あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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前衛書道ヤバい!「書だ!石川九楊展」が想像以上の奔放さだった!【展覧会感想・レビュー】

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【2017年7月11日更新】

かるび(@karub_imalive)です。 
7月5日から上野の森美術館で始まった「書だ!石川九楊展」に行ってきました。最近、アート以外に建築やデザインなども手を出していたのですが、書道展に行くのは初めてです。

書道といっても、普通のお稽古事の発表会的なグループ展ではなくて、今回行った展覧会はいわゆる「前衛書道」というジャンルで活躍する第一人者の個展。いわゆる「草書」や「篆書」「行書」といった、アマチュア愛好家が先生に習って上手さを競うコンテストではなく、書家の個性が前面に出た、フリースタイル書道的な感じですね。

不勉強なことに、石川九楊氏のことは全く知らなかったのですが、今回、あるご縁で内覧会へとご招待頂いたので、「なんか面白そう!」ということで行ってきました。

しかしこれが、ハンパない衝撃を受けたんですよね。今年もこれまで美術展を色々回ってきましたが、受けたインパクトは間違いなく今年No.1!!

僕の中で、「書道とは何か」という定義がガラガラと崩れ落ちていきました(笑)

まだ全然ちゃんと理解できているわけではないのですが、会期も短いですし、早速感想を書いてみたいと思います!

※本エントリにて撮影した写真は、内覧会にてあらかじめ主催者の許可を得て撮影したものとなります。

1.「書だ!石川九楊展」とは

石川 九楊 alt=
引用:京都精華大学HP
https://www.kyoto-seika.ac.jp/edu/faculty/ishikawa-kyuyo/

石川九楊(1945-)は、福井県出身の書道家。若干5歳で書道を始め、京都で修行。1980年代から、日本を代表する前衛書道家として先頭を走り続ける、書道界では生きるレジェンド的存在であります。「書道界のイチロー」的な感じでしょうか?

その自由奔放で型破りな作風にも度肝を抜かれるのですが、石川氏の凄いところは、「書道」を体系的・理論的に誰よりも深く研究・理解しているところ。その著書は、表面的に伺える自由な作風からは想像もつかないくらい学術的で内容が深いのです。(しかもわかりやすい!)また、書道の普及活動にも熱心で、初心者向けに優しい書道の入門書をいくつも出版しています。

そんな石川九楊氏がプロの書道家として活動を始めた70年代から2017年の最新作まで、これまでの書道家としてのキャリアを振り返る総決算的な回顧展が、今回の「書だ!石川九楊展」です。

2.さっそく作品紹介

内覧会は、いつものアート系とは明らかに違う客層で、書道界の社交場と化してました。あぁ、書道もアートみたいに沢山の専門家や先生がいるんだなぁと思いながら足を踏み入れると、まずは目に入ってきたのがこれ・・・

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石川九楊「李賀詩 贈陳商」

一面真っ黒に塗られている連作とか・・・

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石川九楊「言葉は雨のように降りそそいだー私訳イエス伝」

一見落書きにしか見えないような、70年代の青臭い雰囲気が漂う連作とか・・・

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石川九楊「エロイエロイラマサバクタニ又は死篇」(一部)

1Fにとぐろを巻いて展示されている全長80メートルの巻物のような作品とか・・・

・・・。

・・・。

え、これ、書道ですか??

じ、自由すぎる・・・(笑)

これが最先端の前衛書道の世界か!!!!

自分はアートファンなので、持てる知識を総動員して、アート的な文脈で考えたのですが、例えばこれってシュルレアリスム系や抽象表現主義系、アンフォルメルな現代アートをごった煮にしたような感じでしょうか?

