あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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山種美術館の企画展「日本画の挑戦者たち」は日本画入門に最適の美術展!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

近現代絵画を中心に、豊富な所蔵作品を誇る山種美術館では、年に数回、自館コレクション作品だけで構成される企画展を開催しています。今回開催中の企画展「日本美術院創立120年記念 日本画の挑戦者たち」は、明治~平成まで活躍中の近現代日本画の巨匠たちの代表作をたっぷり味わえる展覧会。コアなファンから、これから日本画を見てみたい!という入門者まで幅広く楽しめる、同館の総集編的な所蔵作品展となりました。

会期が始まってすぐに開催された内覧会に参加してきましたので、その様子を早速レポートしてみたいと思います! 

※本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.企画展「日本画の挑戦者たち」とは

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日本美術の歴史を振り返ると、明治維新後~昭和初期にかけての日本画壇は、激動の時代でした。文明開化がもたらした急激な近代化は、人々の生活や社会構造を大きく変え、人々の価値観は大きく変化しました。伝統的な日本美術も、西洋絵画の流入により、大きく影響を受けます。そんな中、明治期以降、新時代の日本画の担い手達は、西洋文化からの強いプレッシャーを受け、強い危機感を抱きながら作品制作を続けていました。

そこで、狩野派を中心とした従来の御用絵師に変わって、新しい日本画を創造・発展させるため、岡倉天心や橋本雅邦、横山大観らによって1898年に新たに立ち上げられた団体が「日本美術院」です。

日本美術院に所属した画家たちは、新しい日本画を作り出すための「挑戦」を続ける中で数々の傑作を生み出してきました。本展では、そんな彼らの軌跡を山種美術館の豊富な所蔵作品の中から厳選して展示。横山大観、菱田春草、小林古径、速水御舟から現代画家にいたる日本画の挑戦者たちの優品で、同院の120年の歴史を振り返ります。

2.展覧会で大きく取り上げられた巨匠たち

本展では、日本美術院の成立120周年を記念して、その創立時から「院展」を中心に活躍してきた近現代日本画の巨匠たちをクローズアップして取り上げています。

サブタイトル「ー大観・春草・古径・御舟ー」にある通り、本展ではその中でも特に山種美術館とゆかりが深く、同館で所蔵点数の多い横山大観・菱田春草・小林古径・速水御舟をそれぞれ複数作品展示で集中的に取り上げています。

順番に、見どころを紹介していきたいと思います。

横山大観

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引用:Wikipediaより

2018年春には、東京・京都で過去最大規模の大回顧展が開催されたばかりの横山大観。彼は、日本美術院の創立者であり、戦前~戦後の近現代日本画の発展に尽くしてきた組織人であった一方、画家としてのキャリアにおいても、数々の新しい挑戦を重ねてきました。本作では、大観のキャリア中期の作品を中心に展示されています。

まずはこちらの作品。

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横山大観《燕山の巻》部分図 山種美術館蔵

40メートルを越える水墨画絵巻の大作《生々流転》の準備作品としても位置づけられる作品です。中国・燕山を舞台に、山河の雄大な風景が写実的に表現され、街で行き交う人々の様子がいきいきと描かれています。

ガラスケースを上から覗き込む形での鑑賞なので、少し難しいかもしれませんが、近づいたり、引いたりしていろいろな角度から是非チェックしてみて下さい。近づくと粗めの筆使いに見えるのですが、引いて見ると驚くほど写実的で、白黒写真を観ているような味わいもあります。

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横山大観《燕山の巻》部分図 山種美術館蔵

続いて、こちらの《喜撰山》。喜撰山とは、平安時代の六歌仙の一人・喜撰法師の歌に詠まれた宇治の山のことを指しています。

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横山大観《喜撰山》山種美術館蔵

正直、第一印象はそんなに上手に見えなかったのですが(苦笑)、この山地の微妙な赤みのある土肌の色合いを生み出すために、大観が取り組んだ新しい技法の秘密をギャラリートークで聞いて、この絵の本当の凄さがわかりました。

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横山大観《喜撰山》部分拡大図 山種美術館蔵

なんと大観は、山の地肌に深みを持たせるため、和紙の裏側に金箔を貼りつけた和紙の表側を薄く剥いだ「金箋紙(きんせんし)」に作品を描いたのです。なんとマニアックな!

