かるび(@karub_imalive)です。
1月27日に公開された東野圭吾「新参者」シリーズ最終作「祈りの幕が下りる時」を見てきました。すでに原作を読了した時点で、東野圭吾映画化作品の中でも屈指の傑作になる予感がしていたので、期待していました!
早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。
- 1.映画「祈りの幕が下りる時」の予告動画・基本情報
- 2.映画「祈りの幕が下りる時」主要登場人物・キャスト
- 3.途中までの簡単なあらすじ
- 4.本編のレビュー(感想・評価)
- 5.映画「祈りの幕が下りる時」に関する11の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~
- 疑問点1:加賀と松宮の関係とは?
- 疑問点2:なぜ加賀は日本橋署に長年勤務していたのか
- 疑問点3:加賀と父親・隆正の関係はなぜ冷え切っていたのか?
- 疑問点4:なぜ田島百合子は、加賀と加賀の父を捨てて家を出たのか?
- 疑問点5:カレンダーに記載された12の橋とはどんな意味があったのか?
- 疑問点6:加賀の捜査に同行した「登紀子」とは誰なのか?
- 疑問点7:なぜ博美は最愛の父を絞め殺したのか?
- 疑問点8:上映中の「異聞・曽根崎心中」とはどんなストーリーなのか?
- 疑問点9:松本清張の名作「砂の器」との共通点とは?
- 疑問点10:ラストシーン・結末の考察~エンドロールで懐かしい面々が集合?!続編はあるの?
- 疑問点11:タイトル「祈りの幕が下りる時」の意味とは?
- 6.映画パンフレットがおすすめ!
- 7.まとめ
- 8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
1.映画「祈りの幕が下りる時」の予告動画・基本情報
【監督】福澤克雄(「陸王」他TBS系ドラマシリーズ多数)
【配給】東宝
【時間】119分
【原作】東野圭吾「祈りの幕が下りる時」
本作でメガホンを取ったのは、TBSドラマシリーズ「ルーズヴェルト・ゲーム」「半沢直樹」「下町ロケット」「陸王」等、主に池井戸潤原作のドラマ作品で大ヒットを連発してきた福澤克雄。”日本で最も視聴率を取れる”TBS所属の社員監督であります。ラグビー選手だった大学時代を経て、一旦メーカーへと普通に就職するも、映画作りへの夢を諦めきれず、TBSに中途で入社してきた異色のキャリアを持ちます。
超絶顔アップ(「半沢直樹」)から、上空からのロングショット(「陸王」)まで、様々な角度から縦横無尽に撮りつくす演出スタイルや、とにかく大勢のエキストラをガンガン使う群衆表現(「陸王」「祈りの幕が下りる時」)など、ドラマにおいてもわりと映画的な演出の使用が目立ちます。
映画シリーズは、意外にも今作でまだ2作目となり、2008年「私は貝になりたい」以来、10年ぶりの映画作品です。もちろん、「新参者」シリーズでの監督は、ドラマ・映画を通じて今作で初めてとなります。
ところで、TBS・東宝がこれまで手がけてきた「新参者」シリーズは、映画・ドラマを通じて多数の作品があります。2010年の連作ドラマ「新参者」をはじめ、2つの特番ドラマ「赤い指」(2011)「眠りの森」(2014)と、劇場版映画「麒麟の翼」(2012)があります。これまでに過去10作品リリースされた原作小説群の中から、の主に後半部分から順番に映像化されていっている感じですね。(※「眠りの森」を除く)
