洋絵画界をリードしたのは、ローマ、フィレンツェ、ミラノ、ヴェネツィアなどのイタリアの都市群の画家たちでした。(フランス全盛となるのは18世紀以降)
同じイタリア勢の中でも、各都市によってその作品群には明確な個性の違いが見られるのですが、特にその中でも「ヴェネツィア」で活動した画家たちは、巨匠ティツィアーノを筆頭とした「ヴェネツィア派」と呼ばれています。
素描を重視し、彫刻のような立体的で精密なデッサンに基づいた絵画を志向したミケランジェロらフィレンツェの画家たちとは違い、油彩絵具をいち早く取り入れ、豊かな色彩と光の表現でやわらかく立体感を出す作風が「ヴェネツィア派」絵画の特徴です。
ルネサンス期に活躍した「ヴェネツィア派」の画家たちの関係性を時系列にまとめてみましたが、だいたいこんな感じになるでしょうか?
今回の展覧会では、15世紀~17世紀のルネサンス最盛期にヴェネツィアで活躍した画家たちの絵画・版画焼く68点をクローズアップしています。
そして、もし時間があれば、展覧会監修者のビデオメッセージが非常に良い予習になるので、できれば見ておくといいと思います!
<監修者からのメッセージ:視聴おすすめ!>
ちょうど、2017年1月15日まで日本で巡回していたアカデミア美術館展「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展に行かれた方なら、テーマが同じであるため、非常に馴染み深い絵画群だと思います。
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3.「ティツィアーノとヴェネツィア派展」のみどころは?
3-1.ヴェネツィア派絵画を時系列で堪能できる!
東京都美術館の3層構造を活用して、展覧会も時系列で大きく以下の3つに分かれ、古い順番にエスカレーターを上りながら見ていきます。
<B1F>ルネサンス初期のヴェネツィア派絵画
表情が固く、まだ平面的な中世ゴシック様式のいわゆる「ザ・宗教画」的な14世紀~15世紀初頭までの絵画から、エース、ティツィアーノの若かりし頃の作品までを網羅しています。地下1Fにかかっているティツィアーノの絵画は、作品解説を見るまでは誰の作品なのか全然わかりませんでした・・・(悪くはないのですが、割と没個性)
<1F>ティツィアーノ全盛期(16C初頭前後)
群雄割拠な作家群の中から、ティツィアーノがヴェネツィア派の代表作家として内外で認められた時期の作品群。ティツィアーノに引っ張られ、彼の影響を色濃く受けつつも明らかに作家達の技術レベルが向上していることがわかります。
<2F>ティツィアーノ円熟期~後継者達の時代(~17世紀)
ティツィアーノの作風が、印象派を先取りするかのような荒々しいタッチに変わり、さらに彼の弟子たちや後続世代のヴェロネーゼ、ティントレットなどの作品も見どころいっぱい。ヴェロネーゼの柔らかい堅実な作風、ティントレットの動きがある大胆な構図など、素晴らしかったです。
3-2.やっぱり目玉はティツィアーノの作品!