日本画では、よく「裏彩色」や「裏箔」と言って、色の鮮やかさを際だたせるため、絹地の裏地からも岩絵の具を塗ったり金箔を貼ったりすることはありました。恐らく、大観はここから着想を得て、紙のキャンバスの裏側に細工をすることで作品のクオリティを確保しようと一工夫したのでしょう。そのアイデア力に脱帽です。

そして、最後は大観定番の富士山。数多くのバリエーションが存在しますが、今回展示されているのはオーソドックスな部類の1枚。見ているとなんだかホッとしますよね。 

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横山大観《不二霊峯》山種美術館蔵

菱田春草

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引用:Wikipediaより

明治30年代を通して、菱田春草、横山大観らとともに伝統的な線描技法ではなく色彩の濃淡で対象物を描く「朦朧体」による日本画の革新に取り組みました。しかし、思うように評価を得られず、仲間たちと共に茨城県・五浦へと都落ちして苦楽をともにしました。志半ばで病に倒れ、30代で惜しくも亡くなりますが、「朦朧体」のエッセンスを体得し、作品中で効果的に使えていたのは大観よりも春草のほうだったのかな、と個人的には思います。

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菱田春草《月下牧童》山種美術館蔵

特に今回展示されている作品では、「牛」が可愛く幻想的に描かれていたのが興味深かったです。 輪郭線を省き、墨の濃淡だけで描かれているのは「朦朧体」研究の成果なのでしょうね。

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菱田春草《月下牧童》部分拡大図 山種美術館蔵

小林古径

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引用:Wikipediaより

安田靫彦、今村紫紅、速水御舟ら強力な同期生たちと同時期に日本画壇へとデビューし、留学したことで西洋美術の薫陶も受けつつ、「線描」の美しさにこだわって、ライバルたちと日本画の新たな表現方法を模索しました。院展では、安田靫彦、前田青邨とともに「院展三羽烏」と呼ばれ、エース格の活躍を長く続けました。

本展では、入り口に展示された猫の作品がお客さんを出迎えますが、この《猫》が小林古径の作品です。 

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小林古径《猫》山種美術館蔵

縦長の胴まわり、耳がぴんと張って凛々しい顔つきの猫は、エジプト彫刻で描かれた猫を参考にしているそうです。(ためしに、「バステト神 彫刻 スケッチ」などの」キーワードで画像検索してみて下さい。古径の猫そっくりの画像が出てきます!)決意に満ちた眼光の鋭さに惹かれるものがありました。

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小林古径《猫》部分拡大図 山種美術館蔵

そして、今回古径作品で絶対見ておきたいのが、代表作《清姫》シリーズ全8点です。安珍清姫で知られる紀州の道成寺伝説からモチーフを取って、ストーリーにとらわれず、自由にイマジネーションを膨らませて製作された作品。

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本作は、山種美術館にとって特別な作品でもあります。古径は、本作シリーズに特に思い入れがあったようで、作品を誰にも売らず、ずっと自らのアトリエに置いて保管していたそうです。ところが、生前親交があった山﨑種二が山種美術館を創立することを聞き及んだ古径は、種二への開館のお祝いとして、一括して本作を譲り渡すことを決意したのだとか。

それほど思い入れが深かった本作は、見れば観るほど斬新な作品。空を飛ぶ清姫の髪が、すごいことになってます(笑)

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小林古径《清姫》部分拡大図 山種美術館蔵

古径が自由にイマジネーションを膨らませて描いた本作は、子供向けの絵本の挿絵や、マンガのようなおおらかさを持った作品でした。作家から創立者へと大切に受け継がれてきた作品、ぜひ堪能してみて下さいね。

速水御舟

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引用:山種美術館「速水御舟展」(2017)解説パネルより