小説・映像作品といずれもが、それぞれ一つの作品内では独立した刑事事件を扱うため、どの作品から観ても問題なく楽しめます。しかし、原作の刊行された順番に主役・加賀恭一郎やその周囲の関係性が少しずつ変化していくため、過去作を後追いで一気に見るのであれば、以下の順番で見ておくのが理想だと言えそうです。
2.TVドラマ「新参者」
3.TV特番ドラマ「赤い指」
4.映画「麒麟の翼」
とはいえ、そんな時間はない!という方のために、東宝が公式動画として、「5分でわかる新参者」というわかりやすいまとめ映像を作ってくれています。確かにこれは非常に分かりやすい!是非チェックしてみてくださいね。
2.映画「祈りの幕が下りる時」主要登場人物・キャスト
加賀恭一郎(阿部寛)
引用:映画『祈りの幕が下りる時』予告 - YouTube
福澤組での出演はドラマ「下町ロケット」についで2度目。また、東野圭吾ミステリー作品では、映画「麒麟の翼」(新参者シリーズ)映画「疾風ロンド」以来、3度目の出演となります。映画では、この後2018年は「のみとり侍」「北の桜守」「-KUKAI-」と上期だけで3作品が待機中と、俳優としてまさに黄金期を迎えつつありますね。
浅居博美(松嶋菜々子)
引用:映画『祈りの幕が下りる時』予告 - YouTube
ここ最近、映画作品では「藁の楯」(2013)「思い出のマーニー」(2014、声の出演)のみと、家庭との両立もあって、仕事をセーブしているイメージでしたが、本作では約4年ぶりの主演級での出演となりました。「やっぱちょーきれいだな」と阿部寛が劇中でつぶやくセリフがあるのですが、確かに44には見えませんね。舞台俳優上がりの演出家という設定も抜群にフィットしていました。
松宮脩平(溝端淳平)
引用:映画『祈りの幕が下りる時』予告 - YouTube
2010年前後のスイーツ作品や青春映画を見ると、アイドル的な俳優としてかなりの高確度で「また主演溝端?」と嫌になるくらい出ていた印象がありますが、最近は仕事量も調節し、舞台・TVドラマ・バラエティ・映画とまんべんなく出ているようですね。もうかなりベテランというイメージでしたが、まだ20代なんですよね・・・。
金森登紀子(田中麗奈)
引用:映画『祈りの幕が下りる時』予告 - YouTube
TV特番「赤い指」、映画「麒麟の翼」に続いて、再び意外な形で事件を解き明かすカギを提供する名脇役となった「登紀子」役で3度目の登場。2016年頃から「葛城事件」「幼子われらに生まれ」等、重厚なヒューマンドラマ系で好演を果たし、2018年は、日本・台湾合作映画「おもてなし」が待機中。
浅居忠雄(小日向文世)
引用:映画『祈りの幕が下りる時』予告2 - YouTube
「最初(喜劇ばっかりやっている)小日向さんにこの役ができるとは思わなかった」と公式動画のインタビューで失礼なことを阿部寛に言われていました(笑)阿部寛同様、苦労人で遅咲きの俳優らしく、3枚目で情けない役柄だけでなく、こういったシリアスな役柄もきっちりこなしてくれました。近年では「アウトレイジ」シリーズでの悪徳刑事役や、映画「サバイバルファミリー」での父親役が特に僕のお気に入りです。
加賀隆正(山崎努)
引用:映画『祈りの幕が下りる時』予告2 - YouTube
本作では回想シーンでのみ登場。髪を染めたり、CGを駆使してどうにか若く見せようとしていましたが、残念ながら「不気味の谷」を越えていなかったのは、予算・技術的な制約なので致し方なしでしょうか?そこに存在するだけで画面上に独特の重み・風格を発生させる超ベテラン俳優。個人的には5月公開の主演映画「モリのいる場所」(沖田修一監督)に非常に期待!
