【2017年5月18日更新】
かるび(@karub_imalive)です。
3月11日にリリースされた広瀬すず主演の新作「チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話」を見てきました。10代女性俳優では、今一番劇場にお客を呼べるという広瀬すずが、半年以上かけてチアダンスをゼロからマスターした意欲作。スイーツ映画ながら、その作り込みは素晴らしかったです!
早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。
- 1.映画「チア☆ダン」の基本情報
- 2.映画「チアダン」主要登場人物とキャスト
- 3.映画「チアダン」の結末までの詳細なあらすじ(※ネタバレ)
- 4.感想や評価(※ネタバレ有注意)
- 5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)
- 6.まとめ
- 7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
1.映画「チア☆ダン」の基本情報
<「チアダン」公式予告動画>
【監督】河合勇人(「俺物語!!」「兄に愛されすぎて困ってます」)
【配給】東宝
【時間】121分
主にTVドラマシリーズでキャリアを積み、最近は「俺物語!!」(2015)や、2017年6月末公開予定「兄に愛されすぎて困ってます」といったスイーツ風の若者恋愛映画を手がけることが多い河合勇人監督。丁度TVドラマから映画監督へとキャリアを広げていくためにも、本作は今後の映画監督としてのキャリアを占う大切な試金石的な作品になりそうです。
2.映画「チアダン」主要登場人物とキャスト
チアダンス部という大人数で実施されるスポーツのため、登場人物はかなり多めですが、映画を楽しむために最低限見ておきたいのが、上記の写真に映っている5人と、鬼教師役の天海祐希です。
友永ひかり(広瀬すず)
映画撮影時、現役の高校2年生だった広瀬すず。実年齢とほぼ同じ役どころで、本人も「素の自分に近い」とインタビューで答えているように、非常に自然な演技でした。それにしても、広瀬すずはかるた、ヴァイオリンの次はチアダンスと、部活系の映画が立て続けに上演され、どれも興収10億円以上達成している(あるいは見込)のは見事。今回の「チアダン」でも「主演は広瀬すずしか考えられない」と河合勇人監督からの熱い指名で実現したのだとか。
玉置彩乃(中条あやみ)
ほっそりと整った顔立ち、スラッとした長身はバリバリモデル体形で、広瀬すずと並ぶと主役を「公開処刑」しかねない凄いヴィジュアルの持ち主。素の時はのんびり屋だそうで、映画中での「まじめでストイックな」役柄に入っていくのが大変だったそうです。ちなみに、演技についてはやや見苦しい時があり、しばしば長文の時に棒読みになりがちだったところは、やや残念でした。
紀藤唯(山崎紘菜)
この人も、中条あやみ同様、スリムで長身なモデル体形ですね。二人して主演広瀬すずを挟む立ち位置のカットもしばしばあり、広瀬すずがかわいそうな瞬間もありました(笑)ちなみに、映画好きの人はTOHOシネマズの新作映画の紹介動画ナレーションでいつも見慣れていますね。TOHOの予告編では少し舌っ足らずなナレーションが印象的だったのですが、今作では一匹狼から徐々に仲間を信頼できるようになっていく無口な女子を好演しています。主役の生徒役の中では最年長。
東多恵子(富田望生)
若い女子でここまで体形がはっきりしているキャラが主演級で「かっこよく」起用されるドラマや映画って珍しいかもしれません。踊りは柳原可奈子のようにキレキレで、全く違和感がありませんでした。チアダンスの練習がハードなため、痩せていくのを防ぐために人一倍食べて体重を維持したという、ちょっと変わったエピソードもパンフレットで紹介されています。
永井あゆみ(福原遥)