別名「御舟美術館」と呼ばれることもある山種美術館では、速水御舟の作品を約120点所蔵しています。重要文化財《名樹散椿》《炎舞》2作品や《翠苔緑芝》など、まさに名作揃い。

御舟もまた、今村紫紅や菱田春草同様、残念ながら病気で早逝します。しかしその短いキャリアの中で、北宋院体画風の画風に傾倒したり、写実表現に凝ってみたり、琳派を研究したり、南画風の作品を残したり、日本画のあらゆる可能性を追求しました。

今回の展覧会は、山種美術館で2017年に開催された「速水御舟展」以来となる大量8点が前後期に分かれて展示されます。

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まず、こちらの《昆虫二題》。特に左側の「粧蛾舞戯」は、重要文化財にも指定され、御舟の代表作となった《炎舞》を応用して制作された作品。描かれた蛾は、すべて実在する様々な種類の「蛾」が正確に写しとられており、昆虫の専門家にこの絵を見せたところ、大体どの蛾を描いたのか特定できるのだそうです。

画面中央の不穏な光に、見ている我々も蛾と一緒に吸い込まれてしまいそうな感覚になる、ちょっとホラー感覚の面白い作品だと思います。

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速水御舟《昆虫二題》左:「粧蛾舞戯」右:「葉蔭魔手」
いずれも山種美術館蔵

続いては、こちらの《柿》。

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速水御舟《柿》山種美術館蔵

油絵でなくても、日本画の岩絵の具だって細密で写実的な作品は可能なんだ!ということを示した、御舟の「意地」が込められた1枚。この時期はちょうど中国の古い北宋院体画の影響を受けていた時代で、落款の描き方も含めて中国風なのであります。

その他にも、展示作品一つ一つで、いろいろな技法が使い分けられているのがわかります。御舟の引き出しの多さには驚かされました。

音声ガイドやギャラリートークの活用がおすすめ!

上記で紹介したように、日本美術院を黎明期から支えてきた巨匠たちは、新しい日本画を創り出そうと、制作過程で様々な試行錯誤を行ってきました。また、個性豊かな巨匠たちは、「五浦への都落ち」をはじめ、有名なエピソードを沢山遺してきました。

今回の展覧会では一枚一枚の絵と直感的に向かい合うだけでなく、作品の背景にあるバックストーリーと一緒に観ることで、何倍も作品を楽しめるようになります。

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日本美術のプロ!三戸特別研究員のギャラリートーク!

そこでオススメなのが、「音声ガイド」と「ギャラリートーク」の活用です。山種美術館の学芸員さんは、近現代日本画研究におけるプロ中のプロ。僕も、今回の内覧会において、山下裕二先生の作品解説と、三戸特別研究員のトークをお聞きしましたが、一枚一枚の絵に興味深いバックストーリーが用意されていて、今回ほど「ギャラリートーク」の威力を感じた展覧会はありません。

是非、時間があえば「音声」による解説を併用して展覧会を味わってみてくださいね。ギャラリートークの予定は、こちらで案内されています。

「[企画展] 日本美術院創立120年記念 日本画の挑戦者たち ―大観・春草・古径・御舟―」ギャラリートーク開催のお知らせ(2018年09月11日 - 新着情報 - 山種美術館

3.その他、個人的に面白かった作品を紹介!

下村観山《不動明王》

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下村観山《不動明王》山種美術館蔵

日本美術では、11世紀に描かれた青蓮院の国宝・青不動を筆頭に、数多くの「不動明王像」が仏画や歴史画の中で描かれてきました。

が、この下村観山の「青不動」ほど、自由で斬新な描かれ方をした作品は珍しいのではないでしょうか。不動明王といえば、仏像でも仏画でも、半眼を閉じて、口元を食いしばる伝統的なポーズが一般的。しかし、観山はそういった仏教の伝統的な「儀軌」をほとんど無視(笑)右手の剣、左手の羂索も持たせず、普通は観音が乗るような雲に乗せて画面左上から降下させています。しかも、画面中央に不自然なほどぽつんと小さく描くなど、ファーストインプレッションではかなり違和感があります。

でも、そこが観山の狙いなんですよね!鑑賞者は、ついつい、画面に小さく描かれた青不動を凝視する羽目になるんですが、この青不動の表情や体つきがまた、日本人離れした面白いフォルムをしているのです!

