あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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300点以上の充実展示!古代ギリシャ展@東京国立博物館はこの夏おすすめ!

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かるび(@karub_imalive)です。

今年からプライベートで時間ができたこともあり、頻繁に博物館や美術館など、学術系のイベントに行くことが多くなりました。上半期は多分人生40年で、一番見て回ったのではないかと思います。そんな中、上半期最後に行った展示会が大当たり!でした。

「特別展 古代ギリシャ ー時空を超えた旅ー」

2011年に国立西洋美術館で「大英博物館 古代ギリシャ展」が開催されて以来、同様のテーマでは5年ぶりとなります。最初、企画名を見た時は、「まぁ、どうせ土器とか彫刻が置いてあるだけだよね?」いまさらギリシャか~と思ったのですが、その認識は大間違いでした。

もちろん、瓶や土偶、金細工の装飾品みたいに、典型的な古代の代名詞みたいなものもあるのですが、それだけじゃありませんでした!彫像や壁画、美術品など、結構持ってくるのが難しそうなものまで、ありとあらゆる古代の遺品が、なんと充実の325点!

1回じゃ見切れないほどの大規模展で、かつ、話題性のあるトピックも散りばめられていて非常に感嘆いたしました。さすがトーハク(東京国立博物館の愛称)、いい仕事します。ということで、前置きが長くなりましたが、以下、少しレポートを書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間の目安

僕が現地入りしたのは、6月29日(水)11時30分頃でした。平日です。なぜ平日にホイホイいけるかっていうのは、こちらを見てくださいね。まだ会期も始まったばっかりだし、地味だから人も少ないだろう・・と思っていたら、意外といます!

さすがに平日昼間という時間帯ですから、高年齢者が多めですが、これは休日や夏休みシーズンになったら混雑しそうですよ!参考までに、前回5年前の「大英博物館展」では257,000人の動員がありましたが、今回はもう少し行きそうな気がします。

展示品がめちゃくちゃ多く、しかも捨て展示品みたいなのがなくて、展示品のレア度やクオリティが高いため、所要時間は最低1時間30分は必要だと思います。混雑したら、2時間は覚悟がいるかも。僕は、3時間15分かかりました。今季最長滞在時間でした。つかれた~。

※7月10日までは、同時開催「ほほえみの御仏」展での持ち物チェックが博物館ゲート前であるので、土日は入場前にさらに少し混むかもしれません。ご注意を。

2.音声ガイドは市村正親

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個人的には、ブータン展での鶴田真由のような癒し系ガイドを期待していたんですが、まぁいいでしょう。お金はかかっている感じ。音声ガイドの監修には、ポンペイの壁画展の企画者でもある芳賀京子氏なども入っていて、分かりやすくて良かったです。

音声ガイドについては、必ずしも借りなくても良かったかなっていう展示会もありますが、今回はお薦めです。非常に勉強になるガイドでした。市村さんの声はともかく、内容が素晴らしかった。余裕があれば是非!

3.古代ギリシャ展のコンセプト

f:id:hisatsugu79:20160701161330p:plain(引用:特別展 古代ギリシャ ー時空を超えた旅ー

一般的な歴史区分で、ローマ以前の「古代」とされる時代全部をひっくるめて見通しちゃおう、という展示会です。

カバーされている範囲としては、世界四大文明とほぼ同時代、紀元前6000年くらいの超古代から始まり、アレクサンドロス大王の最後の後継者であるクレオパトラのエジプトがローマに完全吸収される紀元前30年までの約8000年間です。途方もないですね・・・

また、いわゆる美術展というより、歴史・政治・風俗・文化などにも幅広くスポットライトを当てた展示なので、美術ファン以外の人も充分楽しめる内容です。

4.展示構成

平成館の2F全部を4部屋動きまわる中で、歴史の時系列に沿った展示になっています。超古代の時系列から始まり、ミノス、ミュケナイ時代~アルカイック時代、クラシック時代~ヘレニズムからローマ時代へと、部屋を進んでいきます。

その中で、ちょくちょくミニテーマとしてちょうど「演劇文化」や旬のトピックでもある「民主政全盛時代の選挙」や「オリンピック」などの特集展示もあり、粋な計らいを感じました。個人的には、もう少しプラトンやソクラテスなんかも出して欲しかったかな。

5.ギリシャの歴史や地理について

行く前に予習するとしたら、是非古代ギリシャ時代の歴史年表と、ギリシャ周辺の地図を眺めておくと、絶対に楽しめます!歴史年表は、展示会でメモした情報を元に、試しに作ってみました。うーん、勉強になるなぁ。