田島百合子(伊藤蘭)
引用:映画『祈りの幕が下りる時』予告2 - YouTube
映画作品には、「くじけないで」(2013)以来、約5年ぶりの登場。15年以上前の回想シーンのみの出演となるため、ほぼ全編に渡って、「無理め」な若作りが目立った配役となりました。山崎努同様、CG使ってる?っていう場面は特にキツかった(笑)後追いでキャンディーズを聴き込んだ時期があったせいか、アイドル時代とのギャップがどうしても頭に浮かんでしまうのです・・・
3.途中までの簡単なあらすじ
葛飾区の荒川沿いのアパートで、死後3週間ほど経過した腐乱した女性の死体が見つかった。鑑定の結果、死体は、滋賀県彦根市の老人ホームで働く押谷道子のものであると判明。明治座へ旧友の演出家・浅居博美を訪ねて上京後、何者かに連れ去られて殺害されたと推定された。遺体の発見場所に住んでいた越川睦夫という男が行方不明になっていることから、警察は、越川を犯人として捜査を開始する。
一方、本事件と同時期に荒川河川敷で起こったホームレス放火事件。捜査一課の松宮は、見つかった焼死体が越川ではないかと疑い、DNA鑑定を行った結果、見事に一致する。
松宮は、過去の事件でもタッグを組み、プライベートで浅居博美と接点があるという、日本橋署の加賀恭一郎に本件の相談を持ちかけた。気になった加賀は、現在浅居博美が手がけ、明治座で上演中の「異聞・曽根崎心中」を観たついでに博美へと会いに行く。そして、非番の時、日本橋の常盤橋で捜査中だった松宮から、越川がアパートに残した遺留品の月めくりカレンダーのそれぞれの月に、何かの暗号のように「常盤橋」「日本橋」「江戸橋」など日本橋川・神田川にかかる12の橋が書かれていたことを聞いた加賀は、激しく動揺する。なんと、それは16年前、加賀が仙台で亡くなった母・田島百合子の部屋に残されていたメモ書きと一致したのだ。そのメモの持ち主は、当時、母が付き合っていた原発作業員・綿部俊一が書き残した筆跡と一致した。
捜査本部に合流した加賀は、やがて、捜査が進展するにつれ、本事件が加賀自身の父親・母親との過去に関わる秘密に大きく関係することに気付いていく。全てを調べ尽くし、捜査は難航を極めて行き詰まりかけていた捜査だったが、加賀は、その時「原点」に帰り、自分自身について深く調べることで、今回も突破口を開くのだった。果たして真犯人は誰なのか?事件の真相はーーーー?
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4.本編のレビュー(感想・評価)
原作の良さを手堅く守りきった佳作
僕は、原作がある映画は、たいてい原作小説や原作マンガを読了してから映画を楽しむ事が多いです。大抵の場合、映画と原作でそこまで出来が大きく離れてしまうことはありません。どちらかが傑作ならもう片方も傑作であることが多いし、その逆も然りです。
そういう点で、あくまで僕自身の感触ですが、本作は、東野圭吾の原作小説が、「手紙」や「秘密」以来、会心の傑作だったため、複雑なプロットを上手に消化し、原作の良さを殺さずに映像化できれば、かなりの水準の作品となることが最初から約束されていたと思います。
そして、福澤監督は、見事にやり遂げてくれました!
まず、見ごたえのある画面作りが良かったです。能登・彦根・仙台・女川・日本橋と日本全国を動き回るスケール感の大きなストーリーの中、どのロケ地でもこだわり抜いた美しい構図の引きのショットで、非常に映像が頭に残りやすいのです。
▼厳しい能登の断崖絶壁を捉えたロングショット
引用:映画『祈りの幕が下りる時』予告2 - YouTube
能登の断崖絶壁でのロケ、彦根城周辺の城下町的な街並み、琵琶湖の壮大な風景、仙台や女川の震災の爪痕を予感させるような不穏な雰囲気など、考え抜かれたロケ地と構図が素晴らしかった。その他、TVドラマ「陸王」「下町ロケット」でも使われた超上空からの俯瞰視点や、一転して劇画タッチのズームショット、さらに長回しでのクライマックスのシーン、エキストラを多用した贅沢な群衆シーンなど、映画らしい工夫が凝らされた画面作りは非常に良かったです。
また、原作の濃厚な情報量を映画用に整理した上で、極力セリフを早くしゃべらせたり、思い切って字幕を多用して捜査のプロセスをサッサと飛ばしたり、捜査会議を報告シーンのみに絞り込むなど、テンポよくストーリーを回していく工夫も凝らされています。
地味な捜査部分は、軽めのコミカルな味付けにしつつ極力飛ばして、本作での最大の魅力である「ヒューマンドラマ」部分にその分最大限時間を割くバランス感も「おぉー、わかってるな」と感心しちゃいました。捜査の進展とともに、真犯人の哀しい過去の逸話や、加賀恭一郎の両親との関係性により焦点を当てていく演出も寄与して、がっつりストーリーへと引き込まれていきました。