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下村観山《不動明王》部分拡大図 山種美術館蔵

どうですかこの青不動。筋肉もりもりで、髪だけでなく、目の色まで青い(笑)これじゃまるで西洋人ですよね。なぜか落款もアルファベットで描かれていますし、観山は実験的に、というか確信犯的に青不動を西洋人をモデルとして描いたのかな、と思いました。

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左:下村観山《不動明王》部分拡大図 山種美術館蔵
右:下村観山の写真(引用:Wikipedia)

そういえば面白いことに、写真で見てみると下村観山って、彫りが深くて結構日本人離れした顔つきをしているんですよね。 どうですかこれ。比較してみると、実はこの青不動、西洋人を描いたというより観山の自画像だったのかな・・・と思えてきました。

安田靫彦《出陣の舞》

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引用:Wikipediaより

安田靫彦は、明治期より昭和高度成長期を越えて非常に息の長い活躍をした巨匠です。主に歴史画を得意とし、卑弥呼、源頼朝、源義経、織田信長、豊臣秀吉など、歴史上の偉人たちを、ロマンたっぷりに描きました。

本展で出展されている作品は、安田靫彦が描いた数々の歴史画の中でも、わかりやすさで言うとNo.1!たとえタイトルを見なくても、誰を描いた絵なのか、見た瞬間にほぼわかってしまうという・・・(笑)

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安田靫彦《出陣の舞》山種美術館蔵

本作は、天下統一に乗り出そうとした織田信長が、強敵・今川義元と桶狭間の戦いで乾坤一擲の大勝負に臨む前夜、「人生50年、下天のうちを比ぶれば~」と「敦盛」を舞った有名な一場面を描いています。ちなみに僕は、小学生の時TVゲーム「信長の野望」でこの曲を知りました。プレイヤーの大名が死ぬと、この「敦盛」がバッドエンド画面で出てくるのです(笑) 

木村武山《秋色》

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木村武山《秋色》山種美術館蔵

「朦朧体」を追求する中で、茨城県・五浦へと都落ちをして共に絵の修業に打ち込んだ「朦朧体四天王」(横山大観、菱田春草、下村観山、木村武山)の中で、一番知名度が低そうな木村武山。

でも僕はこの人のオーソドックスな花鳥画が好きなんですよね。なんとなくホッとできるというか。山種美術館で所蔵する《秋色》は何となく琳派の影響も感じられ、江戸絵画のような落ち着いた趣が気に入っています。

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木村武山《秋色》部分拡大図 山種美術館蔵

橋本雅邦《不老門・長生殿》

ちょうど現在、泉屋博古館分館「狩野芳崖と四天王展」でも、まとまった数の作品を楽しめる橋本雅邦。江戸末期の狩野派の最後の生き残りとして、日本美術院にも深く関わり、狩野派の技法をベースに西洋絵画のエッセンスを大胆に画面に融合させた作風で新しい日本画を作り出しました。

本展で展示される《不老門・長生殿》は、キャリア晩年の作品です。

でも、よーく見てみると、本展で展示されているのはクラシカルなザ・狩野派といった趣の古いスタイル。学芸員さんに質問してみると、これは依頼主の要望や趣味を反映したものだったのではないかという見解でした。

描かれた画題は「不老門」「長生殿」。いずれも、中国唐代の玄宗皇帝の健康長寿を祝った故事を連想させ、伝統的に非常におめでたい画題とされました。こうしたシチュエーションを描く時は、当時最新の技法を使ったアグレッシブな作風ではなく、江戸時代から続く伝統的なスタイルのほうがお客さんにも好まれたのではないか、とのこと。

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橋本雅邦《不老門・長生殿》山種美術館蔵

現代作家の作品群も個性的な逸品揃い!