みんな大好きまいんちゃんですね(笑)主役5人の中では一番役どころが限定されており、セリフはそれほど多くはありません。映画内では、アニメ声を活かして、天真爛漫で目立ちたがり屋の役を演じていました。
早乙女薫子(天海祐希)
2017年は1月の「恋妻家宮本」以来早くも映画出演2作目。こちらは、モデルとなった五十嵐裕子先生からの「指名」で鬼教師役に内定しました。映画内では、演劇っぽい大仰でコミカルなアクションが本来表現したかった教師の「厳しさ」をややわかりにくくしている点が気になりました。ただ、この人はその場に入るだけでデカいので威圧感があるといえばあるのですが・・・。
山下孝介(真剣佑)
女性主体のストーリーだけど、少しくらいは男子もいないとね、ということで、ひかりの友達以上彼氏未満である親しい男の子役を務めました。ただ、チアダンス部は「恋愛禁止」なので、スイーツ映画お約束の壁ドン顎クイ床ドン、、、といった展開は一切ありませんでした。どちらかというと、恋人というより、ひかりとはお互い高め合う「戦友」的な存在としてサッパリ描かれます。
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3.映画「チアダン」の結末までの詳細なあらすじ(※ネタバレ)
3-1.ひかり、福井中央高校でチアダンス部に入部する
友永ひかりはこの春、福井中央高校に入学した高校1年生。放課後、部活の勧誘ブースで友人達とどの部活に入ろうか見て回っていた。ひかりは、「イケてる女子はみんなチアダンス部に入るんだ」とチアダンス部推しだった。
ひかりの密かな夢として、サッカー部に入部した中学の時の同級生、山下孝介を全国大会で応援して、孝介と結ばれる、という青写真があった。
しかし、ひかりが部活見学に行った日、チアダンス部の顧問、早乙女薫子先生は、「チアダンス部はアメリカに行って全米大会での優勝を目指してます」とギラギラした目つきで高らかに宣言するのだった。しかも、全米を目指すため、スカートは膝丈、ネイルは禁止、前髪は禁止、校則厳守、そして恋愛まで禁止だという。
これはダメだ、とあきらめて別の部活を探そうと考え始めたひかりだったが、孝介から「チアダンス部の応援楽しみにしてるわ」と言われ、思わず弾みで「まかせて!」と答えてしまい、引っ込みがつかなくなってチアダンス部に入部するのだった。
チアダンス部の部活初日に顔を出した1年生は、全部で14人だった。1年生しか部室にいなかったので、早乙女に聞いたところ、2年生、3年生は全員退部したとのことだった。
全米3位になったという日本の高校生の演技をDVDで見せられた後、一人ひとり早乙女の前でダンスをしたが、彩乃、麗華、唯以外のメンバーは素人同然でボロボロだった。必然的に、部長には彩乃が指名されたのだった。孝介の話によると、彩乃は横浜から福井へと引っ越して来る前の学校でも、チアダンスで全国優勝したことがあるのだという。
翌日から始まったレッスンでは、彩乃、麗華、唯以外のメンバーはひたすら体を動かすための柔軟体操で一日が終わり、ダンスの練習すらさせてもらえない始末だった。
そんな悲惨な部活生活が始まったひかりだったが、、父親からは意外にも「ひかりは笑顔が素敵だからチアダンスはあっているんじゃないか」と得意料理「からあげ」を振る舞われて励まされるのだった。翌日、練習で自慢の「笑顔」を早乙女にアピールしてみたが、早乙女からは逆に前髪の指摘をもらっただけだった。
恋愛禁止になった上、孝介からも恋愛対象として意識されていなかったことがわかったひかりは、部活をやめようかと迷っていた。彩乃はそんなひかりを校舎の屋上に連れ出し、早乙女の代わりに個人的にひかりにダンスレッスンをつけるのだった。彩乃は、部員全員のモチベーションを考えて、基礎練習一辺倒ではなく、ダンスの練習も少しずつ取り入れるべきと早乙女に直談判するなど、リーダーシップにも優れていた。
彩乃のサポートや、自宅での懸命な自主練の成果が少しずつ出始め、ひかりや他の部員たちも、ようやく1曲を通して踊れるようになっていた。ひかりは、少しチアダンスが楽しくなり始めていた。