チラシやツイッター等ですでに目にされている方も多いと思いますが、今回来日した絵画のうち、やっぱり一番のみどころは、ティツィアーノの名作でした。絶対見逃して欲しくない作品3点を書いておきますね。
「フローラ」(1515)
ティツィアーノ20代にして、すでにこの完成度。夭逝した天才画家ジョルジョーネから多大な影響を受け、作風を完成させてヴェネツィアの第一人者になりました。
清楚さと妖艶さのちょうど中間くらいの絶妙なバランス、何度も絵の具を重ね塗りして極めた肌のなめらかな質感が素晴らしいです。内覧会でも、ダントツ人気No1の作品で、人だかりができていました。ちなみに、この作品、なぜかウフィツィ美術館に収蔵されているのはなぜなんでしょう(笑)
「ダナエ」(1544-1546)
こちらは、ティツィアーノ晩年の作品。熟年期の荒々しいタッチで大胆に裸婦を描きました。親交のあったローマ・ファルネーゼ家からの依頼を受けて制作され、ダナエ=裸婦のモデルはアレッサンドロ・ファルネーゼの愛人、アンジェラだったといいます。当然ながら、完成した作品は、アレッサンドロ氏の寝室に置かれたとのこと(笑)
そして、この絵を見たミケランジェロの反応が非常に面白いのですが、美術史家ヴァザーリの「美術家列伝」には、「ダナエ」を見たミケランジェロの感想として、こう書かれています。
「ティツィアーノの色彩も様式も気に入ったが、しかしヴェネツィアでは、最初にデッサンを能く学ぶということをしない。これは残念なことだ。ヴェネツィアの画家たちは勉強のしかたをもっと改善することもできように、その点が惜しまれる」
・・・。なんというライバル意識。嫉妬と賞賛の入り混じった複雑な(大人げない?)コメントですね。美術館でも、音声ガイドやキャプションでこのくだりが紹介されているのですが、思わず笑ってしまいました。
「マグダラのマリア」(1567)
ティツィアーノ最晩年の作品。悔悟のあまり泣きはらしたような目とその顔つき、神を信じ切った恍惚とした表情にまず目を奪われます。そして、ヴェネツィア派ならではの背景のしっかりした書き込み。はっきりした晴天の下、荒涼としたガケの下、聖なる神の光がマリアの頭上に一筋さしている構図も見どころがあって良いと思います。
展覧会図録にもこうあります。
誘惑的であると同時に気高く誠実なその姿に、相反する異質なものの結合によってこそ生まれる普遍的な調和の概念が表されているのである。
・・・うん、僕が言語化できなかったことを、ビシッと簡潔に書き表してくれています。そんな感じなのです。
3-3.音声ガイドとジュニアガイドが秀逸!
今回の音声ガイドは、別所哲也が担当しています。一聴したところ淡々としゃべっているのですが、ツボを押さえたわかりやすい説明は好感が持てました。キャプションとダブらないプラスアルファの情報提供がきちんと出来ている解説スクリプトは、ハイクオリティで非常に良かったです!
そして、見逃せないのが、会場で無料されている子供向けのジュニアガイド!美術館の「ジュニアガイド」は、大抵の場合、大人でも役に立つようにしっかりつくられているものですが、今回のジュニアガイドも非常に有用です。
事前に以下のリンクからダウンロードできるようになっているので、ぜひ活用してみてくださいね。
★ダウンロードはこちらから
http://titian2017.jp/images/juniorguide.pdf
4.まだまだある、見どころ満載の絵画群!
上記では、ティツィアーノの作品を主に紹介しましたが、それ以外にも沢山見ておきたい佳作が多数出品されています。何点か、僕の気に入った作品を紹介しておきますね。
4-1.ティントレット「レダと白鳥」
染物師(ティントーレ)の家に生まれたことにちなんでティントレットと名付けられた天才画家の作品。一度はティツィアーノの工房に弟子入りしましたが、彼の才能を恐れたティツィアーノが3日で工房から追放した、という逸話が残っているくらいです。
暗めの背景に、早描きで大胆な構図が売りのティントレットの作品は、ヴェネツィア中に沢山残っています。本作はスパルタの王妃、レダと誘惑の象徴である白鳥という、定番のモチーフを描いた油絵です。ダイナミックで斬新な作風に非常に目を引かれました。
4-2.フランチェスコ・ヴェチェッリオ「聖家族とマグダラのマリア」
名前は全然違いますが、この人は、巨匠、ティツィアーノのお兄さんです。まず、絵画を一見して思ったのは、「この人、やりにくかっただろうな~」という俗な感想。パッと見て、0.5秒くらいでわかるくらい弟との力量差がかけ離れています。
ただし、音声ガイドを聞いてハッとしたのですが、彼は衣服や布地の表現に関しては弟を上回る卓越した腕前を持っていたこと。左側の女性(マグダラのマリア)の衣服のひだや、マリアの後ろの黒い布地の天幕の緻密な描き込みは凄いのです。