でも・・・

そうだ、これはきっと現代アートによくある「オートマティスム」(自動書記)的なシャーマンチックな儀式を経て変性意識に入って描かれたものなんだ!きっと葉っぱとかキメて書いてるに違いない・・・と思って、展示会場に設置されていたメイキングビデオを見てみると、これが全然違うんですよね。

ちゃんと、一字一字「書道」として、ものすごい集中力で意識的に文字をしたためていった結果、作品が出来上がってきているんです。

いずれにしても、まずはどどーんと目に入ってきた自由すぎる作品群を目の当たりにして、ものすごい衝撃を受けたのです。

そして、大部屋を出ると、こんな感じの古代風の象形文字のような作品も・・・

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石川九楊「逆説・十字架・陰影」 

 

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石川九楊「無間地獄 一生造悪」 

これも凄い!一応文字として認識できるけど、やっぱり自由すぎる!!古代宇宙人がミステリーサークルに描いたような神秘性がたまりません!今回の展覧会では、この2つが一番気に入りました。

この、圧倒的な自由!!
書道ってすごい!!

・・・

・・・

気を取り直して2Fに上がると、今度は、紫式部「源氏物語」から着想を得た連作シリーズが展示されていました。

これがまた強烈なんですよね・・・。

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源氏物語シリーズ(2008)は、全55帖に対応して、一つ一つ明確に違っています。「その当時時点で、自分自身の持てる全ての技法を投入した」と語る通り、1つ1つストーリーに対応してかなりバリエーションに富んだ連作作品群になっていました。

そして、1Fの初期作品群とは対照的に、大胆な筆遣いは一気に鳴りを潜め、一転して繊細で緻密な作風に。もはや書道には見えません(笑) 現代アートそのものであります。カンディンスキージョアン・ミロ、パウル・クレーのような作品に非常に似ているように思えました。

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石川九楊「浮舟」

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石川九楊「末摘花」

2Fの作品を見ていて、ふと既視感がありました。

この作風、オリジナルなんだけど、なんか手触りと言うかどこかしら似たような感じの感性を持った芸術家がいたような・・・としばらく5分くらい会場内で考えて、思い出したのが2016年の東京国立近代美術館で行われていた前衛詩人の「吉増剛造展」。

そうそう、これ、吉増剛造的な狂おしい感じの緻密さだよね・・・

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吉増剛造「日記メモ(散文詩の生成過程)
引用:琴詩書画巣tweetslog: 吉増剛造の折口信夫による詩と書

吉増剛造の作品は、その後、2017年3月の「東京都現代美術館サテライト展」でも目に触れる機会があったのですが、いずれも紙面にびっしり難解で細かい詩が書かれており、これを延々と自身で朗読していくんですよね。

この比類なき圧倒的な個性とインスピレーション、緻密で超大量のアウトプットは、まさに石川九楊氏の作品とシンクロするものがあるよな・・・

・・・と思っていたら、石川九楊氏、吉増剛造と交流があって、しかも仲が良くって、吉増剛造の詩を全文表現した作品まで展示会場内にあるではないですか(笑)!!

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石川九楊「奮起せよ、アムンゼン」
引用:展覧会図録より

あー、やっぱり気が合うんだなぁと・・・。前衛書家×前衛詩人の第一人者同士のすごいコラボレーション。凄く腑に落ちた瞬間でした。

また、石川九楊氏は、古典や詩にインスピレーションを受けて製作するだけでなく、時代を象徴するような出来事にも鋭く反応し、作品を制作しているんですよね。

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石川九楊「領土問題」

 

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石川九楊
「二〇〇一年九月十一日晴れー垂直線と水平線の物語Ⅰ(上)」

「911テロ事件」や「東日本大震災」から着想を得て制作された作品もあります。重要事件や時事問題について、自身のフィルターを通した作品をきちんと残していくあたり、ジャーナリスティックな目線をひしひしと感じました。

このあたりのバランス感覚が、石川九楊氏の凄さなのではないでしょうか?研究家であり、芸術家でもある。左脳と右脳が超絶高いレベルで両立しているような感じでしょうか?  