シリーズ最終章にふさわしい、ある意味最高の犯人役だった浅居博美
今回の犯人役である浅居博美は、主役・加賀恭一郎と鏡像のような関係性なんですよね。人間、誰しも「弱さ」を心のうちに抱えているものです。これまでの犯人は、加賀恭一郎と違うポイントに「弱さ」を抱えていたため、【心を読む天才】加賀恭一郎の推理が冴え渡ってきたのでした。
しかし、今回は、加賀恭一郎と浅居博美のウィークポイントは同じところにあるんですよね。親との関係性です。その他・ライフスタイル・キャリアなど、加賀と博美は非常に似た者同士であり、シリーズ最後にして、博美はある意味最強の犯人となりました。
だからこそ、捜査が煮詰まっていく中、突破口を作るには、加賀自身が自らの内側をより深く探るしかなかったのでした。加賀が、今回も「あと、調べてないのは、俺かー」とつぶやき、人形町の交差点で仁王立ちして自分自身の心を深く探っていくシーンは、劇画的で非常に印象に残りました。
加賀は、その後『早く死んで天国から息子たちを眺めたい』と、隆正の看護師を務めていた登紀子から新たに聞かされたエピソードから、父・隆正が、自分が思っていたよりずっと深く、自らを愛してくれていたことを聞かされます。隆正の自らに対する深い愛情を知った加賀は、そこから、博美の父・忠雄がまだ死んでおらず、博美のためにどこかで身を隠しているのではないかという推論に到達していくのですよね。
加賀が、父親との関係性に思いを馳せることで、そこから得られた洞察を活かして事件を解決する、そして、事件解決後、加賀は少しだけ成長し、父との精神的な距離が次第に近づいていく・・・という流れは、「新参者」シリーズに通底する流れであり、最大の見どころです。
新参者シリーズが始まって8年目となった本作。父・隆正が50代中盤に差し掛かった阿部寛の、より円熟味の増した演技が素晴らしかったです。
子役時代の浅居博美役:桜田ひよりの演技が素晴らしい!
そして、本作で影のMVPとなったのは、回想シーンでの14歳の浅居博美を演じた桜田ひよりだと思います。トンネル内の生き別れシーンでの迫真の演技は、クライマックスへと至る後続のシーンに確実に切なさと緊張感を運んでくれていたと思います。
現在美少女系麻雀漫画の原作「咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A」では主演を務めていますが、確かに予告編を見る限り、存在感は主演として際立っていました。将来が楽しみな女優ですね!
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5.映画「祈りの幕が下りる時」に関する11の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~
ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。
疑問点1:加賀と松宮の関係とは?
加賀と松宮はいとこ同士の関係です。松宮は高崎の母子家庭に生まれ、母親が水商売で生計を立てていたのですが、そのせいで親戚中から孤立してしまいました。その時、彼らの味方になったのが、加賀の父・隆正(松宮にとっては伯父)だけでした。松宮は幼い頃から隆正を父親代わりに慕っており、そのまま隆正にあこがれて刑事になりました。そして、隆正が刑事を引退してからは、生前大事にしていた腕時計をもらうなど、加賀とは対照的に、隆正と最後まで親密な関係でした。
彼ら二人が最初にタッグを組んだのは、「赤い指」にて加賀が「練馬署」の捜査一係だった時、松宮が本庁捜査一課として共に捜査に当たった時です。この後、加賀は日本橋署へ転属となりますが、ドラマ「新参者」「麒麟の翼」「祈りの幕が下りる時」でずっとタッグを組みました。今作では、初めて松宮が加賀に対して「タメ口」で話しています。タッグ4作目にして、ようやくバディ感も出てきましたね。
疑問点2:なぜ加賀は日本橋署に長年勤務していたのか
まさにそれが本作の前半で明らかになります。16年前、加賀は、幼い頃に蒸発していった亡き母・田島百合子の消息について、百合子の勤務先のバーの女将・宮本康代から連絡を受け、遺品との対面と言うかたちで再会を果たします。宮本からは、百合子が当時付き合っていた「綿部」が頻繁に日本橋へ行っていることを聞きつけ、遺品の中に入っていた日本橋川・神田川にかかる12の橋の名前が書かれたカレンダーを見つけます。加賀は、「日本橋」というキーワードと、カレンダーの謎の12の橋を書いたメモだけを手がかりに、「綿部」を探し出し、母・田島百合子の生前の様子を聞き出したい、その一心で日本橋勤務を続けていたのでした。究極のマザコンですね・・・。
疑問点3:加賀と父親・隆正の関係はなぜ冷え切っていたのか?