古代ギリシャの簡易年表f:id:hisatsugu79:20160701173252j:plain

地図は、ネットで探せばゴロゴロ出てきます。
歴史好きの方や旅行会社が作ってくれているわかりやすい古代のものが沢山あります。こうやって見ると、ギリシャって島が多いんですねぇ。今回、こちらからお借りしました。

古代ギリシャ 地図f:id:hisatsugu79:20160701173627p:plain(引用:http://www.ohjiiji.com/gr/greeceaegeatabi.html

6.特に印象深かった展示品

多すぎて書ききれないんですが、敢えて絞ってピックアップするとこんな感じかなっていうのをいくつか挙げてみました。

6-1.スペドス型女性像(BC2800~2300、後期新石器時代)

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東洋もそうですが、古代の出土品って高度に抽象性が表現されていて、しかも個性的なデザインで。本当に飽きが来ないです。このスペドス型女性像は、例外的に大きくて迫力がありました。

ピカソやモディリアーニなどの近代の美術家たちが、この女性像からインスピレーションを得たという話ですが、まぁ確かに分かりやすく影響を受けてそうです。
モディリアーニ
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(引用:アメデオ・モディリアーニ-主要作品の解説と画像・壁紙-

スペドス型女性像に目を描き足したら、モディリアーニの絵の女性そっくりになると思うんですが・・・

6-2.牛頭型リュトン(BC1450頃、後期ミノス文明)

これは、写真で見るより小さく、サッカーボールほどの大きさでした。ですが、制作された時期を考えると驚異的な精密さです。牛を聖なる動物として崇めたミノス文化の傑作だと思います。

牛頭型リュトン
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で、これは単なる飾り物ではなく、祭祀などに実際に使われていた形跡があります。頭部に空いている2つの穴からワインや水などを注ぎ、それを喉元に開いた穴からコップなどに注ぎこんだと予想されています。

牛型リュトンの使いみちf:id:hisatsugu79:20160701160416j:plain

6-3.漁夫のフレスコ画(BC1700頃、ミノス文明)

紀元前1600年末にテラ島の火山大噴火により、一瞬で火山灰に埋もれて滅亡した都市遺跡から出土したフレスコ画。ポンペイの壁画みたいですね。驚くべきは、制作想定年月です。奇跡的に良好な保存状態からは想像もつかないほどで、何と今から3700年前の作品なんですよ!!火山グッジョブ!!その頃の日本列島は、まだ稲作すら始まっていないのですよね。これは、博物館でナマの壁画を是非見て欲しいです!

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6-4.クーロス像(BC520頃、アルカイック時代)

暗黒時代が終わり、紀元前9世紀に入ると、エジプト彫刻の影響を受けて、急速になめらかで写実的な芸術表現が発達していきます。この時期の大理石の男性彫刻像を、「クーロス像」と呼ぶのですが、今回出品されているクーロス像は、非常に状態が良いです。ふくよかな体格、自然な筋肉美など、すでにこの時代に西洋美術の基本がほぼできあがっているんですよね。その頃の日本は、弥生時代になったばっかりで、良い所土偶レベルであります。(土偶は土偶で大好きですけどね)

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(引用:http://www.asahi.com/panorama/160620greece2016/

6-5.オリンピック特集展示

展示会では、後半部分でオリンピック関連の展示品がかなり大々的にクローズアップされていました。ちょっと古代オリンピックについて、簡単に振り返ってみましょう。

紀元前776年、アテネ北方の城郭都市、オリンピアのゼウス神域にて第1回オリンピックが開催されました。ギリシャ中から代表選手が集まった第1回では、スタディオン走(約190m)という短距離走のみでスタートします。競技は、余計な衣類をつけず、全身裸で行われたと言われます。

その後、正式に以下の「5種競技」の総合得点で王者を選ぶゲームに進化していきます。

  1. スタディオン走(短距離走)
  2. 走り幅跳び
  3. 円盤投げ
  4. やり投げ
  5. レスリング

なんだか、マッチョ系の人材が有利な感じもしますが、この5種競技に、後から加わった戦車競走などをモチーフとした作品群が大量に出土しているんです。4年に1度、合計290回余りも開催される中、各地から参加した選手たちが、戦いを終えて地元に帰った際に、参加記念品を地元の神殿に奉納したからだと言われています。

ちょうど東京オリンピック開催、そして8月にリオ・オリンピック開催を控えて、非常にタイムリーな展示でした。下記のようなツボやコイン、彫刻など、様々な品が飾られています。