いよいよ福井大会が目前に迫ってきていた。初心者組も、1曲通して踊れるようになってからは、ダンス経験者の麗華や、顧問の早乙女から容赦なくダンスのパフォーマンスに指摘がビシビシ入るようになってきていた。ダンスでは貢献できなかったが、ひかりも「笑顔」の作り方を唯に教えるなど、チームに貢献するのだった。
しかし、福井大会での最初のパフォーマンスはぼろぼろだった。イージーミスを連発して、最低の出来に終わってしまったのだ。終了後、案の定早乙女からはダメ出しがあり、最悪の雰囲気の中、麗華は部活を退部してしまった。翌日以降あゆみ、ひかり、彩乃以外は練習にも現れなかった。一方、学校では福井大会の惨状を受けて、チアダンス部の解散が検討されていた。
3-2.チアダンス部解散の危機と部活の再生
ひかりも、クラスメイトと久々にカラオケに繰り出して発散してみるものの、この先どうしていいか気持ちの整理がつかなかった。帰宅後、自宅に来てくれた彩乃とじっくり話しあい、もう一度チアダンスをやってみたくなった。
ひかりは、彩乃とともに、唯や多恵子ら、仲間たちにもう一度粘り強く声をかけてチアダンスをやろう、と説得して回った。そして、集まった仲間たちとともに校長室へチアダンス部継続を直談判するのだった。最後は、「アメリカを目指します!」と弾みで好調にアピールしたひかり達の熱意に負けた校長から、チアダンス部の継続許可を勝ち取ったのだった。
仲間と部室に戻ると、顧問の早乙女が待っていた。部の存続が決まったタイミングで、本気でアメリカを目指して活動するため、早乙女から、チーム名を「JETS」として新たに活動を再開することが発表された。
時は過ぎ、ひかりは2年生になった。入部説明会で、去年と全く同じように「おでこ全開!」「校則遵守!」と新入部員を前に熱く語る早乙女に苦笑いしつつも、2年生となった彼らは確かな成長を感じていた。笑顔が苦手だった唯は、今では1年生に笑顔の作り方を教えることができるまでになっていた。
練習は順調に進み、新たに招聘したコーチの元、JETSは福井県大会で優勝を飾り、全国大会へと駒を進めた。過去最高にチームワークも機能し、充実した練習ができた(できていたと自負していた)
しかし、全国大会では自信を持って演技ができたにもかかわらず、結果は全国4位と、優勝には程遠い結果だった。早乙女が「仲良し地獄だ」とつぶやいたとおり、もう一歩突き詰める演技ができていなかったのだ。
大会の結果が終わった後、早乙女はさらに大きく一人一人が成長できるようにと、「夢ノート」というノートを1日1回寝る前に必ずつけるようにと指導した。夢ノートで一番大きく変わったのは、部長の彩乃だった。
3-3.本気でアメリカを目指した最後の1年間
大会終了後、本気で「アメリカに行きたい」と考えた彩乃は、夢を達成するために敢えて「みんなの敵になる」と夢ノートに書き込み、翌日から厳しく仲間に対して遠慮ない指導を行うようになった。
ひかりもまた、彩乃から「端っこで踊っているだけで満足し、欲がないことが欠点だ」と指摘され、彩乃と一瞬気まずくなるのだった。しかし、数日後の帰宅途中で一緒になった時に、ひかりは彩乃から受けた指摘について感謝した。ひかりは、彩乃に「わたし、端っこでもセンターになったつもりで踊る」と力強く宣言した。
そして、ひかりにとって高校生活最後の年がやってきた。しかし、春からいきなり全治2ヶ月の重傷を負ってしまう。根を詰めて練習しすぎたためだ。周りが全国大会に向けて順調に結束してダンスを磨いていく中、ひかりは一人蚊帳の外で参加できない悔しさを味わっていた。後輩のフォローをしていると、早乙女から「邪魔だから帰れ」と言われてしまう始末だった。
それでも、大会直前になってようやく全体練習に復帰できたひかりだった。しかし、2ヶ月のブランクは大きく、みんなのペースについていけず、全体練習の和を乱してしまった。早乙女から「練習から外れるように」と屈辱的な指示を受け、皆の前では気丈に振る舞ったひかりだったが、内心は悔しい思いでいっぱいだった。