幼少時代、全ての事情がよく見えていなかった恭一郎は、家事・実母の介護・子育て・ギクシャクした親戚との関係を一身に背負い込み、その負荷に嫌気が差して母は家出をしてしまったのだと思い、仕事ばかりで家庭を顧みない父親を憎むようになりました。
また、当時口下手で言葉少なだった父・隆正も、そんな恭一郎にきちんと説明をしなかったのでしょう。全てを父・隆正のせいにしたまま、大人になってしまったのですね。その思い込みが少しずつ揺らぐきっかけになったのが、母・百合子の死だったというわけです。
疑問点4:なぜ田島百合子は、加賀と加賀の父を捨てて家を出たのか?
田島百合子は、当初恭一郎が思い込んだ通り「嫌気が差して」出ていったわけではなかったのです。家事・育児・介護・人間関係の悪化した親戚付き合い、この全てをうまくこなしきれない自分を責めた挙句、うつ状態になっていたのでした。
ある日、無意識に恭一郎を出刃包丁で殺そうとしたところを恭一郎に観られて我に帰るなど、自らに限界が訪れたことを悟った母・百合子は、上手くやっていく自信をなくし、全てを捨てて出ていってしまったのでした。
疑問点5:カレンダーに記載された12の橋とはどんな意味があったのか?
越川睦夫(浅居忠雄)の自宅の壁掛けカレンダーに記載された12の橋の名は、忠雄と娘・博美がひと目を憚って毎月密会するための場所を意味するものでした。行き交う人々が誰も気に留めない橋の上なら、今や有名人となった博美と問題なく密会できると考えた忠雄は、娘が舞台女優として初舞台を踏んだ「明治座」の近くの日本橋川・神田川にかかる12の橋で、月ごとに密会する橋を取り決めたのでした。
2月:左衛門橋
3月:西河岸橋
4月:一石橋
5月:柳橋
6月:常盤橋
7月:日本橋
8月:江戸橋
9月:鎧橋
10月:茅場橋
11月:湊橋
12月:豊海橋
1月~12月まで密会に使った橋の分布図
それぞれ、1月~12月までこんな感じに並んでいます。ちょうど明治座を中心にして、その周辺の川に掛かる橋で密会してたのですね。(個人的には、地元民からすると、12月の豊海橋とか5月の柳橋は、人がいないので却ってケータイ持って話してたら怪しいと思うのですが・・・)
疑問点6:加賀の捜査に同行した「登紀子」とは誰なのか?
映画中盤で、博美の自宅への捜査に同行した「金森登紀子」という人物ですが、特に説明もなく突然出てきましたね。金森登紀子は、恭一郎の父・隆正が病気で入院後、ずっと世話をしてきた看護師でした。(特番ドラマ「赤い指」以後レギュラー登場)相当におせっかいな性格で、生前は隆正を元気づける一方、隆正の死後も、事あるたびに恭一郎に父・隆正との精神的な和解を促すとともに、恭一郎の事件捜査への洞察を与えるような叱咤激励を行うのでした。
そして、本作では、隆正が深く恭一郎を愛していたことを示す、隆正の入院時代のエピソードを恭一郎に語り、恭一郎の父・隆正に対するわだかまりを氷解させるとともに、恭一郎の捜査に同行し、浅居博美=浅居忠雄親子説を裏付けるためのDNA鑑定に必要な毛髪を、博美宅の洗面所から採取するなど、事件解決に決定的な手がかりをもたらすキーマンとしての役割を果たします。
実は、小説版では、事件解決後、恭一郎は博美を食事に誘い、博美もそれに嬉しそうに応じています。決定的なところまでは描かれてはいませんが、二人は恋仲へと進んでいくような感触を感じさせるのですよね。「卒業」での沙都子、「眠りの森」での美緒は残念ながらフェイドアウトしていったので、是非、恭一郎には、登紀子とうまく行ってほしいものです。(※結婚したら十中八九、完全に尻に敷かれそうですが)
疑問点7:なぜ博美は最愛の父を絞め殺したのか?