明治~昭和初期の名人たち以外の現代作家の作品も個性派揃い。内覧会で撮影可だった作品の中から、特に印象的だった作品を紹介しておきますね。

まず、小山硬の《天草(洗礼)》。

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小山硬《天草(洗礼)》山種美術館蔵

日本画では珍しく、キリスト教的なモチーフが描かれた1枚。中央のおじいさんはイエスの父・ヨセフ、横にいる手を合わせた頭巾の女性はマリアを想起させます。

極太の輪郭線は、同じく宗教画を特異とした近代西洋美術の巨匠・ジョルジュ・ルオーや、山種美術館でも複数作品を所蔵する橋本明治を彷彿とさせます。

また、極端な丸顔の女性も非常に印象的でした。

つづいて、 西田俊英の《華鬘》。現在の院展で非常に人気の高い「同人」の一人であります。

植木鉢いっぱいに盛られた、様々な季節の花々が咲き誇りますが、どこかしら画面には生気のなさというか、この世のものではない退廃した不穏な感じがぞくぞくします。西田が初めてインドを訪れた際、ガンジス川で目にした光景から死の尊厳・荘厳さを表現したのだそうです。

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西田俊英《華鬘》山種美術館蔵

そして、最後に面白かったのがこの作品。日本美術院の現・理事長を務める田渕俊夫《輪中の村》。木曽川と長良川に囲まれた福原輪中の田園風景を写実的に描いています。面白いのは、空の表現に使われている銀色のアルミ箔。箔を手で掴み、画面にランダムに落ちたアルミ箔が偶然織りなす模様をそのまま味わいとして生かしているのだそうです。 

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田渕 俊夫 《輪中の村》山種美術館蔵

4.映画「散り椿」とタイアップ!速水御舟《名樹散椿》を見逃すな!

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今回の展覧会の後期展示にて、速水御舟《名樹散椿》が展示されます。昭和以降の美術作品として、初めて重要文化財に指定された、日本美術史屈指の名作として名高い本作。

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速水御舟《名樹散椿》重要文化財 山種美術館蔵

実は、本作は9月28日から、木村大作監督・岡田准一主演で公開される映画「散り椿」とのタイアップ特別展示でもあります。

映画タイトルに「散り椿」とある通り、物語では「椿」の木が重要なモチーフとなっているのですが、制作陣が、美術イメージのモデルとしたのが、速水御舟《名樹散椿》だったそうです。

江戸中期が舞台となる映画なので、残念ながら時代が合わないため、直接映画内で《名樹散椿》が登場することはありませんが、映画パンフレットやサントラCDのジャケット、原作小説の表紙カバーに《名樹散椿》が起用されています。

展示は、後期展示となる10月16日~11月11日まで。撮影も可能なので、是非映画の感想と合わせてSNSでアップしてみてくださいね。

ちなみに、映画「散り椿」と速水御舟《名樹散椿》の関係については、下記のエントリで詳しく書きました。もしよければ、チェックしてみてくださいね! 

また、映画「散り椿」の中では、長谷川等伯など、本物の絵画の複製画を劇中でいくつも使っています。いまトピのこちらの記事で詳しく解説されています!

5.美術館限定グッズや展覧会限定の和菓子もおすすめ

日本美術系の美術館の中では、質・量ともに非常に充実した山種美術館のグッズ販売。今回も展示内容と連動して、多数の「和」を感じさせるグッズが用意されています。 

まず、注目してみたいのが速水御舟の写生帳に描かれたバラをモチーフにしたマグカップや付箋です。バラ自体は初夏の花ですが、落ち着いた上品な柄は、オールシーズン使えそう。

▼マグカップ
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▼付箋
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これらグッズの元になった速水御舟の写生帖は、本展で展示されています。少しずつ角度をつけながら、色々なバラの表情を詳細に描きこんでいるあたり、熱心に研究に取り組んでいたのがわかりますね。

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速水御舟《写生帖 1》山種美術館蔵

続いて、本展のために製作されたポストカードやクリアファイル。山種美術館の代表的な所蔵品だけでなく、小山硬や西田俊英など現代作家の作品もありますね。

▼ポストカードとA4クリアファイルf:id:hisatsugu79:20180922005414j:plain

そして、早くも2019年度のカレンダーの販売も始まりました!