全国大会は、補欠として一人練習用のジャージを来て円陣に臨み、全員を送り出したひかりだったが、皆の健闘を祈る気持ちと、大会に出れず悔しい気持ちがごっちゃになっていた。
福井中央高校は、見事全国優勝を成し遂げ、全米大会への切符を手に入れたのだった。高校に戻ると、地元のマスコミが取材に来ていたり、応援団が特別祝勝イベントを開催してくれたりと、周囲がチアダンス部を見る目は一変した。試合に出た仲間たちが凱旋インタビューを受ける中、ひかりはジャージに着替えて学校の屋上で一人ダンスの練習を続けていた。
全米大会前の全体練習で、ひかりはとうとう全員と揃って踊れるようになった。ひかりの仕上がりが間に合ったことに早乙女以下、全員が驚き、喜んで迎え入れてくれた。
そして、迎えた全米大会。早乙女以下、チーム全員はバスでサンディエゴの試合会場へと向かったが、気持ちは少し浮つき気味だった。気持ちがどことなく定まらないまま臨んだ予選では、決勝へと進んだ8校のうち、かろうじて7番目で決勝へ進むことができた。
数日後の決勝を前に、早乙女は秘策として、センターである彩乃とひかりを入れ替えるという発表を行った。突然の発表に戸惑う全員だったが、彩乃は気丈に振る舞い、ひかりをセンターとして全員で踊りを合わせよう、とまとめた。
解散となった翌日、ひかりは彩乃から「夢ノート」を手渡された。センターとしての心構えを記載したので、参考に読んでおいて欲しい、という。ひかりは、そのページを読み込んでみたが、「センターの心構え」について書かれたページは一度破かれた跡があった。彩乃もやはり悔しくて、やりきれない気持ちをノートにぶつけたのだった。
それを見たひかりは、早乙女の決断に納得が行かず、ポジション変更撤回を迫ったが、早乙女は断固として自分の決断を曲げず、ひかりに「頂上を取った景色を見ておけ」とただ静かに話すのだった。
まだもやもやしていたひかりだったが、夕方一人で海を見てたそがれていると、コーチの大野がひかりのところにやってきた。大野は、早乙女が如何にチームを愛していて、指導者として悩みながらここまで指導をしてきたか、どれだけひかりに期待していたのか、そっとひかりに語って聞かせた。そして、ひかりと早乙女は、その一途さが非常に似ているとも話したのだった。
早乙女の意外な一面や熱い思いを知って、そして全員がひかりのために準備をしている光景を見て、ひかりはみんなの前で「センターで踊る」と決意を新たにした。
翌日の決勝では、全員でしっかりと悔いなく踊り切ることができた。踊り終わって、ひかりは確かに「てっぺんを取った者しか見れない光景」をこの目で見たのだった。観客席を見ると、早乙女の姿がなかった。
ひかりは、急いでバックステージ裏の通路に戻ると、早乙女の姿を発見した。早乙女に踊り終わった思いを伝え、二人は固く抱き合ったのだった。そして、福井中央高校が優勝したとのコールが会場に伝わると、他の部員たちも早乙女のところに来て、全員で泣いて歓喜した。
その数年後の4月。彩乃は夢だったキャビンアテンダントになっていた。一方、ひかりは、母校福井中央高校でチアダンス部のコーチに就任していた。彩乃のニュースを知ったひかりが、相変わらずチアダンス部で顧問を続ける早乙女に朗報を伝えると、早乙女は一人見えないところで号泣して喜ぶのだった。
ひかりは、新入部員を前に、数年前に早乙女が入部説明会の時に語ってくれた内容と一言一句同じように語りかけ、アメリカへの夢をぶちあげるのだった。早乙女の目指した夢は、確実にひかりに受け継がれ、そしてこれから入部してくる新入部員にも伝わっていくのだった。
その日の部活が終わると、同じく学校でサッカー部の顧問となっていた孝介と校門の前で待ち合わせ、今度こそデートへと出かけるのだった。
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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)
4-1.想定していた観客層と全然違っていた?!