25年以上、世間から身を隠して逃げ続け、全国の原発を転々として過酷な日雇い労働を続けた上、苗村誠三・押谷道子を殺害してしまい、住む家まで失ってしまった忠雄は、生きていくことに疲れてしまい、その場で石油をかぶって自殺しようとしました。
死への決意が固いと悟った博美は、せめて「自分の手で楽に死なせてやろう」と思い、自ら父の首に手をかけ、楽にしてやったのでしょう。その後、時間差を置いてビニールハウスが燃えるように火をセットし、現場を立ち去ったのですね。(小説版によると、ろうそくの火が燃え進み、ろうそくが短くなったところで遺体へ引火する仕組みを作っていました)
疑問点8:上映中の「異聞・曽根崎心中」とはどんなストーリーなのか?
引用:Wikipediaより
オリジナルの「曽根崎心中」とは、江戸中期、近松門左衛門が創作した人形浄瑠璃の傑作です。大坂・梅田曽根崎を舞台として、結ばれることを禁じられた、身分違いの恋仲にあった徳兵衛とお初が、徳兵衛の借金苦をきっかけとして、駆け落ちして心中を図る悲劇です。浅居博美は、これを現代劇へとアレンジし、明治座で50日間のロングラン上演を行ったのでした。
ちなみに、「曽根崎心中」のクライマックスでは、徳兵衛はお初を刺殺した上、自らの首も切って後追い自殺します。どこかしら死に場所を見つけたがっていたお初が、最愛の男に殺されることで本懐を果たすシーンは、男女こそ逆ですが、忠雄と博美の関係性に重なります。
娘の成長を見届け、愛した伴侶にも16年前に先立たれ、生き続ける理由がなくなっていた忠雄は、最後に最愛の娘の手にかかって楽にしてもらうことは、むしろ本望だったのではないでしょうか。
疑問点9:松本清張の名作「砂の器」との共通点とは?
本作は、原作者:東野圭吾がオマージュとして大いに参考にしたであろう有名な先行作品があります。それが、松本清張「砂の器」です。1974年の映画版や、2010年のドラマ版など、過去5回に渡って映像化されてきた名作中の名作ですが、「砂の器」と「祈りの幕が下りる時」は、以下の点で共通点があります。
・生き別れた片割れのどちらかが、その後名前を変えて別人として生きていく
・子供が、有名な芸術家として成長する
・そこへ、昔の事情を知る(善意の)知人が訪ねてくる
・過去を暴かれたくないため、主人公はその知人を殺害してしまう
・最後の上演終了後、主人公は容疑者として警察に逮捕される
途中の細かい詳細はもちろん違っていますが、大枠ではほぼおなじような構造を持つ、一流小説家による新旧二つのストーリーを比較しながら楽しむのもありですね。
疑問点10:ラストシーン・結末の考察~エンドロールで懐かしい面々が集合?!続編はあるの?
浅居博美が、父親を殺害し、死体を遺棄した容疑で逮捕される一方、加賀恭一郎は、浅居忠雄が死ぬ前、母・田島百合子の生前の様子を綴った手紙を入手し、そこで母・百合子が出奔した後も恭一郎のことを深く愛していたことを知ります。誰もいなくなった捜査本部で一人静かに泣きむせぶ恭一郎の後ろ姿は、深い感動を呼びましたね。
そして、日本橋署からいよいよ本庁へと異動辞令が出た恭一郎は、残された日本橋での日々へと戻ります。
エンドロールでは、そんな日常風景の中に、ドラマ「新参者」で関わったせんべい屋の娘・菜穂(杏)や、保険外交員の田倉(香川真一)、時計屋の従業員(恵俊彰)など、ドラマ版への目配せも忘れていませんでした。(※ちなみに、エンドロールでのクレジットには入っていない模様・・・)
続編については、しばらくは製作されないと予測しています。主役・加賀恭一郎の両親との関係性が完全決着し、原作者・東野圭吾自身も「現状は続編の予定なし」とインタビュー等で応えているからです。
疑問点11:タイトル「祈りの幕が下りる時」の意味とは?