というわけで、ここまでざっくり見て頂いた作品群は、是非会場にて体験してみてください!直接見ると、インパクトが違います。

そして、僕がツイッターやブログでよく拝見させていただいている他のアート系クラスタの方々も、次々と「衝撃を受けた!」「ヤバい!」というツイートやブログ記事を残しているのも分かる気がします。

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3.現代アートと前衛書道の親和性の高さ

このように、アートファンから見ると、どう見ても現代アートにしか見えない石川九楊氏の作品。しかし、よくよく考えてみると現代アートと前衛書道は親和性が高いのかもしれません。

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ピエール・アレシンスキー/The Ant Hill
引用:https://www.guggenheim.org/artwork/202

例えば、2016年秋に東京・大阪で回顧展が開催された現代アートの大物、ピエール・アレシンスキーも、日本で前衛書道家、篠田桃紅から学んだあと、自身の作品に「書道的」な筆触が目立つ作品を多数制作しています。現代の最先端の芸術では、アートと書道の垣根はかなりあいまいなんだろうな、と思いました。

また、グーグルで調べてみると、山のように「墨アート」「現代アート書道」などの単語でひっかかりますし、いくつかの書道教室ではアートとして部屋を彩るための「インテリア書道」を教えているコースがありました。

アートファン側からはあまり見えていなかった(単に僕が不勉強なだけかもしれませんが)のですが、日本では確実に「現代アート×前衛書道」の融合・クロスオーバー化が進んでいるのでしょうね。 この分野、もっと勉強しなくては・・・。

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4.混雑状況と所要時間目安

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こういう展覧会が混雑するようになったら、日本文化も本物だよなぁとつくづく思います。土日も含め、今のところ快適に見れますが、会期が短いのでご注意を。また、作品点数は結構あるので、がっつり見るのであれば1時間は見ておいた方がいいでしょう。

5.まとめ

『書は「何と書かれているか」ではなく「どのように書かれているか」の表現だ!』と語る石川九楊氏。評論活動、作品制作のいずれにおいても超一流。専門家と言うより、僕の目には純粋な求道者に見えました。

その考え方や作品のエッセンスの1/100も理解できたとは言えませんが、ともかく「書の世界ってこんなに開かれているんだ、自由なんだ」ということはつかめました。是非実際に作品を味わってみてください。別次元の世界が広がっていますよ。

それではまた。
かるび 

関連書籍

石川九楊氏は、その自由奔放で唯一無二の作風を持つ反面、書道の研究家としても素晴らしい実績を残しています。その著作は書道についての研究実績をまとめた新書、選書から書道の入門書まで、約100点!!まさに別次元の実績!!

僕もとりあえず会場で1冊購入し、その後図書館でいくつか拝見しましたが、初心者・一般人にも興味深く読めそうなものを紹介したいと思います。

★特におすすめ★新書「書とはどういう芸術か」

一般人が「書道」に抱きがちな安易なイメージ(中国文学研究や、書き方教育の一環としての稽古ごと)を否定し、書は純粋な「筆触の芸術である」と説く、石川九楊氏の考え方のエッセンスが詰まった新書。20年前ほどに出版された本ですが、ものすごく新鮮で、展覧会と合わせて「書」に対する見方を変えてくれた良書でした。おすすめ!!

「筆触の構造ー書くことの現象学」

書いた時の筆触りを感じること(=「筆蝕」)こそが「書く」ことの本質であり、書き言葉を豊かにする決め手である。ワープロ文化の浸透により、「書き言葉」文化圏だった東アジアの文化的な感性は危機を迎える・・・と警鐘を鳴らす本。確かに僕も今こうして「話し言葉」でブログを書いていますし、凄い説得力ある本でした・・・

「名僧の書ー歴史をつくった50人」

歴史に名を残す僧侶たちが残してきた「書」を詳細にわたって比較・分析・評価した本。展覧会でよく見るような有名な人物の作品にも結構触れられており、初心者でも興味を持って読むことができました。

展覧会開催情報

「9」のつく日と、土日祝日は、石川九楊先生が展覧会会場に時折出没されるそうです!気さくな方だと聞いているので、感想や質問をぶつけてみるといいかもしれませんね!

◯美術館・所在地
上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
◯最寄り駅
JR・地下鉄上野駅
◯会期・開館時間・休館日
2017年7月5日~7月30日(会期中無休)
開館時間:午前10時~午後5時
*最終入場閉館30分前まで
◯公式HP
http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=214
◯Twitter
https://twitter.com/uenomorimuseum