公開初週の日曜日の午後という一番混雑するタイミングで見に行ったのですが、座席は見事に満席。女子中高生やカップルがメイン客層だと予想していたので、オッサン一人で観に行くのは凄く気が引けたのですが、フタを明けたら、なんとメインの客層は女子小学生!!(もちろん親子連れです)僕の横に座ったのも、小学校高学年の女の子でした。
すごく意外な客層に少し安堵しつつ、始まった映画での彼らの反応にもびっくり。この「チアダン」は、ところどころでやり過ぎなほど露骨なコメディタッチの演技や効果音、マンガ的なツッコミが入るのですが、そこで小学生が笑う笑う、、、
事前にマーケティングできていたのかどうかわかりませんが、予想以上にコメディ色の強い作風が、ぴったり低年齢層を中心とした客層にハマっていたことに驚きを隠せませんでした。満員の映画館が一体感に包まれていました。小学生たちのお陰で、なんというか素直な心で楽しく鑑賞できました!たまには満員の映画館もいいですね。
4-2.成功の裏にある「犠牲」と「挫折」が丁寧に描かれた点が好感だった
映画「チアダン」は、福井商業高校の実在するチアダンス部が、2006年に創部されてから3年間で全米大会を制覇するまでの実話に基づいて製作されました。実話のドキュメンタリー「チアダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話の真実」も事前に読了してわかるのですが、決してエリート選手が努力して、順当に夢を掴んだ話では全くないのですよね。
ストーリーで特にクローズアップされるのはひかり、彩乃、早乙女の3人ですが、3人ともが、最後に全米大会で優勝するために多大な犠牲を払い、大きな挫折を経験するシーンが1回ずつ丁寧に描かれます。
まず、恋愛は禁止、女子高生らしいファッションも禁止。部活は朝練、休日練習は当たり前で、寝る前に夢日記までつけています。「私らは全てをかけてやってきたんやで?!」と全米大会の演技前の円陣で、ひかりの福井弁バリバリのセリフにある通り、彼らは普通の高校生としての楽しみを犠牲にして、高校生活の大半のエネルギーをチアダンス1本に賭けていました。
そして、勝つためには「仲良さ」を捨てて「厳しさ」を優先します。試合前の人選で、早乙女はひかりを全国大会から外し、キャプテンの彩乃でさえ試合の直前にセンターから外しました。温情より冷徹な実力主義で判断されています。
また、裏では早乙女も相当な挫折を味わっていました。顧問着任早々2年生以上に全員退部されてしまったどころか、残った1年生のチームも途中で一旦崩壊寸前になってしまい、校長からは顧問としての指導力を疑われる始末です。
このように、「全米大会で優勝する」という大目標こそクリアされましたが、そのプロセスは全く順風満帆というわけではなかったのでした。彩乃の夢ノートに書かれ、セリフでも強調された通り「努力してもかなわないこともある。でも努力を続けるしかない」とあった通り、彼らの望みは、叶ったり叶わなかったりなのですが、この映画では「叶わなかった思い」にも焦点を当て、しっかり拾い上げていたところが印象的でした。
4-3.指導者の気持ちが全く届いていない感じがリアルで良かった
映画を見ていて、途中までぬぐい難い違和感としてあったのが、顧問の早乙女の心情描写がほとんどなかったことです。でも、これは後で「意図的」だった、と気づきました。
この映画では、最初から主人公=ひかりの視点で物語が進んで行きます。彼氏未満の孝介や部活仲間との交流などは丁寧に映像やセリフで心情描写がなされる一方、キーマンであるはずの早乙女との交流の描写が極端に薄く感じられるのです。
高1の入部説明会~高3の最後の練習風景に至るまで、ひかりは、早乙女から詳しい説明もなしに一方的に何か指示を受け、それに対して都度軽い不満をもらすなど何らかのリアクションはするにはしますが、違和感を強く表明したり、激しいやり取りもなく、物語が最後まで進んでいくのですよね。
なんか描写が雑だなーと思っていたら、ラストシーン直前の全米大会直前のワンシーンでひかりが早乙女に「軽蔑します!」と言い放つシーンを見て、ようやく腑に落ちました。
要するに、数々の苦難を乗り越えて、長い長い時間を3年間共有し、その集大成として全米大会までこぎつけたにもかかわらず、ひかり(学生)と早乙女(顧問教師)の間の関係はそれまでその程度のものだったということなんです。独り言で「うるさいババァやの」とひかりが良くつぶやいていたように、ひかりからは早乙女のことが良く見えていなかったという、二人の間のリアルな距離感が映画全体で表現されていたんですね。
実際の初代JETSメンバーでも、初代キャプテンは全米大会前に心を閉ざして一人だけ退部してしまっていますし、多感な高校生への指導の難しさを実感しました。
4-4.素人でも志を持ち続けることの大切さが描かれた
努力しても叶うこともあれば叶わないこともあります。そういったリアルな挫折感もきっちり描きつつ、それでもこの映画では「たとえ素人でも努力し続けることで成功できる可能性」も提示されています。
その最たる象徴こそが、主要登場人物を務め、ダンス演技中も最前列に配置され続けた太めキャラ、多恵子の存在です。映画全体を通して、彼女が目立つ場所に敢えて配置され続けたのは、「たとえ未経験から、素人からスタートしても、努力すれば成功できる」という可能性の象徴だったからなのではないでしょうか?