これは直接的には説明されていませんが、複数の意味がタイトルに重ねて込められているのではないでしょうか?
・25年前に生き別れた最愛の父娘の逃避行が終わりを迎えたこと
・亡き母との絆を日本橋で探し続けてきた加賀恭一郎の「自分探し」が終わったこと
加賀恭一郎、浅居博美・忠雄父娘の「祈り」にも似た肉親への切実な思いが、一連の事件が解決へと向かう中、切なく結実していくストーリ展開は見事という他ありませんでした。
6.映画パンフレットがおすすめ!
これまで原作小説10冊分、TVシリーズ1本、特番2本、映画1本が製作されてきた本シリーズ。作品内に封入された情報量は、他作品に比べると段違いに多い本作。謎解きへのロジック・人物相関図もかなり入り組んでいますので、パンフレットが副読本として役立ちました。過去作との関係性・ロケ地紹介・各種インタビューなど、オススメできるパンフレットです。
▼加賀恭一郎のこれまでを振り返る特集
▼入り組んだ人物相関図
▼ロケ地マップと12の橋
▼過去作全作品のレビュー・解説
現在、ネット上でも買えるようになっているみたいなので、一応リンクを置いておきますね。
7.まとめ
小説版・映画版ともに、非常に緻密な脚本・重層的に設けられたテーマ性・最終章にふさわしい重厚なヒューマンドラマ、作家性が出た映像演出など、エンタメ作品として抜群の完成度だと思います。是非、映画館の大画面で思い切り楽しんでくださいね。
それではまた。
かるび
8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
小説版「祈りの幕が下りる時」
東野圭吾が、そのキャリア初期から大切に育ててきた「新参者・加賀恭一郎」シリーズ過去10作のグランドフィナーレを飾る最高傑作。加賀恭一郎が、なぜ「新参者」として日本橋署へと配属されたのか、なぜ両親との関係が断絶しているのか、その全ての伏線・謎が解き明かされる傑作です。映画版では省略された捜索シーンや、脇役たちの行動のディテールなどもきっちり描かれています。文句なしにおすすめできる原作小説!
ドラマ版「新参者」シリーズ
加賀恭一郎シリーズ第8作・連作短編集「新参者」をベースとして制作された刑事ドラマ。日本橋・人形町の街の人々のさまざまな小さな事件を解決しながら、一つの大きな殺人事件を解き明かしていくという、ユニークなスタイルが話題になりました。豪華キャストと日本橋の魅力を描いたご当地刑事ドラマとして大ヒットしました。今見返すと、主演の阿部寛・溝端淳平ともに、やはり今より一回り若く、映画版と比べるといろんな意味で「軽さ」が逆に新鮮です。
ドラマ映画「赤い指」
加賀恭一郎の父・隆正との関係性を初めてクローズアップさせ、事件解決への取り組みと並行で描いてみせた意欲作。事件の唐突すぎる、意外性あふれる展開には、あれあれっ(笑)と思ってしまいましたが、父の死を目前にして、看護婦・登紀子の存在に背中を押され、加賀が最後に精神的に成長する描写はぐっときました。
ドラマ映画「眠りの森」
加賀恭一郎がまだ捜査一課に所属していた若い時代を描いた作品。親子の冷え切った関係性の中、以後の恭一郎の刑事キャリアの原点となる考え方「無駄足をどれだけ踏んだかで、捜査の結果が変わる」という金言を父・隆正からもらう名シーンは見逃せません。また、加賀とプリマドンナの淡い恋愛感情も見どころです。
劇場版新参者「麒麟の翼」
日本橋の象徴である有名な「麒麟」像の前で起こった殺人事件をめぐり、加賀恭一郎が再び驚異の洞察力を発揮します。まだ売れる前の菅田将暉・山崎賢人など、意外なキャスティングも良かったし、事件と並行で、3回忌を前に登紀子にお説教された結果、父・隆正の真の想いに気づき始め、そのことが事件解決への手がかりとなる展開も秀逸でした。推理事件の面白さ・ヒューマンドラマとしての重さ・テーマの社会性/時事性も担保された、優れた作品です。