最終的に、ヴェネツィアで活躍する弟を置いて、彼は田舎に引っ込んで工房を引退したそうなのですが、例えば、彼のような「布地専用職人」といった無名の1.5流の作家たちが有名巨匠たちの工房を支えていたのだろうな、としみじみ絵の前で考えてしまいました。
4-3.ヴェロネーゼ「聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ」
柔らかく、明るい色調のヴェロネーゼ円熟期の作品。ちょっと照明やカメラの性能などもあり、しっかり撮れていないのですが、現物は非常に保存状態も良く、明るい発色が450年後の今でもしっかり出ている佳作です。
キャンバスに描かれた聖人たちが、全員ふくよかなのも温かみがあって、精神的に豊かな気持ちにさせてくれました。美術館の最終コーナーに設置されており、展示の締めくくりにぴったりな大作。
また、額装のゴージャスさもぜひチェックしてみてください。天使が四方を取り囲んでいます。この額だけで何十万するんだろう・・・。
4-4.ヴェロネーゼと工房助手「最後の晩餐」
ダ・ヴィンチの世界的に有名な障壁画で、キリストと弟子たちが並んで食事をする構図はすっかりおなじみになりましたが、このヴェロネーゼ工房の「最後の晩餐」は非常に迫力があり、惹きつけられました。工房作品なのでそれほどクローズアップされておらず、図録にも未掲載ですが、個人的にはかなり惹かれるものがありました。
4-5.スキアヴォーネの版画群
目立たないところにひっそり10点ほど展示されていますが、スキアヴォーネはルネサンス期におけるイタリアの代表的な版画家です。長らく埋もれていたのですが、20世紀になってから再評価が進み、今現在では美術史上、重要な芸術家として位置付けられています。
初めて目にしたのですが、正直な所、銅版画の本場、北方系のデューラーや、昨年西美で展示されていたメッケネム、クラーナハの作品には少し精密さで劣るような気がしました。しかし、この時期のイタリアの銅版画はなかなか目にするチャンスがないので、今展示は貴重な機会だったと思います。
5.グッズ類について
いつもは撮影出来ないのですが、今回は内覧会だったので特別に撮影できました。ハイライトはやっぱりお菓子と、あとは手ぬぐいなどでしょうか?もちろん、定番の絵葉書、クリアファイル、一筆箋、図録などは完備。
イタリア「デセオ社」のビスケット
イタリア「イカム社」の特製チョコレート
定番のクリアファイル、一筆箋、マグネットなどの文房具類
僕はイタリアワインのハーフボトルを買うことが多いのですが、今回はワインはなかったのですが、代わりにイタリア名産のオリーブオイルが置いてありました。
6.まとめ
展示数は全部で68点と少なめですが、全ての絵画をイタリアの各美術館から厳選して取り寄せた贅沢な展覧会です。昨年の「ヴェネツィアルネサンスの巨匠たち」に引き続き、ヴェネツィア派絵画をガッツリ味わえる良い展示ですし、何と言っても、ティツィアーノの作品を7点一気にチェックできる貴重な機会だと思います。
良い展覧会なので、ぜひ、足を運んでみてください。
それではまた。
かるび
展覧会関連書籍
宮下規久朗「ヴェネツィア」
昨年度から、特にヴェネツィア派の絵画展が各地で頻繁に開催されていますが、本書はヴェネツィアの文化・歴史・美術史等をコンパクトにまとめて解説したハイクオリティな新書の決定版です。
イタリア・ルネサンス絵画に詳しい美術史家の宮下規久朗氏が、2016年に出版したばかりの最新著作です。シンプルなタイトルであればあるほど名著率が高くなる岩波新書で、堂々の「ヴェネツィア」という、これしかない!というこのタイトル付けに恥じない良質な書籍でした。おすすめ!
「ティツィアーノとヴェネツィア派展」展覧会開催情報
https://twitter.com/titian2017
◯展覧会場
東京都美術館
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
◯最寄り駅
JR上野駅「公園口」より徒歩7分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅「7番出口」より徒歩10分
京成電鉄京成上野駅より徒歩10分
◯開館時間・休館日
9時30分~17時30分(入場は30分前まで)
毎月第1、第3月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)
◯公式HP
http://titian2017.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/titian2017
◯周辺地図