もう一人の「素人」は、顧問の早乙女です。早乙女の指導法は、部活の練習こそ生徒の自主性にある程度任せているものの、基本的には独善的で学生一人ひとりへの配慮が致命的なほど欠けていました。指導者として「素人」くさいわけです。
この歪な指導法のせいで2年生以上を全員失い、チアダンス部が崩壊寸前になるわけですが、それでも早乙女にはその欠点を補って有り余る圧倒的な「ビジョン」と「志」がありました。だって、福井の片田舎で全く実績もなくゼロの状態から、「全米大会で優勝する」なんて誰も本気で言えないですよね。
ひかりら生徒との距離感は微妙に縮まらない一方で、早乙女が示したビジョンや熱意は、確実に学生に浸透していき、強いチームが出来上がっていったのですよね。
このように、映画「チアダン」では、生徒も指導者も「素人」でしたが、「素人」であっても、志を持ち続けることで、時にとてつもない奇跡のような成果を生み出すことができる、そんな可能性をしっかりと映画のテーマとして提示してくれていたと思います。
4-5.そして、思いは受け継がれていく
映画全体を通して、「誰かが言ったセリフが、後のシーンでそれを言われた誰かによって反復される」シーンが多用されます。それは、掛け声であったり、アドバイスであったり、セリフであったり様々でしたが、ポジティブな思いが確実に仲間に広がり、受け継がれていく様子を効果的に表現するには優れた表現だったと感じました。
映画でもリアルでも、JETSはその後全米大会を何度も連覇する強豪チームへと成長するわけですが、その過程では、必ず成功体験や成功を支えた考え方やノウハウ等は先輩から後輩へ、仲間から仲間へと正しく「継承」され、広がっていかなければなりません。そのためには、まずは「ことば」ありきなんですよね。
先輩から、指導者から受け継いだ「ことば」が正しく、きっちりと受け継がれていく様子を効果的に印象づけるため、徹底して同じ言葉がチーム内に継承される脚本は素晴らしかったです。
5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)
5-1.ダンスの種類を覚えておくとより楽しめる映画
チアダンスは、いわゆる甲子園や高校サッカーなどで見られるチアリーディングではなく、チアリーディングに含まれる「ダンス」要素を独立させた競技部門の一つです。約2分半の演技時間の中で、ポンダンス・ジャズダンス・ヒップホップ・ラインダンスと4つのダンスを必ず含み、採点はダンスの技術や振付、チームの一体感、表現力などが採点の対象となります。
20人以上のメンバーが息を合わせて華麗に踊り、表現する姿は、シンクロナイズドスイミングや新体操なんかにも雰囲気が似ていますね。映画中でも、唯はヒップホップ、彩乃がポンダンスが得意だったり個性がある他、場面場面での主人公たちの心情に寄り添って、踊られるダンスの種類や内容が細かく調整されています。
5-2.実際の福井商業「JETS」の動画が凄まじい!
映画内での広瀬すずをはじめ主役たちの演技も、実際に想像以上に完成されており見事な動きでしたが、彼らのモデルとなった福井商業高校「JETS」の全米大会で演技する動画がYoutubeに年度別にアップされています。
<「JETS」2016年度全米大会決勝の演技>
これを見るとわかりますが、とてつもないレベルですね。ちなみに、映画内でも実際に福井商業で全米大会で優勝経験を持つ酒井麗奈と藤井利帆が初代部員8名の中に含まれている他、初代JETSの優勝メンバーで、現在JETSでコーチを務める三田村真帆さんも指導に入るなど、全面的な福井商業メンバーOBのバックアップが入っています。
5-3.モデルとなった「福井商業高校」の実話も生々しくて凄い!
