かるび(@karub_imalive)です。
東京都民として、個人的に参院選より注目していた都知事選が終わりました。選挙戦序盤は、三つ巴と言われていましたが、終わってみれば、小池百合子の圧勝でしたね。投票締め切り直後早々に、当確が出てしまうほどでした。
今回のエントリでは、なぜ小池百合子がこれだけの地滑り的な圧勝を勝ち取ることができたのか、現時点で少し考えてみたいと思います。
1.増田・鳥越両氏の肉声が聞けず、「池上無双」は消化不良気味
さて、参院選ほどの特番シフトではなかったものの、今回もテレビ東京では池上彰をメインパーソナリティに据えた2時間30分の選挙スペシャル特番を組んでいました。
「池上無双」再びなるか?ということで、僕も、これを期待して最初から最後まで観ていたのですが、結果としては、肩透かしに終わりました。だって、当選した小池百合子以外の有力2氏は、池上氏のインタビューに応じなかったのですから。
増田氏や、彼を担ぎだした石原伸晃幹事長は、テレビ東京の中継時間帯には事務所に姿を見せず、また、鳥越氏はテレビ東京のインタビューを拒否するというていたらく。見事な敵前逃亡ぶりでした。
「人の言葉に誰よりも耳を傾ける」鳥越俊太郎氏が池上彰のインタビューを拒否した模様 pic.twitter.com/UhdZchlJmW
— ka (@ka1419774) 2016年7月31日
増田陣営の石原伸晃氏は当確が出るやいなや事務所から逃亡、鳥越俊太郎氏も池上彰氏の番組での追求から敵前逃亡(出演しなかった)。この時点で終わった感満載。ケツの穴が小さいことが露呈したかと。ほんと情けない。
— lunch (@lunch_) 2016年7月31日
逃げるな鳥越!お前はポケモンか!!池上彰とバトルしろ!!#池上選挙
— もりさと (@taiki_morisato) 2016年7月31日
実際に選挙結果が出てからの彼らの対応を見ていると、最後まで好対照。最初から小池百合子の勝利は決まっていたんだなと思わざるを得ませんでした。
2.都知事選での勝利の方程式とは?
ちょうど、都知事選の前日に過去の都知事選について、その当選につながった勝因を分析している興味深い記事を見つけました。
記事によると、都知事選は、短期間での勝負でもあり、政策の中身よりも立候補者のイメージを効果的にアピールすることが勝利に繋がるのだと分析されていました。記事中で紹介されているのは、日本政治史を専門とする岡田一郎氏の著作「革新自治体」。
ちょうど今回の都知事選と似たようなケースとなった1967年、自民、公明が推す本命候補に対して、革新系の独立候補であった美濃部亮吉が終盤戦を制して勝利を収めるのですが、同氏の著作では、その勝利の要因を、
- 短期決戦のため知名度が重視されたこと
- 政党色、組織色を消すこと
- 無党派を取り込むことが勝利の鍵になること
- リーダーシップ、クリーンなど特徴的イメージを作ること
と分析しています。
これを、今回当選した小池氏に当てはめると、最後の「クリーン」(?)というのはともかくとして、ほぼ全部が当てはまっていますね。
◯短期決戦のため知名度が重視されたこと
→主要候補の中では鳥越氏と並んで知名度No.1でした。
◯政党色、組織色を消すこと
→自民党本部とケンカ別れしたこともあり、自民党からの推薦を得られず、結果として独立色が強くなりましたね。
◯無党派を取り込むこと
→浮動層にアピールするネット選挙を駆使し、無党派層を一番取り込無事に成功しました。
◯リーダーシップ、クリーン・・・
→都知事選では、既存の都議達の不透明な慣行に切り込むと宣言、また女性首長としてのリーダーシップも十分アピールできていました。
3.コミュニケーション能力が決定的な差をつける要因となった
僕は、これに加えて、今回小池氏と小池陣営が優れていたのは、マスコミ対応力やネット活用を含めた総合的なコミュニケーションの上手さだったのかなと考えています。対外的なプレゼンテーション能力、コミュニケーション能力の巧拙が結果を分けました。それは、主に以下の3つだったかなと思います。
3-1.判官贔屓を誘導する対立構造や雰囲気作り
今回の選挙は、自民党内の分裂選挙。自民党は、危機感の裏返し(と恐らく私怨)から、与党統一候補として推す増田氏を、党議拘束や組織を目一杯活用して支えました。党員本人だけでなく、その親族の投票行動にまで制限をかけ、違反時に連座して処分を下すというかつてないほどの厳しい罰則をちらつかせるなどして結束を図りましたが、これが完全に裏目に出ます。
自民党都連(内田幹事長)の命令書、添付写真。各級議員(親族を含む)が非推薦の議員を応援したら除名、とあります。親族を含む、に苦笑。北朝鮮じゃないんだから。 pic.twitter.com/GyYjEL3kFD
— 猪瀬直樹/inosenaoki (@inosenaoki) 2016年7月12日
猪瀬氏は、個人的に内田氏に恨みがありそうですが、それを差し引いても親族まで連座って中世の封建時代みたいなやり口は、どうみてもダメでしょう。
小池陣営は、このやり過ぎ感をきっちり突いて、対立候補である増田氏とそれを推す自民党失効本部を「組織で弱い者いじめをする悪者」へと仕立てあげて、うまく民衆の判官びいきを引き出します。
これは、1991年に、当時の現職である鈴木俊一知事が4選を決めた際もほぼ同じ構造でした。
1991年東京都知事選挙 - Wikipedia