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(引用:東京国立博物館 - 1089ブログ

6-6.高度に発達した民主政

今回の展示会では、「選挙」を意識したのか、偶然なのか、民主政に関連する展示品も珍しい物がいくつかありました。

ギリシャ文化が最盛期を迎えたのは、ペリクレスの指導下、西暦477年にデロス同盟が成立し、アテネが覇権を握った前後と言われています。その強固な体制を支えたのが、安定した民主政治でした。

アテネは、住民に対して、法の下の平等や、言論の自由、投票権など、現代民主国家とほぼ同様の人民の基本的な権利を保証していました。

例えば下の「陶片追放」(オストラキスモス)制度。
独裁者になる恐れがある危険人物の名前を陶片に刻んで投票し、6000票を超えた者は10年間の国外追放とする制度です。アテネ全盛期の紀元前510年頃から法制化されて70年ほど続きました。いわば変形版住民投票みたいなものでしょうか。実際にこの制度を使って、当時の為政者が追放されています。是非、M添さんにはこちらの展示品を視察していただきたいものです。私費でね^_^

実際に陶片追放で使われた「陶片」f:id:hisatsugu79:20160701155716p:plain
(引用:http://www.fashion-press.net/news/22644

そして、こちらは裁判員を選定する際の「抽選機」です。訴訟ごとは、陪審みたいな制度で抽選で選ばれた住民代表による裁判が行われていたのですよね。実際に現物を見ると、本当に感慨深いです。

裁判官を選ぶための抽選機
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6-7.アルテミス像(BC100頃、ヘレニズム時代)

古代ギリシャ文化では、男性は裸でも、女性は必ず着衣だったのが印象的でした。わりと性表現が抑制されていたのですよね。女性から衣装が取れていくのが、ヘレニズム時代~ローマ時代に移り変わる中でした。アレクサンドロス大王が征服した奔放な東方の文明と交流が進む中で、より過激で妖艶な表現に変わっていったようですね。

そのあたりも、歴史の移り変わりを俯瞰して見渡せる総合展示会ならではの気付きだったと思います。

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(引用:http://www.asahi.com/panorama/160620greece2016/

7.まとめ

さすがは国立博物館です。企画が立てられてから、6月下旬の展示会本番を迎えるまで、恐らく数年がかりで準備した大プロジェクトだったでしょう。遠く離れた現地に行かなくても、1箇所でこれだけ古代ギリシャの歴史・文化・美術品を一気通貫にリアルで見れちゃうのは、本当に凄いことだと思います。いい時代だ・・・。

夏休みの時期でもありますし、地方在住の人も、近辺に立ち寄った際は、是非検討してみてはいかがでしょうか?下期も含め、トーハクの今期展示会では今のところイチオシの展示会です!

8.今回の展示会の予習/復習に参考になる本

今回の古代ギリシャ展では、ギリシャという国の成り立ちや、考え方、またその創生期から練り上げられてきたギリシャ神話などを頭に入れた上で見て回ると、さらに理解が深まると思います。

当日の物販でも売られていましたが、昨年出版された「古代ギリシャのリアル」がイチオシ。作者の藤村シシンさんは、高校時代に「聖闘士星矢」経由でギリシャ神話にハマってから、古代ギリシャに人生を捧げることになったそうです。

そんな藤村氏が、ギリシャ神話や古代ギリシャの人々について、カジュアルにわかりやすく説明してくれる本です。労働観や恋愛事情など、現代人とはかなり違うギリシャ人の奔放な考え方に驚かされますよ。僕は展示会後に入手して読みましたが、できれば行く前に読んでおけばよかった!

9.ポンペイの壁画展(名古屋展が7/23からスタート!)

また、少し時代は下ってローマ時代(紀元1世紀)になりますが、ヘレニズム時代のギリシャ文化をそっくりそのまま受け継いだローマ時代の壁画そのものをそっくり日本に持って来ちゃった、という「ポンペイの壁画展」が、六本木森美術館にて今週末7月3日まで開催中です。これはガラガラでじっくり見れました。

もし見逃しても、このあと名古屋、神戸、山口、福岡と巡回していくので、そちらでチェックしてみてもいいですね。

  • 2016年7月23日(土)~9月25日(日)名古屋市博物館 
  • 2016年10月15日(土)~12月25日(日)兵庫県立美術館
  • 2017年1月21日(土)~3月26日(日)山口県立美術館 
  • 2017年4月~ 福岡市内の美術館(現在検討中)

それではまた。
かるび