映画「チアダン」は、福井商業高校の実話を元に製作されていますが、キャラ設定から鬼顧問の存在まで、明確なモデルがありました。映画と同時に刊行された「チアダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話の真実」によると、実際の福井商業高校でも、初代JETSメンバーでは例えばこんな生々しい実話があったそうです。
・五十嵐裕子先生(早乙女のモデル)がチアダンス部顧問になった時、2年生~3年生が全員退部してしまった。しかもその後、退部した元部員たちが外野から足を引っ張リ続けた。
・夢ノート導入へ反発したメンバー達が部室で五十嵐先生の悪口を言っていたところに五十嵐先生が通りかかり、先生激怒。それを受けて部員全員が反省文を提出して、何とか騒動が決着した。
・3年時、ケガで離脱してモチベーションの維持に苦しんだ部長が、五十嵐先生の拙いフォローもあって、全米大会前に退部してしまった。
それ以外にも書籍には色々エピソードが網羅されていますが、決して全米大会優勝への道のりは平坦だったわけではなく、だからこそむしろ本当に「奇跡」に近い快挙だったんだ、とわかります。
5-4.ノベライズに収録された、映画本編では省略されたストーリー
角川つばさ文庫で映画と同時に刊行されたノベライズ版は、映画で恐らくカットされたであろうストーリーが盛り込まれています。詳しくは読んで頂くのが一番良いのですが、いくつか紹介しておきますね。
<全米大会前にも一度ひかりはセンターを試している>
・全国大会4位となった後の練習で、早乙女に言われて彩乃とセンターを変わる。あゆみや多恵子、唯もひかりのセンター案を推すも、結局その時は技術的に優れた彩乃がセンターへ戻ることになった。
→これが当初案では全国大会決勝での交代への伏線として用意されていたプロットかもしれない。ラストのひかりの葛藤シーンがより際立ったので、映画ではこのシナリオを外したことは良かったかもしれません。
<全米大会後、ひかり達の卒業式の描写>
・ひかり、孝介から第2ボタンをもらいに行く。
・彩乃、相変わらず矢代に校舎裏で告白されている。
・麗華がJETSメンバーに「全米優勝おめでとう」と言いに来る。
・次期部長には絵里が内定。(唯に笑顔を指導されていた子)
・最後に、円陣を組んで定番のセリフ「明るく、素直に、美しく!レッツゴー、JETS!」で笑顔で叫んでお別れとなった。
<ひかり、彩乃以外の卒業後のそれぞれの進路>
・多恵子は、子供達を守る児童福祉司になった。
・あゆみは大学卒業後、専業主婦として一児の母になった。
・唯は卒業後もダンスを続け、アメリカでプロのダンサーになった。
・麗華は、敏腕キャリアウーマンとして海外を飛び回っている。
6.まとめ
部員を説得して回るシーンが「七人の侍」「荒野の七人」のオマージュだったり、特設中継会場で応援するひかりの父がアニマル浜口そっくりだったり、遊び心も満載で、オーバーリアクションでベタなコメディタッチで笑えるシーンが沢山用意されていたのも、その骨格に実話をベースとする力のある感動ストーリーがあったからこそ。
笑えるシーンもありますが、最後はきっちりと最高の演技と若者たちの一途な気持ちに泣かされました。小学生から大人まで、いろいろな視点で幅広く楽しめる佳作でした。映画館の大画面でぜひ!
それではまた。
かるび
7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
大原櫻子 主題歌
エンドロールで流れる初春の卒業ソングらしいスケール感のあるメロディが、全米大会を終えてそれぞれの道へと踏み出したJETSのメンバーを送り出すメッセージのようで、最高に泣けました。いい曲でしたね!ちなみに、大原櫻子自身も、本作で南青山高校のチアダンス部員としてカメオ出演しています。
「チアダン」ノベライズ
角川つばさ文庫からの出版。小学生でも読めるように全部ルビが振ってあり、気がついたら僕の小1の息子が読んでました(笑)Amazonのジュブナイル小説部門でベストセラーになるなど、やはりこの映画はJSに大人気なのか・・・。
内容は、映画を小中学生でもわかるように平易な文章で描かれていますが、普通に大人でも楽しく読めてしまいます。僕も何気に映画前後に3回読み返してしまいました(笑)
「チアダン」ドキュメンタリー
ノベライズと同時に出版されたのは、映画「チアダン」のモデルとなった福井商業高校チアリーダー部「JETS」の実話版ノンフィクション・ドキュメンタリーです。顧問となって赴任した五十嵐裕子先生が、持ち前の強烈なリーダーシップとガッツで新生チアリーダー部を率いて、第1期創部メンバーが2009年に全米優勝を成し遂げるまでを描きます。綿密な取材に基づいた描写も生々しく、ハッキリ言ってこちらは映画以上に壮絶です。映画が気に入った人は、こちらのノンフィクションもお勧め!