当時、現職だった鈴木氏が4選を目指して立候補したところ、自民党の小沢幹事長(当時)は鈴木氏が「高齢」であることを理由に、公認せず、対立候補として元NHKアナウンサー、磯村尚徳氏を立てて分裂選挙に臨むことになります。
鈴木氏は、自民党本部の推薦がもらえず、東京都連だけの推薦を得て4選目の選挙を戦いました。その「公認」プロセスは、非常に不透明で見えにくいものでした。大衆はその状況から、「小沢執行部=悪」ととらえ、判官びいきから鈴木氏に同情票が流れます。結果、鈴木氏が全体の約50%を集める地滑り的勝利となり、後日小沢氏は敗戦の責任を取り、幹事長を辞任することになりました。
自民党本部は、25年前の小沢執行部で大失敗しているにもかかわらず、今回全く同じ轍を踏んでしまい、過去の学びを活かせませんでした。
小池氏は、この流れをきっちり踏まえた上で選挙でのイメージ作りに上手く利用し、同情票も集めることができたものだと思われます。
3-2.ネットへの対応能力
今回、Twitter等でネットを活用した選挙活動が一番上手だったのも、小池氏でした。それ以外の2氏は、SNS等を効果的に使えておらず、ネット上での支持を広げることができませんでした。
まず、こちらの記事を見てください。
今回、3者のFacebook、Twitterの数値を単純比較した際に、すでに小池氏が知名度を背景とした圧倒的なアドバンテージを保っていることがわかります。
これに加えて、小池氏は、他の2氏に比べてその使い方が上手でした。他の2氏は、FBもTwitterもただ単に情報を流すだけ。本当の意味でのフォロワーとの交流が出来ていませんでした。
しかし、小池氏の場合は、フォロワーとの交流で雰囲気を盛り上げます。具体的には、フォロワーへの演説会等イベント告知の際に、本人のイメージカラーである「緑」にちなんだ何かを身につけて参加するようにお願いをしていきます。
【続き5】29日の予定です。
— 小池百合子 (@ecoyuri) 2016年7月28日
18:30 JR飯田橋駅西口前
19:30 JR高田馬場駅早稲田口ロータリー
ぜひ緑のものを一点身に着けてご参加ください!#CreateNewTokyo_Yuri #都民が決める #小池百合子
また、演説会でもそれを効果的にアピールします。対立候補であるマック赤坂と鉢合わせした際も軽く利用してしまう巧みさ。1分過ぎから、すこし音声を起こしてみました。
ありがとうございます。(マック赤坂が緑色の服だったことを指して)ましてや、いつもは赤がイメージカラーであるマックさんまで、どういうことでしょう。パンツまで!ありがとうございますありがとうございます!一緒に頑張りましょう!くつだけは赤ということでありがとうございます!私、街頭演説を行います。お知らせをネットで致します。そして、緑のものをなにか持ってきてくださいとお願いをしてきました。みなさん、緑、緑、緑、緑、緑、緑、緑すごいです。ありがとうございます。わたくしが目指す東京は環境先進都市、エコな東京であります。その象徴がこの緑であります。皆さんとともにこの緑に染めていきたい。どうぞよろしくお願いいたしまーす!
この呼びかけが、フォロワーたちへ参加意識を明確にもたせ、「緑色」という共通シンボルが小池氏との「共感」「結束」をもたらしたのでしょう。実際、選挙戦最終日の池袋の最終演説会場では、アイドルのコンサート会場のような雰囲気が出来上がっていました。
ペンライトが乱舞する池袋
3-3.ユーモアの使い方で差がついた
今回の都知事選中盤で、その象徴的となった事件が、石原慎太郎の「厚化粧」発言でした。増田氏を応援する石原氏が、26日の応援演説で、「あんな厚化粧には国政を任せられない!」と小池百合子の容姿をやゆする、一種時代錯誤的な発言をします。親子揃っての大ブレーキになるという・・・
昭和の旧き時代ならともかく、この21世紀の現代においては、公人としては全く不適切な発言であり、冗談にもなっていません。これで、増田氏からの女性離れが始まったと言われています。
すると、鳥越氏はこの敵失に対して、何も考えずに小池氏のことを「厚化粧の人が核武装解禁と言っている」と同じく演説で口を滑らせてしまいます。これも大きなマイナスでした。
これに対し、小池氏は、翌日の選挙演説で「今日は薄化粧で来ました」と軽くジョークで返します。対立陣営からの敵失に近いネガティブキャンペーンを、ユーモアで流し、余裕をアピールしつつ大衆の心をつかむ上手さは、まさに対照的でした。
4.まとめ
こうして見てみると、やはり今回の小池氏は、勝つべくして勝ったのだなと思わされます。決して、ものすごい工夫を行っているわけではないんです。小泉進次郎みたいにスピーチが滅茶苦茶上手なわけでもなく、議員としての過去の経歴も渡り鳥的で決してキレイではありません。
しかし、小池氏は、選挙戦の基本に忠実でした。状況を的確に読んで、過去の事例から学び、できる工夫を一つ一つ積み上げていく。そして、熟練した政治家らしく、大きな失言やミスもなく、手堅くまとめていきました。敵失にも助けられましたが、適切な選挙運動を確実に行うことで、勝利につながったのだな、と感じました。
もちろん、小池氏を待ち受ける試練はこれからだと思います。本人は「ノーサイドで」とインタビューで回答していましたが、そんなに簡単には行かないでしょうね。今回の捨て身の大勝負に勝った勝負強さを活かして、ぜひより良い都政を実現していって欲しいです。
それではまた。
かるび