▼2019年カレンダーf:id:hisatsugu79:20180922005429j:plain

白地の背景に、2ヶ月で1枚ずつ、山種美術館の代表的な所蔵作品がプリントされています。毎日生活の中で使うカレンダーなので、季節に応じた落ち着いた絵柄が選ばれている感じですね。

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そして、今回の展覧会で後期から特別展示される速水御舟《名樹散椿》からも、色々なグッズが販売されています。

一番のおすすめは、このハンカチ!今回の展覧会に合わせ、たくさん用意されています!

▼《名樹散椿》ハンカチf:id:hisatsugu79:20180922005509j:plain

そして、今回もCafe「椿」で頂ける、和菓子の老舗「菊家」が手がける展覧会限定のお菓子メニューが5種類登場。展覧会でじっくり集中して頭を使った後は、お茶と一緒に頂くとほっとしますね。

店員さんに聞いてみたら、「鮮度保持には気を使っています。展覧会中は、フレッシュな出来たての和菓子を毎朝届けてもらってます」とのこと。

ちなみに、その場で頂かなくても、お土産用に持ち帰りで購入することも可能とのことです。食べてみて気に入ったら、是非家族や友人にも!

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6.混雑状況と所要時間目安

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本展で出展されている作品は約60点。9月16日(日)15時頃、一番混雑する土日の午後にも行ってきたのですが、所蔵作品展なので、比較的落ち着いて展示を観ることができました。(ただし、カフェは大人気で、結構混んでいました!)

所要時間は約30分~60分あれば大丈夫だと思いますが、もし時間があれば、1FのCafe「椿」も是非楽しんでみてくださいね。

7.まとめ

2016年春頃から、山種美術館には年6回必ず毎回展覧会に通っているためか、本展では初めて見る作品の方が少なかったように思います。

しかし名作は何度見ても良いですね。1作1作で巨匠たちが作品で表現した技法や思い、作品にまつわるエピソードなども含め、色々な角度から見ていくことで、2回、3回と楽しめます。初心者から上級者まで日本画好きなら幅広く楽しめる展覧会です。芸術の秋に是非!

それではまた。
かるび

関連書籍・資料などの紹介

山種美術財団2019山種コレクション名品選

山種美術館で所蔵する近現代絵画から選りすぐりの作品を紹介した最新の作品集。今回の展覧会で出展されている作家の作品が多数紹介されています。こういった作品集が、普通にISBNがついてAmazon等で買えるのが嬉しいですね。

山種美術館所蔵作品多数!「色から読み解く日本画」

山種美術館の三戸特別研究員が執筆した、日本画における「色使い」の面白さ・読み解き方を解説した、日本画鑑賞の手引書です。掲載されている作品が、5作品を除きすべて山種美術館での所蔵作品が取り上げられているので、山種美術館ファンはマストバイ。本展出展作品からも、速水御舟《名樹散椿》《牡丹花》、横山大観《喜撰山》の3点が掲載・解説されています! 

原作小説「散り椿」

9月28日から公開される映画「散り椿」の原作小説です。葉室麟作品の中でも恋愛要素、謎解きミステリー要素、ハードボイルド要素が時代劇の中で絶妙にミックスされており、小説としての完成度が非常に高い作品でした。表紙に起用されているのが速水御舟《名樹散椿》部分拡大図です。

展覧会開催情報

日本美術院創立120周年記念
企画展「日本画の挑戦者たちー大観・春草・古径・御舟ー」
◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2018年9月15日(土)~11月11日(日)
*会期中、一部展示替えあり
《名樹散椿》の展示期間
2018年10月16日(火)~11月11日(日)まで
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※9/17(月)、24(月)、10/8(月)は開館
※9/18(火)、25(火)、10/9(火)は休館
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum